愛花の気持ち
祥吾が無言で振り向いた。
「でも…俺にそんな権利はない…そんなこと言える立場でもない…
だから…愛花のこと、頼む…」
「当たり前だ、俺はお前とは違う。俺は今までも、これからも愛花しか見ない」
祥吾が前を向くと、愛花の手を握り、歩き始めた。
愛花はつられるように、隼人たちを置いて歩き出していた。
無言のまま、しばらく歩いてから祥吾が立ち止まり、手を離した。
「行っていいよ、田辺のところに。あいつには愛花が必要なんだよ」
「祥吾…」
隼人との思い出を振り返った。
愛花の高校時代の思い出はほとんど隼人で埋め尽くされていた。
毎日が楽しかった。
でも、それは過去の話。
5年近く前の遠い思い出。
仮に戻ったとしても、それは傷の舐めあいだ。
今、一番大切な人が誰なのか、ちゃんと理解している。
愛花は祥吾の手を握った。
「愛花…」
「わたしには祥吾が必要なの。祥吾以外考えられないの」
「いい…のか?」
「言ったでしょ、釣った獲物は大きいんだから逃がさないでねって…」
祥吾は優しく抱きしめてくれた。
「ありがとう、愛花」
「うん…でもね、今だけ…思いっきり泣いてもいい?」
「いいよ、泣いても」
「うっうっ…うわぁぁぁぁん」
こんなに大泣きしたのは久しぶりだった。
とめどなく涙が流れた。
そんな愛花を、祥吾はずっと抱きしめていた。
その日の夜、愛花は祥吾とラブホテルにいた。
祥吾に腕枕をされながら寄り添っている。
「田辺の奴、離婚するだろうな」
「あの感じだとね…でもそれでいいと思う。
隼人はこれから、やっと前に進むことができるんだから」
「そうだな、もう道を踏み外すこともないだろ」
「それにしても、祥吾があんな怒ってるの初めて見た」
「愛花だってそうだろ、ビックリしたよ」
「えへへ、祥吾」
「ん?」
「大好き!」
愛花は祥吾にキスをした。
「なんだよ、急に」
「だってしたかったんだもん」
「俺もだ」
今度は祥吾からキスをした。
もうわたしは祥吾以外の人は考えられない。
ゴメンね、隼人…
子連れは大変かもしれないけど…
でも、昔の隼人に戻ればすぐにいい人が見つかるよ。
だって、わたしが大好きだった人だもん…
だから頑張ってね!