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second life  作者:
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8年後の約束

朝の7時に目を覚まし、下に降りると美智子が朝食の支度をしていた。

「おはよう愛花、ゆっくり寝られた?」

「おはようございます…おかげさまで」

「ならよかった、もう少しでご飯出来るから待っていてね」

再び朝食に取り掛かると、今度は彰がやってきた。

「おはよう愛花」

「おはようございます」

「そんな他人行儀じゃなくていいんだって」

「う、うん」

たまに敬語じゃなく話すが、やはり基本は敬語になってしまうのは仕方がないことだ。

朝食が出来たので食べていると、希美が下りてきた。

「おはよー」

きちっとメイクをしていて大学へ行く準備をしっかりとしてある。

希美もご飯を食べると、すぐに家を出て行った。

「いってきまーす」

「なんか慌ただしいな」

「たまに寝坊するとあんな感じなのよ」

彰も美智子も気にしている素振りがないので、よくあることなんだなと思った。

少しして彰も会社に行き、美智子と2人だけになった。

「なんかやることあります?」

「お手伝いしてくれるの?」

「暇ですしね」

「じゃあ一緒に掃除しよっか」

という感じで美智子の手伝いをして1日を過ごした。

「あ、昨日お父さんと相談したんだけどね、来週の月曜から学校、どうかな?」

行きたくないとは言えない、美智子たちを困らせるわけにはいかないので

「うん」と返事をしておいた。

それまでの数日は、ずっと美智子と家事をしたりして過ごした。

そして金曜、昼食を食べていたとき希美の話になった。

「そういえば希美ちゃんってどこの大学行ってるの?」

この頃になるとほとんど敬語を使わなくなっていた。

さすがに慣れてきたと言っておこう。

「T大よ」

「え、マジで?」

T大といえば日本でトップクラスの大学だ。

陸が大学を目指していたときは候補にすら入らないくらいのレベルである。

「希美ちゃんって頭よかったんだ」

陸が呟くと美智子は何か言いかけてやめてしまった。

「どうしたの?」

「あまり愛花には話したくなかったんだけどね…」

「そこまで言ったなら話してよ」

「わかったわ、希美は愛花…陸君が事故にあってから猛勉強をするようになったのよ」

「どういうこと?」

「私の命は陸お兄ちゃんに救われた、だから陸お兄ちゃんが目を覚ましたときに

恥ずかしくない大人になるんだって言ってね。

それがあの子にとって立派な大学に行くことだったの。

ほら、陸君は図書館に勉強しに行く途中だったでしょ」

希美がそんなことを思っていたなんて知らなかった。

そんなこと気にしなくていいのに…。

「だから友達ともあまり遊ばなくなって勉強ばかり、

それでいて毎日病院には行って陸君が、愛花が目を覚まさないかってね。

大学に入ってからも毎日欠かさず行ってたのよ。

そんな生活だったから…いまだに彼氏もいないの」

「そんな…そこまでしなくていいのに」

これじゃ、助けたはずの希美の人生が逆に無駄になってしまうじゃないか。

「あの子はそういう子なのよ、だからね…愛花には早く希美の妹になってもらいたいの。

それが愛花のためであって、希美のためなのよ。

こんなこと言うと希美をひいきしていると思うかもしれないけど、

私にとっては愛花と同じくらい希美が大事なのよ」

希美は11年経って陸が愛花として生まれ変わっても

あの事故の呪縛から解き放たれていなかった。

もう事故のことは終わりにしたい…いや、終わらせるしかないんだ。

「話してくれてありがとう、もう大丈夫だから任せて」

「なんか押し付けたみたいでごめんなさい」

「そんなことないって、気付かなかったこっちが悪いし」

「ふふ、なんか不思議」

「なにが?」

「見た目は子供なのに、やっぱり中身は子供じゃないんだなぁって思って」

それはそうだ、中身は高校3年生の男子、人の痛みも苦しみもわかる。

だからこそ、希美を安心させなければいけないんだ。


希美が帰宅したので、希美の部屋をノックした。

「どうぞー」

中に入ると「愛花か、どうしたの?」とさらっと言われた。

「今まで、全然気が付かなくてごめんね」

「ん、何が?」

「もう無理しなくていいから、自分の人生を大事にして」

「愛花…」

「お母さんから聞いた…バカだよ、そんな苦しまなくていいのに」

「苦しむに決まってるじゃない…だって私のせいで陸お兄ちゃんの人生は!」

希美は泣いていた。

やはりずっと苦しんでいたのだ。

「もういいの!陸の人生は終わったけど…これから愛花としての人生があるんだから…

だから…これからは自分のために…ね、お姉ちゃん」

「お姉ちゃんって…」

「もう希美ちゃんって呼ばない、これからはお姉ちゃんって呼ぶ。

だって、お姉ちゃんの妹だから」

「愛花…あいかぁ」

希美は陸を強く抱きしめた。

温かく力強いハグは、頼もしく優しく感じ、本当に希美を姉と思えた瞬間だった。

「年…離れてるけど仲良くしようね、お姉ちゃん」

「うん、うん」

「それと…ひとつだけお願いしたいことがあるんだ。

8年後の7月27日、一緒に事故の現場に行ってほしい。」

「行く必要なんてないよ!行っても辛いだけ…しかもなんで8年後?」

「8年後の7月27日、その日は愛花としての人生が陸の人生に並ぶ日、

そこから先の人生は陸が経験したことのない、愛花だけの人生。

だからちゃんとけじめをつけたい、それを見守ってほしい…」

「わかった…わたしにとっては一番行きたくない辛い場所…

でもそこまで決心してるなら、わたしは当事者の一人として、そして愛花の姉として見守る」

「ありがとう、お姉ちゃん」

まだまだ先の話だが、このことだけは絶対に決行すると心に誓った。


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