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second life  作者:
15/112

ホワイトデー、そして…

3月14日、日曜日。

陸はワンピースを着て、今日はポニーテールの髪型で裕美と合流して

河川敷の球場へ行くと、ちょうど試合が始まった。

隼人は7番レフトで出場している。

4年生なのにスタメンなんてすごいと思った。

よほどうまいんだろうと期待を込めて試合を観戦した。

1打席目は三振、2打席目はピッチャーゴロだった。

チームも6対2で負けている。

「隼人全然ダメだね」

「でも頑張ってるよ!」

一所懸命、試合に取り組む姿は、陸にとって輝いて見えていた。

そして最終回ツーアウト、打席は隼人だった。

隼人はツーボール、ツーストライクからの5球目を叩いた。

打球は高いバウンドでサードの方へ。

相手サードが捕球してファーストに投げる。

隼人は思いっきり走り、間一髪でセーフになった。

「内野安打だ!やったー!!」

たとえ内野安打でもヒットに変わりはない、陸は自分のことのように喜んだ。

このあとのバッターがセンターフライに倒れゲームセットとなり、

結局隼人のチームは負けてしまった。

それでも全力でプレーする隼人を見ることができたので大満足だった。

このあと選手たちはグラウンドを整備して解散となった。

それを待ってから裕美と一緒に隼人のところに行った。

「お疲れさま」

「負けちゃったな…」

「でもヒット打ったよ」

「あんな内野安打」

「内野安打でもヒットはヒットだもん、カッコよかったよ」

「あ、ありがとう」

2人のやり取りが裕美はとても恥ずかしく感じていた。

「私邪魔みたいだし、そろそろ帰るね」

「帰っちゃうの?」

「だって今日は愛花の付き合いだもん。けど隼人、そこそこ頑張ってたんじゃない」

「そこそこは余計だろ」

「じゃあ後は2人で頑張ってね」

裕美は手を振って帰って行った。

「公園…でも行こうか」

「うん」

2人は自転車を押して近くの公園へ行った。

並んでブランコに乗りながら会話をした。

「こうやって佐久間とじっくり話すのって初めてかもしれないね」

「そうかも、だって田辺くん学校じゃ全然しゃべってくれないんだもん」

「なんか恥ずかしくってさ」

「それは私もだ…でもこれからは学校でもいっぱい話そうよ!」

陸がそういうとブランコから降り、バッグからラッピングされた袋を出した。

「これ、ホワイトデー」

「ありがとう!」

陸はそれを喜んで受け取った。

幸せの絶頂期、という言葉があるが陸は今まさにその状態だった。

しかしそれは次の言葉で瞬間に崩れ去った。

「俺、4月から転校するんだ…」

「え?うそ…」

「急に親の転勤が決まって、だからこのチームで最後っていう理由で

監督が試合に出してくれたんだ。

それでも構わないから最後の試合を佐久間に見てもらいたかった」

「田辺くん…」

「俺、転校しても佐久間のこと忘れないから!」

せっかく好きな子ができて、両想いになれたのに残酷だ。

それでも最後まで元気に振る舞う隼人を見て、陸もそれに応えようと思った。

「私も…田辺くんのこと忘れないよ!」

陸は公園で隼人と別れて自転車を漕いで家に帰った。

家に入ると希美がいるのがわかったので、真っ先に希美の部屋へ向かった。

「お姉ちゃん」

「どうした?ホワイトデーのお返しくれなかったの?」

「田辺くん…転校しちゃうんだって…」

「そっか…残念だね」

「お姉ちゃーん」

陸は希美に抱きついて泣いた。

それを希美はそっと抱きしめて頭を撫でた。

「大丈夫だよ愛花、一生会えなくなるわけじゃないでしょ、

いつかきっと会うことができるよ」

希美の言葉には重みがあった。

おそらく希美は陸のことを言っているんだろう。

死んだはずの陸ですら、姿形は変わっても会うことができたのだ。

生きている限り、人に永遠の別れはない。

「だからさ、転校するまでいっぱい田辺くんと仲良くしてあげな」

「うん…そうする」


次の日から陸は積極的に隼人に話しかけた。

まわりは陸が隼人を好きと思っているかもしれない。

けれど、そんなことよりも少ない時間を隼人と過ごすほうが大事だった。

しかし、それでも時間は足りないくらいあっという間に過ぎ、

春休み、隼人が引っ越す日になった。

陸は裕美と見送りにきた。

「裕美ちゃん、それに愛花ちゃんだっけ…ありがとうね」

隼人の母親が陸と裕美にあいさつをしてくれた。

「ううん、こっちこそ。隼人も元気でね」

「裕美もな」

裕美が手を振ると隼人も車の中から手を振った。

「ほら愛花、行っちゃうよ」

「うん…」

車が発進すると同時に隼人が窓から顔を出した。

「佐久間、いや、愛花―!元気でなー!」

「隼人…隼人も元気でねー!」

2人は最後の最後で初めてお互いを名前で呼び合った。

陸は車が見えなくなるまで思いっきり手を振った。

「行っちゃったね」

「ね、愛花大丈夫?」

裕美は落ち込んでいないか心配していた。

「大丈夫!マイマイ誘って遊びに行こ!」

陸はもう落ち込まない。

いつか隼人と再会できることを信じて、毎日を精いっぱい楽しむと誓った。


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