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僕は悪い魔物じゃないお!〜犬に転生した僕は成り上がる!〜  作者: ケモナー@作者
第1章《異世界に転生したから強くなってみるお!》
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冒険者に遭遇したお!3

にっくき期末テスト。

 刃が粉々に砕け散り、残った持ち手の柄の部分を投げ捨てて、荷物から即座にナイフを取り出す。

 少女の方はタガーの破片が目に入らないように一時的に目を閉じ、反射的に視界を閉ざそうとするハズだ。破片と言っても凶器には違いないのだから。


 それでも目を瞑るなんて行為はほんの一瞬で終わるだろう。

 いや、一瞬ではない。一瞬にも満たない刹那の時間と言い表すくらいのチャンスでしかない。


 僅かに瞬きをしただけ、その間にこの少女を倒すなんて僕には無理だろう。むしろ欲張れば返り討ちに合うだけだ。

 体の何処か・・・そう、どこでも良い。血が出る程度の傷を負わせられれば僕にはまだ勝算はあるっ!

 刹那でも、僕の速度が有れば隙である事には変わりない。一瞬の隙に、僕はさらに加速する!


 ━━━━1秒の半分が経った。弾き飛ぶ刃の破片に少女は少し驚くように表情を動かすと、反射的に目を瞑ろうとした。予想通りだ。

 僕はその間に空中から地面に降り立ち、ナイフを手に構える。


 ━━━━1秒が経った。少女の瞼は完全に閉ざされ、僕はその隙に地面を蹴って少女に飛びかかる。


 ━━━━1秒と少しが経った。瞼が開き、視界が復活したと同時に、僕は少女の目の前まで移動する事に成功した。

 手に持つのは触れたら簡単に怪我を負ってしまう凶器であるナイフ、そして目と鼻の先には驚愕の色を見せる彼女の瞳。


 僕は(やいば)を少女に向けて・・・切りつけるっ!


「うらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああっ!!」


「っ!?」


 ナイフの刃が少女の顔に吸い込まれるように切りかかった。このままなら少女の顔は大怪我を負うことに違いないだろう。

 しかし流石オオトカゲを討伐する実力は確かなのか、凄まじい反応速度で咄嗟に顔を守るように少女は右腕を上げた。

 代わりに守った手がナイフに切りつけられる

 僅かに傷口から出た赤い血が、空中に舞った。

 一瞬の隙を突いて成功した僕の斬撃は少女の手の甲を軽く切るというなんともいえない結果に終わってしまった。


 だが、これでいい。僕の目的は"血を流させる"事なのだから。

 僕は空中に飛んだ"血"を掴もうと手を伸ばす。

 そこに、綺麗で透き通るような声が僕の耳を(くすぐ)った。


「・・・意外にやる。楽しみ。」


 その声のせいで気を取られ、血を掴み損ねてしう。内心で舌打ちをして少女の方を向くと、初めてダメージを受けたにも関わらず、少女は痛みに顔を歪ませると思いきや逆に嬉しそうに口元を緩めていた。

 こいつ・・・バトルジャンキーじゃないですかやだー!!

 するとそこに刃が迫ってくる。


「っ!!」


 彼女の剣術にタガーでのガードは意味を成さない。ガードした途端壊されるからな。

 一応ストックはあるものの、無限にあるわけではない。無駄に消費するのは避けたいのだ。

 僕は急いで身を翻して回避に成功する。


「・・・やっぱり殺したくないな。欲しい。」


「お断りだよっ!!」


 避けた僕を物欲しそうな目で見つめながら剣を振ってくる少女に、割と本気で叫んだ。

 いや、白髪碧眼美少女に「欲しい」とか言われて嬉しくないわけじゃないんだよ?寧ろ嬉しいんだよ?僕元はぼっちだったしさ。

 だけどね、だけど状況が状況なんだぉぉぉぉおおおお!!

 この娘剣振り回しながら欲しいとか言ってるんだぜ!?絶対サンドバックにされるのがオチだよ!

 僕は美少女に殴られて喜ぶような変態じゃないん・・・・だっ!!

 いやちょっといいかもなんて思ってないよ?チクショウ童貞の(さが)かっ!!


 そういやさっきから静かだなと後方に居るであろうリンナの方をチラッと見てみると、彼女の方は両手にナイフを握り締めてゴゴゴと黒いオーラを発しながら少女を睨みつけていた。

 oh・・・。


「コロスコロスコロスコロスコロス、カザミ、ヲ、痛めつける、奴、は、コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロコロコロココロコロコロココロス。」


 こええええええええええ!!ヤンデレの勢いじゃねぇか!最後は言葉おかしくなってるし。

 いや、僕を思ってくれてるのは嬉しいんだけど怖ぇぇよ!!もうやだなんでこの世界の美少女はバイオレンスな奴らがばっかりなんだよ誰か清涼剤くれ!!


「って危なっ!?」


「・・・あっ。」


 僕が視線を外した一瞬の間に少女は容赦なく剣をきりかかってきた。

 僕は体の関節を限界まで捻ってなんとか回避するものの、また僕の灰色の毛が断ち切られ辺りに散乱する。

 あぁん!!僕のモフモフがまた減った!


「・・・仕事じゃなかったら捕獲(テイム)してたのに。仕事無視するか?」


「だからお断りだっつの!!」


 本気で捕獲しようと目がマジになっている少女に恐怖心を抱きながらも、僕はナイフを思いっきり彼女にむかって振り上げる。

 それを少女は剣の腹で防御し、防ぎ切った。

 刃と刃が打ち合って、半ば唾競り合いの状態になると、またもや希望論を述べてきた少女にツッコミをいれる。


 唾競り合いが長引くほど、僕の力が圧されていく。力の差が歴然すぎる。このままじゃ本当に負けるっ!

 畜生、血を流させれば僕にも勝ち目は見えたはずなのに・・・あの時血を掴めていればまだチャンスはあった。

 そう思った矢先、幸運が僕の味方をした。


「シャァァァァァァァァァァァァアア!!」


「む?」


 爬虫類じみた雄叫びをあげながらリンナが突っ込んできた。

 僕を越える尋常じゃないスピードで走るリンナは、加速してその分威力の上がっているナイフで突くように攻撃をし始めた。

 少女は腰から本来剣を収納するための鞘を、革のベルトから取り外すとそれでリンナの攻撃から身を守る。

 ガキィィンッ!!と金属が激しくぶつかり合う音が周囲に響いた。


「動き、止まった、見える抹殺抹殺抹殺抹殺抹殺抹殺」


「むぅ、・・・めんどくさい。」


 ガチガチと音を鳴らしながら、鞘とナイフでの押し合いが始まる。少女は左右片手で剣と鞘を持ち、僕ら二人同時に相手にして唾競り合いをするという神業をやり遂げた。


 リンナは言葉から察すると、唾競り合いで僕らの動きが止まったことでようやく戦いに参加できたようだ。滅茶苦茶物騒な言葉を連呼しているが気にしたら負けだと思う。誰に負けるんだ?しらん。

だがリンナのお陰で少女の意識を分散する事が出来たようだ。

 少女の「めんどくさい。」という言葉は、面倒というよりあきらかに二人同時で厄介という風に聞こえたからだ。


「リンナ、この人の相手出来る?僕は策があるんだ。勝てるかわかんないけど。」


「問題、ない。ブチコロス」


 可愛い声でそんな事言うんじゃありません。


「それじゃ。頼んだっ!」


「ん!」


 僕は唾競り合いをしていたナイフを手放すと、鍛え上げた脚力を使って勢い良く後方まで飛躍した。

 そんな僕に呆気にとられたような顔をした少女だが、すぐに無表情に戻すと剣を握り治して僕を追撃しようとする。

 と、そこに。


「コロスッ!!」


「・・・む。」


 リンナが横からナイフで突き刺すように攻撃をして、妨害した。

 少女は構えた剣でナイフの軌道をそらすと、すぐに剣でリンナを切り裂くように横に薙ぎ払う。だがそこにリンナの姿はない。


「・・・?」


 突如姿を消したリンナに首を傾げる少女だが、すぐにハッ!と何かに気付いた表情を作ると思いっ切り地面を蹴り、真横に飛び込んだ。

 次の瞬間、ゴッ!!と何かが貫く重い音が耳を刺激し、同時に大量の砂埃を舞い散らす。

 すぐに砂埃は収まり、"何か"の正体が明らかになる。

 先ほどまで少女が居た場所には、深々と地面に突き刺さる一本のナイフがあった。


「チッ!」


 するとそこに舌打ちするリンナが現れ、刺さったナイフを力任せに引き抜き回収する。

 リンナの投擲技術は相当なものだと重う。リンナは自分より手強い敵に遭遇すると、大抵ナイフ投げで牽制する事がある。

 それは、まだ素人同然だったリンナが何度目かピラニアラビットとの戦闘を開始した時だ。

 一撃でも喰らえば一発でアウト。しかし近づけば戦いの心得がない自分では近付くことも難しい。

 そこでリンナは手に持ったナイフを標的に投げるという大胆な作戦をやり始めたのだ。


 最初こそ外したりとミスが多かったものの徐々に的当ての技術が身に付き、次第に命中性も威力も向上していったのだ。


 だがしかしやはり武器には限りがあるので、リンナは自前の素早さを活かし、よく投げ終わったナイフをすぐに回収していた。

 投げナイフという戦闘方法では武器の消耗が激しい。何故なら大抵は一発使い捨てになるからだ。

 僕達は武器の補充が出来ないから一本一本大切に使わないといけない。


 だからリンナの場合は、投げた一発で致命傷を与えるほど威力と命中率を増加させるという一発勝負みたいなやり方でやっている。つまり、一発で標的を排除する事が前提なのだ。


 まぁ流石にいつもじゃないんだけどさ、余裕のある時は素早い動きで首を切ったりと暗殺者みたいな事をしてる。リンナがナイフを投げるときは、つまるところ余裕がないと意味する。


 つまり、初っ端から投げナイフを使ったリンナは初めから本気ということだ。


「・・・おお、早い早い。」


 リンナは回収したナイフの柄を逆手に持ち構えると、一瞬残像が見えるほど素早い動きで少女の周りをグルグルと回って混乱させようとするが、それを見て少女は嬉しそうに声を弾ませて、それをマイペースに眺めていた。



「余裕、なのも、今の、内っ!」


 リンナがそう言うと少女の目が変わった。

 するとそこに居たリンナの姿がかき消えて、次の瞬間目に見えるほどの無数にある斬撃の軌道が少女を襲った。

 シャーペンで描いたような鋭い線が、少女の体を切り刻むように空中に描かれる。


 これの正体はリンナだ。リンナが姿を追えないくらいの早さで移動しながら、ナイフの刃を切り上げたり下げたり薙ぎ払ったりする。

 その度にナイフの刃が煌めいて、まるでゲームの必殺技のムービーのように見えるのだ。


 ただ、流石に物凄い運動量なので、そのリンナの攻撃は保って5秒といったところだろうか。その後は疲労で動けなくなってしまう。

 ただ威力は絶大だ。これを喰らったピラニアラビットが血をまき散らして木っ端微塵になったくらいだ。リンナの捨て身の必殺技である。僕がふざけて「《千の剣技サウザンドフェンシング》だ。」とか言ったら気に入ってそのまま技名にしたのいい思い出である。

 ・・・流石に千とかサバを読み過ぎたけどね。


 しかし、リンナの奥の手であるこの剣劇は、そう言っても仕方がないと思うほど、精密な剣捌きを一瞬の時間帯に行っている。

 標的を切り裂く剣技の嵐が、少女へと容赦なく襲いかかった。しかし・・・


「・・・まだ遅い・・・かな?」


 嵐の中から、涼しげな声が聞こえてきた。


 キィィンッ!!


 刹那、鉄が弾け飛ぶ鋭い破壊音がした。

 勢い良く空中に踊る折れたナイフの刃、驚愕に染まった見開くリンナの目、振り上げられた少女の剣。


 ドサッ!


 重い音を立てて、柄と切り離された刃が地面に突き刺さる。僕のタガーと同じような運命を辿ったナイフは、ただの鉄の塊に成り果てた。


「・・・」


 リンナは状況が飲み込められないのか、動きを止めたまま何も言えずに、折れた柄の部分を凝視している。

 一応あれはリンナのサブ武器だから、メインのナイフより耐久率はないんだけど、それでも・・・いや、まだそれならわかる。僕だって壊されたんだから。でも問題はそこじゃない。


 マジかよ・・・あの目で見えない刃の嵐を、この人は見切ったってのか?

 しかも余裕・・・というよりも眠そうな無表情の表情を崩さないまま。

 驚きのあまり、僕も足を止めてリンナの方へ振り返ってしまった。

 そこで視界に映った情景は、今まさに武器を振り下ろそうとしている少女と、動けないリンナの姿。

 僕は咄嗟に叫んだ。リンナの今更気付いたような間抜けな声が聞こえる。


「・・・あ。」


「・・・っ!リンナッ!!」


 唖然としていたリンナの腹に、少女の鞘がめり込んだ。ここからじゃ少し遠くて、よく衝撃音が聞こえなかったが、リンナの体が一瞬「ビクンッ」と大きく痙攣したのは見えた。

 リンナは悲鳴も上げずに、地面に倒れ込む。

 ・・・そして、そのままリンナは糸の切れた人形のように動かなくなってしまった。


 激しい同様と恐怖心が僕の心を揺さぶる。心に浮かんだのは、「死」という災厄の文字。


━━━ドクンッ!


 僕の中で、何か黒い感情が目を覚ました感覚がした。そのまま黒い感情が血のように全身を駆け巡るような不快な感覚。全てを壊したくなる破壊心の感情。

 コワシタイ。異常なまでに沸き上がってきたこの感覚に、このまま全てに身を任せようか?そう考えた次の瞬間。


「・・・手加減はした。30分くらい動けないから。」


「ヌギギギギイ!」


 マイペースな少女の台詞と、憎たらしげに聞こえるリンナのうめき声に、僕の心が落ち着いた。さっきまでの黒い感情が、嘘のように晴れる。


 なんだったんだ今の?


感じたことのない沸き上がってきた残酷な感情に僕は冷や汗を垂らすと、手に持っているナイフを強く握り、少女へと構えた。

 得体の知れない黒い感覚を忘れたくて・・・。



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