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となりに立てたお!

「しんぱーん!やっちゃって!」


 僕はギルドから寄越された職員の審判役の男性に声をかけ、合図を促す。

 もう怒ったらかね。絶対戦ってやる。

 ギルド職員の男は僕と禿の顔を交互に見て頷くと、片手に持っていた赤い旗をバッと空に向かって持ち上げた。この世界では赤い旗をあげ、そこから下げるのが決闘の合図だそうだ。

 普段から審判をしているのか、大分慣れた感じのある職員の男性は、周囲にもはっきり聞こえる声で高らかに言い放った。


「これより、冒険者Fランカーカザミと、同じく冒険者Dランカーハゲとの決闘を開始します!」


「ハゲてねぇつってんだろがァァァァァァァァァっ!」


「武器は非殺傷用の専用武器を用いての決闘となります。それでも故意に殺害した場合、騎士団に逮捕されますので十分な注意を払ってください。」


「おい無視すんじゃねぇ」


「それでは、決闘・・・開始!!」


「だから無視すんじゃねぇぇ!!」


 審判はそう言うと、思いっきり旗を振り下げて戦いの合図を言った。

 それが火蓋だった。 

 禿はなぜかさっまでよりも怒りに満ちた顔で僕を睨みつけると、勢いよく僕に向かって剣で斬りかかってきた。横薙ぎで。

 でも・・・セラさんの剣より遥かに遅い。


「おっと」


「ちぃっ!」


 僕は地面を蹴り後ろに飛び跳ねて、さらに顎を上げ半分イナバウアーする形で回避する。寸前までがスローモーションのように見えて、的確な判断を下そうと脳が働いているのを感じた。

 ゲームのようなゆっくりとした映像が目に映る中、禿の攻撃が僕の避けた顎スレスレで横切っていく。元々この体の運動神経などのスペックは高かったが、セラさんの訓練を受けてなかったら避けきれなかっただろう。やはりこんな冒険者でも強い。

 カスリもせずに避けた僕に禿が舌打ちすると、次の行動に出た。

 禿は前かがみになると力を込めた足で走り出し、続けて剣を下に下げると振り上げて攻撃してくる。

 この追撃は当たるな。でもそうはいかない。僕はさっきよりも足にパワーを入れ、もう一回後ろに向かってジャンプすると、一回転して後方に下がる。バク転宙返りである。忍者みたいの。


「ちょこまかとっ!」


 禿が聞こえないような小声で喋るが、仕方ないでしょ。これが僕のスタイルなんだ。

 でもこのまま防戦一方に持ち込まれるのはキツいし、そろそろ反撃しよう。

 僕は両腕のプロテクターに付いている2本のナイフを交差するように抜き、1本を口に咥え、もう1本を片手で握り、低姿勢で地面を這うように走る。

 この走り方、上半身をかなり低くして走るので、片腕を補助として時々地面に当てなければならないのだ。犬と比べると少し不便であるが、これ結構速い。

 僕は三足歩行とも言える形で禿に向かって走っていく。チワワより遅いが、人としてみるとかなりの高速だ。常人では目で追いつけないだろう。


「!?」


 禿はこのスピードが予想外だったのか、目を見開いて驚き、硬直した。

 その隙を突かない僕じゃない。片手で握ったナイフを峰打ち状態にし、地面を蹴ってジャンプすると、禿の胸に向かって振り上げ斬りは放つ。

 だが禿は咄嗟に剣を構えた。そのせいで僕の斬撃が防御されてしまった。

 この状態で攻撃されると僕が不利なので、僕は空中にある足で禿の手を蹴り、つばぜり合いから脱出する。

 蹴った勢いで剣を手放してくれないかと思ってたが、そう簡単にはいかないね。ガッシリとゴツイ手で握ったままだよ。

 

「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」」」


 今の一連がだいぶ良かったのだろうか?観客席と化した場所で戦いを見ている野次馬の皆様が歓喜の雄叫びを放った。

 中には「ぶっ殺せー!」とか「がんばれー」とかのセリフも混じっていて、ガチの闘技場みたいだ。自然と気分が高揚していくのは雰囲気のおかげだろう。

 しかし禿はこの空気が鬱陶しいのか、剣を改めて構え直すと再び斬りかかってきた。


「死ねっ!」


 禿の呪詛めいたセリフを聞き流して、僕は口で咥えたナイフでガードしてもう一本のナイフで切り上げする。

 僕からのカウンターに当たるまいと、禿は力任せにつばぜり合い状態の剣を斜めにズラして威力を流し、僕のナイフを持つ腕を蹴り上げてきた。

 そこで僕は反撃を中断して手を引き戻す。そして小さくジャンプをし、禿の持つ剣の刃のない真ん中の部分を蹴って後ろへ後退する。

 蹴りで片足状態の際、急に手持ちの武器を蹴られた衝撃で筋肉でゴツい禿でも体制を崩した。

 そこで僕は攻撃に失敗したナイフを禿に向かい投擲する。


「っ!?」


 禿はこれに反応できずに目を見開くだけだ。刃潰しされているナイフはそのまま禿の胸に突き刺さる。

 レザー製の防具を身に付けているのもあって致命傷にはならないが、それでもかなり痛いだろう、口元を醜く歪ませると血走った目で僕を睨みつけようとする。

 だけど僕はその隙に入り込むようにして禿の真下に移動していた。咥えていたナイフを利き手に持ち替え、なぎ払う様にして禿の足に叩き込む。


「ぎゃぁ!?」


 禿の悲鳴が聞こえたことからそれなりにダメージは与えられたようだ。足は防具つけてないから、ただの長ズボンと革製のブーツだけだもんね。

 鈍器で潰された刀身である今のナイフは鉄の棒みたいなもんだ。そんなもの足に叩き込まれて痛くないはずがない。鉄パイプでも人は殺せるんだから。

 それを体を支える足にやられ、禿は激痛に体をよろめかした。僕は落ちてくる投擲したナイフを掴みなおすとナイフの握り手の部分・・・柄のそこにある柄頭を禿のみぞおちに叩き込んだ。


「ごふっ!」


 禿から空気の漏れる音が頭上から聞こえた。衝撃で体の空気を吐き出したのかもしれない。そしてもう1本ある切れ味のないナイフを禿のレザーアーマーに唐竹で切りつける。

 追撃はまだ終わらせない。柄頭を使ったナイフで今度は横薙ぎで殴りつける。

 切る、叩く、その工程を何度も続けてやった。禿が反撃できる暇など与えずに、連続で。

 段々とレザーアーマーがボロボロになっていき、所々割れ始めてきた。ヒビが亀裂となって蜘蛛の巣のように禿の装備を破壊していく。


 もう使い物にはならないだろう。極限まで表面を削りられ、ひび割れまでしてしまってる。

 もうほとんど防具の役割を果たしていない。薄着同然である。

 この状態で鈍器となっているナイフを叩き込むと下手したら死ぬな。殺したら豚箱行きになりそうだから、ここからは格闘技で行く事にしよう。

 僕は薙いだり叩いたりに使っていたナイフをプロテクターに収納し、足腰に思いっきり重心を置いて禿の胸元に蹴りをぶち込んだ。

 謎の声曰く、今まで食べた魔物によって強化されたらしい僕の飛び蹴りは、まるで刺突するように吸い込まれていった。


「うりゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 今の一撃は自分なりにすごくうまくいったと思う。現に禿は僕の蹴りをモロに喰らって吹き飛んでいった。

 飛んでいく速度的には、セラさんがあのグレプって奴を投げ飛ばした時に勝らずとも劣らないだろう。

 禿はボールのように地面を転がりながら、段々とその動きを緩めていく。

 さて、ここからどう反撃してくるか、あんな自信満々な男だったんだ。この程度で負けるはずがない。


「さぁ!かかってこい!本番はこれからだ!」


「・・・」


 あれ?禿、寝っ転がったまま動かないんだけど?まさか油断させて近付いたところをザシュッてか?ふふふ、その手は喰らわんぞ。


 僕はナイフをもう一度取り出し、警戒しながら禿の様子を見る。

 ・・・ん?ピクリともしないんだけど?

 すると少し離れたところから見守っていた審判が早足で禿の元に駆け寄った。

 そこで地面に膝を付いて、禿の顔をジッと観察すると、片手に持っていた赤旗ではなく白い旗を振り上げて叫んだ。


「ハゲ、戦闘不可!勝者、カザミ!!」


「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」」」


 審判の声と広場を揺るがすほどの大歓声。


「・・・あれ?」


 僕は一人静かに首を傾げた。




★★




「・・・ほーら楽勝だったでしょ。」


「師匠、予言、当たる!すごい!」


 セラさんとリンナが談笑しながら料理を食べている。

 異世界だけあって見たことのない料理ばかりだ。が、どれも美味そうな香ばしい香りが漂ってくる。

 まぁ、シンプルでわかりやすいのもあるんだけど。

 肉をただ焼いただけのステーキの様に見えるが、表面がフライドチキンの皮みたいにカリカリに焼き上がっていて、噛む度に肉汁と歯ごたえのあるうま味が口に広がる何かの魚。

 外はサクッと、中身はクリーミーなチーズと香辛料の混ざったクリームコロッケ。

 何かの骨を揚げて作ったらしいスナックなど、ほかにもいろんな料理がある。


 なんとこれ作ったのセラさんなんだよね。こんな人なのに女子力ぱねぇ。


「・・・ほい、カザミ」


 セラさんが切り分けた肉を皿に乗せてくれた。


「あ、ありがと」


「カザミ!これおいしい!あげる!」


 セラさんにお礼を言うと、今度はリンナが紫色のジュースをくれた。

 中にはタピオカみたいな小さな丸いボールがいくつか沈んでいる。


「ありがとね、リンナ」


「うん!」


 リンナの頭を撫でながら、肉を食べ、ジュースを飲む。うん、おいしい。

 いやぁ空気が華やかだね。一人が性格トチ狂ってるけど美人二人に構って貰えるとかかなり高待遇だよね。ラノベのハーレム主人公とかこんな気分なのかな?うらやまけしからん。

 まぁ今似たような状況だし、しばらく楽しむとしよ・・・


「なにがだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」


「おぉ。・・・カザミがトチ狂った。」


 アンタには言われたくないなセラさん!!

 僕はセラさんの呟きにあえて反応せずに、思ったことをそのまま口に出していく。


「意味がわからないよ!え、なに!?どんな状況!?誰かまとめて!?」


「カザミ、勝つ、お祝いする、パーティー、トチ狂う。今ここ。」


 うんありがとねセラさん!?


「いやそんなのどうでも良いんだよ!え、何なの僕勝ったの!?あんなアッサリ!」


「イエス!!」


 一人僕が喚きながら自問自答すると、リンナが満面の笑顔のまま手を挙手するように上げて肯定してくれた。

 誰だリンナにイエス教えたの、セラさんだな僕教えてないぞ!


「・・・カザミ、とりあえず座れ。私たちしか居ないけど下には客がいる。」


 セラさんが僕の肩をポンっと叩くと耳元で諭すように話しかけてきた。

 なんかドンドン流れるように話が進んだ気がするが、確かに今騒ぐと下の階のお客さんに迷惑だろう。おとなしく座る。

 そしてリンナが背中をそろりそろりと優しくさすってくれた。ありがたいけど、それ吐くときにやるやつだから。気持ち悪い時にするやつだから、あるいは慰めるためにやるやつだから。

 それでも多少は興奮が収まってきたので、僕は「ふぅ」とため息を付いて気持ちを整理した。

 ムシャムシャとパンを齧ってるセラさんを見上げて、僕は確認のための問を口にする。


「・・・えーと、僕は禿との決闘に勝った?」


「そう。」


「んで、ギルドでもみくちゃにされてから宿に戻った?」


「イエス」


 やっぱアンタか。


「そのあとはセラさんが宿の人に頼んで料理を作ってきた?」


「・・・上手いって褒められちゃった。」


 照れくさそうに目を閉じて若干頬をピンク色に染めながら、セラさんは後頭部を掻いて言う。あ、今のちょっと可愛いじゃなくて。


「僕、あの禿に勝ったの・・・?」


「「イエス」」


 今度は二人同時に言われ、僕の対人戦初勝利を肯定した。

 セラさんはともかく、リンナが嘘をつくはずがない。よほど酷いドッキリでなければ、僕は自分より格上の相手に勝利したということになる。

 誰かの手は借りずに、自分ひとりで・・・。


「・・・信じられない?」


 セラさんがさっきとは違い別人のような優しい笑みを浮かべると、そう言いながら僕の頭を撫でた。僕の長めの髪が動かすたびにセラさんの指に絡まっても、すぐにサッと抜けていくような、そんな感じ。

 僕はなぜか目元を重くなるのを感じながら、それを耐えるように口を動かす。


「で、でも、僕より・・・ランク上だったし」


「ランクは関係ないでしょ?」


「でも」


「重要なのは、カザミが勝てたこと、それが私の弟子だったこと。それで十分」


 僕は久しく忘れていたような、目から雫が落ちていく感覚を肌から伝わったように感じた。そして、それが流れ落ちないように必死に堪えること。

 子供が親に初めて褒められた時みたいな、誰かに強く認められたような、そういう感動。

 セラさんはそれ以上は何も言わずに、ただ僕の頭を撫でてくれた。

 ただただ優しく、こうなること分かっていたように。


 ・・・もしかして、僕を決闘に出させた理由って・・・・


 という思考を遮断するように、小さな衝撃が僕の横っ腹を襲った。

 リンナが僕に抱きついてきたのだ。

 とっても小さな体で、抱きしめたら壊れてしまいそうな、柔らかで、人形みたいな可愛らしい体。


「り、リンナ?」


「カザミかっこよかった!冒険者より、ずっと!」


 リンナがいつもの無邪気な笑顔を浮かべながら、そう言ってくれた。それだけで、堪えていた目元が決壊しそうになった。

 その笑顔が眩しくて、暖かくて・・・


「・・・カザミ」


 セラさんが言う。


「ちゃんと君は、私たちの隣にいるから」







 それからのことは覚えていない。

 ずっと、ご飯を食べることも忘れて泣いてた気がする。・・・ちょっとは食べたかも。

 なんかみっともなくセラさんに抱きついて、今まで気にすることも忘れたかった重い何かを吐き出してた。

 最後は三人みんなで抱きついて、そのまま過ごしてたんだと思う。

 その時僕が考えてたのはひとつだけ。


 僕は足手まといじゃなかった。



コメディ作品です。

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