頼れる姉
日曜日、陸はマンションのドアの前に立った。
ピンポーン
インターフォンを鳴らすと、ドアが開いた。
「いらっしゃい、愛花」
「お邪魔します、お姉ちゃん」
陸が希美の家に行くのはこれが2度目だった。
最初に行ったのは6月だったので、実に8か月ぶりだ。
「孝之さんは?」
「外に追い出した」
「追い出したって…」
「大事な話があるんでしょ、
孝之がいないほうがいいと思ったから1時間くらいどっか行ってって」
「ありがとう…」
孝之には悪いが、この話を聞かれるわけにはいかない。
その辺をちゃんと理解していた希美に感謝した。
「で、どうした?」
「莉奈のこと…なんだ」
陸はいきさつをすべて希美に話した。
佳祐のこと、莉奈が気づいていたこと、洗い隠さずに事細かに説明した。
「うーん…」
さすがの希美も困っている。
やはり正解は簡単にでてくるものではない。
「正直に言えば、莉奈ちゃんが悪いと思う。
聞く時期も時期だし、愛花が言ったとおり親友だからって
すべてを話す必要はないと思うよ」
「やっぱりそう思う?」
「うん、けどね…そこまで気づいちゃうくらい
莉奈ちゃんにとっては愛花が大事な親友なんだよ、きっと。
だからこそ隠し事をしてほしくなかったんじゃないかな」
「けど…」
「莉奈ちゃんほど愛花のことを思ってくれる友達はいないでしょ」
莉奈…
小学校転校初日、一番最初に話しかけてくれたのが、
前の席に座っていた莉奈だった。
偶然家がすぐ近くだったこともあり、一番最初に遊んだのも莉奈だ。
その日以来、登校は毎日莉奈と一緒、中学に入ってもそれは変わらなかった。
そして中1のとき、陸にとって痛ましい事件が起きる。
そのとき莉奈は陸のためになりふり構わず最低な男、
伸也を泣きながらひっぱだいた。
その日の夜は、涙が止まるまでずっと隣にいてくれた。
3年になり、小4以来の同じクラスではしゃいだ記憶は新しい。
莉奈がいたから楽しかった、莉奈がいなかったら今の陸は
いなかったかもしれない。
「莉奈は…私にとって一番大切な友達なの」
「愛花がそう思うんだったら、話してもいいんじゃないかな。
そこまで愛花のことを思ってくれてるんだから大丈夫だよ」
「うん…」
「だって解決策はそれしかないでしょ、少なくとも話せば愛花自身はスッキリするよ」
「わかった…話してみる」
決めたとなれば善は急げだ。
陸はバッグを持って玄関に向かうと、ちょうど孝之が帰ってきた。
「愛花ちゃん…もう帰っちゃうの?」
「孝之さん、また今度!」
陸は飛び出すようにドアを開けて出て行った。
「せっかくケーキ買ってきたのに…」
「あの子は今青春真っ只中なの、ケーキは2人で食べようよ」
やっぱり愛花として生きていくのに試練がたくさんあるんだね。
けど陸お兄ちゃんなら乗り越えられるはずだよ、頑張って!