表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕は悪い魔物じゃないお!〜犬に転生した僕は成り上がる!〜  作者: ケモナー@作者
第1章《異世界に転生したから強くなってみるお!》
26/48

浮気ってなんだお!?

そらーがーあおーぃぃいいいいい

「・・・出来ちゃった付与魔法(エンチャント)


「ふわぁぁ」


 セラの手には少々小ぶりなナイフが握られていた。それはまさしく数分前リンナが壊してしまった思い入れのあるナイフである。

 しかし、その外見は先ほどとだいぶ異なっていた。

 鉄で出来ていたハズの刃は半透明な結晶に覆われており、まるでナイフの入った氷をナイフ状に削り出したかのような形状をしている。

 そして見た目通りに、薄い冷気が周囲に漂っていた。


「すごい!師匠!ナイフ直ってる!!」


 リンナが興奮したように鎖骨あたりで両手を握って歓喜をあげる。


「う、うん・・・まぁ私にかかれば・・・おちゃのこさいさい」


(落ち込むリンナたんを慰めて一気に好感度ゲット!・・・と軽く考えてたけど・・・擬似的にしてもまさか成功するなんて・・・)


 セラは表面上素顔を変化させないが、内心冷や汗をダラダラかきまくっていた。

 永続的に効果が持続する付与は実際無いこともない。しかしその場合武器の性能は落ちるし、使える寿命も格段に下がる。精々使い捨てに使われるくらいだろう。

 だが今回セラが作ったのは、完全に性能が上がってる古代器(エンシェントアーツ)タイプの武器だ。

 しかし実際、セラが本来やろうとしたのは、自分の得意な氷魔法で折れたナイフの根本を固定しようという補強だけである。

 長持ちはするように質のいい魔力を使ったつもりではあるのだが、現実に出来てしまったのは"氷属性の付与された"ナイフであった。

 属性が付与(エンチャント)されているという事は、この氷の刃が溶けることはないだろう。即席では性能の劣りはあるだろうが、種類だけでいえば国宝級の古代器(エンシェントアーツ)であると言える。

 つまるところ・・・リンナのナイフは【魔剣】となって蘇ったのだ。


(これ、国の連中にバレたらヤバいんじゃ・・・)


 古代器(エンシェントアーツ)は存在だけでもかなり高価で、稀少である。

 もしそれをセラが低性能といえ作成できると知られれば、商会や軍事部門の人々から面倒な勧誘がくることだろう。さらには魔剣を手にしてるリンナにも被害がでるかもしれないのだ。

 自国の軍を軽く潰せると言うセラだが、それはあくまで並の兵士を意味してる。

 虎の子と言える魔導団やら幹部やらが動けば、負けることはそうそうないだろうが、セラ的はガチにならなければならないだろう。


 結論から言うとメンドクサイのである。


(・・・カザミに任せよう。)


 面倒事は愛弟子に任せる適当っぷりだ。そしてその答えで全て解決と言わんばかりに、セラはナイフを頑丈な鞘に仕舞う。鞘も氷を固めて作ったものだ。流石に溶けるので定期的に魔力供給で維持しなければならないが。


「ほい、直ったよ」


「ありがとー師匠ー!!」


 鞘に仕舞ったナイフをリンナに手渡しで渡すと、リンナは顔を思いっきり破顔して喜びと感謝の篭った言葉を口にする。

 そんなリンナの純粋さをまともに食らったセラは、居心地が悪そうに目をそらしながら「・・・う、うむ」と頷く。とんでもなく面倒事を引き寄せるような武器にしてしまった事に対しての罪悪感である。

 セラとしては単純に(不)純粋な気持ちであった為、どうしても罪悪感で心臓がジンジンと痛む。これがカザミだった場合、一度容赦やくぶっ壊して作り直すのだろうが。


「・・・明日、カザミに会いに行く?」


 セラからそんな言葉が漏れた。


「えっ!本当!?会える?カザミに会える!?」


 案の定、リンナはその言葉に速攻で食いついた。1ヶ月近く会っていないのだからこの反応は当然とも言える。

 セラはリンナの問いにコクンと無言で頷いて応える。


「やったー!!」


 祭りを楽しみにする子供のようにはしゃぐリンナに相槌を打ちながら、セラは脳内で高速に予定を作成していく。


(まずはカザミと合流。その後は急いで此処から離れた方が良さそうかな。国への定期報告は・・・やめとこう。なら此処からも離れたほうがいいかな?・・・うぅん、まずリンナたんに復活したナイフに慣れてもらわないと。それじゃ今からカザミのいる所まで移動してもらおうか。襲ってくる雑魚をサンドバック代わりにすれば良いし。・・・あーでも、あのストーカートカゲとエンカウントしたらやばいか。また拉致って麻痺させよう。すぐにでもなら明日、私がカザミの修行をして、リンナたんが到着してからか。何処に行くかはその後で良いか。一応通貨に余裕はある。)


 腐ってもプロの冒険者であった。即座に広野の周囲に存在する村や街、国の情報を絞る。

 ちなみにエンペラーモニターは荒野のどこかでカザミを探しながらも、未来の危機を本能で察知し、身震いしていた。


「それじゃぁ好きな時にこっちに帰ってきて。」


「わかった!」


 セラの言葉に素直に頷くリンナ。

 この出来事が後日、修羅場に繋がるとはセラどころか誰も予想していなかったのである。





★☆★☆★☆






「リンナさんや、ちょいと落ち着きやしょうぜ」


「カザミの言う通りじゃ、取り敢えず落ち着くのじゃ。」


 尋常ではない殺気と魔力を垂れ流しているリンナに、俺とセラさんはたじたじになりながらゴマスリをする。口調がかなりおかしくなっているが。


「・・・しーしょーう?」


「・・・あ、あい。」


 リンナが幽鬼のようにゆったりとした口調で喋ると、セラさんはまるで蛇に睨まれた蛙のように縮こまりながら返事をした。

 ・・・セラさんをビビらせた・・・だと?そんな馬鹿な。


「なーに、してるの?」


「こ、これは・・・俗に言うハグというものですはい。」


 何正直に答えてんだよセラさんや。


「カザミ?」


「あ、あい。」


 リンナがコキン、コキン、と首を揺らしながら僕に振り向いて、僕の名前を呼んで言ってくる。

 駄目だこりゃびびりますはい。自慢の尻尾がキューって締まってるよ。


「気持ちよかった?」


「え?」


「気持ちよかった?」


 気持ち良かったというのはつまりあれでしょうか、セラさんにハグされて柔らかい胸の感触や甘いと感じた女性特有の優しい匂いに堪能したということでしょうかいやいやそんな邪な気持ちはこれっぽっちもありませんて僕はそんなねぇ万年発情魔みたいな存在じゃないんですって信じてくださいよリンナさん僕のこの目を!!


「・・・尻尾」


 ぬぅ、誰だ僕の尻尾を振り回してる奴は。許さんぞ。


「へー、そう。お楽しみだったんだ、へー。」


「リンナさん、どこでそんな言葉覚えたので?」


 リンナは笑顔で言っているが、ニッコリと閉じられている両目からはかすかに瞳が見えている。薄目って奴だ。問題なのはそこからハイライトが消えているということだよ。


「ちょっと、なんでリンナはこんなに怒ってるのさ。てか、なんでここにいるの!?」


 リンナには聞こえないくらいの小さな囁き声で、セラさんを問いただす。

 リンナはここから離れた場所で特訓をしていると聞いた。ならそこにいるハズだろう。なんでここに登場したのか、意味がわからないのである。

 するとセラさんがダラダラと冷や汗をかきながら口を開いた。


「・・・今日来ていいよって言っちゃった」


「何言っちゃってんの!?つか来るの知ってたのにあんなセクハラしてきたのかあんたは!」


 大きくなる声を無理矢理押さえて小声で怒鳴った。リンナはニコニコと笑顔である。

 あのさ、リンナは僕よりも厳しい訓練をしてるんだろ!?なのにあんなことしてたの見られたらサボってるって思われるかもしんないじゃん!!馬鹿じゃねぇの!?


「今日、色々あって忘れてた」


 忘れんなよ!?確かに色々あってシリアスだったけどさぁ!!

 その後はリンナに特に何も言われる事もなく、ただ僕たちによる醜い責任の押し付け合いが続いただけであった。




✩★




 僕の目の前には、まるで宝石のように光り輝くひと振りのナイフが置かれていた。

 薄透明な水色に光る光沢は、まるで氷のようだと錯覚させられる・・・というより事実氷なのだろう。

 聞いて驚け、なんとこれ僕がリンナにあげたナイフなんだぜ。ははは、原型とどめてないね。


「えーっと・・・誰がこんなものくれたの?」


「カザミッ!」


 先ほどとはちがう、無邪気な笑顔でリンナが、元気よく答える。そーかそーか。





・・・・・・・・・・・・・・・・・。





「知らないよ知らないよ僕こんな立派なのあげてないよ。あげたの貧相なナイフだもん。」


「カザミだもんっ!カザミがくれたんだもんっ!貧相じゃないもんっ!!」


「えー」


 リンナが目をつむり、両手をぐーに握って力説してくるが、ホントにしらないよ。ガチで宝石じゃん。ダイアモンドって言っても違和感ないくらいの輝きだよ?知らないよ。

 僕は口元を引きつらせながら、セラさんの方を向いてみる。なに口笛吹いてんだコラ。


「セラさん。これ、何?」


「世間一般ではゴブリンナイフと言われている、ゴブリンが自作して生産する武器。つくり方は鉄鉱石をそのまま削って作られる原始的なナイフだから、冒険者が入手してもそのまま使われずに売られる事も多い。価値は銅貨一枚。」


「地球のお金で言うと?」


「・・・100円」


「ワンコインかよ・・・」


 いくらなんでも価値低すぎだろゴブリンナイフ・・・。まぁ、素材が鉄鉱石だからまだ売れるのか?鍛冶屋とかいれば鉄を抽出できるかもしれないし。これが石製だったらそもそも売れないのかもな。


「・・・で、そんなゴブリンナイフ改め、石器がどうしてこんなに輝いてるのさ」


「・・・これはもうゴブリンナイフじゃない。・・・生まれ変わったこれは【魔剣】。」


 あーそう魔剣ね、魔剣。ならこんな輝きにも納得できるかな、あはははははははは・・・。

 ・・・・・・・・・・はぁ?


「魔剣ってどーいう事だよセラさん!?」


 僕はくわっと擬音語が背景に映るくらいに目を見開いて、セラさんを問いただす。

 魔剣って、古代器(エンシェントアーツ)って言われてるくらいの希少な武器だよね!?知らないよ!なんで僕があげたゴブリンナイフが古代器(エンシェントアーツ)になってるんだよ!

 そう言うと、セラさんは露骨に居心地の悪そうに目をそらして言う。


「・・・やっちまった」


「何が!?」


「・・・言い訳をするとだよ?あのね・・・」


 セラさんの言い訳を黙って聞いておくと、どうやらリンナが僕のあげたゴブリンナイフを意図せず壊してしまい、かわいそうだから氷魔法で破損部分を固定しようとしたら使った魔力の純度が良すぎて逆に魔力がナイフに吸収。結果、名高い魔剣となって蘇ったとのこと。

 えーでもそれって、えー。


「そんな簡単にできるようなモンなん?」


 魔法使い・・・この世界で言う魔法師は大きく分けて三段階のレベルに分かれる。

 下級魔法師、上級魔法師、そして魔導師だ。まぁ魔法は三段階に変化するから魔法のレベルによって呼び方が変わるらしい。

 セラさんは上級魔法師。セラさんよりもっと上がいるのかと思ったが、魔導師なんて国どころか大陸合わせても一握りの数しかいないので、実質的にはトップクラスであることに違いはない。

 それでも過去セラさんレベルが居なかったわけではないのだ。今だって魔導師なんて存在がいるわけだし。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ