ギルドだお2
憶測する声が飛び交ってるけど、誰もセラさんだと分かる人はいないみたいだ。
まぁ、セラさんはパッと見だとただの貴族の少女って感じだもんな。服装みずぼらしいけど。
でも誰も絡んでくる様子はないみたい。様子見というか、観察するようにこちらを伺っている様に見える。
テンプレ通り、主人公または女の子相手に喧嘩売るような冒険者は今のところはいないみたいだ。
だけど見下している感じの視線が少し嫌だったりする。値踏みされているみたいで嫌な気分にさせられるから。
そして僕よりもその視線を浴びているのはセラさんとリンナだ。二人とも女の子だからか?リンナはそんなことよりも周囲の武器や鎧に興味を惹かれてるみたいで気にしてない感じだけども。
興味や野次馬的な視線はまだいい。僕だってやるし。
だけど奴隷や従魔を侮蔑するような視線やこちらを見下し、下卑た感情を向けてくるのは勘弁して欲しいな。
普段なら気にならないだろうけどチワワの人間より発達した器官のせいですごく察しやすくなった。だから非常に不愉快な気分にさせられる。
嘲笑するような目を避けたくなった僕は、それを振り払うようにセラさんに話しかけた。
「ねぇねぇセラさん」
「ん?」
「誰もセラさんの事知らないみたいだよ?なんで?」
ほんのちょっと感じた疑問を話のネタにし、聞いてみた。
なんてことはない、門番の兵士の様子を見るとセラさんには少なくないファンがいるように思ったんだ。なのにどうしてセラさんだとわかる人がいないのか、ただ不思議に思っただけ。
セラさんはその辺はどうでもいいのか、「あ〜」と適当な声を発してから回答する。
「・・・写真とかそーゆーのないから出回らないし」
「あの門兵は私のカードを見たからわかったんだよ。」と付け加えて言う。
なるほど、確かに写真や肖像画とかないと他人の噂でしか有名人の顔を知ることなんてできないか。そしてその噂が合っているかどうかもわからない。
納得した僕は「ほへー」と気の抜けた相槌を打ちつつ、会話がとぎれないように雑談を続ける。
リンナは終始武器や防具を見渡していた。
人の視線が気になる僕とは逆に、もう慣れているのかセラさんは周りの推測する会話や見下す視線を全く気にせずに受付に向かう。僕はセラさんの頭から落ちないように踏ん張る。
意外と広いホールを進んでようやくたどり着いた受付には、若い20代前半であろう美人の受付嬢がいた。やっぱりどこの世界でも受け付けは看板なのだろう。
セラさんは頭から僕を降ろすとリンナの隣に並べた。
「・・・この二人の冒険者登録を行いたい。種族はゴブリンと獣人。」
流石のセラさんも目の前で「うっひょ、良い女」とかは言わないか。
セラさんは意外にも業務的で無機質な声で受付嬢に要件を伝えると、受付の机に自分の冒険者カードを同時に置く。
プラチナ色に光るカードを見た受付嬢は一瞬だけ肩をビクッと震わせるが、次の瞬間にニコッと笑顔を浮かべて「かしこまりました」と言った。
おお・・・すげぇ。これがプロか。
「説明は必要でしょうか?」
「・・・お願い。」
受付嬢の問いに頷くセラさん。セラさんが教えてくれればいいじゃん、と僕は首を傾げてセラさんを見てみると同じことをリンナも思ったのかセラさんを見上げて小首を傾げていたかわいい。
セラさんは僕らの顔を見てクスッと小さく笑うと「これも勉強」と言って応じなくなった。べんきょうはしたくないでござる。
奴隷と従魔が主人と仲良くしている事に受付嬢は微笑ましそうな笑顔を浮かべると、「では説明させていただきます。」と言って解説してくれた。
要約すると、冒険者にはランクがFからSまで存在し、各ランカーによって出来る仕事が変わってくるようだ。
ランクを上げるには単純に功績を上げるか、それ相応の実力と知識を証明する事で上昇するみたい。
意外な事に、上位ランクは強ければならないとかそういうことは無いらしい。
採取専門、護衛専門、遺跡などを探索する学者系の探索者といった様々な部門に分かれるため、Sランカーだからといって単純に戦闘能力が高いという訳ではないらしい。まぁ、自衛などをするのに多少戦えるくらいの実力はあるらしいけど。
もちろんセラさんとかの純粋な戦闘部門だと国でも手出しのしにくい強者もいるし、逆に戦闘がめっぽう弱くても高名な歴史学者などのSランカーもいるとこのと。
「もちろん、戦闘力が皆無なSランカーの方に手を出せば、大抵後ろ盾となっている方に報復を受けますのでまず手を出す人はいませんね。」
受付嬢が言うには、結局個人が強くなくてもSランカーには手出ししない方が身のため、という。
例えるならリンナに手を出したら凶戦士化した鬼神セラさんが自宅特攻を仕掛けるようなものなのか?なるほどそれは恐ろしい。
と、あらかた説明が終わると受付嬢が僕とリンナに謎のカードを渡してきた。
手に取ってみると、プラスチックのような軽くしかも強度がありそうなカードだ。おそらく表面?に削った感じのある溝に何かが書かれている。何々?
Fランカー《カザミ》
・種族《犬獣人》
・職業《戦闘奴隷》
・実績
・
ふむ、どうやらこれが冒険者カードなるものらしい。
Fランカーは今日登録したばっかりだし、実績がないのも当然だろう。恐らくこれから上昇したり追加されるんだと思う。
そして僕の職業は戦闘奴隷という感じになるようだ。なんか奴隷といっても戦闘という単語が付くと格好良く感じる気がする。
あと、ステータスとかそいうものは表示されないし、そもそも無いみたいだ。
少し残念に思ったけど、この世界は魔法といっても属性魔法しか存在しないので、ライトノベルとかで見る数値化する魔法が無いのも当然なんだろうな。
そして説明終了後すぐカードを渡されたのは、どうやら僕らが説明を受けている間に、セラさんが僕らのプロフィールを書いた書類と入会金を別の職員に渡してくれていたらしい。
だからこんなに早くカードが出来たんだね。スムーズに進ませてくれたセラさんに感謝。
リンナは自分のカードが出来て笑顔を浮かべている。セラさんのカードを見たときキラキラ目を輝かせていたしね。羨ましかったんだろう。
とかいう僕も今はニヤニヤしながらカードを見てたんだろうけど。口元の歪みが押さえきれない。あ、ちなみにカードを受け取る時は二足歩行になったよ。受け取ってすぐ口にくわえて元に戻ったけど。
「では最後に。冒険者は全てが自己責任です。依頼を受け、パーティメンバーや本人が死亡。他の冒険者との諍い、装備の紛失などギルドは一切の負担や責任に応じません。あくまで我々は依頼の紹介やランクの適正判断のみ行わせていただきます。それと、カードは再発行に銀貨50枚必要となりますのでご注意してください。」
受付嬢はそう言って締めくくると、「またのご利用お待ちしています」と言って受付業務モードに入った。
僕らの用事は済んだので受付の前から立ち去る。
今日から僕は冒険者だ。異世界に来たらまず憧れる職業になった興奮に、胸の高まりが抑えられない。うおー血が騒ぐぜ!
「おいっ!邪魔だ奴隷っ!」
突然頭上から若い男の怒鳴り声が聞こえたと思った瞬間、ドンっと僕の背中から重い衝撃が貫いた。
不意打ちで、しかも自分よりも大きなものがぶつかった衝撃に、小さな・・・しかもチワワモードなんかで耐えきれるハズがない。
無様に床に向かって吹き飛ばされた僕は口にくわえていたカードを落としてしまった。
「ぎゃぁぁぁぁぁあっ!三秒経っちゃったあぁぁぁぁぁぁぁもう口にくわえられないじゃん!?」
「そこ?気にするところ。」
腹の底から叫んだ断末魔の悲鳴を上げる僕にリンナが突っ込むけど、今の状態だと持ち運ぶのが「口にくわえる」しかコマンド選択できないんだもん。三秒以上たったものは口に入れちゃダメなんだよ。そうゆうルールなんだよ。あとリンナちゃん突っ込みしながら手元のナイフを抜くのはやめましょうね。
ちなみに人化する選択肢はない。服がないから生まれたままの姿を曝け出すハメになるからね。とりあえず落ちたカードを前足で引き寄せる。ふぅ、これで安心。
心に余裕が出来たところで、転んだ僕はぶつかって来た男を「キッ」と見上げながら睨みつけた。するとただのチンピラではないことに気づいく。
服装は薄着の上にレザーアーマーを装着しただけというシンプルな装備を着ている。腰に差してある鉄のロングソードや肘から手首にかけて腕を傘のように覆っている盾を見る限り、おそらく冒険者の戦士なのだろう。
いきなり暴力を振るってきたから不良みたいなチンピラかと思ってたんだけど・・・いや、金髪だからヤンキーか?偏見かこれ。
でも、多分僕より強い。片足を少し持ち上げている様子からすると、多分僕を蹴ったんだろう。足はつま先の部分だけ鉄製の金具が付いているからそこに当たってしまったらしい。おかげで蹴られた箇所が結構痛いんですけど。
幸いにも僕の体はかなり頑丈だから、痛みはするけど怪我をしたりアザとかが残ることはない・・・が、だからって腹が立たないわけじゃないんだ。
「何すんだよ!」
だから怒鳴ってやると、男は「はっ」と鼻で笑って言い返してくる。
「あぁ?奴隷がチョーシに乗ってんじゃなぇぞ!ガキみてぇに騒いでてうるせぇんだよ」
「ガキですぅ!僕はれっきとしたガキですぅ!みたいじゃなくてそのものですぅ!」
「あぁ!?」
「そんなんもわかんないの!節穴!ハゲ!えぇと金髪!」
「・・・てめ」
僕の煽りがムカつくのか、一瞬目を細めて青筋を浮かべたチンピラが、また蹴ろうと片足を持ち上げてきた。
よしかかってこい!そんなんで傷つけられると思うなよ!足の裏に噛み付いてやる!
僕はパカッと口を開け、鋭い牙を見せつけようとする・・・次の瞬間。
男の顔面を華奢な手で覆われた。
「「・・・え?」」
一瞬何が起こったのかわからなかった。そのせいで僕とチンピラ両方が間抜けな声を漏らすも、それもまた一瞬だった。
顔面を握り締めるかのように手に覆われた男は、すぐに苦悶の表情を浮かべて悲鳴を上げる
「いでででで!は、離せよ!」
男の顔面にアイアンクローをかましていたのは、なんとセラさんだった。元が無表情だった顔に影を写した表情は、ドラゴンですら尻尾を巻いて逃げ出しそうな気迫を宿しているように見える。これ鬼って言っても通用するんじゃね?
「は、はなじ・・・で・・・」
てゆーかセラさんの手からとんでもない量の魔力が流れてる気がするんだけど・・・これ、レドと戦った時以上の魔力で強化してる気が・・・。
セラさんは無言でさらに力を強めた。
「・・・あ、がっ」
頭を鷲掴みされた男は、声と呼んでいいのか空気を絞り出したような音を喉から発して痙攣しだす。ピクピクしながら足がダラーンと人形のように垂れる姿はすでに死に体のようでもあった。
ちょっとまってまだ数秒も経ってないんですけど!もうすでに瀕死なんですけど!これあかんやっちゃ!
「ちょいセラさんストープッ!ストーップ!!死んじゃう、死んじゃうから!」
目の前で殺人事件が起きそうなことに危機を感じた僕は、焦って二足歩行になるとカリカリと前足でセラさんのローブを引っ掻いて止めせようと促す。やばいから、このままだとあのチンピラが地面に落ちて潰れたザクロみたいになるから!そんな描写できると思うなよっ!?
「・・・」
セラさんは焦った僕を見てため息を吐くと、男をドアの外に向かって放り捨てる。
勢いよく投げられた男の体はそのままドアにぶつかり、その衝撃で開いたドアの外まで吹っ飛んでいってしまった。
えー、そこは普通パッと離して床に放置じゃない?ギャグ漫画みたいに飛んでったけど・・・。
僕はだらしなく開いた口を閉じることなく外を見続け、リンナは満足そうに頷いて笑っているのであった。
下書き無しにイラスト描くんじゃなかった。