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アバタールだお!

 結果的に言えば、なぜか戦闘はそれで終わった。僕の頭突きに呻く兄弟の姿を見て、残りの二匹がびびったのだ。

 三匹とも、腹を見せて服従のポーズをしてきやがった。

 おまいら・・・野生の誇りはどうした?ドラゴンだろ君ら。と、思ったが、よくよく考えてみれば1歳かそこらのガキんちょドラゴっちだからしょうがないのかもしれない。将来気高いドラゴンになることを期待しておく。多分無駄だけど。

 そして僕がその服従を受け取ると(この世界の魔物は、他種族を群れに歓迎する、または眷属にするときは首を軽く噛んで匂いを付けるらしい。セラさんの持ってた魔物図鑑より)一気に駆け寄って僕の顔をべろんべろん舐めてきやがった。

 おい、やめろ、生臭いし!つーかチョロ過ぎないコイツら!?もうコイツら三馬鹿でいいや三馬鹿と呼ぼう。

 ちなみになぜかリンナが対抗意識を燃やして僕の耳を舐めてきたのは萌えた。そしてセラさんが四つん這いになって地面を殴ってた。

 レドは寝てた。どんだけ僕嫌われてるのさ・・・。

 あと、名付けも僕がやるらしい。つまりこの三馬鹿の名付け親となり、正真正銘の保護者となるということだ。やってられん。

 だがしかし、これも三馬鹿が成長した時、竜騎士みたいに空を飛ぶためだ。ヤムオエナイ。


 一匹は体が大きく、腹が横に出ている。しかし太ってるわけではなく、元々の骨格がそうなっているように見える。尻尾にハンマーみたいな甲殻がついているのを見ると、かの恐竜アンキロサウルスを沸騰させる。

 ってわけで命名、《アンギラ》。決して某怪獣映画からリスペクトしたわけではない。だってあの映画シリーズ好きなんだ。

 二匹目は紅一点のメスだ。そしてアンギラとは違ってザ・ワイバーンといった風である。所々羽毛が生えているのを見ると、今でも頑張れば飛べるかも知れない様に見える。そして翼の側面に生えている部分は鋭く、切りつけることもできそうだ。更に出し入れもできるみたいで便利である。

 なので命名、《ミクロー》。もっとも、元ネタのミクロラプトルは滑空でしか飛べなかったみたいだけどね。

 んで、最後は・・・鋭く尖った印象のある細い体。他の二匹にはない二足歩行をしている。

 これはあれだ完全にあれしかない。

 《ヴェロキ》。ラプタと迷ったが、こっちにした。ミクローとかぶるし。

 てかもうコイツら完全にあれですわ。まとめて掛かってくれば僕に勝てたろ絶対。



★✩★



 ってなことがあった。うんわからん。そして無駄に長かった。


「ところで僕はいつまで犬でいればいいの?」


 さっきあった修羅場(笑)を思い出しながら、僕は後ろにいるリンナに問いかける。

 ・・・いや、正確には僕の真後ろだ。チワワになった僕をリンナが抱えているのだ。む、胸がががが。

 ちなみにさっきまで僕がセラさんにペット扱いをされるのを恐れていた理由はここにあったりする。なぜなら今はチワワだからな。

 この世界の獣人は魔法でその種族の獣に変化できるらしい。だから兵士さんも変な目で僕を見なかったんだろう。元の世界だったらチワワに「コイツ弟子です」ってクレイジーな事になってただろうね。


「にゅふーっ!ずっと!」


 リンナの姉御。さすがにそれは勘弁してほしい。

 だってほら、人になれないと僕・・・人としての尊厳が・・・。


「やだ」


「いやあのね」


「いつも、カザミ、師匠と一緒・・・私、一緒にいないもん」


「・・・リンナ」


 急にションボリしたリンナに僕は何も言えなくなってしまう。

 確かに・・・最近リンナとは絡んでいない。セラさんと魔剣の話をするか訓練するか、そればっかりだった気がする。

 自惚れるつもりはないけど、リンナは僕に一番懐いてくれているんだと思う。僕も妹のようにリンナを思っているから。

 だからリンナはすこし寂しかったのかもしれない。そりゃ、リンナはまだ生後数ヶ月らしいし、あ当たり前だ。もうちょっと僕は考えておくべきだったかもしれない。


「わかったよ。しばらくこのままでいる」


「うん!」


 僕がそう返事をすると、リンナは花が咲いたような笑顔をして、僕をギュッと抱きしめてきた。その笑顔は、まるで真夏でも綺麗に咲くひまわりのようにも見えた。


「ギュキュゥ・・・」


「ぎゃっぎゃっ」


「グルゥ?」


「シュルルル」


 なんか後ろから生暖かい視線を感じるんだけど・・・具体的に言うと爬虫類四天王ども。お前らだ。


「・・・人が登録してる間にイチャつきやがってこのやろうマジで爆発しろリンナたん残して爆発しろ」


「ひっ!?」


 その日、ある荒野の国の門番兵は、冒険者最高峰Sランカーの本気の怒りを含んだ殺気と負の感情を具現化したような瘴気を喰らって気絶したとかなんとか。





 アバタールは少々特殊な街並みが広がっている国のようだ。道路や家も、ほとんどの建築物が砂岩によって建造されているらしい。もちろん木も使ってるみたいだけど。

 なんというか砂漠の街って感じがする。全体的に明るい色で広がっているせいか、それとも意外と街に活気が溢れているせいか、街の外よりも暑く感じる。

 だからセラさんは・・・。


「し、死ぬ・・・」


 完全にバテているようだ。ジト目の目がさらに閉じかけ、今にも倒れそうなほどヨロヨロである。これは急いで宿に泊まるなりなんなりしないといけないな。

 それでも僕らの先頭に立って歩いているのは流石とでも言えるだろう。

 一応、地図はもらったから道はわかるようで。

 ちなみに爬虫類達はアバタールの関所にある従魔用の厩舎に置いてきた。いくらなんでもドラゴンとワイヴァーンを街中で徘徊させるわけにはいかない。


「人間の街、はじめて!」


 リンナはチワワモードの僕を抱えたまま物珍しそうに辺りを見回している。リンナにとっては初めて見るものばかりだから好奇心が刺激されても仕方のないことだろう。


「カザミも、初めてだよね?」


「うーん、まぁそうだね。」


 リンナの言葉に僕は曖昧に答えておく。元人間ですなんて言えないよね。

 まぁ、こういう中央アジアにありそうな街を見るのは初めてだし、嘘は言っていないだろう。

 リンナは僕の言い方に気づかないまま、今度は街の住人が着用している変わった服装に興味を移していた。


「見て見て!変な服!」


 リンナが目を輝かせて言う。確かにリンナから見たらアバタールの人たちの服装は奇妙に見えるだろう。

 頭にはターバンらしき物を被ってる人もいるし、衣服の布も少し違うようだ。簡単に言うと薄い長袖のようだ。

 エジプト人などが着てそうな服だなぁというのが感想であった。

 しかしだ、リンナの言い方は悪口以外のなにものでもないので。


「そういうことは言うんじゃないよリンナ。」


 悪気があったワケではないだろうけど、注意はしておく。

 リンナも注意されて気づいたのだろう。ハッとして申し訳なさそうに眉を下げる。変な服と言われて喜ぶ人なんてそうはいない。


「・・・ごめんなさい。」


「次から気を付けようね」


「うん!」


 リンナは素直で良いな。ちゃんと気づけるし、以降こういうことはないだろう。

 なのに何処ぞの青髪お嬢様がひねくれてるのはどうしてだろう。リンナはああいう風になっちゃダメだよ。

 すると僕の考えを察したのか、はたまた僕の視線に気がついたのか、セラさんが歩きを止めてこっちを見てきた。


「・・・」


 言い返す余裕もないという風に、セラさんが一瞬だけ僕の顔をジロリと睨むとすぐに歩みを進めた。

 ふむ、セラさんをイジってる場合ではなさそう。早めに休めさないといけないみたいだ。

 いや、それよりこの国の服を買った方が涼むのでは?


「セラさーん、暑いならアバタールの服買えば?」


「む・・・」


 僕の提案にセラさんは足を止める。

 そしてちょっと考えるように周りを見渡すと、僕を見てコクンと頷く。服を購入するようだ。


「服?買う?」


 お店という概念の無いリンナが不思議そうに小首を傾げる。

 うん、リンナの人間社会デビューということで、売り買いというものを教えておいた方がいいだろう。

 もちろんお金の価値も。僕もその辺わからないしね。




「いらっしゃい!」


 衣類を販売してる店に到着すると、恰幅の良い中年の黒髪女性が店から出てきた。

 店にはアバタールの服だけではなく、セラさんの身に着けてるローブやリンナの持ってるフード付きの服なども置いてある。さらに奥には太巻きにされたカラフルな布が沢山壁に立て掛けてあった。

 どうやらここはオーダーメイドも出来るらしい。見た感じ旅人用の店だろう。


「さ、サイズに合うアバタールの服をくだしい・・・」


「はいよっ!そこの娘らの分もかい?」


「う、うん」


 女店員の問いにセラさんは震えながら頷く。もうすでに限界のようです。暑いのに震えるという謎現象。

 セラさんは、お金なのだろうか?銀色のコインを数枚店員さんに渡した。いわゆる銀貨というものかもしれない。

 枚数を確認すると店員さんは店の奥に行ってしまった。

 こういうのは自分で選ぶものではないらしい。まぁ、確かに「これが欲しい」とか希望言ってないしね。

 するとリンナはセラさんに首を傾げながら声をかけた。


「私も、着る?」


「そーだよ。」


「カザミは?」


「一生裸でいろ」


 うぉいうぉい。


「残念でした~!僕の毛皮は裸にカウントされますぇ~~ん!ベロベロブチャ~www」


「・・・あ゛?」


「ごめんなさい」


 と、茶番をして暇を潰していると意外と早く店員さんが服を重ねて持ってきた。はやくね?


「見た感じサイズは合ってると思うんだけど、そこの更衣室で試してくれないかい?もちろんそこの獣人さんも。」


 店員さんの言葉に僕はピクッと反応し、そして驚いた。

 今の姿はどう見たってペットの子犬だろう。よくわかったな。

 いや、正体は獣人でもないんだけどね。


「よくわかりましたね。僕が獣人って」


「アバタールは街を行き来する客が多いからね。獣人の客も何度か見たことあるんだよ。それに従魔じゃなくて奴隷の首輪を付けてるしねぇ。」


 店員さんの言うとおり、今僕とリンナは首輪を付けている。これは奴隷または従魔という存在であるのを証明さるのと同時に、誰かの所有物であるという印にするための物だ。

 違いは従魔は紫色、奴隷は黒と分かれている。

 確かによく見てみれば判別はできるだろう。

 ただ遠目だとわかりにくいし、僕は今人型では無いのでわかるとは思わなかったのだけど。

 ん?てゆうか。


「え?僕のもあるの?」


「そりゃ、渡された銀貨が三人分丁度だったからね。もしかして違ったのかい?」


 店員さんがセラさんから渡されたコイン・・・銀貨を見せてきた。

 すると計6枚が掌にあった。看板には一着銀貨2枚と書かれてあるし、確かに丁度だ。

 セラさんが渡し間違えたとかそんな初歩的なミスをするハズがない。

 僕は振り向いてセラさんを見つめるとプイッと顔を逸らした。


「・・・買わないとかただの冗談だし。」


 セらさんは理不尽だが、意味のない理不尽はしない。

 意味のない理不尽ってのも意味分からんが。

 ふざけてはいるが、ちゃんと僕らの保護者だと自覚しているのだろう。

 僕に裸でいろってのも、僕とリンナが仲良くしてたのに嫉妬したから意地悪を言っただけなのかもしれない。

 ほら、セらさんリンナ大好きだし。


「ん。ありがとねセらさん」


「・・・え?あ、いやその、私はカザミ達の主人だし、世話をするのは当然の事だから、お礼言われる筋合いは・・・」


「んにゃ、だとしてもだよ」


「ぁ、うぅ」


 セらさんは顔を真っ赤にして後ろを向いた。

 なるほど。こうやって素直にお礼を言われるのも弱点らしい。

 不覚にも可愛いと思ってしまった。


 ・・・・と思ってた時期が僕にもありました。

 更衣室に向かう僕はセラさんのニヤリとした横顔を見ていなかったのだ。








「ぷひゃあはははははははははははははははははっ!!似合ってるよカザミ"ちゃん"あはははっ!」


「カザミ、似合ってる!」


「ありゃ、あんた男だったんかい。でも違和感ないねぇ」


「・・・」


 手渡された服を更衣室の中で人化し着てみたら、なんと見事に女性用の服だった。

 それに気付かずに僕は更衣室を出てみんなに披露したら、ご覧の有様というわけだ。

 特にセラさん、笑いすぎ。

 しかしだ、ここまでピンポイントに当ててくるか?だってさっきまで犬だったんだよ?性別わかるか?それで。

 いや、一瞬で僕を獣人と見抜いたこの人なら、今世の僕の女顔で見間違えることもあるかもしれない。


 そしてセラさんのこの笑い様。まるで悪戯が成功した子供のようにはしゃいでいる。

 思い出してみると、セラさんは店員さんに「娘"ら"の分も?」と聞かれていた。

 そう、「ら」だ。複数系。セラさんはそれを否定しなかった。

 つまりセラさんは最初から店員さんが間違って持ってくると知ってて止めなかったのである。

 そして服に詳しくない僕も、気付かぬまま試着した。


 最初から、こうなることを知っていたのだ。


「はめやがったなセラさぁぁぁぁぁぁぁぁあん!!」


 僕はそう叫ぶと地面に崩れ落ちた。

 いつ、僕はセラさんに勝てるんだろう?

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