ギルドだお1
セラさんから王宮魔導団についての話は聞いた。要はとんでもない化け物の集団ということだろう。
さらにあのショタは隊長枠でさらに魔導団の中では一、二を争うような魔導師だという。やばい奴と僕は接触してしまったようだ。
そんなラスボスみたいな実力者が来たということは、もしかしたら僕の存在がセラさんの下にいるということが既にバレていて、それを国がもう知っているという事もあるんじゃないか?
情報漏れは可能性がある。あの某騎士はセラさんが僕を匿っているということを知っていたし、尚且つ僕を保護することをかなり反対していた。だから刺客か、または警告という意味で送り込んで来たんじゃないか?と不安もあったんだけど、それは無いとセラさんが否定した。
「そもそもこの程度の事でガルナ王国が虎の子の魔導団を・・・しかも師団長クラスを動かすとは思えない。精々構成員の下っ端を寄越すくらいだと思う。・・・それに仮にシモンがカザミの討伐か、あるいは私の身柄なら、機会は他にも沢山あったハズ。」
「じゃぁ、なんでシモンが僕に会いに来たのさ?」
あのショタは僕に用があるって言っていた。ということはもう僕の正体と、セラさんとの関係は知っているだろう。しかし彼は僕に質問をするだけで、手を出さずに帰っていってしまった。
・・・いや、手は出たか。僕の串焼きをパクりやがって。
「・・・好奇心?」
「いや、仮にも隊長枠が自由行動とっちゃいかんでしょ?」
セラさんの予測に僕は突っ込みを入れる。
軍部とかそーゆーのは大日本帝国時代に生まれなかった僕にはよくわからない。けど、マンガとかでなんとなくは知っている。あくまでフィクションだけどね。
とりあえず隊長が個人的な事情で、しかも部下も連れずに国外へ向かうなんて許可されるとは思わないんだけど。
しかしそんな僕の予想をセラさんは軽々とぶっ壊す。
「どーせあの悪ガキ、本部に幻惑で作った影武者を置いてきてるに決まってる」
えー、幻惑魔法有能過ぎない?とゆうか団長フリーダムすぎやしない?
とゆうか幻惑なんだ。幻影じゃないんだ。
「セラさんやっぱりショタと知り合いだったんだ・・・てゆーか、幻惑魔法ってどこまでできるの?」
幻惑って、要は惑わしたり騙したりすることでしょ?
「・・幻惑魔法は《黒》から派生する魔法なんだけど、基本的に生物を騙すってことだから。相手が幻惑を認識している限り、効果は続くし、なんでもできるよ。」
分身とかだって、実体はないけど魔力で作れると言うセラさん。魔力パネェっすわ、極限魔法パネェっすわ。
忍者ごっこできるんだよねそれ、あと分身に攻撃を当てさせて「ふっそれは残像だ」とかもできるんだよね?羨ましい。
「あいつの魔法はかなりエグい。・・・実際は怪我をしてないのに激しい痛み感じさせてショック死させたりできる。」
「・・・え」
「あと覚醒剤を摂取した状態にもさせられる。幻覚性のある魔力物質を脳に与えて身体中に虫が這いずり回る感覚を与えたりする」
・・・羨ましいとか思ってごめん。超怖いわ。いらないよそんな魔法。
「セラさんそれどうにかなるの?」
「・・・私の場合、「私は無敵」と自己暗示して耐えた」
マジか。
僕は無敵僕は無敵僕は無敵僕は無敵、よし完璧。
「正確には自分の魔力でごり押しする感じ。・・・まぁ私が魔導師の一歩手前だからできることだけど。」
「普通の魔法師や魔導団の構成員じゃできない」と、セラさんは少し誇らしげに言った。
確か、セラさんもあと少しでその化け物に入るんだよね。しかも極限魔法は極限魔法でしか対抗できないって言ったのに上級魔法師の時点で対策できてるとか・・・
僕って超ヒモじゃね?これ。僕いらなくね?
改めて自分の立ち位置を実感していると、リンナが口を開いた。
「んー、よくわかんない、けど。今はだいじょーぶってこと?」
「・・・うん。とりあえずあのチビに目を付けられてる今は大丈夫だと思う。仮にアベルが国王に密告しようとしたらシモンが嬉々として潰すだろうし。」
そーだそーだ。あの騎士アベルっていうんだっけ、やっと思い出せたよ。まぁどうでもいいけど。
セラさんの話からすると、シモンは僕に興味を持ったから余計な手出しはしない可能性が高いってことか。そして国に報告しようとするアベルを握りつぶせるってことかな?
ということはシモンはアベルより立場が上か、または実力が上回ってるって事かも。・・・いや、その両方か。
なんだろう。アベルのことよく覚えてないのに謎のシンパシーを感じる。
「じゃ、今は強くなんないと!」
リンナはそう言いながら両手を鎖骨の辺りで握り、「ふんっ!」と力強い鼻息をする。
露骨にやる気加減を見せつけてくるリンナに、僕も自然と笑みが溢れた。
「そうだね、僕も頑張らないと」
男の尊厳として、ヒモだけにはなりたくない。セラさんくらいまで強くなれるかわからないけど、足手まといにはならないようには強くなりたい。
「・・・んじゃ、明日は冒険者ギルドに行って登録でいいね?」
セラさんの確認の言葉に、僕とリンナは了解の意味を込めて頷く。
ついに明日は冒険者ギルドか、ゲームや小説でしか見れなかった組織。それが見れることや、これから強くなれることを期待して、僕は少し胸が熱くなるのを感じた。
★★
冒険者ギルド。兵士ではなく、傭兵のような国に固定される戦力ではない冒険者、それらを金銭などの契約で依頼主に紹介する派遣会社のような組織だ。
要は民間軍事会社のみたいな感じで、軍とはまた違った形態の組織ということになる。
たとえば騎士団や自警団が国内の治安を守り、冒険者は国外のモンスターを倒すという役割分担ができる。デメリットもあるがメリットも多い為、冒険者とギルドの存在は大陸中が認めているらしい。
という情報を現役冒険者であるセラさんに教えて貰いながら僕、リンナ、セラさんの三人組はアバタール冒険者ギルド本部に向かっていた。
目的は僕とリンナの冒険者登録である。
奴隷が冒険者登録することは珍しいことではない。寧ろ荷物持ち、それと・・・言い方は悪いが盾役として連れ回される事で割と多いみたいだ。
ではリンナのような魔物はどうなのか?と疑問をセラさんにぶつけてみると驚くべき回答が返ってきた。
なんとモンスターでも人語が扱え、なおかつ市民権を会得している者ならば冒険者として活動できるとのこと。
驚いた事に、この世界では魔物と人による共生が公的に承認されているらしい。
魔物にはゴブリンの様な人語を操り、道徳的な感性を備えた存在が確認されている。
それらが敵対しないという意思表示をすれば、国としても受け入れるみたいだ。
市民権を得るにはハッキリとした功績や部族単位での条約等が必要とされるみたいだけど、まさかもう「人間軍VS魔王軍!」的な事が解決されてるとは思わなかったよ。いないんだね、魔王軍。
話は戻るんだけど、リンナは当然まだ市民権を得ていない。しかし今はセラさんの従魔、奴隷として認められている。ので、冒険者になる資格にはそれでカバーできるみたいだ。
僕は当然獣人として冒険者になるので問題はない。ただ格好が怪しまれるのでチワワモードになったまま登録するんだけどね。
そんな説明を受けながら、僕らはついに冒険者ギルドに到着した。
冒険者ギルドは巨大なテントのような形をしていた。具体的に言うとモンゴルのゲルみたいな感じだ。大きさがビル2階立てちょいあるけど。
しかし、砂漠の国のような外見のアバタールでは違和感が感じられない。いや、ゲルは草原ステップにあるんだけどもさ。
するとリンナが感心したように建物を見て感想を言った。
「モロそう!!」
・・・まぁ、外見ではただの白い布に覆われてる感じだからね。
「・・・あれ、土魔法でエンチャントしてあるから、たぶんミサイルでも破壊できないよ」
「要塞じゃねぇか。」
セラさんの訂正に僕は思わず突っ込む。
傭兵で荒くれ者の集まりに思える冒険者たちの施設だから頑丈だとは思ってたけどそこまで硬いとは思わなかった。籠城したら無敵じゃね?
と、思ったところである疑問が浮かんだ。エンチャントって魔剣技術じゃなかったっけ?
でもよく考えたら剣とか切れ味が悪くなったりするだけでエンチャント技術はちゃんと普及しているのを思い出した。
やっぱり剣とか無理なのかな?強度が足りないんだよ、オリハルコンとかないかな~って、脳内脱線してしまった。
「・・・者共準備は良いか?」
「恥ずかしいから中で茶番はやめてねセラさん?」
「・・・承知」
若干ショボン(´・ω・`)としたセラさんを横目に、僕・・・ではなくリンナがギルドの扉を開けた。
ほら、僕今四足歩行だからさ。
そのままテクテクとギルドに進入しようとすると、急に僕の体に浮遊感が生まれた。クレーンで持ち上げられるように、みるみるうちに地面から遠ざかっていく。おぉ?
そして僕の体は青白い白髪の上に乗せられた。
「・・・よし」
「よしじゃないから」
どうやらセラさんに持ち上げられて頭に乗せられたっぽい。何がしたいんだセラさんは。
「ゲームではペットは装備するもの」
「だからペット扱いはやめろとあれほど。」
「だってこうでもしないと・・・カザミ小型犬だから絶対冒険者に絡まれる」
ぐっ!確かにテンプレみたいに強面の冒険者に絡まれるのは回避したい。僕勝てるかわからんし・・・。
仕方ないので落ちないようにセラさんの頭にしっかりとしがみついとく。その様子をなぜかリンナが羨ましそうな視線を送ってきていた。アレ?リンナも頭に乗せてほしいのだろうか?リンナの場合肩車になるだろうけど。
そんな事を思っている間に、特急セラさん号はギルドの中にズガズカと入っていくのであった。
ギルドの中は某狩りゲーの集会所、という感じだった。もっとも、かなり広いんだけどね。
端はレストランの様に沢山席があって、そこには数多くの鎧姿の男たちや、ローブに身を包んだ魔法師らしき者たちが食事をしていた。おそらく全員冒険者で、同じ席に固まってるのがパーティやチームなのだろう。昼間から酒を飲んでる連中も居て中々うるさい。
反対側には大きな掲示板があり、そこには依頼の書かれた羊皮紙が無数に貼ってあった。あそこでクエストを選ぶのか?
そしてすぐ近くには結構な美人さんがカウンターに数人立っている。おそらく受付嬢か何かだろう。
まさにザ・ギルドって感じである。ゲームが現実になったような光景に、僕は自然と心が震えた。
「・・・温泉はないよ?」
「いや知ってるから、やめなさいよそういうこと。」
こんなところに温泉あったら逆にビビるわ。
多分某狩りゲー3をプレイした同志にしかわからないネタをしつつ、辺りを観察しているとリンナがキラキラした目で周囲を見渡していた。
「かっこいいっ!」
それは冒険者たち・・・正確には装備している鎧に向けられていた。
あぁ、リンナって結構そーゆーの好きなんだ。僕も大好きです。
そう思いながら受付の所に進んでいくと、食事をしていた冒険者たちのざわざわとした小声を耳で拾った。
会話の内容からして、どうやら急に入ってきた華奢な少女に興味が向けられているらしい。
「なんだあのガキ。依頼でもしにきたか?」
「武器持ってるし、冒険者じゃねぇの?」
「あんな女剣士いたかよ。」
「いや、どっちかっつーと魔法使いだろ。」
「頭に子犬乗せてやがる・・・」
「ゴブリンもいるぞ。」
「幼女かわいはぁはぁ」
「わ、わんこちゃん、はぁはぁ」
「あれ奴隷の首輪じゃねぇの?」
「なんであんな奴隷と仲良さげなんだあの女。」
一部は聞こえなかったことにしよう。貞操があぶない。
主に僕とリンナの。
本策はコメディ作品です。




