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second life  作者:
29/112

希美の結婚

「莉奈、遅いぞ」

「ごめん、ちょっと寝坊しちゃって」

陸は莉奈と並んで歩き出した。

「どうせ遅くまで良先輩と電話してたんでしょ」

「バレた?」

「先輩は受験生なんだから、ほどほどにしないとダメだよ」

「はーい」

莉奈は半年前に彼氏ができた。

相手は伸也を殴ったバレー部の先輩、戸田良。

後日、莉奈がお礼を言ってから話すようになり、

半年たってやっと付き合いだしたのだ。

莉奈はそのことを陸に報告していいのか迷ったが、

変な気をまわす方が陸を傷つけてしまうと思い、結局は報告すると

陸は自分のことのように喜んだので嬉しかった。


廊下を歩いていると、麻衣に会った。

麻衣は2年になって違うクラスになったので、前ほどは遊ばなくなっていた。

「愛花だ」

「麻衣…メイクしてるの?」

「わかる?目だけだけどね」

「また先生に怒られるよ」

「そしたら落とすだけだからいいの」

「まったく…」

クラスが変わってから麻衣はどんどん派手になっていった。

メイクをして怒られて、これを毎度のように繰り返している。

彼氏がいるという噂も聞いたが、陸は本人から聞いていないので

その話には触れないようにしている。

おそらく気を使って言えないのだろう。

何気なく振る舞うことはできても、

彼氏の話はあの事件を思い出させてしまうのでは、

という麻衣なりの優しさと解釈していた。

「愛花、たまには遊ぼうよ」

「すっぴんでいいなら遊ぶ」

「えー、メイクしようよ。愛花ならもっと可愛くなるって」

陸も年頃の女の子だ、メイクには興味がある。

しかし、背伸びして大人になるよりも等身大の自分でいたいと思っているので

毎回断っていた。

「須田!お前また化粧しているだろ」

「ヤバ、じゃあね愛花」

麻衣は教師から逃げるように走って行った。


「裕美、何してるの?」

「ちょっとね」

陸と裕美は2年で同じクラスになった。

裕美はスマホで何かのホームページを見ていたのでピンときた。

「ひょっとして…」

「うん、オーディションの情報」

裕美は歌手になりたくて、レッスンに通っていた。

しかし、歌手など簡単になれるものではない。

今までも何度かオーディションを受けたが、全部落ちていた。

それでも諦めず、歌手を目指して頑張っている。

そんな裕美を陸は応援していた。

「次は受かるといいね」

「そんな簡単じゃないよ、きっとまた落ちる」

「でも受けるんでしょ?」

「まあね、可能性が0じゃない限りは」

「そうだよ、行動することで次につながるんだから!」

「愛花ってホント、いつも前向きだよね」

「だってそのほうが人生楽しいじゃん」

「そうだね、これがダメでも諦めないよ」

「うん、頑張れ裕美!」


小学生から少しだけ大人になる中学生。

陸のまわりも少しずつ成長していた。


家に帰ると、玄関に男用の大きな靴があった。

奥からは話し声も聞こえる。

お客さんかな?

リビングに行くと、彰、美智子、希美、若い男性が座って話していた。

「あ、愛花おかえり」

「ただいま…」

「愛花、この人ね、孝之っていうの」

「はじめまして、愛花ちゃん」

「はじめまして…」

この人が希美の彼氏というのはすぐにわかった。

彼氏がいることは知っていたけど、希美はどういう人か話してくれなかった。

その相手が家に来ているということは…

「ねぇ、ひょっとして…」

「うん、結婚するの」

「わー!すごいすごい、式はいつなの?」

「ちょっと愛花、気が早いよ。まずは一緒に住んで落ち着いたら」

「そっか」

と言ったあとに希美の言葉が引っかかった。

一緒に住む…

考えてみれば当然だ。

嬉しいことなのに、希美が家を出て行くというのがショックだった。

このあと陸も混ざって孝之と話をしたが、孝之はとてもいい人で、

彰も美智子も大歓迎だった。

もちろん陸も大歓迎だが、やはり希美がいなくなる悲しみのほうが大きかった。

孝之が帰ってから希美が部屋にきた。

「お姉ちゃんの将来の旦那さん、どうだった?」

「すごくいい人だった」

「でしょう」

「うん…」

「どうしたの?愛花」

「どうもしないよ…」

「ウソ、私にはわかるんだから!」

希美は陸のことなら、なんでもわかる。

だからこそ、陸にとって希美は常にいてほしい大事な存在だった。

「お姉ちゃんが結婚するのはすごく嬉しい…本当だよ!

でも、お姉ちゃんがいなくなるのは…もっと寂しい」

「愛花…」

「ごめんね、本当は笑顔で送り出さなきゃいけないのに…」

「私はね、もう愛花は私がいなくても大丈夫って思ったから結婚する気になったんだよ」

「お姉ちゃん」

「愛花がうちに来た頃は、ちゃんと女の子のことを教えてあげないとって思っていた。

そんな愛花はどんどん成長してくれた。

それでも去年のような過ちを犯しちゃったから、

まだ心配だったけど…それからの愛花の一年間を見て、もう大丈夫って思ったの。

この子は私がいなくても問題ないってね」

「そんな…私まだ全然だよ…もっとお姉ちゃんに教えてもらいたいこともあるし、

側にいてほしい…」

「愛花の味方って私だけ?違うでしょ、お父さんとお母さんは当たり前だけど

それ以外で考えてみて」

「私の味方…」

真っ先に莉奈の顔が思い浮かんだ。

次にみな実、麻衣、裕美、麻理恵、綾、佳奈子、美咲、凛、美紗…次々と

顔が浮かんできて、最後に豪の顔が出てきた。

「愛花にはたくさんの友達がいるでしょ、みんな愛花が自分で作った友達だよ。

これだけ友達がいれば私はもう必要ない、愛花は大丈夫って思えたの」

そうだ、私には大切な友達がたくさんいる、信頼できる仲間がいる。

いつまでもお姉ちゃんに甘えてちゃダメだ。

「私…お姉ちゃんを笑顔で送り出す」

「ありがとう。けどね、もしどうしても、どうしても私が必要になったら連絡して。

すっ飛んで愛花のところに行くから」

「そんな心配しなくていいよ」

「いいから!だって妹が困ってたら助けてあげないと」

「妹…」

「そうだよ愛花、結婚したって愛花は妹なんだから」

そうだ、別に結婚するからって姉妹じゃなくなるわけじゃない。

それに永遠に会えなくなるわけじゃない。

今度こそ、心から希美を祝福できる、そう思えた陸は自然と笑顔になった。

「幸せになってね、お姉ちゃん」


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