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ブレイヴ・ワールド  作者: 四篠 春斗
氷の都篇
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6 洞窟の支配者 I

2045年9月18日、ライトがこの世界『ブレイヴ・ワールド』に来てから1ヶ月半と少しが経った。


現実世界の日本と違い、フィールドごとに季節や天候が固定されたこの世界において、日付というものは、本当に日付を教える役割しか果たさない。


外は吹雪。気温は氷点下17度。視界不良の上、普段よりも低い気温。寒さに適した体質をしているモンスター達とは違うハンター達は、皆クエストに出たくないと、自宅やクエストカウンター前で暇を潰している。


「はあ…どうやったら人と絡めるんだ…絡まなすぎて絡み方忘れちまったよ」


ここに、クエストカウンター前で時間を潰すハンターが1人。壁際のベンチに腰をかける黄色いパーカーの少年。背中に黄金色の太刀『金剛刀』を背負った、見た目はまだ貧弱そうな初心者だ。だが、こう見えてもLvは74、そこそこの太刀使いのハンターなのだ。



そんな少年・ライトの悩みは、パーティーを組めない事だ。人を信じる事ができず、誰にでも警戒心や不信感を抱いてしまう。


「父さん…母さん…」


ライト、いや、雷斗が人を信じられなくなってしまったのは、3年ほど前の事。当時中学校に入学したばかりだった雷斗は、違う小学校出身の生徒とのコミュニケーションを積極的に取る明るい生徒だった。入学して2ヶ月が経つ頃には、雷斗の周りは友達で溢れかえっていた。


部活には属さなかったが、雷斗には剣の道があった。


父親が真剣を使った剣術を教える稽古場の師範代で、その息子である雷斗も、幼い頃から剣術を叩き込まれ、その実力で全国に名を轟かせた事もある。


そんな理想的な学生生活を送っていた雷斗の日常は、ある不幸によって180度反転する。


雷斗の母は、大手医療品メーカーの社長の専属秘書という位置に着いていた。


中学1年の冬、学校は冬休みの頃、母の勤め先の医療品メーカー本社に勤める社員と、その夫もしくは妻を対象とした社員旅行が企画された。旅行内容は7泊8日のイタリア訪問。賛成多数で旅行は決行されることになったが、今回息子、娘は旅行に参加する事ができないため、雷斗は父方の祖父の家で留守番していることになった。


だが、雷斗の両親は、旅行期間の8日が経過しても帰ってこなかった。携帯電話に電話をかけても応答はなく、ツアー会社からの連絡もない。なんと、ツアーガイドも帰還していないというのだ。


失踪が判明してから3日。母方、父方の祖父母が捜索願を提出、直ちに捜索が開始された。だが、両親がいる可能性のある場所を隈なく探したものの、見つからず、開始2ヶ月で捜索は打ち切られた。


「父さん…?母さん…?」


両親を失った、その事態を理解するのに、何日かかっただろう。どうせ、どこかで生きているんだろう。そう、信じ込んでいた。雷斗も、世間では反抗期とされる年頃になっても、両親に罵声を浴びせたことはない。尊敬する両親だったから…。


理解した時、大泣きした。自分の部屋の部屋の隅で、いじける子供のように泣いた。カーテンを閉めきった暗がりの中で、突然の悲劇を恨んだ。嘆いた。


それなのに………


「どうせお前、父さん母さん見捨てて逃げたんだろ?自分だけ」


抜け殻のようになって登校した雷斗にクラスメイト達がかけた言葉は、軽蔑に満ちた心ない言葉だった。それまで仲の良かった友人も、雷斗のそばに来なくなった。雷斗がそばに行けば、離れていく。


雷斗は、有りもしないことで軽蔑されているので、気にしないように学校に通った。最初はイジメ行為などがあったものの、全て無視しているうちに、いつしかそれは無くなり、雷斗から話しかけることも、雷斗が話しかけられることもないまま、中学2年生の夏休みを迎えた。


夏休み。幸福なのか不幸なのか、雷斗は二度目の悲劇と遭遇する。


8月10日、千葉県内陸部を震源とする、マグニチュード8.8、最大震度7の大震災が発生した。千葉県に住んでいた雷斗も、この震災の被災者となった。


都市部は壊滅、死者・行方不明者は25000人を超えた。沿岸部にある原子力発電所では、爆発によって放射線を辺りに撒き散らしてしまった。


家を無くした雷斗と父方の祖父母は、埼玉県の知り合いの家に避難させてもらうことになり、雷斗も、近くの中学校への転校が決まった。


雷斗は、自分の家庭の事情を知らない人たちのところに行くことで、また中学1年の時のような学校生活を送れると、そう思っていた。


だが、実際は違った。真逆だった。


クラスの皆は、雷斗を転校初日から避けて通って行く。雷斗は、転校生と話すのはなんか緊張するのかな、と思い、ある男子生徒に話しかけた。


「あ、あの…俺…」


「話しかけんな」


雷斗が言い切る前に、男子生徒はそれを切った。


「え?」


「だってお前千葉からの被災者なんだろ?放射線とか浴びてんじゃねぇの?」


「な…違うよ、俺は内陸部に住んでたから、原発の放射線なんて浴びてない…」


「ウソつけ。ぜってー浴びてるよ。だからさ、俺も被爆しちまうから近寄んな」


酷いものだった。誰に話しかけても、反応は同じ。雷斗の席と前後左右の席との距離も大きく、席替えの時に雷斗の前後左右に座る事になった生徒は皆、あからさまに不満を口にしていた。


日本政府は、被災者の社会復帰を最優先に事業を進めると明かしたが、震災とは全く関係ない法案を作成したり、あまり仲の良くない対立国に喧嘩を売るような真似をしたりと、事業は全くと言っていいほど進められず、やがて国民の批判が募り総選挙が行われ、政権が代わった。


だが、新たに政権を握った党も、やっていることは、政権交代前と変わらない。やる面子が代わった。ただ、それだけの変化しかなかった。


友達0で中学校を卒業、雷斗はさいたま市内の公立高校へ進学した。


高校では、雷斗を放射線呼ばわりして避ける者はいなかったが、もう雷斗は、人を疑わないと接することができない人間になっていた。


これまでは避けられてきたが、今度は避けるようになったしまったのだ。


そして3度目の悲劇…いや、これは幸福と呼ぶべきなのか、雷斗はこの『ブレイヴ・ワールド』へとやって来た。


あんな世界を出られた、その面では幸福と捉えられる。でも、このままここにいてもいいのか、という問いの答えを、今のライトは欲していた。


「俺は…どうしたいんだろう?」



すっかり考えこんでしまった。だが、答えは出ずじまい。


パーティーについては、誰かが誘ってくれるのを待つか。誘ってくれる人がいたら、是非参加させてもらおう。


「とりあえず、レベ上げ行ってくるか」


ライトは、右手の水晶に触れ、ウィンドウを開くと、『STUTAS』を確認する。現在のレベルは74。まあ、この1回の狩りで5くらい上げられたら良い方だろう。


「Lv.74!?すごいね!君」


「うわっ!?!??」


突然耳元から聴こえた大声に、ライトは驚いて立ち上がる。


そこには、綺麗な長い茶髪で、ピンク色が基調の装備、主武器(メインウエポン)剣銃(ソードガン)の少女が、ニッコリと笑ってライトを見つめていた。


「私、サクラっていうの。ねぇ!もし良かったら、私のパーティーに入らない?」


サクラという少女は、ミニスカート型の防具をヒラヒラさせながら、大きく手を広げた。


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