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初テイム兼実験だお!2

 冒険者ランクS。別名Sランカー。

 プラチナ色に輝くシンプルなカードが、セラさんの手に持たれている。


「まさか・・・せ、セラディ・シリウス様・・・っ!?」


「どーも。」


 僕の目の前にちょっとおかしな光景が見える。

 具体的に説明すると、身長2メートルは超えるであろう巨漢の兵士が、身長160センチくらいの少女に向かって頭を下げている事だ。そしてその少女はみすぼらしいローブを身にまとってる。

 どどのつまりセラさんなのであるが、当の本人は胸を張りえっへんとしていた。どう見ても生意気な小娘である。


「本物に会えるとは・・・感激です!」


「いやいや・・・大した事じゃないよチミ」


「いえっ!私はあなたのファンなんですよ!さ、サイン頂けますか!?」


「おぅおぅ、構わんよ構わんよ」


 鎧のおっさんはその見た目に反して興奮したようにセラさんに話しかけている。

 変態的な意味ではなく、兜の隙間からは子供のようなキラキラとした輝いている目でセラさんを見ていた。どうやらファンとはマジなようだ。

 まぁ見た目屈強な戦士だし、強者のセラさんに憧れを抱いても不思議ではないだろう。中身を知らないから言えることかもしれないが。


「すごいね、師匠。」


 僕の後ろからリンナが囁くように話しかけてくる。全くその通りだ。超凄腕の冒険者だとは知っていたが、ここまで人気とは思わなかったよ。他国でも名前が広がっているなんてさ。

 しかし、たまに僕をチラチラ見てはドヤ顔するのがひじょーに腹立たしい。


 そもそも僕らは何をしているかというと、なんとか無事アバタールまで到着し、今は門番の兵士に身分証明をしているところだ。

 セラさんはこれから自国から追われるかもしれないのに本名をバラすのはいかがなものかと思うが、街に入るにはそうするしかないし、今のところは身分をバラして後々何とかするしかない。

 まあ、それにセラさんの自国からアバタールまで距離もある上、凶暴な魔物が蔓延(はびこ)るデウス荒野が中間に位置するので、すぐには追いついて来れないだろう。携帯電話や無線など、連絡技術の低いこの世界では、情報流失の危険性は薄いのだ。


「後ろの方々はシリウス様のお連れの者で?」


「・・・そう、私の弟子とペット」


 兵士さんはセラさんが引き連れている僕らが気になったようで、それをセラさんはパパッと答える。

 弟子は僕とリンナの事だよね?僕はペット枠に入ってないと祈るしかない。


「・・・それは、羨ましい限りですね。」


 やめとけ兵士さん。軽く死ぬぞ。


「悪いけど、弟子は一人だけ。・・・ゴブリンの娘の」


 おいコラ、と軽くセラさんを睨む。


「・・・うそ、二人。」


「そうですか、残念ですね・・・では早速登録をいたします。」


 兵士さんは本当に残念そうに呟くと、今度はしっかりとした声で話しかけてきた。お仕事モードか。

 登録とは、その人物が国に入国した際にするもので、仮身分証明書を発行するのに使うものだ。あとは高名な貴族、冒険者などの入国を国の上層部に知らせるためでもある。

 兵士さんは板に貼られた書類を取り出し、ペンで書きながら口を開けた。


「セラディ・シリウス様、カザミ様でよろしいですか?」


 兵士さんが丁寧な言葉でセラさんに確認してくる。特におかしな点はないのでセラさんはそのまま頷いた。リンナは人ではないため、ここでは従魔としての扱いだ。まぁ人化できる僕と違ってリンナはモンスターのゴブリンだし、納得しとく。だが、ここで僕の名を出さなかったらセラさんの足を蹴っていたところである。

 兵士さんはセラさんが頷くのを確認すると、別の書類を取り出して書き始める。


「それでは従魔の確認です。エンペラーモニター一頭、ゴブリン一体と・・・レッサードラゴン三頭ですね。」


「「「ギャァオ」」」


 僕の隣に控えている小型の竜三頭が、小さく鳴いた。

 ・・・しかしどうしてこうなった?



★✩★




 事の始まりは今から30分ほど前の時間に(さかのぼ)る。デウス荒野を抜け出し、セラさんと茶番をしたり、リンナをおんぶしたりしながらアバタールを目指している最中・・・それは起こった。


「・・・カザミ?わかってるよね。」


「うん、いるね。確実に」


 僕は耳をピクピクと動かし、辺りの音を拾って警戒をする。

 セラさんは僕の返しに満足したのか、少し口元を持ち上げる。すぐに無表情に戻っちゃったけどね。腰の剣をいつでも抜けるようにするためか、柄の部分に軽く手を添えているのが見えた。

 僕らだけではなく、リンナとレドも気がついているようである。レドに乗っかり、角を布で拭いていたリンナは腰の魔剣を抜くと勢いよく地面に飛び降り、レドは小さく唸りながら周囲の匂いを嗅ぎ始める。うん、僕以外全員手練だから緊張感があんまりないね。思わず警戒を解くところだった。


 何が起こっているのかというと、僕らを何者かが監視しているのだ。しかも複数。

 人間ではない。僕の鼻がそう告げている。

 匂いがあまりしないのだ。人間や獣なら特有の体臭を感じるんだけど、それが限りなく薄く、体に染み付いているであろう草や土の香りしかしない。

 足音なら僅かに聞こえる。それは素早い。おそらく体格はそんなに大きくなく、さらに機動性の高い。どうやら完全に隠密に特化している生物のようだ。

 僕はそういう生物を知っている。前世の知識だけど、当てはまるとしたらこれかと思う。


「・・・トカゲかな?」


 爬虫類を飼育していると、独特な匂いがあって「臭い」と酷評する人も多いが、実際問題生体自体は匂いはあまりしない。悪臭がするのであれば、それは排泄物や巣が汚いせいだ。それが爬虫類に移ることもあるから。

 足音が軽く、匂いも溶け込み、高速で移動しながら監視をして隙を待つ狩人。この地域で生息している魔物の生息具合を見るなら、正体は爬虫類系統だと僕は思う。

 ちなみにワイヴァーンダイルやエンペラーモニターのレドからはしっかりと獣臭い臭が生じている。これは体が巨大であるゆえに体の汚れや雑菌、糞尿が体につきやすいからだ。筋肉もあるしそこから魔物特有の匂いもあるし、ゴツゴツした隙間の多い皮膚のせいでもあるだろう。獣臭というより、汚れの臭いである。

 

「・・・ワイヴァーンダイルじゃないね。小さいし。」


 剣を抜いてセラさんが言う。

 セラさんも僕と同意見のようだ。先ほど暑さで死にかけていたとは思えないほど、今のセラさんの目は研ぎ澄まされたナイフのように鋭かった。

 ・・・氷を肩に装着させたままだけど・・・。


「3匹、いる。」


 リンナもセラさんのスパルタ訓練により、気配を察する能力が高まっているようだ。さすがに相手は隠れているため、場所までは特定できないようだが数を把握できるのはすごいと思う。僕は大まかな数しか反応できないしね。これは今後の課題だろう。レドは捕食者の立場だからか、余裕そうだ。

 僕は腰から小太刀のようなナイフを鞘から抜いて周囲を観察する。

 移動した際に発する小さな風に揺れる砂埃。息遣いから漏れる吐息、そして殺意の混じった視線。それだけが敵の情報の全てだ。

 正直ジッと待って敵の奇襲を返り討ちにするか、力の差を感じ取って去ってもらうしかない。普通ならそうだろう。敵は僕たちを囲むように走り回っているため、こちらからは迂闊に攻撃しにくいのだ。しかも、視界には入らない。

 狩りの熟練者で、尚且つチームワークも強い優秀な連中のようである。

 そんな敵の様子をみたレドは、さっきとは打って変わって小さく唸り、警戒を強め始めた。

 敵は奇襲が得意そうなのは確か。レドとて急所を狙われたらヤバいのを理解しているのだろう。レドが得意なのは巨体を使ったゴリ押しだから。



 だがしかし、ここにいるセラさんにそんな常識は通じない。



「ウォーターウィップ、ストームサンド、バレットロック」


 魔力の含んだ言葉を呟くと、セラさんの周りに魔法文字を(もち)いた魔法陣が三つ展開される。するとセラさんの周りに紫色のオーラが吹き荒れ、砂埃が吹き荒れた。


「うわっ!」


「ぴっ!?」


 僕とリンナはその風圧をもろに喰らい、咄嗟に目を閉じる。レドはその巨体から被害はないようだ。

 手で守りながら目を開くと、そこにはセラさんを中央に荒れる風・・・いや、魔力があった。

 これは詠唱と呼ばれる技術で、言葉を利用し魔法陣を描きやすくするための魔法発動体の一種である。

 展開されるとすぐに魔法陣はそれぞれ姿を変える。一つは水の紐のようなもの、もう一つは小型の砂嵐のような風。最後はブロック状の石。

 魔法陣を同時に展開し、魔法を平行使用しているのだろう。セラさんは無詠唱で魔法陣を展開できるハズだが、複数を同時に使うのは難しいから補助で使っているのかもしれない。

 セラさんは発動した魔法には目もくれず、更に詠唱を重ねる。


複合魔法マッドバインド


 セラさんがその魔法を口にすると、なんと魔法が魔法陣に戻ってしまった。どうしたのかと一瞬思ったが、それは"一瞬"だ。

 次の瞬間には三つの魔法陣が重なり、一つの魔法が出来上がっていた。

 それはまるで粘着質な粘土のようにも見える泥の柱。水滴などは垂れず、かと言って硬そうに見えるわけでもない。

 例えるなら固まる前のコンクリート。ただ、どちらかというとトリモチのようなコンクリートと言った方がいいのかもしれない。

 それが三つ、作られた。


「・・・ごー。」


 セラさんの命令に泥の棒は鞭と化し、それぞれ別方向へ飛んでいく。

 魔法・・・マッドバインドはその身を軟体生物の触手のように動かすと、岩などの物陰に突撃していく。すると。


「グギィアッー!!」


 岩から触手に巻かれたトカゲが出てきた。いや、出てきたというよりも捕まったと言うべきだろう。

 四肢を完全に固定されたトカゲは触手に持ち上げられて僕らのところまで運ばれてきた。

 すると周りから「ギュイイッ!!」と「シャァァッ!?」という悲鳴があがる。その声の正体二匹も一匹目と同じように運ばれてくる。なるほど、捕獲用の魔法か。


「・・・私にかかれば、楽勝。」


 セラさんが無表情でブイとピースして言う。

 ・・・まあ、確かにそうだろうね。こんなあっさり捕まるとは思わなかったよ。


「・・・」


「師匠!すごい!」


「えっへん。・・・もっと褒めてくれたまへ。」


 レドが呆れたような目をし、リンナが純粋に賞賛してセラさんのドヤ顔。うん、いつも通りである。


「それよりこいつらどーすんの。」


 セラさんを褒めるのもいいが、まずはこの捕獲したトカゲ共を何とかするしかない。それぞれ砂色の鱗に覆われていて、四肢は横から生えているまるっきりトカゲの骨格をしている。おそらく四足歩行で動く魔物なのだろう。

 特徴的なのは前足の側面から生えている・・・小指が腕部分の間接ほど伸びたもの・・・だ。そこには薄い皮の皮膜が張っており、まるでかつての翼竜を思い出させるような翼があることだ。


「・・・ティガレ」


「やめてセラさん消されるよ。」


 セラさんは何も言ってない。例えそれが某狩りゲーの有名キャラであろうと関係ないのだ。セラさんは何も言わなかったし、思わなかった。

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