ライバル?
中学生になって半年が過ぎた。
陸はクラスも部活も同じみな実と一緒にいることが一番多かった。
他に同じクラスの和田佳奈子という女の子とも仲良くなり、
3人でよく盛り上がっている。
麻衣は、みな実や佳奈子の系統が違うので
今はちょっと派手なグループと仲良くしている。
といっても陸とは仲がいいままだ。
そんなある日、みな実と佳奈子と話をしていたら、
よく知らない違うクラスの子たちが大きな声で陸を見て話していた。
「あれがそうなんだ、ただ胸がデカいだけじゃない」
その声が聞こえたので陸が振り向くと目があった。
160cmくらいですらっとした髪の長いキレイな女の子だった。
「ふんっ」
その女の子は引き連れていた友達と一緒に陸の前から立ち去って行った。
「誰?」
「あの子って確か1組の子じゃなかったけ?確か香川さんだったかな」
詳しいことはみな実も佳奈子も知らなかった。
一体なんだったんだろう??
数日後、佳奈子は香川という女の子について調べてきてくれた。
「香川麻理恵、やっぱり1組の子で、可愛いって有名だった。
でもみんなにチヤホヤされるから性格が悪いらしいの」
何となく納得できる。
「でもその子が何で私に?」
「なんでもね、1年で一番可愛いのは誰って話を男子がしてて、
それが愛花ってなったらしいの」
「へ?」
「で、2番目が香川さんなんだって。多分一番じゃなかったのが悔しかったんじゃないかな」
「ちょっと待ってよ!私は自分が可愛いとかモテるとか思ってないし、とばっちりだよ」
そこにみな実が割り込んできた。
「確かにとばっちりだけど、愛花は本当に人気あるよ。小学校の文集のときだってさ」
陸が人気あるのは事実だった。
中学に入ってから半年のあいだに3人に告白されている。
中にはカッコいい子もいたが、陸は基本的に一目ぼれをしない。
隼人のときのように、ふとした瞬間にトキめいて好きになる。
告白してきた子は全然接点がないのでトキめくことがなかったので
全員断っていた。
「そんなことないのに…それよりもいい迷惑だよ!」
「ねぇ愛花は2年生の葉山先輩知ってる?」
バスケ部2年の葉山誠、女子のあいだでは知らないと言われているほどのイケメンだ。
興味はないけど、陸も存在だけは知っている。
「葉山先輩がどうしたの?」
「愛花のことを気に入ってるって噂なの」
これまた迷惑な話だ。
「でね、香川さんは葉山先輩が大好きなんだって」
「知らないよ、そんなこと…」
完全な嫉妬だ、聞けば聞くほどウンザリしてくる。
そこへ麻理恵が友達を引き連れてやってきた。
「ねえ佐久間さんだっけ、なんかちょっとモテるからって勘違いしてない?」
勘違いしているのはそっちだと言いたいが、とりあえず黙っておく。
「その大きな胸で男を誘ってるんでしょ、バカじゃないの」
人のコンプレックスの部分をこともあろうか、誘っているという発言は頭にきた。
滅多に怒らない陸も怒りが頂点に達した。
なんで、知らない女にこんなことを言われなければいけないんだ。
「何言って」
と陸が言いかけると、別の声がかぶってきた。
「何言ってんだよ、バカはそっちだろ!」
「え?」
声の方を振り向くと麻衣が怒っていた。
「何よあんた、関係ないでしょ」
「関係あるんだよ、愛花は私の友達なの!
愛花のこと知りもしないでふざけたこと言うな!」
「事実を言っただけじゃない」
「どこが事実なんだよ、適当なこと言うな」
麻衣と麻理恵が言い合いになり、まわりが注目し始めてきた。
他のクラスの子たちも覗いたりしている。
「愛花はね」
「友達思いのすごくいい子なんだよ」
今度は裕美まで加わってきた。
違うクラスなのに騒ぎを聞いて駆けつけてくれた。
「誰よあんたも」
「愛花の友達に決まってるでしょ」
「私も愛花のこと侮辱するのは許さないよ」
なんと隣のクラスから莉奈もきてくれた。
3人が陸を囲んで麻理恵を睨み付ける。
その気迫に押されたのか、「ふん!」と大きな声をあげ、
麻理恵は友達と引き下がって行った。
助けてくれた3人には感謝するが、言われっぱなしは腹が立つ。
陸は麻理恵を呼んだ。
「香川さん」
その声に麻理恵が振り向く。
「怒ってると顔に出るよ」
この言葉を聞いて麻理恵は余計怒りながら戻っていった。
「何なのあれ?バカじゃない」
「ひがみもいい加減にしてほしいよね」
そんな会話をしている3人に陸はお礼を言った。
「みんな、ありがとう!」
「お礼なんていいよ、愛花のこと侮辱してムカついたからだもん」
「それに約束したでしょ、愛花のこといじめるやつがいたら許さないって」
麻衣も裕美も小学4年のときの約束をちゃんと覚えていてくれた。
「私も、助けるって約束したしね」
莉奈もあのとき、そう言ってくれた。
3人の気持ちがすごく嬉しかった。
しかしこれは、陸の人望があってのことだ。
大切だと思える相手に対して人は損得なしに行動できる。
「ごめんね、私たち怖くて何も言えなかった…」
誰もが行動できるわけではない場合もある。
みな実や佳奈子のようにおとなしいタイプは、思っていても行動できない。
陸はその辺をしっかりと理解しているので気にしていない。
「大丈夫だよ、心配してくれてありがとう」
こういう優しさが陸の魅力かもしれない。