気づかれていた
2学期初日、学校が終わった夜に豪から電話がかかってきた。
出るか迷ったが、出ることにした。
「もしもし…」
「夏休み終わったから電話したよ」
ここまでくると、呆れて何も言えなくなってしまう。
私はなんで豪を選んでしまったんだろう…。
やっぱり男を見る目ないのかな。
そんなことを考えながら、とりあえず会話をした。
「本当に連絡してこなかったね、心配じゃなかった?」
「だって愛花が真面目に勉強してると思ったから、邪魔したら悪いじゃん」
本当にバカ真面目だ、本当に勉強しかしていなかったけど…
心配にならなかったんだね。
「夏休みは何してたの?」
「たまに勉強したり遊んだりかな」
「一応、勉強はしたんだ」
「まあ受験生だしね」
そう、今は受験生だ。
特にこれからは今まで以上に真剣に取り組まないといけない。
豪のことで時間を費やしている場合ではない。
別れを切り出すなら今だ。
「あのね、大事な話があるの」
「わかってる、俺も同じことを考えていた」
「え?」
豪もわかってくれていたんだ、そう思ったけど返ってきた言葉は違っていた。
「受験が終わるまでは電話もデートもやめよう、俺は愛花の勉強を邪魔したくないから」
「あ、いや…」
そうじゃない、と言いたかったが言えなかった。
これが豪なりの優しさだったのだ。
それがわかってしまい、別れを言えなくなった。
「とりあえず3月に、2人が笑っていられるように頑張ろう」
「う、うん…」
電話を切ってから複雑な気分になる。
こういう優しさは嬉しいんだよね…
本当はまだ好きなのかな…
考えることをやめ、勉強に集中することにした。
10月、今日は希美の結婚式だ。
陸は黒いワンピースに、美智子から借りた真珠のネックレスを付けて出席した。
普段と違い、どことなく大人になった気分だ。
そこへウエディングドレスを着た希美が現れた。
「お姉ちゃんキレイ…」
今までのどの希美よりも美しくてキレイで、思わず見とれてしまった。
「ありがと、愛花」
最初に家族で記念写真を撮り、次に孝之も加わっての記念写真。
このあと挙式、披露宴と続いていくが、
実は結婚式に出席するのが初めてだったのでどれもが感動のシーンになっていた。
披露宴が終わり、出席者が全員いなくなってから陸は希美にお願いをした。
「お姉ちゃん、2人で写真撮りたい」
「もちろん!」
彰がシャッターを押し、2人は一枚の画角に収まった。
大好きな姉の一番の晴れ舞台に一緒に撮った写真、
陸にとってはかけがえのない宝物になった。
季節は冬になった。
受験勉強もラストスパートといったところだ。
この時期になると志望校はもう固まっている。
陸は効率の進学校を受験するつもりだ。
みな実も陸と同じ学校を志望していた。
莉奈は普通レベルの公立校、麻理恵は私立だった。
それぞれがそれぞれの道を決め始めていた。
2学期の終業式、佳祐は相変わらず最後に「事故に気をつけろ」と
言葉を締めくくったので、
教室を出る前に佳祐のところに行って「相変わらず脈略ないよね」と
言ってやった。
「うるさい!本当に気をつけて帰れよ。それと勉強頑張れ!」
「うん、ありがとう先生」
佳祐に手を振ってから莉奈たちと合流して下校した。
そして年が明け3学期初日の帰り道、莉奈と2人になったときだった。
「ねぇ愛花、私どうしてもわからないことがあるの」
「何、急に?」
「愛花と佐竹の関係…」
まさか今その話をしてくると思わなかったので驚いてしまった。
「な、何もないよ!本当に」
「みんなは気づいてないかもしれないけど、私は知ってるんだよ」
「知ってる?な、なにを??」
陸は次に莉奈が何を言うか不安で仕方なかった。
まさか…バレてる?
「愛花が佐竹と話すときの顔、私やみな実と話すときと同じ顔なの」
「え?どういうこと…?」
「つまり友達…特に私たちみたいに親しい友達と話しているときと同じ表情なんだよ」
そんなこと気にしていなかった。
陸は真相を話したことで、どこか当時の親友のような感覚に無意識になっていて、
それが現在の親友の莉奈たちと同じような感じになってしまっていたのだ。
「気のせいだよ!」
「ううん、私にはわかるの。ずっと愛花と一緒だったから。
それにさ、最初は避けるようにしていたのに、
生徒指導室で2人で話をしてからガラっと変わったよね。
あのとき、何を話したの?」
莉奈がここまで自分を見ていたということを知らなかった。
このときばかりは自分自身が迂闊だったと思うしかなかった。
「進路の話…」
「愛花!本当のことを話して、私たち親友でしょ」
どの言い訳をしても通じそうにない、それ以前に言い訳や別の理由が思い浮かばない。
「莉奈…親友なら全部話さないといけないの?」
「愛花が…そんなこと言うと思わなかった。
私はすべて話してきたのに…もういい、絶交だよ」
「莉奈!」
莉奈は目に涙を溜めて走って行った。
それを止めることが陸にはできなかった。
あの日以来、莉奈とは登下校をしなくなり、
学校でも莉奈は口を聞いてくれない状態になった。
みな実や麻理恵が心配して何があったが聞いてきたが
「ちょっとね」と答えるのが精いっぱいだった。
しかし、陸と莉奈のケンカは初めてのことだったので、まわりも戸惑いを隠せない。
こんな状態で勉強に身が入るわけもなく、
一番大事な時期に最悪の状態になっていた。
そして入試まであと10日。
勉強してもまったく頭に入らない。
このままでは志望校に受からない…
本当に行き詰った、こればかりはみな実たちにも相談できない。
彰、美智子、2人に相談するしかないが、入試目前で話す内容はない。
かえって余計な心配をかけてしまうのがオチだ。
今度こそ本当に頼るときがきてしまった。