夏休みに入り…
6月の修学旅行が終わり、うだるような暑い季節、夏がやってきた。
まだ夏休み前の7月中旬、陸は生理も重なって最悪なテンションだった。
授業が午前で終わり、午後は部活の時間だ。
「愛花ダルそうだね。ひょっとしてアレの日?」
「うん、暑いから余計最悪」
「アレってなんだ?」
陸とみな実の会話に豪が加わってきた。
「豪って本当に、そっちのほうの話を全然知らないよね」
「なんだよ、そっちのほうって」
「バカだなぁ、半田くん。女の子の日だよ」
みな実にそれを言われると、顔を赤くして離れた行った。
そんな豪を見て陸はため息をついた。
「豪ってすごく優しくて性格がいいんだけど、こういうのダメなの」
「じゃあ、まだしてないの?」
陸と豪が付き合っていることはほとんどの人が知っていた。
豪をよく知らない人物からすれば、不釣合いという人も多い。
中には半田が付き合えるんだったら俺だって付き合えたじゃん、
などと言っているバカな男子もいる。
だが、実際に告白してきたのは豪だけだった。
みんなあの事件を知っていたので二の足を踏んでいたのだ。
それとは別に莉奈やみな実たちは喜んでくれて、
やがてタブーだった性の話も自然とするようになっていた。
「うん、キスもまだ」
「えー!半年近く付き合ってるのに?」
「そうなの…でも私からっていうのもね、やっぱ男からしてもらいたいじゃん」
「だよねぇ」
キスどころか実はいまだに手すら繋いでいないとは言えなかった。
豪と付き合っていて楽しいが、いかんせん奥手で第一線を越えようとしない。
というより、性というのに興味がなさそうだった。
陸はあの事件以来、エッチをしていない。
正直に言えば、まだ恐怖を持っている。
でも、豪とならそれを乗り越えられそうな気がしていた。
しかし肝心の豪が何もしてこないことにヤキモキしていた。
ましてや今は生理中、イライラは増すばかりだ。
夏休みに入り、陸たちは、県大会を終えて吹奏楽部を引退した。
「愛花先輩たちがいなくなると寂しいな…」
「まだ卒業じゃないんだから!それに理紗ちゃんたちの代になるんだよ、
頑張らないとね」
「はーい」
それでも理沙は寂しそうな表情のままだった。
みな実が部長としての最後の挨拶をして、吹奏楽部に別れを告げた。
「愛花、帰ろうぜ」
「うん…今日はみな実と帰らせて」
「けど部活最後なんだから、一緒に」
「最後だからみな実と帰りたいの!
みな実が誘ってくれなかったら吹奏楽部に入らなかったかもしれないもん。
だから最後はみな実と帰る」
「ありがとう、愛花」
「じゃあね、豪」
少しかわいそうな気もしたけど、今日はどうしてもみな実がよかった。
それと同時に、何もしてこない豪への気持ちが冷めつつあるのに
気づきはじめていた。
「明日から真剣に受験勉強始めなきゃ…志望校に受からなくなるよ」
「みな実なら大丈夫だよ、頭いいもん。私のほうこそ真剣にやらないとまずい…」
陸の成績は徐々に下がり、3年になると中間くらいになっていた。
さすがに簡単な勉強でカバーできなくなっていたので、危機感を抱いていた。
みな実は元々、中の上くらいで、そこをキープしている。
「確かに愛花は成績下がったけど、元々頭良かったんだから頑張れば取り戻せるよ」
元々よかったわけではなく、習っていたからよかっただけとは言えない。
「よし!私も勉強頑張ろうっと」
そうだ、勉強しないと小学校の先生になれない。
それにバカな佳祐が教師になってるんだ、負けるわけにはいかない。
陸は家に帰ると、真っ先に美智子のところへ行き、直談判した。
「お母さん、夏期講習行きたい!」
「い、いいけど…」
特に反対する理由もなかったのに、あまりにも陸が真剣に言うので驚いていた。
こうして陸は夏休みを勉強に捧げることになった。
その日の夜、豪から電話がかかってきた。
「愛花、来週遊ぼうよ」
「ごめん、来週から夏期講習に行くの」
「え?じゃあ再来週は?」
「再来週も夏期講習」
「その次の週は?」
「家で勉強する」
「ちょっと、夏休みだぜ。せっかく愛花と楽しい夏休みを過ごせると思ったのに」
「楽しいって例えば?」
「えーと、遊園地行ったり、映画見たり…」
「それやったよね、前に」
「じゃ、じゃあ水族館とか動物園とか」
「そうじゃなくて!もっとドキドキさせてよ、もう半年だよ…」
「ドキドキ?ドキドキって例えば?」
ここまで言わせておいて気づかないことに心底腹が立った。
「知らない!もう夏休みは連絡してこないで!」
「あ、愛花…そんな怒らなくても」
「それとさ、豪は高校のこと考えてる?もし真剣に考えてるなら勉強しないとダメだよ」
これだけ言って陸は電話を切った。
それでもすぐにかけ直してくれば、
デートくらいはしようと思ったのに豪はかけてこなかった。
もう終わりかな…。