社会人
4月1日、今日から新社会人だ。
学校は始まっていないが、教師には授業以外の仕事もたくさんある。
生徒はまだいないけど、今日から先生なんだ。
頑張らないと!
愛花は気合を入れて赴任先の学校へ向かった。
母校ではない、同じ市内にある学校だ。
校舎に入り、職員室へ向かうと前から懐かしい、ずっと憧れだった人が歩いていた。
「早苗先生!」
「愛花ちゃん?」
「そうです!今日からこの学校の教師になります」
「ホントに…教師になったのね!」
偶然にも、愛花は早苗と同じ学校に配属されたのだ。
それを知ったときは、心の底から嬉しかった。
大好きで憧れだった早苗と同じ職場なんて、愛花にとって喜びしかない。
そこに、男性の教師がやってきた。
「新しい先生か。柳下先生の知り合い?」
「教え子なんですよ」
「へー、それは奇遇だ」
「佐久間愛花っていいます。わたし、早苗先生に憧れて、
早苗先生みたいな教師になりたいって思って、教師になったんです」
「ちょっと、そんなハッキリ言わなくても…」
早苗が照れ臭そうにしていた。
それを見て男性教師は笑っていた。
「そうかそうか、こんなファンがいたら、しっかりやらないとですね。柳下先生」
「わたしより愛花ちゃん…佐久間先生のほうがしっかりやらないとでしょ」
「それもそうか、私は6年を担当している、剛田だ。よろしく頼むよ」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
愛花は深々とお辞儀した。
このあと、職員室で自己紹介をしてから、愛花が3年2組の担任になることを告げられた。
こうして、愛花は教師としての第一歩を踏み出した。
小学生の春休みが終わり、今日から新学期が始まる。
愛花は緊張しながら、教壇に立った。
「はい、静かにしてください。」
愛花が声を出すと、クラスが静かになり、みんなが愛花を見ていた。
うん、素直でいい子たちだ。
「今日からみなさんの担任になる、佐久間愛花です。よろしくお願いします」
すると元気な声で「よろしくお願いします」と返ってきた。
「では、出欠を取ります」
自分でも不思議なくらい、しっかりとやっている。
愛花は、事前に早苗からいろんなアドバイスを受けていた。
その成果がしっかりと出ていたのだ。
何事もなく、新学期初日を終えることが出来たのでホッとした。
職員室に戻り、自分の席に着くと早苗が話しかけてきた。
「初日は無事終わった?」
「なんとか…早苗先生のおかげです」
「ううん、佐久間先生の実力よ。この調子で頑張って」
早苗に励まされると、自然と勇気が湧いてくる。
なんとかやれそう…かな。
ちょっと自信もなかったが、もう自分は教師になった、
やらなければいけないんだと言い聞かせた。
ゴールデンウィーク、社会人になって、お互い忙しかったので、
1か月近く会っていなかった。
なので愛花と祥吾にとっては久しぶりのデートだった。
それでも、気持ちの切り替えはついていなくて、学校のことが頭から離れなかった。
祥吾は10分ほど遅れてやってきた。
「ゴメン!遅れちゃった…」
「祥吾くん、10分の遅刻ですよ」
思わず癖で、教師みたいに言ってしまった。
「ごめんなさい、愛花先生」
祥吾はわざと生徒みたいに返してきた。
思わず2人して笑ってしまった。
「わかればよろしい!いこ、祥吾」
「ああ、愛花」
いざ一緒にデートすると、すぐに教師だということを忘れ、
学生の頃みたいに無邪気にはしゃいでいた。
そっか、24時間教師でいる必要はないんだよね。
学校を出れば、わたしは一人の女の子だ。
女の子…ではないかな、女性だ。
うん、今日は祥吾と思いっきり楽しもう!
愛花は吹っ切れたように、デートを満喫した。




