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侯爵は思いを馳せる

侯爵目線です

 僕はマウリツィオ・バルトリーニ。バルトリーニ侯爵家の当主だ。今日は侯爵として大事な日だ。そう、妻を娶ることになったのだ。貴族として、後継者を残すことは最大の仕事と言っていい。貴族として生まれたからには、嫌でも結婚をしなければならない。

「……まったく、こまったものだよ。なあ? 結婚しなくちゃいけないなんて、つくづく貴族は不幸だよ。そう思うだろ? アルバーノ」

「……」

 僕の執事、アルバーノは無表情で沈黙を通した。

「まあそれが民を養う貴族としての役目なら、仕方ないと割り切ることにするよ。ふんっ、僕は別に結婚したいとは思っている訳ではないんだけどね。相手側の令嬢とも、別に結婚したいとは思ってないんだよ? あっちから縁談を持ちかけて来たんだから、仕方なく結婚してやる――」

「旦那様のお言葉を要約いたしますと、『結婚するのが待ち遠しくて仕方がない。さらにその相手があの令嬢だなんて、嬉しくてどうにかなってしまいそうだ。しかもブランシャーネ家から縁談を持ちかけてきたなんて信じられない』ですね」

「……何故わかる?」

「頬を赤らめてニヤついていれば、嫌でも分かりますよ」

「くっ、しょうがないじゃないか! 楽しみで仕方がないんだ! もう待ってらんない、迎えに行こうかな?」

「あと数十分でお着きになられますよ」

 アルバーノはやれやれと言った感じに肩をすくめた。執事のくせにそんな態度取っていいのか?

「ああどうしよう。どんな感じに接すればいいかな?」

「普通でいいと思いますよ」

 ちっ、使えない。アルバーノは僕が小さい時から僕についていた従者兼執事だ。初めて会った時から感情の起伏が少なく、何を考えているか分からない。一度笑顔をしてみろと言ったことがあったが、あのニチャっとした気持ちの悪い笑みはトラウマものだった。愛想以外だったら完璧なんだけどなぁ。

「お前ももう少し愛想良く出迎えろよ? 執事がそんなんだと僕も冷たい雰囲気に見えてしまうかもしれない」

「……かしこまりました」

 脈絡のないアルバーノの返事に、僕はあまり期待しないことにした。

 それにしても未だに信じられない。僕があのクリスティーヌ嬢と結婚するなんて。クリスティーヌ嬢に一度お話ししたいと、僕が以前からどんなにアタックしてみても、ブランシャーネ家は首を縦に振らなかった。それにもかかわらず、ほとんど諦めていた僕にブランシャーネ家は、突然クリスティーヌ嬢との縁談を持ちかけてきたのである。僕は二つ返事でそれを受けた。当然だろう、数年前から憧れていた女性なのだから。

 それにしても何で今になって縁談を持ちかけてきたのだろう。あれほど頑なに断わっていたのに。まあいいや、僕が彼女と結婚することに変わりないんだし。

 彼女、クリスティーヌ嬢と初めて会ったのは、忘れもしない三年前のあの日、僕が侯爵の爵位を継いですぐのことだった。侯爵として初の外交関係の仕事の日だった。隣国の王の誕生日だ。あのエロ外務大臣では務まらないどころか、スクラ公国の信用にかかわる。そのため、私のような若造が異例の大抜擢を受けたのだ。

 その時に出会ったのが、王国の名家ブランシャーネ家の令嬢、クリスティーヌだった。テラスで外を眺める彼女は太陽のように輝き、月のように優雅だった。声をかけようにも、その周りにはその他の令嬢が取り囲むように周りを睨みつけていたし、ブランシャーネ家の令嬢に声をかける勇気も僕にはなかった。

 しかし、それを後悔するのにはあまり時間はかからなかった。時間がたつにつれ、僕の中にある彼女に対する何とも言えない気持ちが溢れてきた。大公に無理を言い、何度もブランシャーネ家へアプローチを掛けた。その反応はそっ気のないものだったが。

「それがどうだ? 今度はあっちから声をかけてきたんだ。やっぱりマギア様は僕を見捨てなかったんだ!」

「全知全能の神が貴方を一瞬でも気に掛けることなんて、あるとも思えませんがね」

「うるさいなぁ」

 アルバーノは時々執事と思えない発言をする。主を主と思っていないんじゃないかと本気で疑うほどだ。

 僕がアルバーノを睨みつけていると、屋敷の外から声が聞こえてきた。

「クリスティーヌ様のご到着です!」

 僕は弾かれたように立ち上がった。ついにこの時がきた!

「おい、来たよ。来ちゃったよ!」

「そうですね」

「どうしよう。第一印象は大事だよね。どんな感じが好感を持ってくれるだろうか」

「普通でいいと思います」

「あのなぁ……」

 まあいい、役に立たない執事は放っておこう。 

 僕は大急ぎで外に出て、馬車の前に立った。あの中に、僕の婚約者が……。

「おいアルバーノ、最初はお前がいけ」

「畏まりました」

「変なことするなよ」

 馬車の扉が開き、中からピンク色のドレスが見えた。彼女だ! クリスティーヌが階段を一歩ずつ進んで行くたびに、僕の動悸がどうしようもなく激しくなる。そして彼女が静かに顔を見せたとき、僕は息が詰まりそうになった。

 綺麗だ。

 3年ぶりに見た彼女の顔は、より一層女性らしさを増し、凛とした美しさがあった。

「ようこそクリスティーヌ嬢、私がマウリツィオ・バルトリーニだ」

 この時僕はスクラ公国悪評について完全に忘れていた。

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