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second life  作者:
32/112

陸と佳祐

翌日、授業が終わってから陸はみな実に言った。

「みな実、ごめん。先に部活行ってて」

「どうしたの?」

「ちょっと先生に用があって」

それを聞いたみな実が怪訝な顔になった。

「何で…?大丈夫なの?あいつ絶対変な奴だよ」

ひどい言われようだ、陸は思わず苦笑いしてしまった。

「大丈夫だって、そこまで変な奴じゃないよ」

陸は笑顔でそれをみな実に言ってから教室を出ようとしている

佳祐のところに行った。

「先生、ちょっといいですか?」

「あ、ああ…何だ?」

「できれば2人だけがいいんですけど」

言ってから、しまったと思った。

まるで誘っているみたいだ、佳祐はバカだから勘違いしないだろうか?

「わかった、生徒指導室が空いてるはずだ」

佳祐は何事もなかったように移動を始めた。

どうやらそこまでバカではなかった。

こんなんでも教師なんだなと思った。

生徒指導室に入って佳祐の対面にある椅子に座り、

なんて話そうか考えていたら、先に佳祐が話し出した。

「佐久間、お前成績いいよな。進路の相談か?」

「あ、いや…違います」

「じゃあなんだ?恋愛か?恋愛相談されても俺は独身だから

いいアドバイスはできないぞ、わははは」

やっぱこいつはバカだ。

「相変わらずバカだな、佳祐」

いきなり呼び捨てにされたので佳祐は怒った。

「おい、いくらなんでも教師を呼び捨てにするやつがあるか!」

「まだ初デートにコンドーム持っていってるのか?

そんなんだから祥子ちゃんに1回目のデートで振られるんだ。

「え?」

「しかもデート中にコンドーム落とすなんてバカにもほどがあるよな」

「なんでその話を…」

「まだわかんないのかよ、俺だよ…陸だ」

佳祐は言葉を失っている。

何がなんだかわかっていないようだった。

「信じられないかもしれないけど、俺は陸だよ」

「そんなバカな…だって佐久間は女の子…」

「そうだな、今は佐久間愛花だ。

けど陸じゃないとお前のバカな話を知るはずないだろ」

陸は自分に起きたことを一からすべて説明した。

最初は信じていなかった佳祐も、

話を聞いているうちに愛花が陸だということをわかってくれた。

「そんなことがあったのか…」

「うん、でも佳祐が目が似てるって言ってくれたとき、

佳祐には本当のことを話そうと思ったんだ」

「やっぱり間違ってなかったんだな、どこか面影を感じていたんだ」

「ねぇ、もう普通のしゃべり方していい?」

「普通の?ん??」

「もう…相変わらずバカ。男っぽいしゃべり方じゃないってこと。

ずっと女の子としてやってきたから男言葉ってしゃべりづらくて」

「あ、ああ…そういうことか。そうだよな、陸は女なんだもんな」

「ちょっと!変な目で見ないでよ!」

「見てねーよ!ただ女ってどんな感じなのかなってさ」

佳祐は陸の全身を見ていた。

今の陸は誰がどう見ても女の子。

身長は150cmと小さめだが胸はEカップあった。

「変態!絶対に教えない」

「変態って言うなよ、単に興味本位で」

「そんな話をするために教えたわけじゃない!

愛花としてのことは絶対に話さないから。

それより何?あの初日の事故の話、唐突すぎて意味わかんないよ。

教師ならもっと考えてしゃべんなよ、そういうところ全く変わってないんだから」

「うるせーな」

「でも…ありがとう。佳祐が言いたかったこと、私には伝わったよ」

「陸…」

「ねぇ、どうして教師になったの?」

「陸が死んでから考えたんだよ、事故がどうすればなくなるのか。

もう同じ苦しみや悲しみをなくすにはどうしたらいいか。

最初は警察官になろうと思ったんだけどさ、

調べていくうちに学生の交通事故が多いってことがわかったんだ。

陸は女の子を庇ってだったから違うけど、学生の事故は自転車がほとんどで、

それらのほとんどが信号無視や逆走、2人乗り…無謀運転ばかりだ。

それで思ったんだ、教師になって学生に事故の危険性を伝えて、事故をなくそうってな」

かっこいいことを言っているが、焦点がずれている気がしてならない。

その辺が佳祐らしいと言えば佳祐らしいのだが…。

「けど安心したよ、また陸とバカ話とかできるんだからな」

「それは無理だよ、私は愛花だもん」

「愛花だけど陸だろ」

「違う、陸はもういないの。しかも考えてみて、私と佳祐は本来、教師と生徒だよ。

こんな風に普段から話せないでしょ。

こうやって2人きりになれば話せるけど、毎回2人で部屋に行ったら怪しまれるしね。

それに電話とかもダメだよ、今の時代、教師が生徒の携帯番号を知っているだけでも

問題になる、外で会ったりなんかしたら大問題だよ」

「そうか…そうだよな」

「教師でしょ、なんで生徒に言われて気づくの。まったく…」

「けどよ、それなら何で話したんだ?」

「佳祐に…さよならを言うために」

「陸…」

「さよならも言えなかったって言ったでしょ…だから」

「そうだな…俺はお前にもう一度会えて嬉しかったよ。感謝してる」

「私…ううん、俺もだ。やっと16年越しに言えるよ。佳祐…さよなら」

「陸…さよなら」

しばらく沈黙があってから、陸は笑顔で佳祐に言った。

「先生!私、部活に行くね」

「あ、ああ」

陸は扉に手をかけてから佳祐のほうに振り向いた。

「先生、生徒に話すときはもっと言葉を整理してからじゃないとダメだよ。

生徒からのアドバイス」

「う、うるせーな」

「それと…早くお嫁さん見つけないとね。じゃあね先生」

陸が部屋を出て行ってから呟いた。

「生意気な…生徒だな、佐久間愛花」

しかしその顔は笑顔で溢れていた。


家に帰ると、美智子が心配そうに駆け寄ってきた。

「愛花…」

「ただいま、お母さん。どうしたの?」

「愛花…よね?」

「ちょっと、何言ってんの…当たり前でしょ。お腹すいたー、ご飯何?」

いつも通りの陸で美智子はホッとしていた。

その様子を見ていた彰は心の中で微笑んだ。


次の日、校門に佳祐が服装チェックで立っていた。

「先生、おはよー」

「佐久間、おはよう。スカート、少し短いぞ」

「変態」

「なんだと?」

「行こう、莉奈」

「う、うん…愛花、いつから佐竹とあんなフレンドリーになったの?」

「さあね、でもあいつ…いいやつだよ」

莉奈は不思議がっていたが、陸はそれ以上は言わずに教室に向かった。

久々にすがすがしい気分だ。



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