打ち上げin僕だお!
おなか痛いです。と、トイレ・・・!
地面が爆ぜる爆音が鳴った。その拍子に近くにあった岩やサボテンなどが木っ端みじんに粉砕される。そこに元の姿の面影は残っていない。
セラさんは片手に持った刃の分厚いロングソードで獲物を一刀両断するように振るう。その攻撃の先はオオトカゲ。
セラさんによって振り下ろされたロングソードを、オオトカゲは前足を振って立ち向かう。その目に敗北の色は映ってなどいない。寧ろ自分と同等、またはそれ以上の敵と出会えて興奮しているような好戦的な目にも見えた。
互いが互いを狩ろうとしている恐ろしい光景である。
そんなセラさんとオオトカゲの攻防戦は未だに終わる気配がない。
代わりにどんどん戦況がエスカレートしていってるようにも見える。なんだこの世界頂上決戦みたいな雰囲気は。なんだ僕らのこの場違い感は。
「そらっ」
セラさんが小さく呟くとその振られた剣筋から紅い光芒が光り、それがブーメランのように放たれてオオトカゲを真っ二つにしようと襲いかかる。
「ゴァァァァァァァ!」
無論オオトカゲもただで受けるつもりは無いようだ。丸太のように太く長い尻尾をムチのように振り、飛んできた斬撃に叩きつけると、斬撃はいとも容易く弾き返されてしまった。
跳ね返された斬撃はセラさんの向かっていく。
それをみたセラさんが小さく「チッ」と舌打ちすると、セラさんは横に転がって斬撃を避ける。
誰にも衝突することのなかった斬撃はそのまま突き進み、僕達の隠れている岩の方へと向かってくる。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「ニャァァァァァァァァァァァァァァァァ!?」
迫ってきた物理的破壊兵器に僕達は悲鳴と言う名の断末魔を叫びながら隠れていた岩から退散する。
本気で走る。少しでも逃げ遅れたら爆発に巻き込まれる!
すると後方からバゴォォォォン!!という派手な轟音が大地を疾走する僕とリンナの鼓膜を強く揺らした。
おそらく岩が斬撃に叩き斬られて大爆発を起こしているのだろう。逃げ遅れたらそれに巻き込まれていたところだ。ひぃ。あぶな・・・
次の瞬間僕達の体は宙を舞っていた。
そして悟ったよ、僕とリンナの二匹は爆風に飛ばされたんだ。
あははっ星が近いや。綺麗だなぁ。
近かった綺麗な星空が遠ざかる。
「ぐへっ!」
背中に叩きつけられたような打撃の痛みがジンジンと脳に刺激を送ってくる。爆風に吹き飛ばされた僕達が、今度は地面に向かって落ちてしまったのだ。
すげぇよ。5メートルくらい飛んだんじゃないか?背中がクソ痛ぇよこん畜生。
しかし僕の不運はこれで終わりではなかった。
今度は一緒に吹き飛ばされたリンナが僕に向かって落っこちてきたのである。
ヘイブラザー!オレハナニカワルイコトヲシタカイ!?誰だよブラザーって。
「ひゃん!!」
「あびし!?」
標準はズレる事なく綺麗にリンナが僕の胴体・・・正確には腹、更に言うならみぞうちの辺りに落下してきた。oh・・・。
流石に避ける訳にもいかず、慌てて腕で受け止めようとしたが、ドスンッ!という重々しい擬音語と一緒に可愛い声が聞こえた時には遅かった。
僕は潰れたような声を出してリンナに一撃KOされた。意識がグラッと遠のいていく。
ぐぉぉおおおおおお孔明の罠かぁぁぁぁ!!
僕は痛みに内心悶絶をする。
言っておくが、リンナは軽い。とっても軽い。まさに女の子の理想的な体重と言えるだろう。
でもね、5メートルとか高いところから落ちてきて、尚且つ無防備な胴体に直撃すりゃぁ、そりゃ当然痛いですよ。あ、吐血してるわ僕。
「うにゅぅ?・・・っ!?カ、カザミィィィィィィィ!!」
高いところから落ちたのに大した衝撃もなく不思議そうに小首を傾げていたリンナだが、下敷きとなり同時にクッションの役割を果たした僕に気づいたようで、僕の名前を叫びながらもすぐに僕の腹から降りる。ごふっ!
「カザミィィ!死んじゃ、死んじゃだめぇ!!」
リンナが涙目になって僕の手を握る。リンナは震えながらも、力一杯僕の手を握りしめている。それに応えようと僕も力を入れるが、おかしいな・・・力が入んないや。
代わりに枯れた喉を鳴らして喋りかける。
「り、・・・がはっ!リンナァ・・・」
「っ!!カザミっ!喋っちゃ、めー!」
リンナは意識のある僕に安堵する表情を見せるが、すぐに顔を引き締めると震える声で僕にお叱りをしてくる。
ははっそんな悲しい顔はしないでよリンナ。
「り、リンナが・・・ぐふっ!ぶ、無事でいてくれて・・・よかっ・・・ごはっ!」
「カザミー!!」
あぁ・・・意識が。
「・・・茶番は良いから。」
「「ウィス」」
バトル続行中にも関わらずツッコミしてきたセラさん。流石僕と同じ転生者だね、ネタだって見抜かれたよ。
即興寸劇を見抜かれてしまった僕らは危険地帯からこそこそと別の岩まで退散する。
まぁあれだ、なんでこんなくだらない茶番劇始めたのか、それはこんな戦争じみたバトルの空気に耐え切れなかったからである。
何さ?どうしてこんな事になった?今朝は狩りが成功したと思ったらオオトカゲに襲われるわ逃げ切ったらセラさんに殺されかけられるわ起きたら膝枕されてたらやら実は同じ転生者だった、わお!の次はまたオオトカゲの襲撃。もう僕の頭はオーバーヒートでござるよ!!ちょっとはボケさせてくれ!
ちなみにさっの演劇は打ち合わせ無しだからね。流石僕の相方リンナちゃん!コンビネーションは抜群だね!あははっ!うぅ、まだ痛む。
「・・・ほれ!」
「ゴガァァァアア!!」
さて、僕がお馬鹿な思考をしてる間にセラさんとオオトカゲの戦いはますます苛烈になっていってる。
もう何百回目になるだろう剣と爪を激突させる。そしてまた衝撃波で地面が爆ぜた。地形がドンドン変わっていくのは環境破壊もいいところだ。
もうやめて!さっきまで僕らが居た焚き火なんてもう既に消し飛んでるよ!!
しかしそんな僕の思いが届くはずもなく、セラさんとオオトカゲの被害はぶつかり合う分増えていく。最早悪夢だね。
いや、わかってるよ?セラさんが僕らを守ってくれてるのはよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉくわかってるよ?でもさ、何事も限度ってもんが必要だと思うのさ。あの二つの生物兵器のバトルシーンはもう最終回の最後の戦いみたいだよ。
「カザミカザミ。」
岩陰からそっと抗争を覗いていると服の引っ張られる感覚がする。振り向いて見ると、リンナが僕の裾を摘まんでいた。
「何?リンナ。」
「いつまで、続くの?これ?」
リンナが小首を傾げながら上目遣いでそう言ってくる。
むぅ、それは僕にもわかんないんだよね、もう最初の衝突から30分くらい経ってると思うんだ。なのにあの一人と一匹は息切れするどころか汗すらかいていない。逆に技の練度が上昇していって、戦いが終わる気配がまったく見当たらないのだ。
「さぁね?まだ終わりそうにないけど。」
「女の、人。大丈夫、かな?」
リンナが心配そうな視線を戦うセラさんに向けて言う。
「心配なの?」
「うん。あの、人、カザミ、意地悪した、けど」
剣で胸を裂かれるのは意地悪どころの話じゃないと思うけどね・・・。
「良い人、だから。」
「マジすか。」
リンナにそこまで言わせますかセラさん、一体僕が気絶してる間に何をしたんですかセラさん。
いや、良い人なんだろうけどリンナは単純だからなぁ、一度敵対したのにもう好印象を持っているとか驚きなんだけど。
「うん、ちょっと、や、だったけど・・・寝てる、カザミに、ごめん、って謝ってた、よ?」
「嘘だぁ。」
「本当、ホント。」
えぇ〜マジかぁ?ちょっとした事で即斬りかかりそうな人だぜ?「ごめん」じゃなくて「メンゴww」の間違いだろ、うん。
だって見てみてよ今のセラさん。
「ふはははっ!無駄無駄無駄無駄ァッ!!」
物騒な剣振り回してあんな事言ってますよ。一斬り一斬り「無駄」って言ってるのかな?これで拳だったら完璧にアウトだよ。
なんであんな事言ってるんだろうね?ゲスなオオトカーゲにトドメをさそうとしているのかな?それともセラさんの奇妙な冒険でも始まるのか?どっちにしろバトルを謳歌しているに違いない。
てかセラさん茶番いらないとか言っといて自分でやってるじゃんよ。
勿論、ふざけた台詞とは裏腹にガチな戦いは続行中だけど。
「・・・あの人が僕に謝ったって?」
僕はリンナをジト目で見つめる。じー。
「ホント、だよ?ホント・・・だよ?・・・ホントかなぁ?」
うぉい、最後。
「あ、吹き飛んだ。」
「え?」
リンナの呟くと、同時にバゴォン!!と衝撃音が辺りに響いた。
慌ててセラさんとオオトカゲの方に視線を向けると、そこには見たくない光景が現実となっていた。
「ゴアァァァァァァァアアアアッ!!」
オオトカゲが地響きを鳴らしながら雄叫びをあげていたのである。そこにセラさんの姿はない。
おい嘘だろ。心臓が止まる錯覚がした。
「ちょ!?セラさん!?」
僕が焦りと不安を含んだ声で叫ぶと、僕達の隠れている岩の正面から「・・・いっつー。」という軽い声と、石と砂が崩れ落ちるガラガラという音ご聞こえてきた。岩陰から微かに見えたのは、汚れるに汚れたセラさんのマントだった。
「セラさん!大丈夫!?」
「女ー!!」
思わず僕らは隠れていた岩陰から飛び出してセラさんの元に向かう。てかリンナ、普通にセラさんって呼んであげなよ・・・女って。
それはともかく、岩の正面にいたセラさんは瓦礫となった岩の正面にめり込んだ状態でいた。
肩の所に大きな引っかき傷がある。多分「無駄無駄ァ」と時に調子に乗って返り討ちを喰らってしまったのだろう。
セラさんはかなりボロボロだった。幸い、セラさん自体はダメージが肩以外は少なそうだけど、装備が弱すぎる。流石に布のマントじゃ駄目だろう・・・。装備のあちらこちらが破れていた。なんかエロい。
隠れるのも忘れて出てきた僕らに気づいたセラさんはすこし驚いたように天然ジト目を見開くが、すぐにおどけた調子に戻って声をかけてきた。
「・・・わ、私は・・・国に帰ったらルーシィと結婚するんだ!負けてられん!」
うん、やっぱりまだまだ余裕そうだ。誰だよルーシィって。英語のテストの登場人物ですか?
こんな状態でも茶番をするかセラさん。そんなキラキラしたツッコミ待ちのボケのような目でこっちを見やがって。肩からダラダラ血が出てるじゃないか。
僕はそんなセラさんのボケ頭にツッコミの代わりにと容赦なくチョップを喰らわせる。
「ていっ」
べしっ
「・・・え?」
いきなり打撃を貰ってしまった(セラさんにとってはノーダメージだろうけども)セラさんはなんというか呆然とした様子で僕を見ていた。
はぁ、まったくこの人は。
「セラさん!遊んでるから返り討ち喰らっちゃうんだよ!戦ってる最中だって変な事は口にしない!そりゃ途中で僕らもするのが悪かったけど、それ以前にガンガンやってたからねアンタ!するなら頭の中でしなさい!」
「・・・えっと、その」
「お黙りやがれ!僕らを守ってくれてるのはわかるけどもう少し真面目に取り組んで!いちいち僕らの肝を冷やさせないでくれ!」
「えっとすいません?」
僕が説教を演説するとセラさんは首を傾げながらも疑問系で謝罪した事に満足した僕はうんうんと頷く。ボソッと「・・・なんで私怒られてんの?」とぼやいているセラさん。いや分かれよ。こっちはやられたと思ってビックリしたんだからね。
「か、カザミっ!」
まったくもーっと腕を組んでため息をつくと、急にリンナが震えた様子で僕の尻尾を引っ張ってきた。
「あん?どうしたの?」
「う、ううう後ろ!!後ろ!!」
どうした?バグり寸前かな?とリンナを一瞥した後に後方を向いてみると、涎を垂らしたオオトカゲが僕を黄色い瞳で見下ろしていた。
oh・・・忘れてました。
「ガァァァァァァァァァアアアア!!」
オオトカゲは僕に向かって咆哮すると(隣にリンナ居るけどなぜか僕だけにクリティカルヒット!)その強靱な筋肉と鱗皮で出来ている前足を容赦なく僕に振り向かってきた。
遺言を残す時間をください。
たかがトカゲされどオオトカゲ。遠慮も配慮も無視した一撃は予想通りに僕の全身衝突した。痛いです。
そして僕はまた宙を飛んだ。本日二回目ですありがとう、また空に近づいたよ。
「ヌワアアァァァァァァァァア!?」
「カザミィィィィィィィィィィィィィィ!!」
爆風で飛ばされるのとは全く違う全身に激痛が伴う一撃。くそ痛いじゃないですかやだー。




