5度目の正直
夏休み、愛花は祥吾と釣りに来ていた。
ゴールデンウィーク以来の釣り、
今日大物が釣れれば祥吾に告白の返事をしなければいけない。
場所は、こないだと違うところなので田中に会うことはないが、
田中を避けたわけではなく、単純に祥吾と2人で釣りを楽しみたかったからだ。
「釣れた!」
「また釣れた!!」
さっきから釣れるのは愛花ばかりで、祥吾は焦り始めていた。
そして…
「釣れた!けどキスかよ…しかも小さいし…」
このあと、祥吾はアジなども釣ったが、どれも小ぶりで大物と呼べる魚は一匹もいなかった。
でも、祥吾が一所懸命に釣りをする姿は、愛花には輝いて見えた。
祥吾のこと…信じてみよう。
結局、大物を釣ることはできなかった。
「悔しいな、自分であんなこと言っておいて…」
「でも頑張ってたよね」
「結果が伴わないとな…仕方ない、返事はお預けだ」
落ち込みながらもサッパリとしていて潔い。
そんな祥吾の顔を見ながら愛花が答えた。
「いいよ」
祥吾が「え?」と言って驚いた顔をしている。
愛花はクスッと笑ってしまった。
「付き合っても、祥吾となら」
「ほ、本当に…?」
「うん」
「やった…やったぁ!!」
祥吾は子供みたいに大声で喜んでいた。
「大げさだよ、祥吾ったら」
「いいじゃんか、俺はマジで嬉しいんだからさ!!」
祥吾って無邪気でかわいいな。
愛花は微笑んでいた。
「大物が釣れたよ!超大物が!!」
「何言ってるの?」
「愛花っていう超大物が釣れたんだ!」
「ちょっと、わたしは魚なの?」
「い、いや…例えだよ」
焦っているのが面白い。
愛花がクスクスと笑い出すと、祥吾も笑っていた。
「超大物なら逃がさないでよ」
「当たり前だろ!」
祥吾がギュッと手を握ってきたので、愛花は思いっきり握り返した。
こんなの久しぶりだな…
愛花はその温もりが嬉しかった。
その夜、莉奈に付き合ったことを電話で報告した。
「そっかぁ、愛花が小林とねぇ…いいんじゃない、性格よさそうだし」
「うん、それにね、意外と子供っぽいところがかわいくてね」
「もうゾッコンなの?」
「そういうわけじゃない!ただ思っただけで…」
「はいはい、でも勝手な予想だけど、小林とならうまくいくんじゃないかな。
あいつ中学の頃から愛花のこと好きだったんでしょ?それだけ一途ってことだよ」
「そうだね、祥吾となら今度こそうまく行くって信じてる…」
5度目の正直だ。
祥吾なら大丈夫と自分に言い聞かせた。
「愛花、やほー」
「仁菜、久しぶりだね」
仁菜と遊ぶのは久しぶりだ。
このあと、春樹も合流することになっている。
祥吾と付き合っていることは話していたので、会うなりその話題に触れてきた。
「写真見せてよ」
「いいけど…普通だよ」
写真を見ると、仁菜が「へー」といいながら眺めていた。
祥吾はいたって普通の男性だ。
特別カッコよくもなければ、ブサイクでもない。
本当に普通だった。
でも、一緒にいると思っていた以上に楽しく、それでいて自分が自然体でいられたので、
付き合おうと思ったのだ。
「いいんじゃない、性格よさそうだし」
仁菜は莉奈と同じことを言っていた。
外見じゃなく、中身で選んだことを理解しているようだ。
「それより春樹くん遅いね」
「そうだ、わたしアイツと別れたから」
「え?」
あまりにもサラッというので驚いてしまった。
「どうして?あんなに仲良かったのに…」
「一緒に居すぎたのかもね、なんかマンネリ化しちゃってさ」
「そういうもんなのかな…でも別れたのに会っていいの?」
「ケンカ別れじゃないもん、今でも普通に2人で会ったりもしてるしね」
そんな話をしていたら、春樹がやってきた。
「愛花ちゃん、久しぶり」
久しぶりに見る春樹は、完全に大人だった。
これが社会人と学生の差なのかなと思った。
そんな春樹は、今までと同じように仁菜と会話をしている。
2人の様子を見ていて、きっと2人はまた付き合うんだろうなと感じた。