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僕は悪い魔物じゃないお!〜犬に転生した僕は成り上がる!〜  作者: ケモナー@作者
第1章《異世界に転生したから強くなってみるお!》
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サバイバルだお!

おねがいします。

夜、一匹の魔物の鳴き声が荒野一帯に響きわたった。

鳴き声が聞こえた場所ではある魔物が暴れに暴れていた。

足を動かせば地面が爆ぜ、尾を振り回せば木は切り倒され、口を開けば岩が粉砕される。

その魔物の大きさは4メートル。大抵の魔物の大きさを軽く越える巨体だ。

魔物は岩のように固く、ゴツゴツとした皮を持っている。おそらく生半可な剣では傷を付けることすらままならないだろう。

そう、この魔物は異世界初日にカザミを襲ったオオトカゲと同じ種類の魔物だったのだ。


魔物の名はワイヴァーンダイル。この荒野一帯で最強と恐れられているモンスターの一種である。

しかし、その頑丈な皮膚も今では切り傷だらけの満身創痍と化している。

その魔物を傷をつけたのは・・・一人の冒険者だった。


傷だらけのワイヴァーンダイルは、名に恥じない巨大な牙の生え揃った凶悪な口を開くと、自らの体を傷つけた冒険者に飛びかかった。

その口はまるで、処刑道具の鉄の処女(アイアンメイデン)の内部を連想させる。

噛まれれば一瞬でその命が食いちぎられる事になるだろう。


しかし狙われた人間(・・)はそれに気圧される事もなく、難なくその攻撃を回避した。

避けたときに地面を転がった為、土色をしたローブが汚れてしまうもののその冒険者は特に気にした様子を見せることもなく懐から剣を抜いた。


冒険者は、自分を喰い殺す事に失敗して体勢を崩したワイヴァーンダイルの隙を逃さなかった。

冒険者は一瞬で大きな背中まで飛び上がって移動すると、大木のような尻尾をその剣で叩き切った。


「グギャァァァァァァァァ!?」


肉体の一部をあっけなく切断され、激痛に断末魔を叫んだワイヴァーンダイル。

切られて意志を無くした尻尾は地面に転がり、数回痙攣すると動かなくなった。

ワイヴァーンダイルの傷口からドクドクと、斬激の威力を表すかのように血液が滝みたいに流れる。


尾を絶たれた傷口はまるで精密機械を使ったかと錯覚するほど綺麗な切り口だった。

だがしかし、その切断に使った剣は別に高価な一級品ではない。

それもそのハズ、何故ならこの剣は武具屋で格安で売っていた素人特製の試し打ちの剣だからだ。


ならばなぜ?理由は簡単だ。単にこの冒険者の技量が異常なまでに一級品だからである。

剣を握り締めた冒険者は銀色の髪の隙間から見える赤い瞳で、ワイヴァーンダイルを観察する。鋭い目つきは睨みつけてるかのように錯覚した。


強者に視線を向けられたワイヴァーンダイルは情け無いほどに震え上がる。

鞭のような強力な武器である尻尾を叩き切られ、自慢の牙すら避けられたワイヴァーンダイルに、最早戦意など残っていなかったのだ。


案の定、ワイヴァーンダイルは切断された尻尾に見向きもせず、一目散にその場から逃げ出した。

だが冒険者はそれを逃すつもりはないらしい。

背を向けたワイヴァーンダイルに高速で走り追いつくと、手に持っていた格安の剣を、ワイヴァーンダイルの背中に突き刺した。

鮮血が飛び散る。


「グギャァァァァァァァァッ!!」


追尾された事に驚いたワイヴァーンダイルは悲鳴を上げる。

巨体から発せられる大音量の悲鳴は冒険者の鼓膜を激しく揺さぶるが、冒険者は特に気にした様子を見せる事もなく、刺した剣をそのままスライドさせてワイヴァーンダイルを真っ二つに切り分けた。


高い防御力を持つワイヴァーンダイルの皮を、まるでバターのように軽々と切り裂いたその技量を持つ冒険者は、明らかに異常だった。

この場に一般人がいれば、その人間を決して人間扱いなどしなかっただろう。


ドシィィン・・・!


上半身と下半身が別れを告げたワイヴァーンダイルは、自分が裂かれた事にも気づかずに内蔵を撒き散らしながら地面に崩れ落ちた。

絶命したのだ。

冒険者はふぅ、と軽く息を吐くと剣を振って血を弾き飛ばした後にそれを鞘に納めた。

その様子は洗礼された騎士をようにも思える。


冒険者はワイヴァーンダイルの死体を一瞥すると、後方からパチパチと人間を称えるような拍手に反応を示す。

そちらに目を向けると、ニッコリと笑いながら視線を向けてくる一人の男が目に映った。

手入れなどあまりされてないボサボサの金髪の短髪に顎から生えているチョビ髭、細マッチョという感じの体に軍服のような制服を着ている。

その姿は、まるでどこかのナイトとも思わせた。

男は口を開く。


「いやー凄まじいね、まさかワイヴァーンダイルが手も足も出ないとは・・・俺より強いんじゃないかな?君。」


男は、気だるそうな目と対照的に愉快そうに口元を歪ませながらそう言った。

それにほ冒険者━彼女は何でも無いというように答える。


「別に何ともない。ワイヴァーンダイルは逃げ出しただけ。私はその隙に殺っただけのこと。」


「いやいや、まずそのワイヴァーンダイルの逃げ出す場面を作る事が難点なんだって。」


機械のように表情のない顔を傾けて言う銀髪の彼女に、男はどことなく愛嬌のある顔をひきつらせながら反論した。


ワイヴァーンダイルは亜竜と呼ばれる竜族の端くれの一種である。

しかしたとえ端くれであろうとも、竜であることは変わりはない。

現にワイヴァーンダイルは、この厳しい環境の荒野で生態系の頂点に君臨しているのだ。


普通ワイヴァーンダイル一匹に槍を持ったベテランの兵士10人が囲んで守りながら戦うというのが一般的なワイヴァーンダイルの討伐方法である。

にも関わらず、この目の前の女性はそれをたった一人で難なくこなして見せたのだ。しかも息切れの様子を見せることもなく。

まるでそれが普通とでも言う様子は、どこまでもこの人間が異常なのである事を表していたのだった。


「あーあ、これでも俺は七聖騎士(セブンティナイツ)っていう王宮騎士の一人なんだけどなぁ・・・自信なくすよ?」


「・・・七聖騎士(セブンティナイツ)も地に堕ちたな。」


「いやいや君が異常なだけだから。」


いわいるジト目と言う呆れた目つきで男を見る女に、男はすこし慌てた様子で反応する。

その反応は誰がどう見ても10人中10人が彼が正常であると証明するだろう。

暫く2人は何かを言い合ったが、時間が惜しいと考えたのか、男が急に雰囲気を変える。


「・・・さて、君の実力はよくわかった。これなら確かに任せてもいいかもね。」


「ん。」


この2人の目的、それはこの世界で産まれるある特殊な魔物の討伐だった。

100年に一度だけ発生するといわれる魔物は(まれ)に強力な力を持つ事もあるといわれている。

過去数百年前に都市が一つ壊滅させられた事例があるため、発生したその特殊な魔物は素早く排除するのが定石(セオリー)となっていた。

たとえそれが産まれたばかりの赤ん坊であろうとも。


「君ほどの冒険者が産まれたばかりの希少種に遅れを取るとは思わないけど・・・油断はしないほうがいい。」


「オッケー。」


真顔で握り拳を差し出し親指を立ててグッチョマークを出した女に男は若干の不安を覚えた。

しかし、実力はこの目で見た。

ワイヴァーンダイルという強敵を短時間で秒殺した実力を否定する材料はどこにもなかった。

男はとりあえず頷く。


「それじゃ、俺は王都に戻るわ、報告よろしく。」


「御意にござる。」


本当に大丈夫か?と男が不安を感じるのは仕方のないことである。


「本当に頼むぜ?ま、油断しないようにな・・・冒険者セラディさんよ。」


セラディと呼ばれた女はコクリと無言で頷き、それを確認した男は背を向けてスタスタと歩き去っていった。


「・・・」


セラディは表情を変えず、ただその背中を無言で見続けてた。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆




「むおおおおおおおおおおおおお!?」


「ガルグァァアアアアアアアアア!!」


猪の如く突進を仕掛けてきた人喰兎(ピラニアラビット)を僕は紙一重でかわした。

投げた野球ボールみたいに飛んでくる白い塊が擦れ違う。

赤黒い狂った目玉を持ち、血迷ったようにこっちを睨み付けてくる肉食の兎に、僕は一種の恐怖感を得る。

ピラニアラビットは地面に上手いこと着地すると、僕に避けられて悔しいのか、再び狙いを僕に定める。

そして「ガァッ!」と鳴き声を鳴らして続けざまに体当たりをかましてきた。


「うおっ!?」


まさかの連続攻撃に僕は意表を突かれた。

僕は野生の反射神経を生かして両手で握っていたタガーを持ち上げクロスさせて白い弾丸を防御(ガード)する。

ぶつかった瞬間、ギギギィと鈍い音を立てながら火花が散った。どうやらピラニアラビットが牙を剥き出しにしてタガーに噛みついているのかもしれない。

ピラニアラビットは二本のタガーにガードされて尚勢いを止まらせずに、空中で回転しながら僕を貫こうとする。

僕は必死にガードをするが、持久戦なれば確実にこっちが力尽きる。

そう考えた僕は待機してた仲間(・・)の名前を呼んだ。


「リンナッ!!」


「む、わかった。」


刹那、大きな岩陰の裏側から緑色の影が姿を現す。

その正体はゴブリンの少女、リンナであった。

突如現れ、羽織ったマントを風になびかせながら突撃してきたリンナにピラニアラビットは驚きの表情を作る。

ピラニアラビットの意識が僅かに散った隙に、僕は後ろ足を振り上げてピラニアラビットの胴体に跳び蹴りをかます。

ピラニアラビット(・・・・)を摂取してから足の筋力の上がり具合が良すぎると感じてきた。

だから最近では蹴り技にも自信がでてきたのだ。


「グエッ!!」


潰されたカエルのような声を上げたピラニアラビットは、蹴り飛ばされバランスを崩しながら地面に墜落した。

リンナは隠し持っていたナイフをマントから取り出すとピラニアラビットの首元に容赦なく突き刺す。


「む!」


「グギャァァァァァァア!!」


頸動脈を切り裂かれたピラニアラビットは悲鳴と血を撒き散らして絶命する。

そして噴水のように飛び出る血をリンナは上手いこと回避して汚れなく戦闘を終了させた。

見事な連携を成功させてくれた仲間に僕は礼と共に賞賛の声をかける。


「ありがとうリンナ。声だけで理解してくれるとは思わなかったよ。」


「うん、わたし、カザミの作戦、わかった。」


片言ながらも、リンナは両手をグッと握り、顔には誇らしそうな表情を浮かべた。

そんなリンナを見て僕も満足した気持ちが浮かび上がる。


リンナと出会って今日で一週間である。

あの後僕らはお互いに生き残るために協力すると誓い合ったのだ。

まぁリンナは「ピギャァ!!」としか言わなかったけどさ。


まず僕はリンナにゴブリンから奪い取った数個あるナイフの一つを与えた。これで狩りを行って食料を確保するためである。

背中を刺されたりと裏切る可能性もあったが、ナイフを与えて無邪気に喜んでるリンナを見るとそんな可能性は低いと考えてしまった。

まぁゴブリンだし、裏切りとかそこまで頭回らないよね?


そんなリスクを犯してまでも、食料確保は絶対必須だった。

さすがに何日もタンパク質無しでサボテンの、食物繊維だけで生きていけるとは思ってはいなかった。何しろ今の僕は肉食獣だからね。


チワワだけど。


それにゴブリンであるリンナも肉を食べるようだった。

動物から摂取する塩分などのエネルギーを得る為、僕は食料確保に肉も視野に入れたのだ。


まずは狩りの連携作りからだった。ターゲットはピラニアラビット。

序盤は僕が攻めてリンナが援護という作戦で狩りを行ったのだが、当時は本当に酷かった。

僕の場合体が獣のお陰か凄くスムーズに動いたんだけどタガーやナイフで行う戦闘は素人同然で隙だらけだった。

何度も体当たりを喰らってしまい、時には噛まれたりして散々な目にあった。ゴブリンの二足歩行を手に入れなかったらもっと酷かったかもしれない。

攻撃を受けまくって体の耐久力が引き締まったと感じた時は泣いた。

 まぁ僕は攻撃を喰らってもそれで良かったんだけど、一番大変だったのはリンナだった。

流石は最弱ゴブリンとでも言うべきか、リンナはピラニアラビットの体当たり一発で失神し、無力化されてしまってばかりだったのだ。

死んでないからまだマシとはいえ、あまりのリンナの紙防御に流石の僕も笑えなかった。


リンナのせいで続けられたハズの狩りも何度か中止したことも多々あった。本人もそのたびに深く反省し、もの凄く落ち込んでいたので僕も叱るに叱れずにいた。


それでもリンナは諦めずに文字通り血反吐を吐く勢いで努力を続けたのだ。実際吐いてた。

その努力が功をなしたのか、リンナは体の身軽さを生かしてまるで忍者のような素早さで回避することが出来るようになった。今では立派な狩人である。

ゴブリンといえど腐ってもモンスター。短期間で技術を修得したリンナに僕は開けた口が塞がらなかった。なんかズルい。


そんなリンナの努力の甲斐もあって、僕が敵を引きつける壁となり、リンナが止めを刺すという狩りの構図を完成させることができたのだった。


今更考えてみるが、そもそもリンナはモンスターとはいえ女の子である。しかもおそらく結構年は下。

ピラニアラビットとの戦闘の際に、毎回失敗する度に気絶するほどの痛みを感じているハズだが、よくもまぁ続けられたもんである。僕だったら逃げだしてたね。


そしてリンナにとって最も大きな変化が・・・


「獲物、解体、夕食。」


リンナが喋れるようになったことだ。

リンナが十分と思えるほど力を付けたとき、急にリンナが僕と同じ言葉で、しかもしっかり理解して喋ってきたのだ。

若々しいソプラノボイスで『カザミ、お喋り、わたし、できる!』と喜んでたリンナを前に、僕は急な変化に付いていけなかったものの彼女を祝福したのだ。


一週間ほど前の貧弱なゴブリンだったハズのリンナは、今は僕とならピラニアラビットとも戦えるようになるまで成長している。

頸動脈切断によって血抜きも早く終わった獲物に、リンナはナイフでピラニアラビットの皮を丁寧に剥ぐとそれを僕に渡し、肉の部位事に解体を始める。


僕は作業はと言うと、ピラニアラビットの皮をなめして革を作る事だ。

元人間だった僕に肉の解体など手が震えてできるハズもなかった。

それを見たリンナは情け無い僕に失望することもなく、解体する役目を自ら買って出てくれたのだ。


それに僕は、ただひもみたいになのになりたくは無かったので、毛皮の加工をする事にした。

皮の加工は民族の本や動物サバイバル図鑑なので読んだ事があった。

その知識を生かし、僕は衣類を作ろうと考えた。流石のリンナも皮の始末やなめし方までは知らなかったらしく、僕をメチャクチャ誉めまくってた。

でも死骸の解体のほうがよっぽど凄くて勇気があると、僕はすこしばかし感じていた。


ちなみにリンナが羽織っている白いマントは僕が作ったものだ。少しでも身を守れるようにと願って作製した。

これにはリンナも凄く喜んでたので、いつかは服を作ってやりたいと思う。

ちなみに僕は自前の毛皮があるとはいえ、全裸である。作るのは僕の方が先になりそうだ。


皮を広げてナイフの刃で擦る。

皮に貼り付いている肉片や脂肪をはぎ取るためだ。綺麗に取り終わったら皮のコラーゲン層のみが残る。

一応これで腐る速度を低下させされた。

あとはこれを拠点で水洗いして乾燥させて手で揉んだり石で叩いたりして柔らかくすれば完成である。


水は大量のサボテンから搾り取って用意するのだが、乾かしたあと甘い匂いが毛皮からするのは微妙な気持ちがした。

匂いが移っただけで腐らないから別にいいんだけどさ・・・


「カザミ、解体、おわた。」


「うん、こっちも終わった。」


胸肉やモモ肉などと綺麗に切り分けられた肉を僕が作った革の風呂敷に包みながらリンナが言った。

ちょうど毛皮の始末も終わった僕もそれに頷く。

リンナは肉の詰まった風呂敷を背負うと僕の手を引っ張って先導する。引っ張られた僕は毛皮を脇に挟んでリンナについて行った。


肉は美味いけど生肉である事に僕はため息をつきながら。






ありがとうございました。

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