5年生
4月になり、陸は5年生になった。
初日にクラス替えが発表され、ドキドキしながら掲示板を見てみると
陸は5年1組になっていた。
嬉しいことに担任は早苗だった。
早苗は良き理解者で、女子たちを同性の女性として扱ってくれる。
陸はそんな早苗が大好きだった。
クラスメートを確認すると、莉奈・美咲・麻衣・裕美は違うクラスで
仲がいいのは綾だけだった。
「結構離れちゃったね」
「うん、でも私たち友達だから!」
そんな会話をしてから綾と1組の教室に入って新しいクラスメートを見回した。
このメンバーが卒業までの2年間の仲間になる。
陸は2年間を楽しく過ごすために、いろんな子と話をした。
その結果、佐竹凛、野田みな実、吉野結衣の3人と仲良くなった。
そこには綾も加わり、新しい5人組が誕生した。
子供は不思議なもので、クラスが変わると、それまで仲良かった子よりも
新しいクラスの子と遊ぶようになる。
陸は自然と新しい5人にシフトしていき、
以前仲が良かったメンバーも同じだった。
しかし莉奈だけは違っていた。
家がすぐ近くということもあり、
朝は一緒に行くし休みの日もたまに遊んだりしている。
そして5月、林間学校が近づいていた。
林間学校は火曜日から金曜日までの3泊4日、
2日前の日曜日に準備をしながら、ある違和感が気になっていた。
「お姉ちゃんに相談してみようかな…」
ところが希美は出かけていていなかった。
彼氏が出来て、社会人にもなった希美は充実した日々を送っていた。
そうなると次に相談する相手は美智子だ。
リビングに行くと彰と美智子が一緒にテレビを見ている。
「お母さん、ちょっといい?」
「なあに?林間学校で足りないものでもあった?」
「いいから、ちょっと…」
「なんだ、お父さんの前じゃダメなのか?」
「いいから!」
あまりにも頑なに言わないので美智子は立ち上がって「じゃあ愛花の部屋行こう」と言って一緒に来てくれた。
「お父さんに聞かれたくない話ね、身体のこと?」
さすが母親だ、なんとなく気づいていた。
「うん、最近ブラがキツイ気がして…」
「前に買ったの年末だっけ?成長したのかもね。
よし、今から買いに行こう」
陸は美智子と一緒に下着売り場に行った。
考えてみれば美智子とでかけることはあまりない。
それはほとんど希美が一緒に行っていたからだ。
美智子と出かけるのも悪くない、今度から積極的に出かけようと思った。
中に入ると以前接客してくれた店員が陸を見てニコニコしながら近づいてきた。
「愛花ちゃん、こんにちは。今日はお母さんとなのね」
店員は美智子にお辞儀をして、以前対応させてもらったことを説明した。
陸は店員が名前を憶えてくれていたことが嬉しかった。
「ちょっとキツイって言ってるんで」
「そうですか、じゃあサイズを測りましょう」
陸は試着室でサイズを測ってもらった。
2度目だからか、完全に愛花になったからか、
恥ずかしい気持ちはまったくなかった。
「7cmか…ずいぶん成長したね」
「鏡見てみて、ほら、胸が横に膨らんできてるでしょ」
言われてみるとそんな気がする。
それと並行して乳首も以前より大きくなった気もする。
「次のステップだね」
店員は以前と同じようにいくつかのブラジャーを持ってきて
試着をさせようとしたら、そこに母親と一緒に来た麻衣に会った。
「愛花!」
「マイマイ、久しぶり」
美智子と麻衣の母親がお互い会釈している。
「麻衣ひょっとして…」
「うん、お母さんがそろそろって言うから…」
麻衣は少し恥ずかしそうにしている。
最初に来たときの陸みたいだった。
「じゃあ愛花ちゃん、試着しようか」
「あ、はい」
麻衣は別の店員が対応し、陸は試着室に入った。
付けて気づいたのは、今までと違いカップがしっかりしていることだった。
きつくなく、そっと包まれるような感触が心地いい。
ストラップの部分も普通のブラと同じようなものもある。
「どうだった?」
「どれもそんな差がないです、全部付け心地よかったし」
「そう、じゃあまた同じサイズのを持ってくるから」
待っていると2つ隣の試着室から麻衣が出てきた。
そうやら麻衣も試着を終えたらしい。
「ねぇ愛花、ブラ付けるってどんな感じ?」
「最初は恥ずかしいけど慣れればなんでもないよ、
それに私は、「あ、私女だ」って実感が湧いたよ」
「そっか…慣れ、なんだね」
そんな会話をしていたら店員が戻ってきたのでブラを選んだ。
以前と違い、陸は積極的にかわいいのを選んでいった。
「前と違ってずいぶん可愛いのを選ぶのね」
「だって、どうせなら可愛い方がいいから」
前と同じく5種類のセットを美智子に買ってもらった。
「愛花ちゃん生理はまだですか?」
「ええ、そうですね」
「そろそろかもしれませんから準備しておいてあげてくださいね」
この会話が聞こえ、陸は戸惑った。
生理…
これは陸の頭にまったくないものだった。
普通に考えれば成長過程で生理がくるのは必然だが、
男だった陸にはまったく知識がなく、生理という存在自体を忘れていた。
「じゃあねマイマイ」
「バイバイ愛花」
麻衣と別れ、陸は美智子と家に向かった。
「お母さん、私…生理になるの?」
「そうね、でも女性は必ずなるものなの。
人によって時期は違うけど、だから怖がらないで」
「わかった…」
このときの美智子はいつも以上に頼もしかった。
おそらく生理がきたら、希美じゃなく美智子に話すだろうと思っていた。
真新しい下着を持ってくのもなんだからと美智子がいい、
着てない下着を一度洗濯したものをバッグに詰める。
その上に服や歯ブラシ、タオルなどを入れて準備は終わった。
あとは林間学校に行くだけだ。