初テイム兼実験だお!3
さて、この捕縛したトカゲ共をどうするかなんだけど・・・。
「ガァァッ!」
「キシャァァァッ!」
「ゴァァッ!」
当たり前だけど、この通り威嚇しまくってる。この状態じゃ見逃す・・・なんて選択肢はできない。爬虫類系魔物の獲物に対しての執着は並大抵のレベルでは済まないからだ。逃がしたらできる限り僕らを追って隙を疑ってくるだろう。それはレドが証明している。
流石にあそこまでのストーカーレベルではないだろうが、それでもこのまま野放しにするのは危険である。さっき言った通りどうせコイツらがまた僕らを狙ってくるだろうしね。
「・・・むぅ」
セラさんもどうするか扱いに困っているようだ。殺してもいいけど食料はまだ余裕はあるとのこと。死骸から肉を剥ぎ取っても干し肉か腐るしかないというからもったいなく思っているらしい。
いや、そーゆー問題じゃないんだけどと、思うんだけどねぇ・・・。
セラさんにとってこいつらは大した脅威でもなんでもないので、殺して安全になるという選択肢は頭にないようだ。そうなるとセラさんの保護下にいる僕にとっても脅威ではないだろう。レドもリンナもどーでもいいようで魔物に興味を示さない。つまり、必然的に僕とセラさんで決めることになっているのである。
僕とセラさんは無駄な殺生はあまりしたくないから・・・コイツ等の処遇に一番困るんだよねぇ。
ちなみにセラさんには殺したくないもう一つの理由があるらしい。
「・・・せっかくのレアモンスターなのにぃ」
レッサードラゴン。別名《子獣竜》。生息地の限られた地域に生息する《ドラゴン》の幼体である。
ドラゴンとは爬虫類系のモンスターの中でもトップクラスの戦闘能力と知能を持つ大型の魔物のことである。
地球の想像上の姿では四本足にコウモリの羽のような皮膜の翼があるトカゲの怪物だが、こちらの世界では四本足の前足に翼のついた四つん這いワイバーンの形状だ。亜種のワイヴァーンは翼がないオオトカゲである。
ドラゴンは繁殖期になると超標高の山の頂上や、海底、地下などで巣を作り子供であるレッサードラゴンを5〜7匹程度の数を産む。そこで5年ほど安全に育て、群れを成して移動するのだ。ちなみに雄が餌を運んでくるという鳥のような生態もある。
通常、レッサードラゴンが産みの親竜の傍から離れることはないが、低確率で何匹かが巣から抜け出す事もあるらしい。どれくらいかというと数百匹の内二匹が抜け出すという確率だ。
なので地上でレッサードラゴンに遭遇するというのは、力のある冒険者などからすればかなりの幸運に恵まれていると言える。逆に言えば力のない民間人からしたらかなりの不運なんだけどね。
ドラゴンからは様々な素材が採れる。それは子供のレッサードラゴンも同じこと。
鱗、皮、血、骨、肉や内蔵。全て余すところ無く有効利用できるからだ。成体のドラゴンより弱いレッサードラゴンなら倒せるかもしれないし、そうすれば一攫千金のチャンスもあるからね。
え、どこでそんな知識を得たって?セラさんが図鑑を持ってきてくれたんだよ。
まぁ、セラさんはペットとして欲しいんだろうけど。
「・・・逃したくない、絶対に欲しい」
コレクターかあんたは。と、難しそうに唸るセラさんに白い目で伝える。
まるで密猟者のような言い草だが、この世界の価値観として倒した魔物の所有権は勝者のものになるから問題はないんだけどねぇ。そもそも襲われたのを返り討ちにしただけだし。
だけどさ、僕らをテイムしたのにその言葉を目の前で言うのはどうかと思うんだよ。一か月前に僕らを従魔にしたばっかりじゃないか。レドだって使役してるのに、これ以上増やす気なのかな。
大体そんなにテイムして世話できるの?知らんけど。
僕らだけじゃダメなのかな・・・?
「じゃあテイムしちゃいなよ。」
悩むセラさんに僕はぶっきらぼうにボソっと呟く。何をそこまで悩んでいるのか?レドをテイムできたんだからセラさんなら簡単に調教できるでしょうに。
金もあるんだし世話もできるでしょーどうせ。
セラさんは僕の声が聞こえたのか、悩む顔を無表情に戻して僕をチラっと見てきた。
「・・・カザミ・・・なんか不機嫌?」
「は?何言ってるのさ。そんなことないよ僕はいつも通りだよやるならさっさとやってよね。」
「お、おう」
「カザミ、大丈夫?」
「僕は大丈夫だよーリンナァ♡」
「ん!優しいからおっけい!いつも通り!」
「・・・嫉妬?嫉妬かな?・・・それはそれでアリ?むぅ・・・」
心配してくれるリンナの可愛さで全部どーでもよくなる。うん、兄馬鹿と罵ってくれてかまわんよ。セラさんがなんかブツブツつぶやいてるけどリンナを撫でることが最優先だから気にしなーい。
「「「グギャァッ!」」」
あ、リンナを愛ですぎて目の前の問題を放置してた。そうだそうだ、まずこのトカゲ共をどうにかしないといけないんだった。
「あー、セラさんのペット化でいいんじゃない?」
「・・・なにその適当加減」
セラさんがジト~とした半目で僕を睨んでくる。
「いやなんかどーでも良くなってきて・・・おっと、セラさんの冷たい視線に慣れてきた僕にその目線は通じないよゆー?」
「・・・ムカつく。決めた。私は決めたぞ。」
あ、失敗した。これぜっっったいロクでもない事考えたセリフだ。
「・・・カザミ。ゆーがテイムするんだ。」
ほらロクでもないことだ。
✩★✩
「どーゆーこっちゃ。」
「カ ザ ミ が テ イ ム す る の」
強調しなくても聞こえてるから。
「・・・よくよく考えたら、弟子の癖に師匠の私と違って従魔がいないとは・・・何事だ。」
「何事だって何事でもないよ。なんで弟子の僕に従魔がいるんだよ。別にいなくても良いでしょに」
マンガとかでも師匠キャラが強力なモンスターをテイムしてても弟子は特にテイムしてないことだってあるじゃない。そう伝えると、セラさんは僕を「・・・フッ」と鼻で笑った。ムカァッ!?
「・・・甘い、味噌汁より甘い」
「味噌は甘くねぇ。」
むしろしょっぱい。
「余所は余所!うちはうんち!間違ったうち!」
「やめなさい。」
味噌って言ったのはそういう理由かよ。確かにかの徳川なんとかさんも戦帰りにビビってうんこ漏らした挙げ句、部下には「味噌」だと誤魔化してたという話もあると噂されてるけど。
あ、お食事中の皆様すいません。
「・・・師匠のテイム技術を修得し、それを使って師より強力なモンスターを手に入れるのも、アリだと思うのです。」
いや、アリだとは思うけどさ、それだとセラさんは得しないよね?僕の方が強くなったらセラさんの有利性ってのなくなっちゃうし、一体セラさんは何がしたいのさ。
「・・・面白いなら何でもいいの。」
この人こーゆー小娘だったわ。これは僕らが裏切らないと信用してるからか?
・・・違うな、普通に倒せるからか。
「セラさんは欲しくないの?」
一番欲しがってたのはセラさんじゃないのさ。捕獲したのもセラさんだから、若干・・・ひじょーに若干だけど悪い気もするんだけど。
まぁそれは建前で本音は僕がやられそうで怖いんだよね。
だけどセラさんは肩を落として残念そうにため息を吐くと、語り出した。
「テイムは成功後、街で登録する必要がある。一度に登録できるのは三匹まで。・・・私は無理」
「え?僕奴隷扱いじゃなかったけ?」
人型だし、従魔よりも動きやすいから奴隷になったんじゃないの?
「・・・奴隷にも登録は必要。君の場合、登録してないから登録カードを無くしたという設定にして再発行するようにする。」
「そんなほいほい再発行できるの?」
「レドに襲われてやむを得ず紛失したことにする。」
なるほど。証拠のレドは連れてるし、勝負に勝ったからテイムしたという設定でいけば多少はマシだからか。
レド・・・エンペラーモニターに勝利したということ自体信じられなそうだけど、例の冒険者ギルドでセラさんがSランカーであると証明すれば疑いも晴れるだろうしね。そもそもレドの危険度からして生還して服従させている現状そのものが証拠ではあるんだけど。
つまりセラさんとしては僕、リンナ、レド、と登録できる数を越えちゃってるからレッサードラゴンを僕に譲ったってことか?
・・・「決めたぞ」とか言ってたけど最初からこうする予定だったよね?これ。
「ちょっと待とうか。ねぇリンナ、レド、君たちはペットは欲しくないの?」
そうだ。僕だけが独占するというのも悪いというものだ。ちょうど三匹いるし、一人(匹)一匹といった具合に分けてみるというのはどうだろうか?決して一人で三匹を相手にするのが怖いというわけではないよ?ビビったわけじゃないよ?
「カザミがいるから、いらないー」
僕がいるからいらないってどーゆーことなの?え、ペット?セラさんだけじゃなくリンナからもペット扱いなの僕?
「フシュルルル」
レドもいらないようだ。唸ってるようにしか聞こえないが、同じ魔物だからかなんとなくわかる。
どうやら魔物ズ二匹とも従魔は必要ないらしい。まぁ、魔物は戦って勝ったら食うのが普通だし、二匹の場合使役するという概念がないのかもしれない。
えーと、つまりやっぱり僕が一人でやらないといけないわけ?
・・・マジ?
「へいっ!カザミ、ごー!」
「ムリムリムリムリ無理だって!!一匹ならともかく三匹同時にとか無理だよ!?」
セラさんもなんという無茶振りをしてくるのだ。一ヶ月僕は訓練を続けてきて、若干だけど技量も上がっているけど、幼体とはいえドラゴンに勝てるなんて思ってないんですけど!しかも三体、リンチ決定じゃん!
セラさんは僕の「冗談じゃないぞ!!」という懇願にも似た目線に気づくと、腰を折って僕の肩を両手で掴み、まるで小さな子供に悟らせるようにこう言ってきた。
「大丈夫」
たったそれだけ。
「大 丈 夫 じゃあ、ねええええええええええええええ!!!」
「無問題。・・・それに今回は魔剣の試作品を試しても良い。」
「え!マジ!?」
セラさんの提案に、僕の心の中の天秤が少し傾く。
魔剣の試作品。このデウス荒野の移動中に製作した実験用である試作品の魔剣のことである。威力の程や、耐久性など、実戦データはとれていないが、少なくとも戦える武器があるというのは心強い。
失敗作でも、セラさんの凶悪な魔法を積み込んだのだから、全く使えないという事態にはならないハズだ。
「それに・・・カザミは憧れはないの?」
「なにがさ。」
「竜騎士」
セラさんの言葉で僕の全身の毛が逆立った。それは僕が考えもしなかった伝説の職業。
ドラゴンやワイバーンに跨り、圧倒的戦力と火力を持って敵をなぎ払う、男のロマン。
地上最強の兵士が騎馬兵というならば、彼らは空の王者。空を舞い、信頼した相棒と共に空を翔ける姿はまさに圧巻の一言。
竜騎士。それは、ファンタジー好きの人間にとって、ほとんどの人々が憧れるジョブ・・・僕のプレイしていた《アルヘイム》でも、そのジョブの人気度は上位に組みしていたのを知っている。
ギルド大戦では地上部隊の戦略だけではなく、空中による奇襲攻撃にも備えなければならない。その一つが、竜騎士である。
召喚獣の「スレイブドラゴン」に跨り、空から攻撃してくる、地上戦でしかできなかった僕も、何度もその魅力に取り付かれた。
まぁ、《アルヘイム》はジョブを選択出来ないから羨むだけだったんだけどね。
キャラ設定
・カザミ チワワ、人化すると男の娘。
・リンナ ゴブリン幼女、ヒロイン。カザミの妹的存在。
・セラさん 一見クールで無表情なダルい系美少女。その外見に似合わず身内にはペラペラ喋るお喋り好き。