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遅れて申し訳ありません。七話目です
「何がどうなってんの?」
わけがわからない。私は困惑しながら、再び自分の服装に目を落とした。
ひらひらとしたレースが付いた純白のドレス。そう、女の子なら一度は夢見るであろうウェディングドレスである。三十間近で彼氏もいなかった私にとって、それはとても眩しく見えた。
「綺麗だよ、クリスティーヌ」
ベールを外され、顔を上げると、そこには端整な顔立ちをした茶髪の男が、私を見つめていた。
「汝、健やかなる時も、病に倒れた時も夫を支え、妻として生涯、愛と忠実を尽くすことを誓うか?」
……ああ、こうなっちゃったか。私はやっと状況を理解した。バルトリーニ侯爵との結婚を、回避することはできなかったのだ。しかし、侯爵の顔を見ているとそんなに悪い気は……いや、問題は顔じゃない! だって噂ではスクラ公国の貴族は女をまるでおもちゃのように――
「……誓うか?」
もう一度問いかける神官に、私は思った。ここで誓いませんと言ったらどうなるだろうか? ……うん、殺される可能性の方が高い。スクラ公国は冷酷非道。人を人と思わぬ所業で、隣にある王国に亡命をする国民が多いという。
私はこれからの日々を想像し、唇を噛みしめた。どんな酷い扱いが待っているんだろう。じわっと視界がぼやける。
「クリスティーヌ? どうした?」
「ち、誓い、ます……」
情けない。自分でもわかるほど、その声は震えていた。怖い。山賊に襲われたときのような恐怖がまた、私を飲み込んだ。胸が締め付けられる。
「っ、タイム! ちょっと中止!」
すると突然、バルトリーニ侯爵は両手を振ってそう叫んだ。その後、私の手首を掴み、教会の外へと連れ出す。何? 何なの? さっきから意味分からないことばっかなんですけど。
連れてこられた場所は、城のような屋敷の最上階にある、展望台だった。バルトリーニ侯爵は、銛で見つかったときのように、私の肩を掴み、私をじっと見据えた。
「あ、あの?」
「君は、もう僕のもの何だよ?」
何故か一人称が変わった侯爵は、悲しそうに目を伏せた。
「……スクラ公国は、とても信心深い国だ」バルトリーニ侯爵はゆっくりととした口調で言った。「スクラ公国の国教にはこんな教えがある。男は、女性を身を挺して守れ。僕はそれを父に幼いころから口煩く言われてきた」
「え、だってスクラ公国は……」
「女性をただの性欲処理の道具としか見ていない。でしょ?」
私は呆気に取られながら、こくこくと頷いた。
「そういう噂が流れ始めたのは、今のこの国の外務大臣をしている、公爵のせいなんだ。あいつはそのスクラ公国の噂通りの奴で、側室を何十人と娶っている。しかもそれだけでは飽き足らず、奴隷にまで手を出して、国内外から見目麗しい性奴隷をかき集めているんだ。その噂を、各国の外交官たちの間で噂になり、尾ヒレや背ビレ、角とか牙を生やしながら伝わったんだ。いい迷惑だよ。そのおかげで、他国の貴族令嬢を娶るという事も激減した」
「知らなかった」
バルトリーニ侯爵は苦笑して、無理もないと肩をすくめた。
「だからこそ、君を手に入れるのに必死だった」
「え?」
「君は覚えていないだろうけど、僕たちは前に会ったことがあるんだ」
「本当? まったく覚えていないけど」
何せ傲慢なクリスティーヌの時に会ったのだ、フェリクス王子に夢中で、他国の貴族なんて眼中になかったんだろう。
「あれはそちらの国の王が誕生日パーティを開いた時だった。僕もそれに招かれて、宮殿の中で君に出会った。いや、出会ったというより、見かけたというのが正しいかな。挨拶しようにも、君の取り巻きたちが他の人を近づかせないようにしていたから」
ああ、あの子たちは私とフェリクス王子との時間を作ろうと、社交界のルールも守らずに好き勝手してたからなぁ。
「それは、申し訳ないことを」
「いや、いいんだ。あの頃の僕からしたら君は、眩し過ぎて近づけない太陽のような人だったから。遠くから見ている方が、僕にはあっていると割り切っていたんだ」
情けないよねと、バルトリーニ侯爵は自嘲気味に笑った。
「だから、あちらから縁談が来たときは、夢かと思った。自分はおかしくなってしまったんじゃないかと、本気で思ったよ。君が来る日を今か今かと待っていた。でも……」
あ、私逃げちゃったんだった。
「ご、ごめんなさい。私怖くて」
「ううん。あの時にスクラ公国の噂を忘れていた僕がいけないんだ。その噂を聞いていたら、当然逃げるに決まってる。……でも」
バルトリーニ侯爵は私に向きなおり、真剣な顔をした。
「もう逃がさない。いいね?」
「……はい」
私がそう言うと、バルトリーニ侯爵はニコッと笑い、そしてこう言った。
「クリスティーヌ。僕の物になりなさい」
これで一応終わりですが、その後の話や、違う視点での物語を投稿しようと思っています。よかったら読んでみてください。