4
四話目です
私はオリッゾンテの外れにある小さな宿に来ていた。流石にこの体で長距離の移動は骨が折れる
。古びた宿の扉を開けると、心地いい鈴の音が聞こえ、カウンターに座っていた男の人が立ちあがった。
「いらっしゃいませ。疲れた貴方に安らぎと安心をご提供、宿屋アベーレへようこそ。今日は泊まります? それともアベーレ名物、店主の気まぐれカルボナーラがお目当てかい?」
「あ、いや、泊まりです」
「そうですか! 先払いで一泊銅貨三十五枚になります。夕食朝食付きだと、銅貨四十五枚になりますが。あ、ちなみに店主の気まぐれカルボナーラは一食銅貨十枚で、夕食朝食付きだと銅貨五枚お得になりますよ?」
二食カルボナーラ食べるの前提?
「じゃ、じゃあ夕食と朝食付きで」
「ありがとうございます! ではこちらが部屋のカギになります。お客様の部屋は二階の奥の部屋になります。ご夕食の用意ができましたら、こちらから呼びに行きますので」
「はい。ありがとうございます」
「いえいえ。戸締りはしっかりしたほうがいいですよ。この国はなんだか治安が悪いですからね」
言われなくてもそうするつもりです!
夕食を取り、自室で今後について考える。明日にはここを出て、まずは働き口を探さないと。でもここの世界では家の家業を継ぐのが普通だし、そうじゃないにしても小さい時から修行して職を手に入れる。私みたいな何の戦力にもならなさそうな女の子が、ポッと職に就けるわけがないのだ。
「はあ……」
勢いで飛び出してきちゃったけど、完全な無計画だったなぁ。持参金があるのでそれを使えば少しは暮らしていけるだろうけど、まずはスクラ公国から出ていかなくちゃ、バルトリーニ侯爵の追ってから逃れられない。まったく、性欲処理なら自分でやればいいのに。何で態々会ったこともない私なんかを娶るかなぁ、いい迷惑だよ。
ベッドに突っ伏し、ごちゃごちゃとした頭を整理しているうちに、私はうとうとと眠りに落ちた――
――な、なんなんですか貴方達は!――
突然の大声で目が覚めた。あの店主の声だ。私は立ち上がり、耳をすます。
――ここに女が来なかったか?――
――いや、だから貴方達は誰なんですか? いきなり武器を持って押し掛けるなんて――
――俺達はバルトリーニ侯爵に雇われた者だ。ここに女が来ただろう。大人しく出せ――
――え、なにかしたんですか? その人――
――お前には関係のないことだ。居場所を吐く気が無いなら勝手に探すぞ――
――ちょ、ちょっと待ってください――
階段を上ってくる足音が聞こえてくる。
やばい、やばいよこれ。私は部屋の窓を開け、身を乗り出した。逃げるにはこれしかない。……あれ、思ったより高い?
部屋のドアを叩く音が聞こえる。
「クリスティーヌ嬢! ここに居るんでしょう!?」
どうしよう、飛び降りれるかな。
「返事をしてください! 旦那様が待っておられますよ!」
ああ、もう一か八かだ。
ドアが壊れる音と同時に、私は窓から飛び降りた。足が地面に着いたと同時に体を倒し、膝や腰、背中で衝撃を吸収しながら回転する。そして立ち上がるとすぐに走り出した。後ろから「追え!」と、怒号が聞こえてくる。足がもつれ、転びそうになりながらも、何とか体勢を立て直す。
そこで私はとんでもない失敗に気が付いた。部屋にお金忘れた!
「お待ちください!」
でも取りに行ける訳ない。私は早々に諦めて、近くにあった森に逃げ込んだ。ここなら木々に紛れやすいだろう。
しかし、それが大きな間違いだったと気づくまで、そう時間は掛からなかった。
10分後に