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second life  作者:
27/112

心の傷

莉奈と綾はバレー部に所属していた。

部活の準備をしていると、体育館の隅で伸也と葉山が会話していたので

聞き耳を立てた。

「もう完全なセフレだよ」

「さすがだな、伸也」

「まあな、俺の狙い通りだろ。

あの手の女は優しくしてやればコロっとくるんだよ」

「俺が協力してやったからだろ」

「まあな、今度はお前の番だぜ。なんだっけ」

「香川麻理恵、あいつ俺のこと好きみたいだから簡単だよ。

今から行ってくるかな、テニス部だからテニスコートにいるだろ」

「多分、セックスに慣れたら愛花と交換な」

「ああ、あの巨乳はそそるからよ」

あまりに下衆で最低な会話に莉奈は怒りを覚えた。

ひどい、ひどすぎる!

「じゃあ行ってくるわ」

葉山が立ち上がり、体育館から出て行った。

莉奈は伸也に歩み寄っていった。

「ちょっと、莉奈…」

「私、我慢できない」

莉奈は伸也の前に立ちふさがった。

「ん?何?」

莉奈は思いっきり伸也の頬を叩いた。

バチーンという音が体育館に響き渡り、みんなが静まり返った。

「なにすんだよ、テメー!」

「愛花に…愛花になんてことしてくれたの!」

「あん?」

「愛花に謝んなさいよ!」

「何で謝るんだよ、あいつも気持ちよかったんだからいいだろ。

それともお前もしたいの?」

「ふざけないで!なんでこんな最低なやつに愛花が…」

莉奈はその場で泣き崩れた。

綾は迷ったが、陸にすべてを話して来てもらうために音楽室へ走った。

「愛花!」

息を切らして綾がきたので驚いた。

「来て…莉奈が」

「莉奈がどうしたの?」

陸は教室を飛び出して体育館に向かった。

「まって、私も行く」

みな実が陸の後を追った。

その直後、綾は陸を呼び止めて真実を話した。

それを一緒に聞いていたみな実が泣き出した。

「そんな…ひどい、ひどすぎるよ」

陸も泣き崩れそうになったが今は堪えた。

莉奈を助けるのが先、自分のことはあとでいいと言い聞かせ体育館へ向かった。

中に入ると莉奈は伸也の前で大泣きしている。

陸は歩いてそこに行った。

「愛花、聞いてくれよ」

ヘラヘラしている伸也に向かって右手に拳を作り、

伸也の頬をめがけて振りぬいた。

今度はガンッという音が響き、伸也は倒れるように尻餅をついた。

そんな伸也に怒りを堪え、冷たい目で見下した。

「二度と私に関わらないで」

伸也は殴られた頬を押さえて唖然としている。

陸は屈んで莉奈の両肩を抱いた。

「ありがとう莉奈、私は大丈夫だから行こう」

「ヒックヒック…あい…か」

陸は莉奈を立ち上がらせて歩き出した。

それを見ていた伸也が叫んだ。

「女ぶってんじゃねぇよ、お前だって喘いでいたくせに」

陸は歯を食いしばって耐えた。

まだ早い、まだ泣くときじゃない。

「テメー、ふざけんなよ!」

知らない2年生の男子が伸也の胸ぐらをつかみ起こし殴りかかった。

伸也の最低な行為と発言に他の男子がキレたのだ。

更に殴る音が聞こえる。

誰も止めるものはいない、殴られて当然だと思っていた。

陸は振り向かず、莉奈を抱えて体育館を出た。

そのあとを綾とみな実が追った。

陸が向かった先はテニスコートだった。

葉山が麻理恵と一緒にいる。

麻理恵は「ホントに?」と嬉しそうにしていた。

「ちょっと待ってて」

陸は莉奈から離れて2人の前に立った。

「愛花!聞いて、私ね」

嬉しそうに話す麻理恵を無視して、思いっきり、伸也と同じように拳で殴った。

「いってーな!」

「愛花!なにするの!!」

「こんなクズに麻理恵は渡さない、行こう」

陸は麻理恵の手を取って歩き出した。

「ちょ、ちょっと愛花、先輩に謝んなさい…よ」

陸が歩く先に泣き崩れている莉奈が視界に入った。

「どういうこと…?」

「いいから行こう」

陸は強引に麻理恵を連れ出した。

これで麻理恵は被害に遭わなくて済んだ。

でも泣くのはまだ、まだ我慢する。

こんな状態で部活などできるはずもない、

陸は莉奈、綾、みな実、麻理恵と学校を出て近くの公園へ行き、

事のいきさつを麻理恵に説明した。

「そんなことが…」

麻理恵はショックで言葉が続かなかった。

麻理恵だけじゃない、莉奈も綾もみな実も何も言えなかった。

そんな中、陸だけは会話をした。

「でも麻理恵が未然に防げたからよかった」

「よかったって…愛花は」

「私はいいの、もう済んだことだから。

それよりも麻理恵が無事だったから安心した。

莉奈の気持ちが嬉しかった、心配して教えてくれた綾が嬉しかった、

泣いてくれたみな実が嬉しかった」

「愛花…なんでそんなに強いの?」

「わかんない、思いっきり殴って気が晴れたからかな。

私は本当に大丈夫だから、今日は帰ろう」

もう少し…家に着くまでは…

麻理恵、みな実、綾と別れ、莉奈と2人になった。

もうすぐ家、もうすぐ…

「愛花…強がらなくていいんだよ」

「強がってなんかいないよ」

「うそ!私にはわかる、みんなの前で無理して強がってること…心配かけないように…私にはわかるの」

「莉奈…」

「愛花はきっと家に着くまで我慢してる…帰って一人で泣いて…

でもすごく辛いよ…そんなかわいそうな愛花は嫌…

私の前だったら強がらなくていいから、思いっきり泣いていいから」

家までもうちょっとなのに…もうちょっとなのに

陸の悲しみが限界点に達した。

我慢してた涙が溢れてくる。

「莉奈…莉奈!」

その場で泣き崩れる陸を莉奈は泣きながら抱きしめた。

「私…私…」

「いいの、何も言わなくていいから…ね」

「もう処女じゃない…処女じゃないの…あんな奴に…あんな奴に…わぁぁぁ」

女の子にとって大事な初体験、

それをあんなのに奪われた悔しさと悲しさは言葉で言い表せない。

陸は涙が枯れることなく、ただ泣きづづけた。

こんな状態で家に帰れるはずもなく、陸は莉奈の家に行き、まだ泣いていた。

涙が一度止まっても、すぐに溢れてくる。

莉奈はずっと付き添っていたが、一度だけ部屋を出て再び戻ってきた。

夜の9時くらいにようやく涙がとまったが、目は腫れ上がりすごい顔に

なっていた。

「こんな顔で帰ったら…お父さんとお母さんが心配しちゃう…」

「大丈夫、私がなんとかするから」

声の主は希美だった。

莉奈が希美を呼んだのだ。

「お姉さんなら大丈夫だと思って…」

希美は陸を抱きしめた。

「バカ、だから気を付けなさいって言ったのに」

「お姉ちゃんの言うとおりだった…私がバカだった…」

「そう、愛花が悪いの」

「ちょっと、そんな言い方」

「ごめん莉奈ちゃん、ちょっと黙ってて」

「いい?愛花、失ったものはもう戻らないの、過ぎちゃったことは仕方ないの。

でもこれだけは忘れないで、世の中そんな男ばっかりじゃないから、

絶対に愛花のことを心の底から愛してくれる人がいるから、

そのときに愛花のすべてを捧げてあげればいいの。

処女かどうかなんて関係ない、そのときの愛花を捧げれば相手は安心してくれるから」

「お姉ちゃん…」

「帰ろう、愛花」

「うん…」

悲しみながらも陸の心には希美の言葉がしっかりと刻まれた。

悲しむのは…今日だけにしてまた明日から前を向いて進もうと決心した。


まだ目が腫れぼったいが、気にせず学校へ行くことにした。

「莉奈、おはよう」

「うん、おはよう」

いつも通りの通学路、いつも通り隣には莉奈がいる。

まるで昨日のことが嘘のようだ。

「愛花のお姉さんってすごいね」

「そうだね…頼りがいがあるしね」

「私は、愛花を慰めるだけで精いっぱいだった。

でも、お姉さんは愛花を先に進めさせるんだもん、やっぱり違うよ」

「そんなことないよ!昨日莉奈が隣にいてくれなかったら、

立ち直れなかったかもしれない…莉奈、本当にありがとう」

「私的には全然力になれなかったと思ったけど…でも、そう言ってくれるのは嬉しいかな」

「えへへ、さあ今日から頑張るぞ!」

学校に着くと、みんなしゃべっていたのに陸を見て静かになった。

昨日のことは学校中で話題になっていたのだ。

教室に入っても同じだ。

みんなが急に黙り込む。

佳奈子も話しかけようとしたが、「愛花」と言いかけて止まってしまった。

そこに麻衣がやってきた。

「愛花、おはよ」

「おはよう、麻衣」

「ねえ、今度の日曜日遊びにいかない?」

「いいけどどこ行く?」

「カラオケとかどう?」

「いいよ、だったらみんなも誘おうよ」

「OK」

麻衣は昨日の話を知っていて、あえて触れずに普通の話をした。

それが麻衣なりの優しさだった。

慰めても解決しない、怒っても解決しない、

だったらいつも通り接してあげるのが一番。

その気持ちを陸も理解していた。

陸は佳奈子を見て言った。

「佳奈子も一緒に行こうよ」

「う、うん」

「あ、麻理恵も誘おうかな」

「え…あいつ好きじゃないんだよね」

「そんなこと言わない、麻衣も話せば仲良くなるよ」

陸がいつも通り振る舞うので、まわりも自然に戻っていった。

あのことはもう誰も聞かない、話さない、少なくとも陸のまわりではタブーになった。

一方、伸也と葉山の行為は全校生徒を敵にまわし、完全に無視された。

あれだけ人気があったのに、女子は軽蔑のまなざしをしている。

段々学校に来づらくなり、気がつけば2人は学校に来なくなって、

やがて忘れ去られた。

陸は本当にいつも通りの日々に戻り、そして一年が過ぎた。




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