受験、そして卒業
悩み事が解消された陸は信じられないくらい勉強に集中できた。
あとは当日を迎ええるだけだ。
みな実と一緒に受験する北高へ行き、教室へ入る。
不思議なくらい落ち着いている。
各科目、一問一問しっかりと解くことができた。
これなら大丈夫なはず!
「みな実どうだった?」
「うー…自信ない、やばいかも」
「大丈夫だって、今まであれだけ頑張ってきたんだから」
「愛花は自信ありそうだね」
「そうだね…なぜか問題が手に取るようにわかった」
「マジで?すごすぎる…」
初日がうまくいったせいか、翌日の面接も堂々と臨むことができた。
そして結果発表の日…
「あった…やったぁ!」
陸は見事合格することができた。
「私もだ!」
「本当!?やったぁ、一緒に合格だ!」
陸とみな実は2人とも合格した。
4月からは北高に通うことになる。
北高は、この辺では一番の進学校で、受かるのは至難だったので喜びは人一倍だ。
すると、莉奈から電話がかかってきた。
「どうだった?」
「私もみな実も合格だったよ!莉奈は?」
「私も合格、よかったぁ」
「莉奈もよかった!じゃあ学校で」
陸とみな実は学校に行き、担任の佳祐に受かったことを報告にいった。
すると、先についていた莉奈が佳祐のところにいた。
「山崎、おめでとう」
「ありがとうございます」
「お、佐久間、野田、嬉しい報告だろうな」
「もちろん!2人とも合格です」
「素晴らしい、よかったなぁ、おめでとう!」
合格を喜ぶ佳祐は、このときばかりは教師に見えた。
「早く帰って家族に教えてあげなさい」
「うん」
「あ、くれぐれも帰るときは」
「事故には気をつけます」
と3人で声を揃えて返した。
家に帰り、急いでリビングへ行く。
「おかーさーん!」
「愛花、おかえり」
そこには希美も一緒にいた。
「お姉ちゃんどうしたの?今日は平日だよ」
「ちょっとね、それよりどうだったの?」
笑顔で陸はVサインをした。
「もちろん合格だよ」
「おめでとう」
「よかったね」
美智子と希美が祝福してくれた。
彰にもあとでメールしておこうと思った。
「嬉しい報告が重なるっていいことね」
「お母さん重なるって?」
「愛花、私ね赤ちゃんできたの」
「赤ちゃん…?」
一瞬思考がとまったが、すぐに動き出す。
そして喜びがじわじわと溢れてきた。
「ホント…?おめでとう!お姉ちゃんがお母さんかぁ」
「愛花は叔母さんになるんだよ」
「えー、まだ叔母さんじゃないもん!絶対に叔母さんなんて呼ばせないから」
3人で笑って、とても幸せな日になった。
その日の夜、9月1日以来に豪から電話がかかってきた。
「もしもし」
「どうだった?」
「受かったよ、豪は?」
「よかったな、俺も受かったよ」
豪は中の下の高校を受けたが、とりあえず受かったのはよかった。
「よかったね、多少は真面目に勉強したんだ」
「まあな、これで心置きなくデートできるね」
この言葉を聞いて陸は返事に困った。
元々冷めていたうえに、受験勉強で連絡を取らず、
学校でも顔を合わせる程度だったので陸の中では別れた同然になっていた。
「愛花?」
「あ、うん…」
それでも豪としては陸のためにずっと待ってくれていた。
その優しさに嘘はない。
陸は最後にもう一度だけ豪にかけてみることにした。
「春休み…入ってからでいい?もうみんなと過ごせる時間が少ないから」
「わかった、じゃあ春休みを楽しみにしてるよ」
期待を裏切らないでよ…豪
卒業式、今日でこの学校ともお別れになる。
卒業証書を受け取り、思い出が走馬灯のように蘇ってきた。
真っ先に思い浮かんだのが、あの事件…思い出しただけで気分が悪くなり、
泣きそうになる。
それ以外はどれも楽しい思い出だ。
麻理恵や佳奈子という友達ができたこと、みな実と吹奏楽部に入ったこと、
一応まだ彼氏の豪との出会い、そして佳祐、莉奈に打ち明けた真実、
どれも昨日のことのようにすら思える。
それほど充実した日々だった。
最後のホームルームで佳祐は「これからも事故だけは気をつけるように」と
相変わらずの言葉で締めくくった。
礼をして、本当に中学校生活は終わった。
小学校のときみたいに涙は出ない、おそらく成長したんだなと思った。
「じゃあ…最後にみんなで帰ろう」
莉奈、みな実、麻理恵といつも通り4人で帰ろうとしたとき、
莉奈が小声で言ってきた。
「佐竹先生、いいの?」
「うん…」
「本当の最後なんだから、ちゃんと話した方がいいよ」
莉奈は陸と佳祐の関係を理解している。
その気持ちに応えることにした。
「ごめん、みんな…ちょっと待ってて」
陸は佳祐の元へ向かった。
「先生、ちょっといい?」
「ああ」
陸と佳祐が廊下に出て行ったのをみな実と麻理恵はポカーンと見ていた。
「愛花…どうしたの?」
「確かに佐竹と仲よかったけど…」
「別にいいじゃん、愛花を待ってようよ」
よくわかってない2人に対して、莉奈は笑顔で答えた。
「先生、はいコレ」
「なんだ一体?」
渡された紙を開くと電話番号が書いてあった。
「これ私の番号」
「お前…」
「ただし、かけてくるには条件があるから。
私が20歳になってからね、未成年じゃなきゃ会っても問題ないでしょ。
それで先生が独身だったら…しょうがないからお酒くらいは付き合ってあげる。
けど誤解しないでよ!それは親友としてだからね」
「陸…」
「愛花だってば、けど…かけてこないのを信じてる。
だってかけてくるってことは独身ってことじゃん」
「う、うるせえな!お前に言われる筋合いはねーよ!」
「あははは…先生…佳祐、元気でね」
「陸…佐久間もな」
陸は佳祐に別れを告げて、みんなのところに戻った。
「お待たせ!」
「なに話してたの?」
「内緒♪」
「なんで、教えてよ」
「ただお世話になったから挨拶しただけだよ」
「ホントにそれだけなの?」
「さあ、帰ろう!」
莉奈だけは知っている。
けどそれを言うつもりはない。
4人で笑いながら最後の下校をするために校門へ向かうと、
その途中で裕美が声をかけてきた。
「愛花」
「裕美、高校行っても歌手目指すんでしょ?」
「もちろん、それよりも北高だよね」
「そうだけど…なんで?」
「ううん、聞いただけ。いいことあるかもよ」
「え、何なに??」
「なんでもない、じゃあね」
裕美は何を言いたかったんだろう…。
結局教えてくれなくてモヤモヤしたが、気を取り直して校門を出て、
一度振り返って校舎を眺めてから前を向いた。
麻理恵、みな実と別れ、莉奈と2人になる。
「こうやって一緒に帰るのも今日で最後だね」
「ねぇ…でも莉奈がいたから毎日楽しかった」
「私も…ってそんなシンミリしないでよ!家だってすぐ近くなんだから」
「そうだった…会おうと思えば毎日会えるしね」
「そうそう」
陸と莉奈の家は5軒先、いつでも会える環境だった。
学校が別々になっても友情は続いていくんだ。
そう思いながら最後の下校を楽しんだ。