彼氏
麻理恵と友達になってから1か月後、陸は葉山誠に呼び出された。
「なあ、俺と付き合わない?」
噂は本当だった。
しかし陸は付き合う気がない。
「ごめんなさい」
「え?マジで断ってるの?」
「はい」
「何で?俺女に振られたことないから理由がわかんないんだけど」
とんだナルシストだ、断って正解だと思った。
「すいません、もういいですか?」
「いやいやいや、俺友達に告って付き合うって言っちゃったから
これじゃ恰好つかないんだよ」
「そんなの知りません」
葉山は必死に陸に食らいついてくる。
こんなやつのどこがモテるんだろう?
「なあ、頼むって!」
「おい、いい加減にしろよ」
「あん、なんだよ伸也」
現れたのは葉山と同じ2年で同じバスケ部の鈴木信也だった。
伸也もカッコよくて人気がある有名人だ。
よくバスケ部のイケメンツートップと言われている。
「嫌がってるだろ、女の子の嫌がることするなよ」
「けどよ…」
「諦めろ、この子はお前に興味ないんだ。
それなのに付き合うはずないだろ」
「ちぇ…わかったよ」
葉山は渋々去っていった。
「大丈夫?」
「あ、はい…」
「あいつも悪いやつじゃないんだけどさ、ちょっと女癖が悪くてね。
あいつの代わりに謝るよ、ゴメンね」
「いえ、いいんです…」
「もし、あいつがまた何か言ってきたら俺に言って。俺が守ってあげるから」
この言葉を聞いたとき、陸はドキッとしてしまった。
「じゃあね」
伸也は笑顔で手を振っていなくなった。
それを陸はずっと眺めていた。
どうしよう…すごくドキドキする…
この瞬間、陸の頭の中から伸也のことが離れなくなった。
家に帰っても学校にいても伸也のことばかり考えてしまう。
陸はふとしたことでトキめくと思っているが、
実際は優しくされ守られるとトキめくのだ。
本人はそれに気づくことなく、伸也という先輩に恋する乙女になっていた。
数日後、部活を終えてみな実と帰ろうとしていたとき、
一人で帰る伸也を発見した。
これはチャンスなのでは?
「みな実、ごめん!ちょっと用があった」
「え?愛花」
陸は走って伸也のところに行った。
「鈴木先輩」
「ああ、こないだの…愛花ちゃんだよね?」
「私の名前…知ってるんですか?」
「ちょっと気になって調べた、可愛かったからさ」
「そんな可愛くなんか…」
恋している人に可愛いと言われるのは格別に嬉しく、
久々に真っ赤な顔になっていた。
「帰り?」
「あ、はい」
「じゃあ一緒に帰ろうか」
大胆にも伸也は陸の手を握って歩き始めた。
ええ~!私、伸也先輩と手を繋いでいる…
「愛花ちゃんの手って温かいね、温もりが伝わってくるよ」
「そんなこと…ないです…」
もはや緊張してロクにしゃべれる状態ではなかった。
「あのさ…俺と付き合わない?」
「え?」
「俺、愛花ちゃんのこと好きになっちゃったんだ。大事にするからさ」
伸也に恋している陸に断る理由はなかった。
「私で…いいんですか?」
「愛花ちゃんじゃないと嫌だ」
ここまで言ってもらえれば返事は一つしかない。
「私なんかでよければ…」
「やった!ありがとう」
伸也は笑顔で陸を見てきた。
その笑顔が眩しすぎて陸は凝視できなかった。
分かれ道になり立ち止まると伸也は「じゃあな愛花」と呼び捨てにしたあと
いきなりキスをした。
突然だったので陸はビックリしてしまい固まっていた。
そんな陸に伸也は笑顔で手を振って帰って行った。
キス…しちゃった、伸也先輩と…
陸にとってのファーストキスはあまりにも唐突に、突然奪われたが、
嬉しくてたまらなかった。
その様子は家でも続き、希美が突っ込んできた。
「愛花、何かいいことでもあった?」
「べ、別になんでもないよ」
「ははーん、恋したな。それとも彼氏ができたか」
「何でもないって」
「嘘つくな、バレバレだぞ。正直に言え」
希美は陸の頭をグリグリした。
「痛い痛いー」
「じゃあ言う?」
「わかった、わかったからぁ」
陸は観念して伸也と付き合ったこととキスされたことを話した。
希美が更に冷かしてくると思ったが、希美は冷かさずに真面目な顔になっていた。
「大丈夫なの?その子」
「どういうこと?」
「だって一回助けただけで、付き合おうって早すぎない?
それに付き合った直後にキスなんて」
「だって気になったって言ってくれたし、キスだって…好きな人となら」
「気をつけたほうがいいよ」
「お姉ちゃん!」
「いい愛花、これは姉というより年上の女としての忠告だからね」
「大丈夫だよ、伸也先輩はそんな人じゃないもん!」
伸也しか見えていない陸に希美の言葉は届かなかった。




