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ブレイヴ・ワールド  作者: 四篠 春斗
女神の丘篇
56/60

1 四季の丘 I

新章スタート!!

女神の丘。


四季が織り成す、雄大な絶景を臨める神秘の街。


春は桜の花びらが辺り一面を鮮やかに彩り、夏は熱い陽射しが容赦無く地を照りつけ、秋は木々の葉が紅く色付き、やがて散り、冬は一面の銀世界が見渡せる。


その丘に門を構える街『ビュートビーナス』


街の中心に堂々と立つ女神像は、この街の象徴(シンボル)と言えるだろう。


両手を大きく広げた女神像は、大昔にこの街から眺めることのできる絶景に感動し、見えるモノ全てを抱きかかえようとした美しい女性がモデルになったと伝えられている。


木造からコンクリート製まで、多種多様な建築物によって構成された住宅街は、現実世界の日本でもありふれた光景を披露している。


象徴である女神像から、見渡せる絶景まで、多くの観光スポットが存在するこのビュートビーナスでは、当然宿泊施設も充実している。観光地ランキングは常に上位にランクインしている。


そんな大自然豊かな街に、一組のペアが来訪する。


彼らは、新たな冒険に胸を膨らませながら、ビュートビーナスの門をくぐる。



彼らはまだ知らない。


大人気観光スポットに隠された、恐ろしい秘密を。



「はいはい押さないで!2列に別れますから順番に!!!」


大人気遊園地『女神丘ワンダーランド』のアトラクション『ファンタジーコースター』の従業員数名が、行列を作る客たちに声を投げかけている。


女神丘ワンダーランドで人気ナンバーワンのアトラクション『ファンタジーコースター』は、コースターがクルクル回りながら前進し、レールを伝って一回転までするスリル満点の絶叫マシンだ。


過去最高の待ち時間は10時間。中にはこのアトラクションに乗るためだけに来たという強者も存在したりする。


当然、そんなにも長時間待たされた客たちは、自分達の番が目前まで迫ると、いても立ってもいられなくなってしまう。そうして起こってしまうのが、押し合いだ。


「速やかに移動して下さい!安全バーをカチッとなるまで下げて下さい!」


客が乗り込んだコースターが、順番に出発していく。


上昇して最高点に達したコースターは、一度速度0となり、そして傾斜45度ほどの下り坂を下っていく。


男性と女性の悲鳴と絶叫が響き渡り、遊園地にありふれた光景が展開される。


人気の遊園地である『女神丘ワンダーランド』だが、実は営業停止を求める声も寄せられている。


その理由として上げられるのは、遊園地の隣に総督府が存在することだ。


この世界(ブレイヴ・ワールド)からの脱出を目指し、命懸けの戦いに挑もうとしている場所の近くで、能天気な絶叫が聴こえてくれば、ハンター側からすれば不愉快でしかないだろう。現に、閉園を求める声の主の大部分がクエスト攻略に精を出すハンター達だ。


だが、そんな声もある中、人気を保っているのも事実であり、経営者側は簡単に閉めるわけにはいかないのだ。それに、閉園に反対の声も多数上がっている。


結局、この遊園地のこれからについては、平行線のままなのである。



正午--午後12時。安全点検のため、『ファンタジーコースター』は一時運転停止の時間だ。


街中でHPの減少は無いものの、身体への強い衝撃はスタミナ回復に支障をきたす。日常生活でも便利なスタミナ回復の遅延は、この世界に住む人々全ての生活リズムが狂うということになるのだ。


よって、ジェットコースターの安全点検は当たり前、『女神丘ワンダーランド』は毎日5回のチェックを怠らない。


絶叫アトラクション以外は稼働していない今、パーク内に大声が響き渡ることはない。


だが。


その声は唐突に、甲高く遊園地を震わせた。


「うわあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぉぁぉぁぁぁぉぁぉぁぁぉぉぁぁぁぉぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」


気を狂わせた男が、絶叫しながら遊園地へと飛び込む。どうやら場所などどうでも良いようだ。


だが、どうでもいいや、と片付けるわけにもいかない遊園地スタッフは、直ちに発狂男を取り押さえた。


男は拘束されても狂乱していたが、解放を求めての荒ぶりではなく、別のことに対してこのような行動をとっているようだ。


「どうした?ハッキリ言うが、ウチの園内でそんな障がい者じみたの声を出すのは辞めてくれないか。他のお客様(ゲスト)にも迷惑だからね」


男を取り押さえたスタッフが、尚も抵抗を続ける男をしっかりと固定しながら、眈々と訊ねた。


だが、男は狂ったままの状態から元に戻らず、騒々しい声は鳴り止まない。


「これ以上騒ぐなら、ギルドの牢屋行きになるが、どうする?」


スタッフは不本意な脅しをかけるが、それでも男は静まらない。


この興奮状態は、普通ではない。そして「おかしい」で済まされる状態でもない。


明らかに、この男の精神を粉砕した何かが存在している。


「はぁ……」


駆けつけた他のスタッフに目を向け、男を取り押さえたスタッフはため息をついた。


「先輩、この人は……」


後輩スタッフが問う。先輩スタッフは「おそらく」と頷いた。


後輩スタッフは男に軽く触れ、男のステータスウィンドウを開いた。


レベルは101。最初に攻略した街は【渓谷の街・アウル】。その次にやってきたのが、ここ【高丘の街・ビュートビーナス】と記されている。


「アウルからビュートビーナスか……。やはり、こいつも知らなかったのか」


「そのようですね。それにアウルというと…最も易しい街、でしたよね?」


ステータスウィンドウを少し見ただけで、この男の置かれた状況を大体は把握した2人のスタッフは、今もなお泣き叫び続けている男を、憐れむことしかできなかった。


「おい…アンタ、仲間が死んで悲しいんだろう?泣き喚くことを止めはしないが、できれば外でやってくれねぇかな?ここは他の客もいるんだ」


「申し訳ありません。他の来園者の皆様に不愉快な思いをさせないためにも、ご協力をお願いします」


先輩スタッフが少し馴れ馴れしく、後輩はしっかりとした敬語で、遊園地から出ることを勧めた、というよりは求めた。


ようやく迷惑な行為をしていたと気づいた男は、肩をヒクッヒクッと痙攣させながら、ゆっくりとした足取りで遊園地を後にしていく。


「またか…誰も教えてやらんのか?この街は」


「この街は情報制限が厳しいですからね。何故隠しているのかは、よくわかりませんが」


2人のスタッフは、騒いだ男に不機嫌な表情は向けなかった。むしろ同情したような顔をしている。


「皆、お気楽に来るんだろうな。観光スポットってイメージが濃すぎて、そっちの情報までは回らない、とかな」


「2番目に難しい街、か……。確かに、この街で暮らすハンターはあまり見ないな」


「もう『ユグドラシル・シティ』へ入る事が許されたハンターならともかく、まだ攻略途中のハンター達が暮らせるような街ではありませんからね」



この世界(ブレイヴ・ワールド)にある、『ユグドラシル・シティ』を除く5つの街。


受注できるクエストの平均的な難易度は、それぞれの街によって異なる。


最高難度の街は、水中戦闘がある事から【絶海の街・フロリスタ】、最低難度の街は【渓谷の街・アウル】と、されている。


そしてここ、ビュートビーナスは、フロリスタの次に難しいとされる、突破難関の街である。


観光地というイメージに囚われ、この事を知らずにクエストに挑んだハンターが何人も犠牲になったという、不本意な裏の顔を持つ街なのだ。


皆が口を揃えて「綺麗」と声を発して眺める大自然の中で、たくさんのハンターが光の塵となって霧散している事を知らないハンターは、この世界(ブレイヴ・ワールド)にはごまんといるのである。

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