春休みを迎え
春休み4日目、今日は豪と遊園地でデート。
これが最後になるのか、今後も続くのか、すべては豪次第だ。
迷ったが、それなりのオシャレをしていくことにした。
白いスカートに黒いタイツ、シャツを着て、
その上にゆるめの白いセーターを着てスプリングコートを羽織る。
髪は三つ編みを編み込んでハーフアップにした。
待ち合わせ場所に行くと、豪がすでに待っていた。
豪はいつも通りラフなシャツにジーンズ、髪型もいたって普通、
特に気合を入れてきた様子はない。
その時点でマイナスの評価をしてしまう。
久々なんだから、少しくらいは気合入れてもいいと思うんだけど…
気を取り直して声をかける。
「豪、お待たせ」
「おう、行こうか」
歩き出したが、豪は横に並んで歩くだけだ。
服や髪型をほめる素振りはない。
手を繋いでくることもない。
「こうやって2人で歩くのは夏以来だな」
「そうだね、豪は遊園地に行きたかったの?」
「別に、愛花が喜ぶかなって思ってさ!今日は楽しもうぜ」
久々の豪とのデートは確かに楽しかった。
しかし、それだけだった。
陸が求めていたドキドキ感はまったくない。
性格はいい、優しさもある、でもそれだけではダメだ。
積極性がなく、オシャレにも無頓着、エッチのほうなどもっての外だ。
結局、キスをするどころか、手すら繋がずにデートは終わった。
駅で別れるとき、陸はもう決心していた。
「次は街でもブラブラしようか、いつにする?」
「次は…もうないよ」
「え?」
「ごめん、豪…別れよう」
「なんで…俺、なんか嫌なこと言った?ずっと愛花の言うとおりにしてきたじゃん!
夏休みだって連絡するなって言ったからしなかったし、
デートとかも受験が終わるまでしないって…」
「それが嫌だったの!確かにそう言ったよ、だからって素直に従う?
普通はそれでも会いたい、声聞きたいってならない?
それだけじゃない、豪は私に何もしてこない…
私は豪が求めてきたらエッチするつもりだった。
でも豪はエッチどころかキスも…ううん、手すら繋いでこなかった。
最初はそれでもいいよ、でも半年経ってもそれってどうなの?
それでも私は今日のデートを期待してオシャレした。
それなのに豪は多少のオシャレもしてこないでまるで男友達と遊びに行くような恰好…
でもね、豪にかけた…もし今日、豪がキスしてくれたらこれからも付き合うって。
観覧車乗ったときが一番チャンスだったんだけど…何もしなかったよね。
結局、キスどころか手も繋がなかった」
「それは愛花が大切だったから…」
「大切だったら何もしないの?私は物じゃないよ、ずっとずっと待ってたんだよ…
でも、もう限界」
「それなら言ってくれればよかったじゃないか!」
「普通女の子から言う?手を繋いで、キスして、エッチしてって。
そういうのをリードするのが彼氏でしょ、男でしょ」
「愛花…」
豪がキスしようとしてきたが、陸は両手で制して拒否した。
「もう遅いよ…もう私の気持ちは完全に豪から離れちゃったよ…さよなら、豪」
陸は豪に背を向けて歩き出した。
頬に一筋の涙が流れたので、それを拭い、家に向かった。
その途中、豪から何度も電話があったが、陸は一切出なかった。
今さら積極的になっても遅いんだよ…
誰かと話したい気分だな
陸は莉奈に電話した。
「今は家?」
「うん、今から行っていい?」
「いいよ、待ってる」
莉奈の家に行き、豪と別れたことを話した。
「そっか…やっぱり別れちゃったか」
「仕方ないよね、そんな予感してたし…
あーあ、なんで私って男見る目がないんだろ…元は男だったのにね」
「愛花!」
「ごめんごめん、でもそんな悲しんではいないよ。私から別れようって言ったんだから」
「きっと高校に行ったら…いい出会いがあるよ!」
「うん、莉奈もね!」
莉奈と話したことでスッキリした。
新しい学校も恋も頑張らないと!
高校の入学式が近くなってきたので、陸は髪を切ることにした。
行くのは10歳のときに希美に連れていかれた美容院、
それ以来ずっとこの美容院に通い続けている。
新井京香、この美容師が陸の担当で仲良しだった。
「愛花ちゃん、今日はどうする?いつもと同じ?」
「うーん…どうしよっかな。もうすぐ高校だからいつもと同じもなぁ…」
「だったらショートにしてみない?
ずっと長かったでしょ、髪をバッサリ切って心機一転、高校生活を楽しむ。
新しい自分に出会えるかもしれないよ」
ショートなんて考えたことがなかった。
それにショートにすると、髪が短いことで陸の感情になるかもしれないという
恐れがあったので避けてきた。
でも今ならもう陸の感情になる恐れはない、それは確信できる。
「ショートにします、そのかわり可愛くしてくださいね」
「任せといて!」
京香はバッサリと鋏を入れる。
長かった髪がどんどん床に落ちていくのを陸は鏡越しに眺めていた。
1時間半くらい経って、やっと完成した。
「まるで別人みたい…」
「でしょ、これだけイメージ変わるんだよ」
髪をショートにしたことで、活発な女の子に見える。
京香が言っていた通り、新しい自分に出会えるかもしれない。
ウキウキしながら家に帰り、美智子に見せた。
「ずいぶんバッサリいったのね…なんでまた?」
「気分転換…かな。似合ってるでしょ♪」
「確かに…ショートも可愛いかもね」
自分でも気に入っていたが、まわりの評判もよかった。
莉奈はもちろん、春休み中に遊んだみな実や麻理恵も可愛いと言ってくれた。
ショートにしてよかった!




