初テイム兼実験だお!4
結局、セラさんにうまいよう言いくるめられ、僕は三匹のレッサードラゴンの前に佇んでいた。
セラさんの拘束系魔法から解放された幼いドラゴン達は突然解放されたことにすごく警戒していたが、僕しか正面に立ってないことから敵意は僕だけに向いていた。
すごく・・・こわいです。
「カザミ、がんばー!」
「フルシュゥ」
リンナはレドの背中に跨がり、天真爛漫といった笑顔で僕を応援してくれる。よっしゃあこれでかつる。
サムズアップするとリンナも満面の笑みで返してくれた。かわいい。
しかしレドはどうでもいいって感じで成り行きを見守るようだね。元々敵対してたししかたないね。
ふんっその顔に驚きを浮かばせてやるぜ!
「ふっふっふぅ!これがあれば負けない!」
ドヤ顔をしながらシャキーンと、僕は腰のベルトに固定した鞘から一本のロングソードを抜いた。
形状は峰の無い両刃の西洋剣だが、その刀身には血管のように無数の赤い線が電板のように張り巡らせられていた。
まさに中二心をくすぐられる一品でございます。
これこそ僕とセラさんで開発した、試作品魔剣6号だ!ちなみに1~5号は持っただけで壊れた以上!!
「キシャァ!?」
「ゴァッ!!」
「ガルゥッ・・・」
僕の剣を見るとレッサードラゴン達はあからさまに警戒を強める。
そりゃそうだ、レッサードラゴン達側からしたら、鉄の棒がなぜか強い魔力を放っているのだから。
ちなみに付与された属性は《土》である。
ただの土属性ではない。それはすぐにわかるだろう。
「変・形っ!!」
僕が力強く叫ぶと、それが合図とでもいうかのように魔剣がその形状を変え始めた。決して死神の能力とかそんなんじゃないよ?ほんとだから。
ガシャンガシャン!
謎の機械音を発しながら、魔剣は変形を続ける。
刀身に刻まれた赤い線・・・魔法文字回路に亀裂が走ったと思うと突然、刀身が中央から真っ二つに割れて更に分かれるなどの過程を数回繰り返す。
細かくなったパーツは一部は折り畳めたり、何処かに収納されたりと、まるでプロミラミングされた変形機械のような動きをする。トラ●スフォーマーである。
気づけば細かく分解された刀身は綺麗に咲いた花のように開き、中央からはアサルトライフルのような銃身が生えていた。
そして銃身の左右からガッシャンと勢いよく棒が出され、クロスボウガンのような弓の部分ができる。イメージとしてはボウガンの矢を発射する部分が銃となった形状だ。
その名も《ガンソード》。中二患者の皆様が憧れる銃と剣が合体した魔剣である。本当はシンプルに剣の中心が割れてそこから銃身が出るようなやつにしたかったんだけど、作っても発射できなかったので失敗作となった。
「射的屋で鍛えた僕の技術を見るがいいっ!」
「確率は?」
「五発中三発!」
「oh・・・なんてリアルな数字。」
セラさんうるさい。
「私百発百中だった。」
「マジで!?」
「・・・商品は落なかったけどね。」
「それは・・・ドンマイというかうわぁ!?」
「キシャァ!!」
ショボンとしたセラさんに同情していると、レッサードラゴンの一匹が僕に鋭い爪で切りかかってきた。
僕の持ってる魔剣に危機感を感じたのか、先制攻撃をしかけてくる。
レッサードラゴンの斬撃は僕の服を切り裂き、肩にダメージを与えてくる。鈍器で殴られたような衝撃に僕は顔をしかめ、とっさに地面を蹴り後方に待避する。
「うぐ!」
肩に触れて傷を確かめるが血が出ている感じはない。鋭い鉤爪だったんだけどなぁ。
あ、そーだそーだ。忘れてたけど、僕の体ってけっこう頑丈だったんだ。痛いのは変わらないけど。
「ぐぬっ!喰らえっ!」
先制攻撃を仕掛けてきたレッサードラゴンに僕は《ガンソード》の銃口を向け、剣の柄に刻まれている魔法陣を押すように触れる。
すると柄に取り付けられた弾倉から銃身に銃弾がガコンと音を立てて装填される。実際の銃がどんな感じに動くのかわからないからこんな感じだが、正常に起動したのでおーけーである。
そして・・・発射だ。
ガァン!!
装填された際に引っ張られたボウガンの弦が、勢い良く戻されると同時に爆発音が響く。
凝縮した爆発音と共に地面が爆ぜた。
発射された銃弾が地面に当たったのだ。その弾丸は地面を砕く。
・・・レッサードラゴンの5メートルくらい横で。
「弾は大きく右にそれたぁ!!」
「やめてよ実況しないでよおぉぉぉぉぉ!!」
セラさんの言うとおり、僕の放った銃撃はレッサードラゴンに掠ることもなくあらぬ方向に向かっていった。や、やべぇ、下手くそだってバレるかも。
しかしレッサードラゴン達とリンナ、そしてレドまでも聞いたこともない音と爆発に驚いたように動きを止めている。やはりこの世界で銃というものは無いのかもしれない。
「ふっ!今のは威嚇射撃だ!」
しかしゲームや映画で見慣れたセラさんにごまかしは効かなかった。
「・・・やっぱり下手。」
「ち、ちがうし!こんな銃の形の扱いに慣れてないだけだし!AKとかなら楽ショーだし!」
「嘘付けお前絶対FPSとか感度設定ミスって戦場のど真ん中くるくる回ってマシンガン連射する的になるタイプでしょ」
バカななぜそれをっ!?
「まともにコントローラーを操作出来ずに虐殺され、家の中に籠城しようとするもただのオブジェクトだから入れない。マシンガンでドアを壊そうと無駄に連射してたら敵にバレて殺される」
「もうやめてえええええええ!下手です!僕は下手くそです!!」
「大丈夫・・・私もだ。」
「アンタもかいってああああ!?」
頭を抱えてうずくまる僕にレッサードラゴン達が容赦なく襲いかかってくる。それを僕は断末魔の悲鳴を上げながら転がって回避した。
今度は三匹同時にだ、まったく容赦のない連中である。
「ちくしょっ!もう一発っ!」
もう一度弾を発射するため、急いで転がりから立ち上がる。
近くにいるレッサードラゴンとの距離は3メートルほど、これは流石に外しはしない。
「いけっ!!」
僕は再度魔法陣に指で触れ、《ガンソード》に組み込まれた魔法を起動させる。
もしかしたらレッサードラゴンが死んでしまうかもしれないが、背に腹には変えられない。僕は容赦なく射撃する。
パアンッ!!
撃った銃弾は見事レッサードラゴンに当たった。
「ガル?」
しかしレッサードラゴンは「は?なに?」といった風に首を傾げる。
そのレッサードラゴンの近くでコロコロと《ガンソード》の銃弾が虚しく転がっていた。
敵味方関係なく全員に静寂が訪れる。
「・・・なるほど、威力は玩具のパチンコ弾らしい」
セラさんがそう呟くまでは。
「はぁぁぁぁぁぁあ!?パチンコ!?ちょっとまってよセラさん!さっき地面砕けたじゃん!?」
「いや、あれ外れた時用の土魔法エフェクトだし」
なんでこの人そーゆー無駄なことに力を入れるかね!?僕もだけど!
そして僕とセラさんのコントにリンナは白い目を、レドは欠伸を、そしてレッサードラゴン達は哀れな生物を見るような目で僕らを見ていた。やめて!そんな目で僕を見ないで!
「ちくしょう!ならこれで!」
ガチャンと音を立てて《ガンソード》を剣の姿に戻す。剣なら流石にダメージを与えられる・・・かと思ってた。
パキン。
油断して動かなくなったドラゴンに簡単に当てることのできた剣は、レッサードラゴンに当てた瞬間粉々に砕け、見事銃身と柄だけになってしまった。
あるぇ?
「それ、変形するパーツ細かいから超脆いよ」
「使えねぇぇぇええええええ!魔剣使えねぇぇぇええええええ!!」
なんだよこれ完全に玩具じゃないか!いや、玩具よりも劣るよ!
「問題ないよカザミ」
「なにが!?」
「君には牙がある、爪がある」
「チワワモードになれと?チワワで倒せと?」
「うっせぇ!!いい加減犬になれや最近タイトル詐欺もいいとこなんだよ!」
「メタ発言やめてくれませんかねぇ!?」
でも確かにそうは思うけどね。と、再び襲ってくるレッサードラゴンの攻撃をかわしながら思う。
ぶっちゃけセラさんの地獄の訓練では人間よりもチワワで行っていた事が多い気がする。なぜなら単純に体力、戦闘能力、小回りやスピードなどのスペックが人間より高いからだ。その代わり武器が持てないんだけどね。
扱いなれているのはやはり人間だけど、体の細かな動かし方やどこが武器になるかはチワワが上なのだ。なぜと聞かれてば答え難いが、単純に本能に刻まれてるとしか言い様がない。
まぁぶっちゃけ、ピンチになったらセラさん助けてくれるし。
「うっしっ!いっちょもどってみますか!」
「おー・・・カザミのもふもふ。」
「カザミー!わんわんお!」
あの二人僕の犬姿が見たいだけじゃね?まぁいいけども。てかリンナどこで覚えたわんわんお。
さぁーて、最近は魔剣制作ということで器用な人間モードで生活していたが、久しぶりに新の姿に戻ってみよう。
心の中で元の姿を強く念じると、さっそく変化が現れてくる。
急速に体が縮み、全身から毛が爆発するように生えてくる。そして骨格そのものが別種のものへと形を変えていく。
「わんぅ!」
初めてここで目覚めた姿。チワワモードだ。二足歩行ではなく四足である。
サイズが変わり、はだけた服を脱ぎ捨てて僕はレッサードラゴン達に特攻する。
「「「ガッ!?」」」
突如変身した僕に驚いたようにレッサードラゴン達が硬直した。
なんというか、この世界の動物・・・魔物は何気に頭の良い奴らが多いからか、人間みたいな反応をするんだよね。リンナその代表かな。一般のゴブリンはチンパンジーレベル?
それはチンパンジーに失礼か。
「きゃんっ!」
一時硬直するレッサードラゴン達に向かって突撃する。レッサードラゴン達はそれを見て我に返ったようだ。すぐに臨戦態勢に切り替わる。
レッサードラゴンの一匹が横凪ぎの攻撃をしてきた。
だが、なんだかさっきの攻撃よりは弱そうだ。おそらく、小さくなった僕を侮っているのだろう。余裕そうな目つきだ。
だけどその一撃も、レッサードラゴンの腕力と鉤爪、さらに遠心力の力も加わり、ただの振り払いが強力な必殺攻撃となる。
普通の・・・ゴブリンや兎程度なら簡単に仕留められるだろう一撃。
しかし、僕はその攻撃をスライディングして避け、レッサードラゴンの腹の下まで移動した。
こんなの、レドやセラさんに比べればスローに思えてくる。
「グガッ!?」
いきなり素早くなった僕に驚いたようだ。
小型犬化したことにより小回りやスタミナが上がったためなのだが、レッサードラゴン達は小さくなった僕に油断していた。それが大きな隙となる。
たった一瞬の戸惑いからできた隙を逃すつもりはなかった。
ピラニアラビットで強化された脚力で思いっきり地面を蹴り、腹に向かって一気に飛び上がる!
喰らえ!防御力が無駄に高い僕の頭突きをな!
「うらぁっ!!」
「ガフッ!」
もふもふ弾丸と化した僕の体当たりはそのままめり込むようにドラゴンの腹にぶつかった。
体毛が硬い鱗にかなり削り取られた気がするが、しかたない。どうせすぐ生えるのだから。でもあとで毛づくろいはしないとな。
「・・・グゥッ」
痛む腹を抑えるように子供の竜はたじたじになって後退する。よほど痛かったのだろう。あたりまえだ、威力だけならピラニアラビットに匹敵するんだから。頭がジンジン痛むけどね。硬いだけなのさ。痛覚はそのままとか鬼か。
う、うん・・・しかし魔剣より頭突きの方が強いっていうのはなんだか複雑ではあるな。
そもそもなぜ僕の頭突きがここまで効果があったかというと、それは単純にトカゲの弱点を利用したというのもある。
爬虫類というのは総じて腹の皮膚が柔らかい。それは大抵の動物に該当するとは思うが爬虫類はその中でもウロコと腹の皮膚の違いが顕著だと思う。なぜなら常に地面に向いているから無防備なのだ。常に腹を地面に向けていれば滅多にダメージを受けることはない。よってむき出しになっている鱗よりかは柔らかいのである。
代表的な例で言うとワニだ。硬い背中などの外皮は動物の中ではかなりの強度だろう。噂では、ギュスターヴという個体名を持つナイルワニは銃弾をも弾き返したという。
しかし、その代わり腹の皮膚はかなり弱い。そこを突かれるのが弱点となるだ。