初テイム兼実験だお!1
アバタールは5メートル程の石レンガで建てられた壁に囲まれた都市のようだ。遠くだけど見てわかる。けど、正直石レンガと言っていいのかわからないけどね。なんか砂岩っぽいのも混ざってるし。
資源が足りていないのだろうか。まぁこんな荒野でしかもワイヴァーンも生息している環境じゃ採掘も難しいだろう。むしろここまでよくできたというべきか。石壁を作ってる間に凶暴な魔物に襲われることも少なくないだろうし。
おそらく都市の建国の際には、大量の兵士や冒険者が投入されていたのかもしれない。そこまでして作ったのは、きっとこの都市がデウス荒野を行き来する時のための重要拠点となるとわかっていたからだろう。
そうした多くの人々の苦労の末、このアバタールは完成され、何百年もここで健在できている。そう思って見てみれば、あのボロっちい石壁も味を感じると思う。
「だいぶ近くまできたねー。」
「・・・死ぬ。アバタール方面、クソ暑い・・・」
僕は都市を壮観しながら感心しているのに対し、セラさんは力無しにトボトボ歩いて愚痴をこぼしている。
氷魔法が得意だからか?厚着姿だからか?どっちにしろセラさんはこの暑さの気温が心底苦手らしい。・・・これはセラさんの大きな弱点かもしれないな。
まぁ、いざ実践となったらなんも問題もなく戦闘できるだろうからね。
「そんなに暑いなら脱げばいいのに」
「・・・ローブの下は半袖とホットパンツ」
僕の疑問にセラさんは死んだ魚のような目で答えた。ほほぅ、そのローブの下には瑞々しい若い肌が・・・
「恥ずかしくないの?」
率直な意見を僕は述べた。転生前から思ってたが、なんで女性って平然と露出の多い服を着れるのかわからない。スカートとかあれやばいでしょ。見えないだけでぱんてぃ丸出しだぜ?スコットランドのようにノーパンじゃないだけまだマシだけど。・・・今は下着を着てるらしいが。
そりゃ、僕だって男だし、女の子が露出度のある服を着ているのを見れば嬉しいさ。眼福だよ。でもどうしてわざわざあーゆーのを着れるのかわからないんだよね。
「・・・ローブで隠すから良いかなって・・・身軽だし。」
この人に聞いた僕がバカだったよ。
身軽はわかるけど恥ずかしいなら着なけりゃいいのに。
てゆーか、その暑さって魔法でなんとかできないのかな?
「セラさんさ、氷魔法の氷を自身の体に纏えないの?」
そうすれば大分マシになると思うんだけど。僕は正確な温度がわからない分予想はできないけど、熱中症になられたら困る。魔力があるかぎり氷が無限に作れるんだから使えばいいのに。
僕はまだ地球にいた頃、暑い時は冷凍庫にあった凍ってる保冷剤を取り出してほっぺに当ててたなぁ。あれ気持ち良いんだよね・・・無駄使いするなと母さんに怒られたけども。
「・・・氷纏ったら・・・あんっ服が透けちゃったぁ〜〜///・・・になる。」
無表情セラさんが疲れたような目で言ってくる。なのに声だけ艶めかしいわ。アンバランスすぎる。
しかしなるほどね。溶けるもんは溶けるんだ。
・・・それはそれで見てみたいかな?
「ツッコミなしですか師匠ショック。」
「いちいち僕がツッコミできると思うなよ。リンナに嫌われたくないんだ。」
幸い、リンナはレドの背中に乗ってよくわからない鼻歌を歌っているので気付いていない。
でもよくいままで襲ってきてた奴の背中に乗れるな。ま、それは最初に襲ってきたセラさんも同じだけどさ。
「・・・やらしい目をしてたくせに」
おっと危ない危ない。平常心平常心あいうえおかきくけこ。
「・・・でも、あと一時間もすれば、この地獄も終わる・・・ふふふ」
セラさんがなんだか危なそうな笑みを浮かべているが、たぶん禁断症状だろう。問題ない。
たしかに現在位置からアバタールまで歩けば一時間くらいで到着するだろう。都市に入れば水とかも補給できるし、楽になるか。いや、水はセラさんが魔法で補給するから大丈夫だ。うん。
「まぁ、街に入っても暑いだろうけどね。」
クーラー無いし。
「なん・・・だと。」
そのことを思い出したのだろう。立ち止まって絶望した顔で呟いた。
やばい、セラさんがマジで死にかけてる顔をしている。そんなに暑いのイヤなら大人しく自国に向かえば良かったのに・・・あぁ、魔剣の他にも僕が原因だっけか。すんまそん。
元々僕を討伐しとけば国に帰れたのにね。まぁ、テイムしようとしてたんだからどっちにしろ国に帰るつもりは無かったんだろうけど。
「そういやセラさん、初対面の時はあんな殺気凄かったけど「・・・え?威圧強すぎた?少なくしたつもりだったけど。」」
・・・。
「僕達をテイムしようとしてたんだよね?そもそも、魔物のテイムってどうやってやるの?」
魔物って凶暴じゃないか。どうやって従わせるんだろう。力とかで服従させるならわかるけど、それで全部上手くいくとは思えないし。
僕とリンナの場合は圧倒的な力を見せつけられたからが一番大きいな。毎日がギリギリだった僕らが、安心できる保護下を求めていたのは当然だったから。
暑くてダルいせいか、セラさんは喋るのがメンドクサそうにジトォとした目で僕を見てくるが、少し間を開けると素直に教えてくれた。
「殴る 気絶 餌。」
とてもわかりやすくわかりにくい。
「単語だけ言われても・・・」
「物理で殴れ」
いや、僕初期ステータスな魔法使いじゃないからね?殴れ言われても敵対するだけだから。そういうことじゃないから。
「自分がテイムされた事思い出してみ。私を受け入れた時の。覚えてない?」
セラさんがそう言うが、どのタイミングで仲間になったんだっけ?いつの間にか馴染んでいた感がすごい。
あの、アニメとかで新キャラがなんの違和感もなくレギュラー入りしてたような感じなんだけど。
あぁいうの、いつのまに仲間になってるんだろうね・・・部活物とか知らない内に入部届けを出してるんだろうか・・・おっと脱線脱線。
たしか感情的に僕がセラさんを受け入れたのは・・・あのセラさんと初めてバトルした後の夜だろうか。まあ、あの時リンナを殺していたらたぶん起きた瞬間、たとえ勝てなくてもセラさんの喉に噛みついていたかもしれないけど。
負けた後は戦意も失せたな。リンナが倒された時は殺気が沸いたんだけど、無事だってわかった途端気持ちが抜けたんだよね。そもそもセラさんも僕らを捕獲する気だったし、手加減してたんだろう。
んで、倒そうとはしたけど倒せなくて、後に殺意は沸かなかった。逆に死にたくなかったから起きてすぐ土下座はしたけども。
なんというか、こっちが襲われた側だってのに「なんとなく」で納得していた。僕より上の存在だって、本能的に感じていたのかも。
「・・・魔物には「強者に従う」という本能が強いの。過酷な環境に生息する魔物ほどそれは顕著に現れる。・・・群で生活するのは、例外だけど。」
急にセラさんが流暢に説明してくれるからビックリして見てみると、首に氷を召喚して冷やしていた。我慢できなかったのか・・・。
「それは生存本能が出した生き残る為の一つの手段。・・・決闘をし、強い者に付き従うことで生き残ろうとする。」
セラさんの説明でなんとか納得できた。確かに殺されるなら相手に媚びを売り、それで気に入ってもらえば生き残れる可能性もあるだろう。テイムというのはそういうものなのか?でもそれって下手して裏切られる可能性もあるんじゃ・・・?
「そこはテイムした主の問題。付き従えた魔物を奴隷みたいに扱えばいざというとき見捨てられるし、寝首をかかれることもある。」
「テイムって危険すぎない?」
「・・・そうだね。でも従魔を大切に、それこそ家族みたいに接すれば本当の意味で懐いてくれる。絆が生まれたら、従魔は自分の命が尽きようとも主の為に戦うだろうね。」
そんなもんなのか?僕はそんなもんでセラさんにテイムされてしまったというのか。マジか。納得している心の僕を殴り飛ばしたい。
でも僕そういうの無理かも知れない。勝てないと悟ったら逃げ出しそうだし・・・世の中ビビリが生き残るもんなぁ。
「僕、流石にセラさんの肉壁になるのは無理なんだけど・・・?」
「いや、私守ってもらうほど弱くないし・・・」
ごもっともです。
「・・・むしろカザミが先に倒されないか、心配なんだけど」
泣きてぇ。
と、まぁ僕の雑魚力は今に始まったことじゃないし、気にしてもシャーナイのだ。第一セラさんがピンチになったとしても、そんな事態に陥る前に僕はやられちゃってるだろうしね。
そんな事よりもテイム方法の課程について聞いてみる。
氷のお陰でだいぶ涼んだからか、セラさんは普通に喋ってくれた。
「・・・テイムとはまず」
「ふむふむ」
「魔物を気絶させて」
「ふむふむ」
「起きたら餌を上げる」
「ふむふむ」
「襲ってきたら・・・また気絶させる」
「ふ、ふむふむ」
「・・・それの繰り返し」
「ふむ!?」
おかしいな。そんなもので魔物は懐くというのか?暴力の繰り返し、それただの服従じゃないか・・・。
「・・・最初は何事も服従から始まる。餌を上げながら適度に距離を縮めていくのが、この世界の調教方法。」
「赤ん坊から育てるのも手だけど」と、セラさんが付け足して黙る。確かにあんな・・・兎ですら凶暴な魔物を従えるには、やはり力を示すのが手っ取り早いのかもしれない。それに、赤子から育てる・・・刷り込み?で懐くなら少なくとも魔物には仲間意識や情もあるのかも。
野生の魔物を力で服従し、そこから餌を与えて仲間意識を持たせる・・・要はアメとムチを使いこなすことが大切なのだろう。地球の調教はどうなんだろうか?わかんない。
「・・・調教ったって18禁の想像はえぬじー。」
「誰がんなもん想像するか!!」
セラさんがニヤリと口元を歪め、とんでもない言葉を吐いてくるのを、僕は怒鳴って言い返す。
なんでこう、セラさんは平然と下ネタが吐けるんだよ!相変わらずだね!?
「縄で縛り付けた少女をムチで叩き、涙目でやめて、やめてと震える声を無視して笑いながら暴力を振るう。少女には消えない傷が体に残り、いつしか抵抗をやめて虚ろな表情を浮かべ、痛みを受け入れる哀れな」
「ストオオオオオオオオオオオオオオオオオップゥ!?何つージャンルを脳内から掘り出してやがる!?」
えっちぃ調教の話かと思ったらガチな調教現場実況始めやがった!!SMどころじゃないよプレイじゃないよ!鬱展開丸出しのクズストーリーじゃねぇか!!
「・・・何って、調教。」
「人にする調教なんぞ聞いておらんわっ!つか魔物にする調教よりもヒデェじゃんかっ!笑えないから!?調教じゃないよむしろ超恐だよ!超恐怖!!」
「・・・寒っ」
「うるせええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
久々にこんなに怒鳴った気がする。母さん。僕は生まれ変わった異世界で、こんなに喋れるようになったよ。喉が枯れる勢いな突っ込みだけど。
僕がゼェハァと、呼吸を整えようと膝をついていると、後方からレドに乗ったリンナが首を傾げてこう言った。
「師匠、寒いの?ここ暑いよ?」
「・・・えっとね、寒いってのはカザミの親父ギャg」
「変な事をリンナに吹き込むなよぉぉぉ!!」
「シュルルル・・・」
なぜだ、レドからもの凄く暖かい視線を感じる。