夏休みの楽しいひととき
陸は本当に真面目に勉強した。
こんなに真面目に勉強したのは高校3年の夏以来だ。
あのときは大学を目指していたが、今回は高校。
それでも真剣さは同じだった。
そんな夏休みも下旬に差し掛かったとき、久々に麻理恵から連絡がきた。
「パジャマパーティー?」
「うん、莉奈とかみな実も呼んでやろうよ!」
ずっと勉強漬けだったし…何より楽しそうだ!
「やろう!」
テンションが上がってから、ふと気づいた。
最近は短パンにTシャツだ…これは買いに行かないと!
問題は誰と買いに行くか、だ。
莉奈たちと買いに行くと楽しみが半減してしまう。
かと言って、麻衣たちと行くと誘わないといけなくなる。
陸自身は誘いたいくらいだが、主催者の麻理恵に断りもなく誘えるなずもないし、
仮に来るとなったら莉奈たちと同じ意味になる。
「こうなったら…」
陸は電話をかけ、一緒に買いに行ってくれる相手に連絡を取った。
待ち合わせ場所で待っていると、後ろから声をかけられた。
「愛花」
「お姉ちゃん!久しぶりだね~」
希美が家を出たのが3月、そこから5月と7月の2回帰ってきただけだった。
「ごめんね、結婚式の準備で忙しいのに」
「まだ2か月も先だから大丈夫だって、それにたまには愛花と買い物に行きたかったしね」
希美は10月に結婚式を控えている。
そんな希美を今は心から祝福できるようになっていた。
「どうせなら思いっきり可愛いの買っちゃいなよ」
「女の子しかいないんだけどね」
「そりゃそうだよ、パジャマパーティーで男の子は普通いないでしょ。
そうじゃなくて、可愛いの買っておけば、彼氏にだってってこと」
「彼氏か…」
あの電話以来、豪は連絡をしてこない。
確かにキツイ言い方で連絡しないでとは言ったけど、
本当にその通りってどうなのかと思う。
「別れたの?」
「わかんない…けど多分別れると思う」
自分の中での気持ちは別れる方向へ向かっていた。
「そっか、なら次だね。そんな考え込まなくていいから」
「考え込んでないよ、それより買いに行こうよ」
もう希美に心配はかけない、そう決めていたので話題を変えてお店に入った。
店内にはいろんなパジャマやルームウェアがあり、じっくりと見て選ぶ。
「迷っちゃうな…」
「これなんかどう?」
「それシースルーじゃん!パジャマじゃないし」
などとふざけいるのが懐かしく感じる。
やっぱりお姉ちゃんは私にとって大事なお姉ちゃんだ。
結婚しても苗字が変わっても、これだけは変わらないと確信した。
「これいいかも」
陸が手に取ったのは、ピンクの上下セットのものだった。
袖の部分がフリルでフロントにはリボンが付いている。
夏らしく下は短パンになっていることころもいい。
「可愛くていいんじゃない?でもこっちの色のほうがいいかも」
希美が選んだのは色違いのイエローだった。
「イエローかぁ」
「愛花はこういう色のほうがいいと思うよ、
ピンクだとあまりにも女の子女の子しすぎだし。
それにイエローも普通に可愛いよ」
確かにちゃんと見てみるとイエローも可愛い。
それに普段着ない色を着ることで、
新しい自分を発見することができるかもしれない。
「イエローにする!」
希美もついでだからといって、
赤いチェックと青いチェックのパジャマを購入した。
もちろん夫婦用のものだ。
「孝之さんとお揃いだ、いいなぁペアルック」
「こういうのもたまにはね」
どことなく微笑ましい感じがする。
そんな希美とは、他のお店を覗いたりして半日ほどしてから別れた。
明日は楽しいパジャマパーティーだ。
莉奈とみな実と待ち合わせをして、3人で仲良く麻理恵の家に行った。
「いらっしゃーい」
麻理恵と麻理恵の母が笑顔で出迎えてくれたので同じく笑顔で「おじゃましまーす」と
挨拶を返して家にあがった。
麻理恵の部屋に行くと、「早速パジャマに着替えよう」とみんなで着替えだした。
もちろん陸も一緒に着替える。
いつも体育のときに一緒に着替えているし、修学旅行でお風呂も一緒に入っている。
今さら恥ずかしさなど全くない。
莉奈は陸と同じようなタイプで水玉だった。
みな実は花柄、麻理恵はノースリーブのワンピースだった。
それぞれの個性が出ていて、いい感じだ。
お菓子を食べ、ジュースを飲みながら最初は学校の話で盛り上がった。
「そういえば!佐竹のやつ、終業式の日も事故に気を付けろって言ってたよね」
「ちょっとしつこいよねぇ」
みんなが佳祐の文句を言う。
前ほどではないが、佳祐はみんなから変わり者という目で見られたままだ。
悪いやつじゃないんだけどなぁ…
「でもさ、あれは先生が心配してくれてるんだから」
「なんか愛花って何かと佐竹の肩を持つよね、妙に仲がいいし」
「ひょっとしてタイプ?」
「バ、バカなこと言わないでよ!誰があんなバカを…」
この焦りは照れた焦りではない、勘違いされたくない焦りだ。
みな実と麻理恵は「だよね」と言って笑っているが、
莉奈はずっと気になっていた。
それは陸が佳祐と話をしているときの表情が、
莉奈と話をしているときと同じ表情だということを。
「莉奈どうしたの?」
「う、ううん!そうだよね、愛花には彼氏がいるし」
「そういえば最近どうなの?」
この話には皆が興味津々だった。
なんて言ったらいいのか…
「最後の部活以来会ってないし連絡もしてないよ」
「え?なんで?」
陸は今までの豪の行動や最後の電話のやり取りを説明した。
みな実は途中までの話は知っていたが、
ここまで深刻になっているとは思っていなかったので驚いていた。
「半田くんってそこまで奥手だったんだ」
「奥手というか…草食動物だね」
こういう発言をしていると、ますます冷めていくのがわかる。
「なんか考えられない…っていうかバカなんじゃないの?半田くん」
「麻理恵、バカは言い過ぎだよ」
みな実はまだ一応は彼氏だから気を使ってくれた。
「だって私が男だったら我慢できないよ、こんなナイスバディ」
いきなり麻理恵が胸を揉んできた。
「ちょっと麻理恵!もう…」
そのやり取りを見てみんなが笑っていた。
「じゃあみんなフリーみたいなもんだね」
「あれ、莉奈別れちゃったの?」
「うん、夏休み入ってからね」
その話を陸は聞いていた。
やはり高校生と中学生だと感覚が合わなくなっていき、
自然と別れる方向に進んでいて、先月末に別れた。
麻理恵とみな実は元々いないので、
陸が正式に別れていれば本当に全員がフリーということになる。
「こうなったら彼氏なんか必要ないか」
「そうそう、私たちだけで盛り上がっていこうよ」
こんな感じで朝までずっとパジャマパーティーを楽しみ、
陸にとっては一番楽しい夏休みとなった。




