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僕は悪い魔物じゃないお!〜犬に転生した僕は成り上がる!〜  作者: ケモナー@作者
第1章《異世界に転生したから強くなってみるお!》
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ひ、膝枕だおぉ~///(笑)

やばいやばいやばい(ガクブル)

 私は咄嗟に抱き抱えてしまった力の無い体を見つめる。

 セミロング程度の髪の長さに140センチほどの小さな華奢な体。

 髪の色は私からコピーしたように白い白髪だったが、私と違うのは水色っぽい髪質ではない。

 彼のそれは灰色を帯びた髪色だった。おそらくコボルトだった身体から引き継いでいるのだろう。


 先ほどまで好戦的な鋭い瞳も、今は力を失い(まぶた)に閉ざされてしまっている。保護欲を掻き立てられる容姿に私は奥歯を噛みしめた。

 彼はコボルトの姿から一転、まるで人間のような形に姿を変えたのだ。

 ような(・・・)と確信出来ないのは理由がある。

 彼の姿は確かに人間なのだが、コボルトの時から付いていた狼の耳、尻尾、そして足は依然とコボルトのままだった。

 こんな中途半端な生物は見たことがない。獣人という種族は存在するが、それは耳や顔が獣だったりと身体の一部分のみの話だ。

 つまり、三カ所も獣の特徴を残した種族などいやしない。

 第一、体を変化させている時点で生物かどうかも怪しすぎる。討伐を依頼された"希少種"に間違いないだろう。


 正直、斬り殺してしまえばよかったかもしれない。最初に殺しておけば私がこんな思いをする羽目にはならなかったろう。少しでも捕獲したいと思ったのが間違いだった。

 完全に自業自得だ。私は彼を殺し損ねてしまった時点で敗北が決まっていたのかもしれない。



 私は・・・期待していたのだろうか・・・?

 何に?と聞かれれば困る。私だって何を彼に期待したのかよくわからないから。

 強いて言えば、彼が人の言葉を操り、ゴブリンの仲間の身を心配したり。

 この人間の思考を持つ魔物が、人と共存出来るかもしれないと少しでも勿体なく感じていたのかもしれない。


 その結果がどうだ?まさかあれがこんな姿になるなんて思ってもいなかった。

 既に失ってしまった肉親に酷似するなんて、ズルいと思う。


 死んだ妹の姿をした彼を私が斬れる訳なかった。


「・・・どうしようか。」


 私はう~んと唸って彼の身体を支える。

 殺せなくなってしまった。でもこの子はいずれ世界を破滅に導く魔物。本来なら駆逐しなければならない。

 しかし、それは不可能だ。私は魔物でさえ斬る事を躊躇ってしまう。

 盗賊やらの()は斬れる。明確な敵対の意志を持っているから。

 でも人の事情に巻き込まれてる魔物は罪悪感を感じてしまう。

 勿論、躊躇うだけで斬る事は出来る。

 そうしなければ私が死ぬからだ。

 ただ・・・だから肉親である妹の姿をした彼は本当にズルいと思う。

 ズルい。


「ナァァァァァ!カザミィィィィィ!」


 足下から断末魔にも似た声が私の鼓膜を揺さぶってくる。

 私は麻痺毒で動けずにのたうち回るゴブリンに視線を落とした。

 体型からして北の種のゴブリンだろう。人の姿に最も近く、意志疎通も可能な温厚な種族だ。

 なぜここにいるかわからないが、南の勢力に捕縛されたのか、たまたま追放されたものか、わからないけどカザミというらしい希少種()の名前を知っているなら彼の仲間なのだろう。

 しかし今私の腕の中で気を失っているカザミという魔物に会ってから、この短時間で驚かされてばかりだ。

 S級の冒険者である私に傷を負わせ、最弱であるF級のゴブリンを最低でもD級まで育て上げたのも、恐らくこの子なのだろう。


「カザミ、を、ハナセェェエエエエエ!!」


 なにより強い信頼関係を築き上げている。

 ゴブリンの少女は身体が痺れているにも関わらず、私の足にしがみついて言ってくるのだ。

 麻痺毒は並大抵の抵抗力でどうこうなるものではない。それこそ、私が打ち込んだのは大蜥蜴(ワイヴァーンダイル)すら動きを止めるであろう強力な毒だ。


 致死性は皆無だが、執念だけで・・・しかもゴブリンが麻痺毒に対抗するなど初めて見た。

 世界の不思議である。


「カザミ、放す!お前、カザミ、放せ・・・・カザミィ・・・」


 ゴブリンはペシペシ(リンナにとっては本気)と私の足を叩き、麻痺して動かない口で必死に彼の名を連呼する。

 が、いつまでも返事をしない相棒に最悪の事態が頭に過ぎったのか、次第にその呼ぶ声が萎んでった。

 先ほどの私を倒そうとした凶悪だった目に涙が混じり潤ってくる。

 抵抗していた力は麻痺毒よって刈り取られ、対抗する意志もなくなったであろうゴブリンは地に顔を向けて俯いてしまった。

 そうしていると、僅かに嗚咽の声も聞こえてきた。

 流石に可哀想になってきたので、私はふぅとため息をついてから彼の生死を教えてやることにする。


「・・・この子は生きてるから。死んでない。」


「・・・本当?」


 麻痺毒で身体が動かないのか、俯いたままそう聞くゴブリンに私は「ん。」とコクコクと頷いて肯定した。


「・・・ならいいぃ~」


 カザミという魔物が無事だとわかった瞬間、脱力したような脳天気な声が私の耳に届いた。

 やはりゴブリンは頭が悪いらしい。ちょろりん。

 騙してはいないんだけどね、生きてるし。


 さて、ここからが問題。カザミをどうしよう。

 任務的に考えて処分しないといけないんだけど、私には無理。ならどうしようか。

 むぅ、要は危険だから始末されるんだよね?なら危険じゃ無くならせればいいんだよね?

 手足を切り落とすとか?


「・・・」


 やっぱりだめ。だって手足切り落としたら食事とか出来ないもん(今ここでカザミが起きていたら「そう言う問題じゃない」とツッコミを入れていたが残念なことにカザミは気絶していた)。

 何かいい案はないかな?

 ・・・。

 ・・・。

 ・・・。

 ・・・ギュルルルゥ。


「・・・お腹空いた。」


 うーんと頭を悩ませていると私のお腹から空腹を告げる鐘の音が脳に響いてきた。お腹が減った途端私のやる気ゲージが光を失う。

 朝から食べてないから仕方ないと思う。

 とりあえずこの動けない二匹を持って帰ってそれから考えよう。

 うん、それがいい。


「!?何っ!!何ぃぃぃ!?」


 麻痺毒で動けないゴブリンを肩に乗せる。なんか喚いているけど気にせず歩き出した。

 さてと、お腹は減ったはいいけどどこに行こうか?正直希少種を探すことに夢中で拠点を作ることなんて考えてもいなかった。

 ご飯を食べるにせよ、この二匹をおいておくにせよ、まずどこかに腰を据える場所を探さなければいけない。

 私は唯一会話が出来るゴブリンに話を振るった。


「・・・運ぶからあなた達の拠点教えて。」


「?えっとね、そこ、を、真っ直ぐ・・・」


 ゴブリンは騙すことなく素直に道を教えてくれた。

 やはりこのゴブリン娘ちょろりん。





☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆





「・・・ん?」


 沈んでいたような、眠りに近かった感覚から現実へと意識が浮上していくのを感じる。

 その感覚と共に鈍った思考が活動を再開した。


(・・・暖かい・・・)


 後頭部に柔らかい感触がしてくる。

 なんでだろう、すごく安心する・・・。

 そっと目を開けてみると、視界に赤い光がパチパチと言う音と、体を温める熱と共にやってきた。

 そこにしか光はなく、辺りは黒く漆黒の背景に支配されている。恐らくこの光の正体は焚き火か何かで、現在の時間帯は夜なのだろう。

 そして自分の体勢を確認するが、どうやら僕は今仰向けの状態で寝かせられていたようだ。

 頭がぼ~として何があったか少し曖昧だけど。

 そんな時、ふと僕の耳にやる気の無いような無気力ボイスが進入した。


「・・・起きた?」


 リンナ?と一瞬思い、僕を見下ろしているだろう方向に目を向ける。

 しかしそこにあったのはそれなりに整った顔立ちにサラサラな薄い青みがかった白髪。そしてトロ~ンと眠たそうに半目になったマリンブルーの瞳を持つ少女の顔だった。

 どこかのお姫様ですか~?と訪ねたくなるような台詞が喉まで出るが、寝起き特有の脱力した身体は喋る事を諦めていた。

 ・・・あれ?リンナってこんなに青だったっけ?どっちかっというといや間違いなく全体的に緑だったんだけど・・・?

 はて、どこかで見たような・・・?


「うぅ~・・・カザミィィ~」


 聞き覚えのあるソプラノ声に僕は首を傾けて視線を向ける。

 視線の先には、まるで棺桶に入れたご遺体のように寝っ転がり、しかし目だけはこっちに向けている謎の体勢をしていたリンナが居た。

 ・・・・何してんの?


「そこー、代わるー、わたしやるー」


 リンナが不満たっぷり含まれた声でそう言ってくる。

 代わる?何を?と内心で首を傾げると、僕を見下ろしている少女が口を開いてこう言った。


「麻痺毒が切れるまで、あと一時間ちょい。」


「ムニャァァァァァァ!!!」


 淡々と喋る少女にリンナが不機嫌丸出しに喚き声を発する。

 む?代わる?麻痺毒?一体何がどうなっているんだ?


「私も、カザミに、膝枕、やりたぃぃぃぃぃぃぃ!!」


 もし麻痺毒というものがなければ、きっと駄々っ子のように手足をブンブン振り回してそうなしゃべり方に一瞬苦笑いを浮かべたくなったが、リンナの台詞の一文字に聞き捨てならない単語が紛れ込んでいた。

 なんだと?膝枕・・・?

 段々とボヤッとしていた思考が覚醒していく。


 もしや?と思った僕はダランと垂れていた右手を上げて、ちょうど後頭部で枕の部分になっている場所を思いっ切り掴んだ。


「んっ」


 鍛えられているが、女性的な特徴を残した丁度良い柔らかさをもった皮膚と肉の感触。

 掴んだ瞬間手布越しからも伝わってくる暖かく、そして包み込まれるような感覚。そんでもって上から反応してくる艶っぽい女性の声。

 まさに男が夢見る桃源郷。二次元にしか存在しないとまで言われてきた究極にて伝説の行為。

 H I Z A M A K U R A であることに間違いない。しかも白髪碧眼美少女によって。


「・・・。」


 これは・・・ぱねぇっす。


「すいませんでしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああっっっ!!」


 僕は世紀最大の大声を喉から絞り出して足に力を入れた。

 そして腰に思いっ切り力を投入し、仰向けの体制から半分ブリッジになるまで持ち上がる。

 そのまま足で地面を蹴り飛ばし、僕の体は地面と別れを告げた。

 僕は回転しながら宙を舞い、マット運動の後転のように膝枕の少女から距離を3メートルほど取って着地する。

 サーカスの劇のようなアクロバティック溢れる膝枕からの離脱方法に、少女二人は「「おぉ~」」と感心したように僕を見上げていた。

 が、そんなことは無視である。


 着地の時に両手の平と片足の平を地面に張り付け、最後の足を正座のように畳んで、体勢的に短距離競走のクラウチングスタートのような格好になってしまうが関係ない。


 僕は急いで足を畳み、両手を折り曲げて頭を地面に叩きつけ、最後にもう一度謝罪の言葉を口にする。


「すいませんしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!」


 そう、日本大和の国和の者の最大級の謝罪の仕方、土下座である。

 なぜここまでするかって、そりゃお前、僕はあの美少女の太股を握ったんだぞ!?思いっ切り柔らかい感触でした~じゃなくて!?

 普通にあれセクハラだから!不可抗力と言ってもセクハラだから!?セクシャルハラスメントだからね!!

 訴えられたらどうなるかってそりゃ美少女が涙目になって「あの人が私の太股を思いっ切り握ってきたんです」とか言えば間違いなく僕が悪役にされるだろうよ!

 裁判沙汰になって裁判長から「被告人は、か弱く純粋無垢な美少女の太股を堪能したことにより、羨ましいから有罪!」とか言われてもおかしくないんだよ!・・・いやおかしいか?まぁ大体こんなもんだろう。

 世の中可愛い子が正義なのですよ!むさい男はむさい男に囲まれてバカやってろってのが世の常なんですチクショウ!!(この時ばかりは女性耐性のないカザミは思いっ切り取り乱しており、本人も何を言ってるのか理解できてはいなかったのである。)


「・・・」


「・・・。」


 僕は頭を下げたまま彼女の反応を待つ、正直に言おうか、滅茶苦茶気まずいです。

 どれくらい気まずいのかと言うと、徒競走で一人だけ転んだ時くらい気まずいです。

 ・・・あれ?この例えだとあんまし大したこと無いな。あれ?


「・・・別に気にしなくていいよ。」


 そうして頭の中で葛藤を繰り返していると、なんと少女からお許しのお言葉を授かった。

 おぉ、この少女は女神か!?男が太股をしかも位置的には絶対領域と言われてもおかしくない付け根を揉んだにも関わらず、許してくれるというのか!?

 やったー!無罪だぁ!僕ぁ無罪だぁ!!


 礼を言おうと思い、土下座で下げていた顔を上げて少女を見る。

 ・・・あれ?何でだろう?顔を見た瞬間僕の足がガタガタ震え始めた。

 いや、顔は怖くないんだよ。寧ろ癒されるんだようん。いや違うよね?なんであの人が僕に膝枕してるんだよ、見間違いだきっと僕の見間違いだ。


 僕はゴシゴシと目を腕で擦ってから改めてその顔を視界に映すが・・・理解した瞬間、僕は絶句した。


 なんで気付かなかったんだろう・・・いや、寝ぼけた頭でも派手なアクションやら一人脳内で議論していれば、僕の鈍い思考でも既に完璧に覚醒はするよね。


 つまるところ、ぼやけていた視界が晴れたというかなんというか・・・。

 いや、どこかで見たな~くらいは思ってましたよ?うん。

 青い白髪、ジト目の蒼い瞳、ぽわ~んとしたしゃべり方。

 や、やばい・・・・すごくやばい。


「・・・?」


 僕の挙動不審な動きに疑問が沸いたのか、少女は表情を変えずに小首を傾げた。

 そんな可愛らしい仕草だが、僕には死神が首を曲げてこちらを睨んだようにしか見えなかった。

 僕に膝枕をした人物は、あの少女冒険者だったのだ。




「ギャァアァアアアアアアアアアアッ!!?」





長期休みこないのです。冬休み・・・

読んでいただきありがとうございます。

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