EX ep1 雪降るハロウィン III
「どうだ?サクラ」
吠える獅子の描かれた黒のトレーナーの上に、黄色のファー付きフードの付いたジャンパーを羽織り、紺色のダメージジーンズを履いたライトが、慣れない洋服選びに手間取りながらサクラに訊ねる。
サクラはオシャレしたライトにしばし見惚れてしまい、ライトの問いかけに反応できなかった。
「おい、おい、おーーい、サクラさーん?」
目の前でライトに手を振られ、ようやく我に帰ったサクラは、
「あ、はい!なんでひょう!!?」
と、慌てて応答する。
「なんでひょう、って…」
面白い噛み方をしたサクラを見たライトは咄嗟に背を向ける。だが、肩が揺れているので、笑いを堪えきれていないのがわかる。
サクラはムーッと頬っぺを大きく膨らませて唸ったが、こうなったのは自分が原因なので、サクラは怒れる立場ではなかった。
「ごめん…もう1回言ってくれる?」
「これ、似合うかなって訊いたんだけど」
サクラは改めて今のライトを見渡した。
イメージカラーの黄色は必需品なのでしっかりと取り入れ、その黄色と仲違いしない黒のトレーナー、膝の辺りにあるダメージが味を出す紺色のジーンズ。かっこいい要素たっぷりの中に、まだしっかりと被っているカボチャの帽子が可愛さを混じらせている。
そこそこ顔立ちの良いライトをしっかりとコーディネートするとここまで映えるんだなぁ…と、サクラは自分のセンスを心の中で褒めた。
「うん、似合ってるよ。やっぱりライト君は黄色だよね」
「じゃあ次は青のやつ着てみるか」
「似合わないからダメ」
「着る前からそれはちょっと…」
「だって似合わないって解ってるもん」
「それは…お前、先入観って単語を知ってるか?」
「知ってるよ…バカにしてるの?」
少しムスッとしたサクラを無視し、ライトは続けた。
「お前、先入観に囚われすぎ」
「……わかった。他のやつも試着してみよ?」
ライトの服を買いにきたはずなのに、何故か選べる側のライトがホッとしなければならないのか、なんて疑問を頭の片隅に浮かべながら、ライトは気に入った黄色以外の色の服をタッチし、一瞬で試着する。
だが、サクラは「似合ってるね」か「似合ってるよ」しか言わず(というかどちらも同じ)、別に時間がかかっているわけでもないのに欠伸までする始末。どうやらサクラは、黄色の服を着たライトにしか興味がないようだ。
そんなサクラの態度に負けてしまったライトは、結局最初に試着した黄色のジャンパーと黒のトレーナーを購入する事にした。もちろん、サクラは上機嫌だ。
「もうすぐこの街の攻略も終わるけど、春物とか…は売ってねぇか」
「だね〜。次の街に行ったら、そこに合った服は売ってると思うし、『ビュートビーナス』とかに行って冬だったらまたこの服着れるし、とりあえず今は大丈夫だよ」
『ビュートビーナス』は四季がある高原フィールドだ。毎年、桜が舞う中クリスマスを祝うという、日本人としては''雪降るハロウィン,,と同じくらい新鮮な感覚を体験する事もできる。
四季があるということは、当然洋服店で扱う服も季節ごとに変わるわけで、『ビュートビーナス』に来れば、すべての季節のコーディネートが可能だ。
なので、今焦ってたくさん服を買うことは止めた2人は、ライトのジャンパーとトレーナーの購入が完了すると、ライトは買ったばかりの真新しい黒のトレーナーと黄色のジャンパーに、サクラは黒のポンチョ型のコートと、膝より少し上までの丈の黒のスカートに黒タイツという、全身真っ黒のスタイルに着替えた。
「私もやっとオシャレできるよ〜」
サクラはその場でクルンと一回転して見せると、微妙に恥じらいながら「…どうかな?」と訊いてくる。その微妙な恥じらいが男心を擽るという事を、サクラは知っているのだろうか。
「あ、ああ…よく似合ってる…うん」
思わずサクラの事を何度見かしてから、ライトは答えた。
「ホント?嬉しい!!ライト君もよく似合ってるよ!!!」
サクラはパァ!!と明るい笑顔を見せて、ライトの隣を歩きながら洋服店を出た。
外へ出た2人を待っていたのは、またまたお化け達だった。
だが今度は何かを被せたり着せたりするのではなく、ハロウィン限定メニューを紹介したチラシの配布が多かった。
電子チラシなので荷物になる事は無いが、メールの受信箱の最新20件はこの手のチラシで埋め尽くされた。
サクラはチラシに載っていたモンブランやケーキが食べたいとライトに話した。だがその時はお昼ご飯の時間、どのお店も混んでいると判断した2人は、先にサクラの行きたい(高級な)洋服店に向かう事にした。
サクラが行きたいお店に向かっている途中、中心街のメイン広場に到着した。
メイン広場はハロウィン仮装大会が開催されており、たくさんの人々で賑わっていた。
どうやらこの仮装大会は単にカボチャを被ったりお菓子の仮面を着けたりするのではなく、大人なファッションでハロウィンを出す、というのがテーマなんだそうだ。コーディネーター達の腕の見せ所だ。
「へぇ〜いろんな衣装があるんだねー」
「そうだな。俺に似合うやつはあるのか…?」
お目当ての洋服店はこの広場を通り抜けないと着かないので、ただの話題提示として呟いたサクラだったが、すっかり仮装する気マンマンのライトの声を聞き、立ち止まった。
「あれ…私の服は…?」
「え、せっかくココ通ったんだし、仮装してから行こうぜ」
「でも…帰りも通るし……」
「そっか…仮装は嫌だったか…」
「い、いや、そういうわけじゃ…」
言いかけた時、サクラの背後から聴き覚えのある女の子の声が聴こえてきた。
「あれっ?サクラにライトじゃない。何してんの?」
「元気そうだね、2人とも」
後ろからの声の主は、今パーティーを組んでいるメンバー、レオとユヅルだ。
『音速の破壊者』という二つ名を持つ2人だが、実は重度はシスコ……強い兄妹愛で結ばれた、兄妹のペアでは最強と思われるハンターである。
いつもの服装ではないライトとサクラを見て、レオとユヅルは目を合わせた。直ぐにライトとサクラの方に向き直り、レオは笑顔で、ユヅルは笑顔にプラスしてグーサインまでしながら、ライトとサクラの横を通って遠ざかって行く。
「邪魔をしてすまなかったな」
「楽しみなさいよー」
その瞬間、サクラが俯いた事に気づかなかったライトは、レオとユヅルが早々とライト達から離れた理由を察する事なく、
「ああ、これから仮装するんだけど、お前らもいっしょ……」
「しーーーーーっ!!!!」
言いかけたライトの言葉を、ユヅルが口の前に人差し指を立てて止めた。
台詞をキャンセルされたライトは、ユヅルが指差す先を見る。
ユヅルが指していたのは、まだ俯いたままのサクラ。俯いているので、どんな顔をしているのかは解らないが、耳がほんのり赤いのは確認できる。
「これはデートじゃないこれはデートじゃないこれはデートじゃないこれはデートじゃないこれはデートじゃないこれは………」
呪文のように唱え続けるサクラに、ライトはものすごく対応に困った顔で声をかける。
「サクラ…?大丈夫ッスカ?」
「これはデートじゃなくて買い物これはデートじゃなくて買い物これはデート……キャーーー!!!!!」
突然甲高い声を上げて、サクラは走ってどこかへ消えてしまった。
呼び止める時間すらなかったので、あっさりとサクラを見失ったライトは、少し離れた所からこちらを見ているレオとユヅルに目を向ける。
だがレオとユヅルは、「サクラを追え」と、顎でそれを促すだけであった。




