高校生活初日
真新しい制服に身を包み、支度をしている。
今日が高校の初登校…なのだが、実は入学式は2日前に行われていた。
ところが陸は前日に熱を出し、入学式の日は38度を超えていたので
初日から欠席という最悪なスタートとなってしまった。
しかも完治してないからマスクをしている。
その姿を鏡でチェックした。
なんか印象最悪かも…ついてないな
家を出て自転車に乗った。
北高は自転車で30分程度、少し遠いが全然通える距離なので自転車通学をする。
その途中でみな実と待ち合わせをして一緒に学校へ向かう。
「風邪大丈夫?」
「なんとか…テンション的には最悪だけどね」
「ははは…最初だけだって、大丈夫!」
学校に付き、真っ先に向かったのは職員室だ。
まずは担任に声をかけないといけない。
「あの…神田先生は?」
「神田先生ならあそこだよ」
指された先を見ると、30代半ばくらいの女の先生が座っていた。
明るくて元気な雰囲気がある。
この神田直子が陸の担任だった。
「神田先生、おはようございます」
「おはよう、えっと…」
「佐久間です、風邪で休んでいた…」
「ああ、あなたが佐久間さんね。風邪は大丈夫?」
「なんとか、まだマスクしてますけど」
「具合が悪かったらいつでも言ってね」
「はい、でも大丈夫です」
直子は感じのいい教師だった。
早苗とは違うタイプだが、陸は単純に好きになりそうな教師だと思った。
1年2組、ここが陸の教室。
さすがにみな実とは別のクラスになったので、この中に知り合いはいない。
みんなが誰だろう?という目で見てくる。
とりあえず直子に教えてもらった自分の席に座った。
それを見て、まわりも風邪で休んでいた子だとわかってくれた。
やはり知り合いがいないというのと、2日遅れの入学は緊張する。
すでに仲がよくなっている子たちもいて、ちょっと悔しかった。
すると、少ししたら前の席に鞄を置いた女の子が陸に話しかけてきた。
「ひょっとして、佐久間さん?」
「あ、うん…佐久間です」
「私、前の席の斎藤仁菜、よろしくね」
「こちらこそ」
「それにしても入学初日から風邪なんて、ついてなかったね」
「まあね、もう過ぎたことだからいいけど」
「それもそうだ。まあ、たまたま前の席っていうか、名前の順だけど
そんな巡りあわせになったから仲良くやろうよ」
「うん、ありがとう。斎藤さん」
「やめてよ、斎藤さんだなんて。苗字で呼ばれるの好きじゃないんだ」
「わかった、仁菜」
「そうそう、それでいいの。えっと佐久間さんは…」
「愛花だよ、私の名前」
「OK、愛花!」
小学校のときの莉奈といい、今回の仁菜といい、
どうも前の席の子に恵まれているらしい。
こんなアッサリと友達ができると思わなかった。
チャイムが鳴り、直子が教室に入ってきた。
「風邪で休んでいた佐久間さんが今日から来たので…佐久間さん、ちょっと立って」
恥ずかしいので立ちたくなかったが、立たないわけにもいかないので、
そっと椅子から立ち上がった。
「彼女が佐久間さんです、はい、座っていいよ」
ずいぶんサラッとした紹介だったが、
高校にもなると「仲良くしてあげてね」などとは言わないので
これ以上は恥ずかしい思いをしないで済んだのでホッとした。
休み時間になり、仁菜は陸をいろんな子に紹介した。
まだ3日目というのにクラスには友達がたくさんいるらしい。
どことなくサッパリしていて姉御肌のような感じで、
今までの陸のまわりにはいないタイプで、仁菜といることが新鮮だった。
「ところで愛花は部活入るの?」
「うーん…友達に吹奏楽部誘われてるんだよね」
陸はみな実に高校でもやろうと誘われていたが、内心では迷っていた。
決して吹奏楽が好きなわけではなく、
中学の吹奏楽部の雰囲気が気に入ったから入部しただけだった。
「愛花って吹奏楽部だったの?意外だ、てっきり運動部だったのかと思った」
仁菜はどうやらショートだから運動部と思い込んでいたらしい。
「入学前に髪をバッサリ切ったんだ、それまではずっと長かったから」
「へー…そうなんだ、ショートが似合ってるからずっとショートなのかと思ってた」
「それより仁菜は部活やるの?」
「迷ってるところ、本当はやりたくないんだけど、部活やってる方が大学に有利でしょ」
仁菜は入学したばかりなのに、もう大学のことを考えていた。
そうだ、ここは進学校、みんないい大学を目指しているので意識が高いのは当然だ。
そう、ここは仲間がたくさんいるのと同時にライバルがたくさんいるところでもある。
それを改めて自覚した。




