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ブレイヴ・ワールド  作者: 四篠 春斗
氷の都篇
50/60

EX ep1 雪降るハロウィン I

今回から少しの間はサブストーリーです。

『雑草たちの謀略』と『覚悟の証明』の間にあった物語です。

10月31日、ハロウィン。


お化けたちがお菓子が欲しくてイタズラをしてくるというイベントが行われるのが、この日である。


日本人であるライトは、雪のある中でのハロウィンというものに、あまりまだ慣れていなかった。


「ハロウィンか…異様な光景だな……」


雪が積もったカボチャを被ったおと……お化けが、小さな子どもにイタズラしている光景が、ライトの自宅の窓から見ることができる。


「今日は街も賑やかだろうな。なぁ、サク…ラ…?」


サクラに問いかけようとしたライトは、途中から変なリズムになってしまった。


最近、サクラの様子がおかしいのだ。ずっと下を向いて指をいじっている。話しかけると「ウヒャッン!!?!?」なんて声を出して顔を赤らめるのだ。


「な、なに!!?ライト君」


「あのさ、今日はハロウィンだし、街ブラつかないか?」


「えっ…!?!!?」


サクラの拍子抜けた声に、ライトは首を傾げる。彼は、サクラの心情を全くと言っていいほど読み取れていないのだ。


「だ、大丈夫か、サクラ?まだあいつらのアレが……」


「ううん、それはもう大丈夫。そ、その…ライト君が家に泊めてくれてるから……」


(くれない)の頬っぺたを見せながら、サクラはブンブンと両手を振る。


だがライトは、サクラが頬を赤くしている理由を悟らないまま、


「そっか、なら良いんだけど」


と、サクラのちょっとした恥じらいをスルーしてしまう。


サクラは「鈍感」と心の中で呟くと、小さく深呼吸をして、なんとなく辺りを見渡す。


ライトの部屋。と判断した瞬間、サクラは身体が熱くなるのを感じる。もちろん、「感じ」だ。


一週間ほど前、サクラとユヅルは雑草たち(ウィーズ)に騙され、フィールド上で拉致されてしまった。


女性として恥辱を覚えた悪夢からサクラとユヅルを救ったのは、それぞれの相棒(パートナー)であるライトとレオだった。


雑草たち(ウィーズ)を牢獄送りにした後、ライトはもうこのような事にならないようにと、どちらかが相棒(パートナー)の自宅に泊まって暮らそうと提案したのだ。


軽々しく異性との同居を提案するライトに、これが彼の本性か、と思ったが、それはかなり無礼な思考だと直ぐに悟った。何故なら、無意識の内に赤面していたサクラに、「なんで顔赤くしてんだ?」と訊ねたからだ。


結果、サクラがライトの自宅に泊まることになり、現在に至る。


ライトやレオが気を遣って、恐怖や恥辱を体感した2人に、精神の休養が必要だと言って、ここ一週間と少しの間、サクラとユヅルは充分に休養を取った。


サクラはいつもライトが側に居てくれるから、雑草たち(ウィーズ)に植えつけられた恐怖や恥辱はあっさりと消え失せて、もうすっかり元気なのだ。


だが、加速する心臓の鼓動はどうも収まらない。ライトと一緒にいれて嬉しいのに、どうも心が落ち着かない。なんでもないのに、ただ会話を交わしただけで頬を赤くしてしまう。


これが『恋』だという事に、サクラはとっくに気づいている。


だが、鈍感な彼は、サクラが自分に好意を抱いているなんて気づかないだろう。


サクラが、告白しない限り。


「うん、私は大丈夫だよ。で、お出かけだっけ?せっかくハロウィンだしね、行こっか‼」


なんとか心を落ち着けて、サクラはスムーズに言い切った。


「そうだな。じゃ、行くか。サクラはどこに行きたい?」


楽しそうにサクラに問いかけるライトに、サクラは少し挑発気味に言ってみた。


「いいの?女の子は買い物(ショッピング)とか大好きなんだよ?」


「おう!ドンと来い!!なんか好きなの買ってやるよ!!!」


「え!!?ホントに!!?!?」


「おう!!」


もう恋人同士のような会話になっている事に気づかない2人は、笑い合いながら行き先を決めようとしていた。


「総督府近くに可愛い洋服のお店があるんだけど、そこの服、買ってもらってもいいかな?」


あまり衣服の店に詳しくないライトは、その店がどんな店か知らないまま、


「勿論」


と、答えてしまう。


「ホント!?やった!!あそこの店、結構高いから買ったことないんだよね〜」


「ぐっ…高い…のか」


ライトは自分のステータスを確認しようとするが(所持金も表示されるから)、男に二言は許されないと、それを止める。


うん、大丈夫。今まで狩りしかしていなかったのだ。防具や武器もあまり作ってないし、たまにプライベートで使う分のお金くらい、残っているはずだ。


そう自分に言い聞かせ、ライトは笑顔でサクラの言葉に相づちを打っていた。


「ライト君は?どこか行きたい場所とかある?」


御所望の店の服を買ってもらえると、目や顔が輝いているサクラが、ライトに訊ねた。


「う〜ん、やっぱりハロウィンだし、お菓子食べたいかな。あと仮装もしようぜ」


「仮装?」


「ああ、たしか中心街のメイン広場でそんな感じのイベントをやるってユヅルから聞いたぞ。もしかしたらユヅルとレオも来るかもな」


「来るかもしれないんだ……」


「ん?会いたくないのか?」


「ううん!!そうじゃなくて…」


「この鈍感!!!」と、今度は心の中で叫んで、サクラはプクゥ〜と頬を膨らませる。


「な、なら、あの兄妹に会わないように行くってのはどうだ?鬼ごっこみたいで楽しそうだし」


なんとなくサクラの気持ちを理解したのだろうか、ライトは焦りながらそう言った。


サクラはそれで文句無しだったが、ライトを少しからかってみた。


「ふ〜ん?そんなに私の仮装がみたいんだ?」


ここで初めて、ライトも少し頬を赤くした。


サクラは心の中でガッツポーズをすると、


「あ、大っきなカボチャが歩いてる!!」


なんて窓の外を見ながら言って、自分で話を切り替えた。


からかわれたライトは「敵わないな」と苦笑しながら、右手の水晶に触れ、メインメニューのウィンドウを開き、部屋着のスタイルから、いつものハンタースタイルに着替える。(着替えはいちいち服を脱がなくても一瞬でできるので、わざわざ異性の死角に入らなくても問題はない)


それに習ってサクラも着替えようとしたが、いつもの黄色いコートを羽織ったライトを見て、「え」と洩らした。


「ライト君…狩りには行かないのにそのカッコなの?」


自分がライトに敏感なのを忘れ、サクラはそう訊ねた。


「ん…ああ、これしか無くてな」


「ウソ!?今まで私服とか買ってないの?」


「あ、あぁ…必要なかったからな」


「まったくもう……」


サクラはお気に入りの服を着ようとしていたのだが、ライトがそんな格好なので、サクラも仕方なくいつものピンクのセミロングコートを羽織った。隣はハンターの服装なのに、自分はオシャレしていたら、なんだか変な光景になってしまうだろう。それを懸念して、サクラはライトに合わせたのだ。


「よし!まず行く場所は決まったね!!」


すっかり今の自分の性質を忘れたサクラが、張り切って言う。


「…?どこに行くんだ?」


「決まってるじゃない。ライト君の服を買いに行くんだよ」


「いいよ…俺はこれで充分だから」


「ダァ〜メッ!!ライト君がそんなだと、私がオシャレできないから」


サクラは少し前(かが)みになって、ライトの顔を覗き込みながらニッコリと笑う。


「今日はクエストの準備とかで出掛けるんじゃなくて、遊びで出掛けるんでしょ?いつもと同じカッコじゃつまんないよ」


「そっか…そうだな。じゃあ、服選ぶの手伝ってくれ。恥ずかしながら、俺は現実世界(リアル)じゃ学校行く以外じゃ出歩かなかったから、ファッションセンスには全然自信がない」


「フフフッ、イイよ!!せっかくのお出掛けなんだし、楽しまなきゃね!!!!」


---そう、せっかくのお出掛け(デート)なんだから……


もう数分前のおかしな自分とはお別れしたサクラは、なんとも愛らしい笑みで顔をいっぱいにすると、ライトの手を取って玄関へと向かった。






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