道のりだお!
じゅーけーんまであとすーこしー
あとすこしーでたくたんこうしんあひゃ
アバタールへの道のりは中々長い。車や電車など便利な移動手段がないこの世界ではちょっとした旅行でも大冒険となるだろう。
まぁ、僕らの場合セラさんとエンペラーモニターがいるから安全で気楽なんだけどね。
しかしだ、日中は歩いてるからいいが、夜になると暇である。ゲームなんて暇をつぶせる機器なんてないからね。
魔物が出るし、見張りを立てて警戒とかする必要があるんだけど、エンペラーモニター危険察知能力は中々優秀なため僕らの仕事など皆無に等しいといえるだろう。リンナと遊んでもいいけどいい子はオネムの時間なのである。僕悪い子。
暇だ・・・なら何をするか?もちろんセラさんとの魔剣研究だ。
「・・・また失敗。」
「火花散ったよね?ガス出てるよね?どうしてこうなった?」
「有毒性の鉱物を魔力に練り合わせてみた。」
「馬鹿なの?死ぬの?」
「てへっ」
暗闇の空に覆われた広大な荒野・・・そこに、野宿しているのであろう焚き火と、3つの人影とオオトカゲの姿があった。
もちろん、僕らのことだ。そしてあの馬鹿らしい会話も僕らのものだ。リンナは寝ている。
どんな状況か説明しておくと。毒の剣が作れないかと実験中の最中である。
そして、僕らの近くに焚き火と同じくあたりを照らす燃えている石が転がっている。手に乗るサイズの丸い小石で、黒っぽい紫色をしているのだがなぜかそこから黒い障気のような煙が吹き出ている。
これが実験の結果できてしまったブツで、無論失敗作だ。
セラさんが持ってた毒性のある鉱石にセラさんの主属性の「水」に鉱石の毒を操るためにサブ属性の「土」の魔法を付与した結果、術式が壊れてなうの現状だお。
そして僕はモロに有毒空気を吸ってしまった。するとお久しぶりのあの声が聞こえてきたんだ。
『硫砒結晶鉱石の成分「亜ヒ酸」を分析、体内での適応細胞に結合、吸収、分解情報の記録を完了。耐性が完了しました。』
神の声か。また聞こえてきたんですけど、生物以外にもできたんですね。
ん?「亜ヒ酸」?しらないけど名前からしてやばそうな・・・理科の先生がヤバイとか言ってた気がする。
「・・・加熱するとやばいやつ」
セラさんが何気ない口調で言ってますよ信じられます?念のためセラさんの「光」で僕を保護してたらしいから言えるんだろうけど・・・なんかねぇ。
このように、魔剣作成の実験は夜通し行われている。
旅をしながら移動するとの事で、昼に歩いてる時は魔法理念学や構造について話し合い、夜は野宿しながら実際に作ってみるという形で研究を進めていった。
しかし助手役の僕は無知、先生役のセラさんはアイディアが思い浮かばないという、二人共致命的な欠点があるせいで研究(趣味)は頓挫してしまっている状況が続いてしまっている。今日みたいな失敗も多いしね。
セラさんは偶然とはいえ、実際に魔剣は製作できたのだが、今は一回使っただけで折れたり爆発したりと使い捨てしか作れていない。どうやら漫画や小説みたいに簡単には作れないようだ。むしろ専門学知識がないと無理だろう。
魔法職であるセラさんは魔法学の術学の知識を応用しながら制作をしているが、あまりうまくいっていない。セラさん曰く「コンピュータが扱えてもパソコンが作れないと同じ」と言っていた。なかなかシビアである。
僕は無知なりに「ここをこうしたら?」「こうはできないか?」と指摘し、欠点を少しづつ直すサポートをしている。
某SF映画のビーム剣が出たり、炎を纏うファイアーソードなどのロマン魔剣への道はまだまだ長いようだ。第一爆発してるし、危なすぎる。
失敗作にも一応収穫はあった。魔法反応を応用して、使い捨てであるが色々道具が作れたのだ。それはまたの機会に紹介しておこう。
そして本題である魔剣制作でも、まったく発見がないというわけではない。失敗を繰り返し、何が原因で壊れたか?また何のお陰で成功したか?データをまとめる内にわかってきたことがハッキリしてきたりしている。
現状、魔剣作成のわかっている確実な情報についてはこれだ。
・燃料。
・回路。
・エンジン。
少なくともこの3つは魔剣制作に関しては最低基準であると確信している。
ではこれがなにか?というと簡単に説明するとこうなる感じだ。
動力源であるエネルギーがあり、回路が全体に行き渡らせる。そしてそれを使ってエンジンを機動させ、魔剣が発動する。ということだ。
僕とセラさんはこの基準を魔法で置き換えると、魔力が燃料となり、魔法陣がエンジンでその一部が回路、と考えている
魔法陣とは魔法を発動する際に、地面に描いたり杖に埋め込まれたりしている魔法発動体のようなものである。魔力を吸引し、魔法文字という回路で全体に行き渡らせることで初めて、炎や氷といった魔法を生み出すことができるのだ。
つまり、まるっきしエンジンなのである。燃料がガソリンや電気ではないということだけで。
こう言ってはなんだが、まるで機械のように思えてしまう。現代が科学なら、こちらは術学といったところだろうか。いずれにせよ、キチンとした設計を元に作らなければ魔剣としての発動基準を満たしていないのかもしれない。
ちなみに、セラさんは魔法陣をいちいち使わなくても、魔力そのもので魔法陣を描く・・・漫画やアニメでよくある、空中や地面に光る円が出てきたりするような現象・・・無詠唱ならぬ円陣術式を習得しているらしい。
リンナの魔剣でわかったことを照らし合わせて調べてみると、条件はある程度一致してたんだ。
まず、セラさんは魔力の供給をやめないかぎり、半永久的に凍ったままの魔法をリンナのナイフに付与した。付与は魔法陣を埋め込むことを前提としているので、ここまででエンジンと燃料の説明はつく。しかしこのままではただの付与された使い捨てナイフである。ここからが他とは違うところだ。
当初、リンナのナイフは根本からヘシ折れていた。さらに、元々古くて手入れも行き届いていないせいで、刃の内部は亀裂や穴だらけであったそうだ。それこそスポンジのように。
セラさんはこれをなんとか修復するために、付与した魔法陣を、刃の内部にある穴という穴すべてに魔法陣の魔法文字を用いた回路を全体に張り巡らしたそうな。
他にもなにか条件はあるんだろうが、結果魔剣ができてしまったというわけである。
リンナのナイフ魔剣化の要因については、元々ナイフの性能が悪かったから、普通は劣化するところが逆に上がってしまったという考えもできるんだけど・・・。
偶然に偶然が重なり、魔剣誕生のキッカケとなってしまったのである。
偶然の偶然・・・数百年に渡って魔法師が研究してきた魔剣を・・・たかがにわかである僕らが作り上げるなんて不可能な話だろう。なめてるのか?とも言える。
だがしかし!!僕とセラさんは偶然という言葉で納得などしない!所詮趣味だからってあきらめたりしない!いつか必ず魔剣を制作し、ロマンあふれる魔剣をもって戦うと誓ったのだ。
絶対、絶対あきらめない!!欲に塗れた中二病をなめるなよ!
そうして僕たちは、今日もロマンという名の魔剣制作に没頭するのであった。
☆★☆
試作品が数個完成したころになると、流石に目的地である国、アバタールが見えてきた。といっても、距離はまた数キロ先らしいんだけどね。この荒野広すぎだろう。もう2、3週間経ってるよ。
「きゅーきょくに・・・長い。そして暑い。」
「セラさん来たことなかったの?」
「・・・来たことあったらこんな厚着で来ない・・・」
「ですよねぇ」
汗だくになって愚痴を申してくるは我らが師匠セラさんである。確かにセラさんは鎧こそ着けてはいないものの、長そでやローブを纏っているのだから相当な暑さだろう。無表情なセラさんが珍しく不満そうな顔をしていてちょっと新鮮だ。
「・・・カザミは暑くない・・・と?」
「そうだね。」
恨めしそうな目で見てくるセラさんに僕は苦笑いで答える。
元々魔物はどんな環境でも適応できるよう、多少温度変化に対してはなかなか強いらしい。それでも、暑いんだけどセラさんよりはマシだろう。
そう思って勝ち誇った顔をセラさんに見せつけると、「・・・むぅ」と拗ねたように頬を膨らませて、ぷいっと顔をそらしてしまった。子供か。そして今度はセラさんはチラッとリンナを見ると口を開いていた。
「・・・リンナたんは暑くないの?」
「?ぜんぜーん、だいじょーぶ!」
「・・・レドは?」
「フルシュルルルルル・・・」
「・・・がっくし」
リンナとレドに共感されることはなかった。セラさんは肩と首を下げてへこむ。あ、レドとはエンペラーモニターの名前だ。いつのまにか付けていたらしい。ほかの候補は「ポチ」か「ハチ」だったようで、犬かよと思った。
セラさんは首を下げたままブツブツと恨みがましいような声で喋り始める。
「く、私もモンスターハイスペックが欲しかった。・・・この屈辱は忘れん」
どんな屈辱だ。ぶっちゃけ僕のほうが屈辱晒してきたわ、忘れんぞ。
「・・・はっ!私もモンスターになれば解決じゃね?」
「やめてよ、僕ら街に入れないじゃん。」
セラさんの「すごいこと気づいちゃった」顔に対して僕は呆れの混ざった声で答える。
僕らは魔物だ。普段は人間に狩られる存在、もしくは喰らう人類の天敵とも言えるだろう。基本例外な魔物は除くが、魔物が単独で街に入ろうとしようとするならば衛兵やら兵士に駆除対象として討伐されてしまう。
今は(不本意であるが)レドが護衛でついているので負けることはないだろうが、そうなったらアバタールは軍を使って僕達を排除するかもしれない。それでは意味がない。僕らは戦争しに来たわけではないのだ。
そこでセラさんの出番である。今僕らには保護者となるセラさんがいるので、アバタールで「従魔」を正式に登録することができる。「従魔」はある意味奴隷のようなものなので、少しでも魔物の脅威性を少なくさせる意味があるという。まぁ主人の命令を逆らわないというなら多少は安全だろうな。
世間では魔物を「従魔」として従わせている冒険者は少なくないので、レドだけではなく僕らも従魔となっても不思議ではないろう。
問題はレドがあまりにも強いということだが・・・冒険者として名高いセラさんなら従魔として捕獲してきても不信がられないだろうとのこと。それだけの実績と信頼をセラさんは既に持っているからね。
ちなみに僕は「獣人」という種族に酷似しているため、「従魔」ではなく奴隷として登録するらしい。ここまで気が楽な奴隷はいないな。
獣人は・・・大体予想はできていたが猫耳や犬耳を持つテンプレ的な獣人である。動物型の精霊の血を宿していて、体の一部が動物化している人々を指すらしい。
うん、是非本物に会ってみたいな。
ぐへへへ。
「・・・やましい事考えてる目」
「・・・え?マジ?」
セラさんに告げられた言葉に反応する。僕ってそんな顔変かなぁ?確認をするように両手で顔をペタペタ触っていると、セラさんがゆっくりと口を開いた。
「・・・変顔がヤバイ」
どうやら僕は天然顔芸らしい。
「カザミー、まだ、着かないのー?」
後方からリンナの疲れたような延びた声が聞こえてきた。
振り返ってみると飽きてしまったのか、リンナがお気に入りの魔剣を振り回している。やめなさいよ危ないから!
「だってつまんないもーん」
「つまんないってねぇ」
文句を口にしつつも、とりあえずは魔剣を仕舞ったので注意は終わりにしておく。
まったくもー。
「カザミ抱っこー」
「はいはい。」
手を伸ばされたので素直に背中を差し出すと、軽い重量を持ったリンナが乗っかってくる。緑色だが女の子らしい柔らかい肌が服越しに密着する・・・んだけど、やはり妹の感覚に近いのか全然興奮しない。いや、幼女に興奮するとかもありえないんだけどさ。
その・・・リンナ割と胸あるし。
「すいません警察ですか」
「やめてくださいお願いします」
耳に携帯を当てるような仕草をし、セラさんが超真顔でそんな事を言ってきた。あの、真顔怖いっす。マジで・・・。