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二話目です

 さて、これからどうしたものか。私はベッドに突っ伏しながら、これからのことを考える。

 嫌がらせだけでこれはあんまりだとか、別にあんな令嬢どうでもいいとか、そんなことはつゆほども思っていない。でも、アリスを苛めたのはクリスティーヌであって私ではないし、嫁いで性奴隷同然の扱いを受ける気はさらさらない。どうしたら回避できるだろうか、その破滅の道を……。

 私は目の前の化粧台にある鏡を見つめた。緩やかにかウェーブがかった、目が眩むほどの金髪に、翡翠のような緑の目。鼻がすじ通っていて、きめ細やかで透けるような白い肌に、薔薇のような真っ赤な唇。不細工ではない。むしろ美人の部類に入るだろう。しかし、やや釣り上がった目じりが、人を寄せ付けないツンケンとした印象を与える。ルックスだけで悪役だと分かる。

「まったく、困ったことをしてくれたよ、この腹黒お嬢様」

 私はため息交じりに呟いた。どうしてくれるのよ、私の人生視界ゼロメートルなんですけど。

 私が嫁ぐ先は、この王国と古くから親交の深いスクラ公国と言うところだ。目立った特色は無いけど、他国への立ち回りが上手く、様々な場所にコネを持っている。そのスクラ王国の、バルトリーニ侯爵家という家が、私の嫁ぎ先だ。バルトリーニ侯爵は、先月に無くなったばかりの先代の代わりに家を継いだ、まだ若い貴族なんだとか。

 どうしたものか。私が知っているゲームの内容は、ここで終わりだ。これから私がどうなるのかは全く描かれていない。攻略本を読破しても、こればっかりはどうにもならない。だからこれからの身の振り方は、私自身が考えなければならないのだ。少なくとも、顔も知らない人と結婚するなんてことはごめんだ。

 身分を偽って田舎で暮らすのもいいな、それともいっそ他国に亡命しようかしら。でもどれも簡単にできることじゃない。まず見方が居ないとだめだ。そして傍若無人な態度で周りに迷惑をかけていた私には、誰一人として味方は居ない。侍女には嫌がらせをしてたし、その他の召使も無理難題を吹っ掛けてたし、学園での取り巻きもすでに新しい人に鞍替えしてるだろう。唯一の味方だったお父様も、今は家のことでいっぱいいっぱい。

 あ、ダメじゃん。完全に詰んでんじゃん。

「お嬢様、馬車の用意ができました」

 私の侍女が無表情で報告にきた。いやー、最後まで苦労掛けるねカミーユ。赤い髪をしたカミーユは、私が小さい時からの小間使いだ。私によく尽くしてくれた。でもそんな彼女を私は役立たずと罵り、汚らわしい髪の毛と罵り、その不細工な顔を見せるなと罵った。多分私のこと殺したいほど憎んでるんだろうなぁ。確か私が彼女に買い物を頼んだとき、アリスと出会って仲良くなっていたはずだ。彼女は過去に両親を強盗に殺され、今の今まで一人で、孤独に生きてきたのだ。それをアリスに暖かい優しさで抱擁され、アリスの肩でずっと泣き続ける。その後は、アリス達のスパイ的な立ち位置になっていた。

 良かったねぇ、私と別れることになって。流石にこれ以上クリスティーヌに苛められるのは耐えられないだろう。

「……ごめんなさいね」

「は?」

 私は気がついたらそう呟いてた。

「私やっぱり間違ってたわ、公爵家の令嬢だからって調子に乗って、周りに迷惑かけてた。貴女にも、酷いことたくさん言っちゃったわ。ごめんなさい。許してくれとは言わないわ、でも謝らせて」

 いつも無表情のカミーユが、目を見開いて私をじっと見つめている。何その顔、ちょっと怖いんですけど。

「……ど、どうしたの、ですか?」

 まあ今までの私の態度からだとそうなるよね。

「うーん、あんまりいいとは言えないわ。だってスクラ公国に今から嫁がされるのよ? ……まあ、自業自得なんだけどね。改めて謝罪させてもらうわ」

「っ、謝らないで!」

 カミーユは顔をトマトのように真っ赤にし、考えられないほどの声量でそう叫んだ。

「今謝っても何もならないのよ! なによ、こんな時に。もうあなたの嫁入りは決まってるの! 今謝っても、私の人生が帰ってくるわけでも、あなたの嫁ぎ先が変更されることも無い!」

「……そうね。でも、私の最後の我がままを許してくれない? 私はどうしても、貴女に謝りたいのよ」

「っ……やめて、謝られたら、今まで貴女に仕えてきたことが、無意味になっちゃうじゃない」

 カミーユは目に涙を溜めて、私を凄い形相で私を睨みつけた。

「意味なんて無いわよ」

「な!?」 

「なに貴女、こんな仕事に意味を見出そうとしてたの? 残念、貴女はただ私みたいな最低な女に虐げられただけ。意味なんて、どこにもあるわけないわ」

 我ながら酷いことを言ったと思う。でも、それは事実だ。彼女にとっては、私に苛められる日々の生活に何らかの意味や意義があると思わないと、心を守っていけなかったんでしょうね。

 真っ赤な顔で肩を震わせているカミーユの横を通り過ぎ、私は馬車へと向かった。

 持っていくものは持参金と数着の洋服と化粧道具だけ、そして申し訳程度の装飾品だけになった。

 逃げるなら、スクラ公国に行く途中での休憩時間しかない。持参金をねこばばするのは気が引けなくもないけど、性奴隷になるよりはましだ。



ではまた十分後に

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