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僕は悪い魔物じゃないお!〜犬に転生した僕は成り上がる!〜  作者: ケモナー@作者
第1章《異世界に転生したから強くなってみるお!》
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異世界に来ちゃったお!

お願いします


 乾燥したような、それでも僅かに暖かい風が、目を瞑っている僕の(まぶた)を撫でた。

 それによって僕は眠っていた意識を覚醒させられる。

 体がだるいが、軽く感じる。うーん、久しぶりに睡眠をとった気がするなぁ。

 にしても、眩しい。

 カーテンで閉じているハズの部屋の中にいるのに、なんでこんなに明るいんだろうか。

 疑問に思った僕は瞼を開け、見る。

 すると強烈な太陽光が開いた僕の目玉を刺激した。

 ぎゃぁぁぁぁぁぁあ!目がァ目がァァァ!!

 ・・・眩しいなぁ。


「ん?あれ?・・・ここは?」


 目が覚めるとそこは僕の知らない場所だった。天井ではない。場所だ。


 観察してみると、周りはゴツゴツとした赤茶けた岩肌の大地が広がっていて、そこら辺にサボテンやら乾燥地帯で生えているような植物が、そこらじゅうに生えているのが見える。

 例えるなら、まるでアメリカのグランドキャニオンみたいなイメージの荒野だ。

 わかりやすくいうなら西部劇に出てくる荒野みたいな。


「すげぇ、テレビでしか見たことないよ・・・」


 僕はうんうんと感心するように周りを見渡する。

 こんな映画くらいでしか見れないような所、実は一度は来てみたかったりする。

 まさか家族にアメリカのグランドキャニオンに行きたいなんて言える訳がないからね。

 変なところで夢が叶っちゃったよ、はっはっはっ。


「・・・。」


 いや、おかしくね?うんおかしい。僕はおかしくないおかしいのは場所であり、おかしい場所だ。もちつけ僕。おかしいがゲシュタルト崩壊してきた。

 

 状況を振り返ってみよう。僕はさっきまで自室でオンラインゲームをプレイしていた。うん合っている。

 なおさらおかしいな。どうして僕がこんなワケのわからない場所で居眠りしてるんだろう。

 まさか誘拐?そんなバナナ。

 あの部屋は、ドアと窓を締めて電気も消した完全密室だった。あのまま消えたら完全密室失踪事件じゃないか。


 そもそも、大体何でこんな所で寝てたんだ?まずここって日本?


 うぇいっ!?待て待て落ち着こうか落ち着こう僕!これは夢だ夢に違いない。

 そうだよ。夢じゃなかったら何だって言うんだ!

 もう一回寝ろ僕!寝れば目が覚めるかもしれない!

 そう結論付けると、僕は再び目を閉じて目の前の光景をシャットダウンする。

 だがまたもや予想できなかった異変が僕を襲ってきた。眠りにつこうとした、その時である。


 ふわっ


 ・・・なにやら柔らかいフカフカとしたやわらかい感触。

 布団に潜り込んだような柔らかさが僕の体に伝わった。

 なんでこんなにふわふわしてんの?羽毛布団でござるか?赤茶けた大地にそんな布団なんかある訳無いじゃん。

 ・・・それに(ほの)かに暖かい?というか、違和感が無いというか、まるで自分の体みたいな感じがするんだけど・・・。

 いやいや、おかしいって!何で僕の"体"はこんなに気持良いわけ!?


 やはり、ただ事じゃない。そう判断した僕は再び目を開け、そしてありえない自分の状態を目に焼き付けた。

 ふわふわとした灰色の毛皮、ピコピコと動くケモ耳、そして子犬のような肉球がある手足・・・顔は流石に見る事は出来ないけど、何だか口と鼻が凄く飛び出している感じがする・・・。


 この動物、見た事あるというかペットショップでよく見る。

 え?これガチなの?これはガチなのか!?

 僕が今の姿を完全に認知し、驚きのあまりに悲鳴を上げると、曇りのない晴天の空に高らかと「キャォーン!」という虚しい鳴き声が、辺りに響いた。




☆★☆




 さて、あの後から約1時間後、少し気分を落ち着かせて自分の現状をよく整理してみた。

 認めたくないけど、絶対に認めたくないけど、どうやら今の僕の姿は「狼」・・・いや、カッコつけるのはよそう。

 ・・・子犬と化してしまったらしい。それもかなり小型で。さっき水晶みたいな石に自分の姿を反射させたから間違いない。

 更に言い切ってみせるなら、姿はチワワである。ペットショップで販売してて、窓ガラスの内側からクリリンとした目でこっちを見つめてくるあのチワワだ。形状はそれで合ってると思う。

 僕も鏡代わりに使った水晶で見た自分に「あら可愛いわんこです事。」と言ってしまった。自意識過剰である。


 そして、ここはどうやら地球ではないっぽい。ありえないけど。

 判断材料としては、デッカいドラゴンらしき某狩りゲーの飛竜みたいな生物が上空を飛んでたし、たまにチョクチョクと現れて見ることができた動物達も見たことのない獣ばっかりだった。頭から角を生やした毛玉ってなんだよ。


 第一に、自分が犬だと判明した直後に7メートル近いオオトカゲが現れ、それに死ぬほど追われた時点で僕の心の中で判明した答えなんてすぐに決まった。

 ちなみにある程度探索したが、7メートルのトカゲは一匹しかいなかった。

 多くいたのは4メートルほどのワニみたいなトカゲばっかり。希少種か何かかもしれない。


 この状態、小説や漫画などでいう異世界トリップ的な感じで正しいと思う。それかタイムスリップ。

 そうなってしまった理由は・・・あんまり現実性がないんだけど、今この状況そのものが現実味がないから言い切ってみせる。

 

 転生の原因は、もしかしたらあの時、アルヘイムで使用した転生アイテムが原因だったかもしれない。


 いや、万が一の可能性の話だよ?僕だって信じられないし、他にも理由があるかもしれない。

 でも今のところ他に理由が見当たらない。


 おそらく僕はあの時転生アイテムを使ったはいいが、その効果はゲームキャラではなくプレイヤーである僕自身に反映して、見事実際に転生してしまったという事だろう。

 よく思い出してみれば、転生アイテムを使ってPCの画面に《良い異世界ライフを!》って文字書いてあったし。

 これは運営の策略か?いや、いくら運営でもそんなことできるわけがない。

 ・・・できないよね?


 うわぁぁあマジかよ!こんな事って現実に起きるのかよ!小説でこういうのを見るのは好きだけど自分が体験するなんて了承しないよ!!転生アイテムなんて使うんじゃなかったぁぁぁぁぁぁ。


 と、ここで新たな疑問が生まれた。他の転生したプレイヤーはちゃんとゲームで存在してた。記憶としては、大規模戦闘イベントの時一回だけ会ってしまって、うちのギルドがボコボコにされてしまったという歴史がある。

 他のプレイヤーは転生してないのか?なら、何故僕だけ?

 だが、考えても考えても答えは浮かび上がらない。元々僕は頭を使う事が苦手だからな。

 はぁ、とため息を吐く。だが今はそんな事をして落ち込んでいる場合ではない。


 "異世界に転生してしまった。"これが現実なら、僕は一刻も早くこの環境に適応して、生きる(すべ)を身に付けなければならないだろう。

 幸い、この手のジャンルの本をよく読んでいたお陰か、この展開には慣れた。

 漫画や小説なんかで、今の僕と似たような境遇に陥ってしまった主人公キャラクターなんて腐るほど見てきたからね。まぁ、あっちはフィクションなのだけれど。


 作品内でのキャラクター達は、序盤に強力な魔物に襲われたり盗賊に襲われたりと、割と初めからピンチが襲ってくるのがテンプレとなっている。

 大抵そういうのは、突然神から与えられたチート能力を使って蹴散らすのだが・・・。

 残念ながら今の僕はわんこ!子犬のチワワサイズ!とてもチートなんて大層な代物をホイホイと使えるとは思えない。

 現にさっきテンプレ通りに襲われた。逃げまくった記憶しかないため割合する。

 7メートルはあるデカいトカゲに襲われ、何も出来ずに逃げ出したのだ。

 何とか撒けきれたけど、逃げ足が速くなかったら今頃僕は死んでただろう。今だけは、小柄ですばしっこい犬の体に感謝している。


 攻撃手段がないから逃げるしかない。それが現状である。

 最初は咆哮とか鳴き声でボイスブレス的な攻撃ができるかと思ったけど、普通にキャウンとしか言えなかった。笑えよ。

 そんな訳で、今僕が手に入れるべき最優先事項は、まず食料の確保、そして身を守る為の隠れ家である。


 可能性の一つとして、僕はゲームの中に転生したと思ったけど、よく見たら《アルヘイム》にこんな枯れた荒野のあるフィールドなんて存在しない。

 つまり、ここはゲームの中ではなく、完全に僕の知らない世界であるということが明白なのである。


 その中で、できることは少ないけど、前世に似たような物を探して代用してみようと思う。


 水の確保・・・サボテンを食べれば良いだろう、トゲの付いてない部分があるから食べられない事はない。地球には食品用のサボテンだってあるし、毒にはならないはずだ。


 次は食料・・・トカゲでも狩るか?無理だあんな7メートル近い化け物なんて勝てる訳がない。まぁあの一頭に会ったきりで、他の奴らは4メートルのワニっぽい奴しかいなかった。けど驚異であることに変わりはない。とりあえず飯の方もサボテンで何とかしよう。そうしよう。カロリーの問題は余裕が出来てからだ。


 そして寝床・・・これが一番の問題だ。この際洞穴でも構わない。しかし、探すには辺りを暫く徘徊する必要がある。

 そんな訳で、僕は簡単な食料探しも兼ねて、何処かに寝床に使えそうな場所は無いかと探すのだった。

 トカゲみたいな捕食者に見つからないように、隠れながら移動をする。

 あと、角付き毛玉は食えたもんじゃなかった。芯まで毛でできてたのだ。毛フェチさんがログインするな。

 もしかしたらケセランパサラン的な奴かも知れない。僕に幸福をおくれよ。


 テクテクと四足歩行で大地を歩んでいく。慣れないと思ってたけど意外にもスムーズに四足歩行で歩けた。

 既に今の僕が犬の体に適応していたということか。なんだか凄く納得がいかないけど、便利だから黙っておくことにする。

 途中、サボテンが生えてたので、トゲの無い部分をバリバリと食った。

 スナック菓子のようにカリカリとした食感に、中が綿菓子のようなふんわりとした味わいだった。サボテン如きのクセに、ここまで美味しいとは予想外である。恐るべき異世界。

 ちなみに水っ気のある中身はリンゴジュースみたいな味だった。毒で無いことを祈る。


 それとたまにオオトカゲに出くわしたりした。4メートルのワニっぽいのじゃなくて、7メートルのデカいオオトカゲの方だ。

 30分ぶりの再会。勿論逃げた。必死に逃げた。チワワなのに、このか弱い四本足をフル稼働させて逃げ回った。

 くそぉっ今では愛玩動物の体が凄く憎い!だがしかし、それでもなおオオトカゲがとんでもないスピードで追いかけてきたからビビった。やろぉ、本気だしやがった。


 冷静になった今思えば、爬虫類って動き回る物を追いかける習性があるから本当にバカな事をしたと思っている。


「?なんだこれ。」


 そんな感じで、はらいたせに歩く度に見つけたサボテンを食い散らかしていると、地面に掘られている洞穴を見つけた。

 洞穴と言っても、僕のサイズ基準で見た程度で、実際には小動物のようなものが作ったような少し広い穴。というのが正解だろう。

 例えるならミーアキャットが作った感じに近いだろうか。小さい動物が寝床として使っていそうだが、僕もこのサイズである。無人ならぬ無獣なら十分使えると見た。


 とりあえず使えそうな洞穴なら乗っ取ろう。誰か住んでいたら逃げれば良い。そう軽く野望を考えて、僕は洞穴に潜り込んだ。

 ちょっと坂っぽい穴道を通ると、奥に少し開けた場所があった。おそらくここで寝たり食ったりと生活するのだろう。

 見たところ動物は居ないし、気配も感じない。暫く休憩することはできるだろう。何も居なかったら、ここを住処にしてみよう。


 そんな時だった。


「グルルルッ」


 いきなり威嚇するような獣の声が、洞穴の中で聞こえてきた。向けられたのは、明確な敵意と殺意。

 うわっ何?と思って少しビビりながらも辺りを見渡す。すると少し暗くて見えなかったけど、奥の方から隠れながらも、目を光らせてコチラを睨みつけてくる何かが居た。

 マジか、僕以外に何か住んでいたのか?どうしよう。逃げるか。

 と思いながら警戒していると、その何かはゆっくりと歩きながら、こちらにやって来た。

 身構えてそれを直視すると、僕の目の前に現れたのは拍子抜けしそうになりそうなほど、小さくて愛らしいふわふわな一羽の兎だった。

 きゃぁ可愛い。


「ガルルルゥッ!!」


 わぁお、なんということでしょう皆さんご覧ください。可愛らしい兎ちゃんがまるで肉食獣のように呻きながら現れました。

 牙も生えてますね、どうなっているのでしょうか?

 訂正します可愛くない愛らしくないマジ怖い。


 大きさは今の僕とそう変わらない、というか同等くらいだろう。

 姿だけならボールみたいに丸っこいウサギなのに、こちらに向けている裂けた口は肉食獣以外の何者でもなかった。

 イタチと兎を組み合わせたような外見の化け物は、赤い目を爛々と輝かせ、その目は僕を凝視してきた。

 おっとこれって絶体絶命?トカゲに追いかけられたりしたのに、割とガチな危機感じたのは初めてな気がする。

 まぁ何が言いたいかというと。


て、テンプレきたぁぁぁぁぁ!!


 どうやらこの穴はこの兎の巣だったようだ。何かは居ると思ってたけどまさか肉食獣だと思わなかった。あの兎にとって、僕は侵入者なのだろうか?それとも餌なのだろうか?両方か。

 へ?慢心してたフラグだって?ファック!!

 っと、くだらないことを考えている暇じゃないな。今はなんとしてもこの状況を上手いこと打破しなければならない。でないと死ぬ!

 元の人間の体ならともかく、なうの子犬チワワであのバケモノ兎の牙に噛まれたりしたら、無事で居られる自信はない。

 寧ろ一撃で致命傷を通り越して食い殺されるのがオチだろう。

 ひゅー、兎に食い殺されるとかってさ。


「グルルルッガアッ!!」


 兎の様子を見ていると突然、兎が僕の方に飛びかかってきた。冗談言って遊んでる場合ではなかった。それに不意を突かれる。

 兎だし、元々ジャンプが得意そうな足だろうと思っていたので一様予想はしてたけど、尋常じゃない速さで僕を狙ってきた事に驚く。

 それがすげえ早いのなんのって、まるでパチンコの球のような速さで僕にかかって来たのだ。


 瞬時に危険を感じた僕は、咄嗟に横に回転しながら避ける。

 ゴロゴロと軽く音を立てて転がって、体中砂埃にまみれてしまう。僕は冷や汗を流す。

 あ、危なかった。と思っていると頬からツーと赤い液体が流れ落ちた。

 前言撤回、危ないです。ギリギリですな。

 この傷はあの口に生えてる牙に切られたのだろうか?どうやら避けたのは紙一重だったらしい。


 そして兎はどうしたかというと、的を失った兎はそのまま洞窟の壁に衝突した。

 ドガァーン!!と派手な音と石の破片をまき散らしながら砂煙を上げる。


 おいおい、あれじゃ頭陥没してんじゃね?そう思うほどの衝撃だったが、壁にぶつかった兎は何の問題もなく砂煙を払うと、すぐに体制を立て直して標的を僕に定めてきた。

 くそっ!石頭かよ!と心の中で毒づくが、それが兎に届くわけもなく、兎はまた弾丸のようなジャンプアタックを繰り出してくる。

 今度は避けきれず、背中に兎が激突してきた。

 熱した鉄を押し付けられたような痛みが僕を襲う。


「キャウンッ!!」


 肺から空気が押し出されてそんな悲鳴が僕の口から漏れる。

 情けない悲鳴だけど、それが気にならないほどダメージが大きかった。とてもじゃないが耐えられない。

 幸いにも、当たり所が良かったのか動けないほどではない。

 衝撃でゴロゴロと地面を転がる。兎は僕に激突したというのにまだ威力が終わっていなかったのか、また壁に激突する。

 間抜けに見えるかもしれないな。そう思いながら僕は痺れる体を動かして、急いで立ち上がる。こういう時四足歩行って便利だと思う。どうでも良いか。


 対して兎は疲労した様子も見せずに立ち上がってきた。

 しかし、その目は先ほどまでとは違って、猫のような目をしていた。

 それはまるでで獲物を弄んでるかのような不快な視線。最早そこに敵意など感じられるものはない。

 どうやら僕は驚異として認識されていないらしい。玩具か?


 そうか、ばるほど。コイツは僕で遊んでるんだ。ふざけやがって。

 ならまだ殺すつもりは無いはず・・・少なくともいたぶられてる時間はある。

 敵が油断しているなら好都合、僕もやれるだけやってやろう。


 一撃・・・そう、首に噛みつける一撃をする事ができる様な隙さえ見つけることが出来れば、チワワな僕でもあの兎に勝てる。

 ・・・それで勝てるか?いや、無理だろう。なら、別の手段を使う。とにかく隙が欲しい。

 動物を殺すなんて始めてだ。怖いけど、やらなければ死ぬ。死ぬのはいやだ!

 まぁそれまでに生き残れればの話だが・・・。

 周りに使えそうな物はないかと見回してみる。僕より一回り大きい石、出口兼入口の穴・・・なんもねぇな。

 ・・・待てよ?穴?それに石・・・これを使えば・・・。

 そう考えていると、兎が特攻してくる。僕はなんとかギリギリ回避した。どうやら兎は僕に考える暇すら与える気はないようだ。

 避けられた兎は、壁に衝突することなく上手いこと地面に着地すると、地を蹴って勢い良く僕に飛びかかってきた。

 予想外の動きだが、やることは変わらない。僕は入り口に向かうように転がる。

 シュッ!と少し背中を掠るものの、何とか避けきれた。

 それを何回か繰り返しながら、入り口へと少しづつ近づいていく。兎も僕について来て誘導していく。

 すると兎はいちいち避ける僕を忌々しく睨みつけてきた。

 そんな目で見ないでお、ビビっちゃう。

 兎は僕の心情を無視し、これで最後!とでも言うかのように、今まで以上のスピードで僕に飛び込んできた。

 目で追える事のできないスピードに、僕はその白い弾丸を思いっきりぶつかってしまう。


「ギャンッ!!」


 メリメリと腹から聞こえてはいけないような音までしてきた。下手したら骨折する勢いだったかもしれない。

 ちくしょう、痛ぇ。なんで僕はこんな目に遭ってるんだ?わけがわかんない。

 でも、その訳わかんない事をしないと生きられない。

 僕はまだ死にたくない。僕はまだ死にたくない!!


 痛む体に鞭を打って、僕は兎の体当たりをなんとか受け流す。求めるのは生存本能の生きたいという欲求。

 兎の体当たりは、僕という標的にぶつかってもその強力さのあまり、勢いは殺しきれていなかった。

 だから僕が自身の体を使って、打ち合った剣みたいに体を動かし、衝撃を流してみる。

 案の定、兎はそのまま入り口から外に吹き飛んでしまった。


 そりゃもう蹴られたサッカーボールのように盛大に。


「ガアアァァァ!?」


「よっしゃぁぁぁぁぁ!ざまぁみやがれ!!」


 兎は発射された大砲の弾のようにヒュ~ンと飛んでいってしまった。

 僕はその様子を見て、内心で手をグッと握りしめ、勝利の雄叫びを口にした。

 僕の作戦は実に簡単、あんだけ大砲みたいに飛びまくる兎を上手いこと誘導して、その勢いを利用してそのまま外に吹き飛ばす事だ。

 あとは入り口に石でも詰めて、入れないように塞げば良い。そうすれば奴を追い出すことができるのだ。


 ひゃっはー!僕天才!ごめんなさい正々堂々殴り合いなんて僕には出来ません!!


 まぁいいさ要は勝てばいいのさ勝てば!

 ていうか、発見だけど僕普通に喋れたんだ?チワワになったから気づかなかったよ。そういや目覚めた時にも喋ってたっけ。

 まぁ怪物ばっかりしかいないここら辺じゃ対して役に立たないだろうけどね。そもそも言語が通じるのだろうか。わからん。


 そんなことを思いながら、僕は近くに置いてあった、例の大きめの石を体で擦り付けながら、ズズッと押して運ぶ。後はこれで蓋をするのだ。


 この作業チワワの貧弱な力では結構きつい。

 それでも入り口を塞がないとまたあの兎が入ってきてしまう。そうなったら僕は勝ち目はない。死亡一択である。


 僕は出口まで岩を運ぶと、石を穴に栓をするようにはめ込む。

 ガコンッ。と、鈍い音を立てると、石は穴に上手い事はめ込む事ができた。ピッタリである。

 よし!このままいけば━━━━


ゴンッ!!


 入り口を石ではめ込み塞いだ次の瞬間、とてつもなく強い衝撃が石から伝わってきた。

 何かが外から激突してきたのだ。

 おそらくタイミング良くあの兎が帰ってきて体当たりをしているのだろう。

 ふはははっ!甘い、プリンより甘いよチミ!

 僕とおなじサイズの獣が体当たり如きで岩を破壊できる訳ないじゃない!意外と単細胞のようだな畜生めが。


 そう余裕ぶって高笑いをしていると・・・石がゴゴッと音を立てながら押し返された。

 見てみると、微妙にヒビもできている。


「・・・へ?」


 思わず僕は間抜けな声を漏らす。

 栓の岩の位置を見てみると、僅かながらにズレていた。

 ・・・思ってもみなかったのだ。まさか力は強くても小チワワと同じサイズの兎が岩を無理矢理押し返すなど。

 よく考えれば、僕でも動かせたんだから力のあるあの兎なら簡単に動かせるだろう。あの兎、壁を粉砕してたし。

 しまった!相手の力量は盲点だった。僕は悲鳴を上げる。


「ぬおおおおおおお!?ちょっと待ってタンマタンマ!」


 しかし僕の言葉など獣が理解できるはずもなく、兎は躊躇いもなく栓の岩に体当たりを続けてきた。

 僕はゴリゴリと押される岩を押し返してなんとか安全圏を保とうとする。

 しかし所詮子犬、子供、貧弱、チワワ。

 力負けしてる。少し時間を稼げるだけでドンドン押され、驚異の化物が近づいてくる。

 やばいやばいやばいやばい!!


「ガルゴァァァア!!」


「へ?ぎゃー!?」


 遂に入り口と石の間に隙間が出来てしまった。

 隙間からは真っ赤に充血した目と、歯ぐきを剥き出しにして唾液まみれの牙を覗かせてきた兎の顔が侵入してきた。ゾンビもののパニック映画で、閉めようとしたドアから、入ってこようとするゾンビに似ている怖い。

 僕は悲鳴を上げながら恐怖に怯える。

 完全にホラーです。すいません超怖いです!!


「ガァゴァガァァァア!!」


「あ、ははは、もうダメだぁ~」


 兎は無理矢理顔を隙間にねじ込んで入り込んでくる。

 全ての体が入りきるまで時間の問題だろう。入ってきたら、今度こそ僕に勝ち目はない。

 オワッタ・・・

 石を押さえている力も無駄だとわかって力が抜けてしまう。

 せめて楽に死にたい・・・。

 さらば僕の現世、何が何だかよくわからなかったよ。

 こうしてる間にも、兎は毛皮を削りながらも体の半分が中に入り込んで来ようとしている。

 死を覚悟した・・・そのときだった。


「ガ!?ゴ、ガゴガァァァアアア!?」


 兎が突然目の前から姿を消した。


ありがとうございました!

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