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ブレイヴ・ワールド  作者: 四篠 春斗
氷の都篇
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4 極寒の都 IV

エルトラム中心街。手練れのハンター達が集まるここ、中心街では、ギルド本部が少人数では攻略困難と判断した難易度高めのクエストを受けることができる。


ギルドは、全ハンターを統率する組織だ。この世界の中心にある、天へと伸びる世界樹『ユグドラシル』のある街『ユグドラシル・シティ』に本部を置く、ハンターにとっては親分的な存在だ。


『ユグドラシル・シティ』には、ギルド本部から許可を得たハンターしか入ることができない。そして、この世界の王【オシリス】の討伐クエストも、この街でしか受注する事ができない。


つまりこの街は、すべてのハンター達の目標であり、憧れなのだ。


場所は戻ってエルトラム中心街、ギルド・エルトラム支部、通称『総督府』。クエストの受注は、建物内にあるクエストカウンターで行い、仲間達の準備が整い次第、フィールドへ出発するのだ。


どこの街のギルド支部も、建物は3階建てになっていて、それぞれの階にクエストカウンターがある。1階で受注できるのは、Lvが1〜30向けの初心者用クエスト、2階はHR31〜70の中級者向けクエスト、3階はLv.71以上の上級者向けクエストを受注できるが、指定のLvに達してすぐにこの階のクエストを受けるハンターは、ほとんどがゲームオーバーになっているらしい。


ここは、その1階のクエストカウンター前。多くのハンターが、パーティーメンバー達となにやら座談をしている。


そこに、黄色のパーカーと黒いジーンズ、背中には黄金の刃の太刀を背負った1人の少年がやってきた。


少年は、誰かと話そうとはせず、すぐにクエストカウンターへと向かった。


「おい兄ちゃん、『中心街』クエストは初めてかい?なんなら、手伝ってやろうか」


中年ハンターの男が、黄色のパーカーの少年に話しかける。少年は、中年ハンターの方を見て、


「いや、せっかくだけど、大丈夫だよ。ありがとう」


と言って、クエストカウンターで、クエストを受注した。クエストを受注すると、プレイヤーの頭上にある緑色のカーソルが、赤に変わる。それを見たハンター達は、クエストカウンターの横にあるクエストボードに駆け寄り、少年が受注したクエストを確認する。


『な…⁉』


ボードを見たハンター達が揃って驚いた声を挙げる。そして、クエスト出発口に向かう少年のところへダッシュで向かう。


「おい兄ちゃん!アンタ、このクエストにソロで行こうってのか?無茶だ!死ぬぞ!俺たちも手伝ってやるから、パーティーに入れ!」


少年が受けたのは、Lv.30以上のハンターしか受注できない、初心者がやるには難度の高いクエストだ。


先ほどの中年ハンターが、少年に弁明する。だが、少年は首を横に振ると、「大丈夫」と言って、また出発口に歩き始める。


「な…この装備…は?」


少年の近くに来ていた数人のハンターの内の1人が、少年のステータスを見て驚愕した。


「デディロン装備…これって、中心街クエストじゃないと入手できない素材を使う装備のはず…でも、アンタ、中心街は初めてなんだよな?…どーゆーとだ?」


それを聞いた他のハンター達も、少年のステータスを見て口を大きく開ける。プレイヤー名『Right』となっている少年は、中心街クエストは初めてなのに、確かに中心街クエストのデディロン装備を身に纏っている。


「Lv.68?裏町のクエストだけで、ここまで上げたってのかよ?」


ライトは、驚いているハンター達を見て、驚いていた。だって、このデディロン装備は、みんな裏町クエストで作成してるものだと思ってたし、Lvだって、裏町でデディロンを討伐していれば、十分に上げる事ができる。この事は、みんなが知っていることだと思っていたのだ。


「兄ちゃん、俺とパーティー組もう。クエストならなんでも手伝ってやる。な?頼むよ」


中年ハンターが申し出たのをきっかけに、その場にいたハンター達が、パーティーを組もうと一斉に声を上げ始めた。


「えっと…その…確かクエストを数人で行くと、報酬金もEXPも人数で割られちゃうんだよね?」


「え?ああ…でもなぁ」


「今はちょっと、Lv上げたいから、パーティー組むのはまた今度ってことで…じゃあ」


ライトは、逃げるように出発口に向かうと、すぐに出発してしまった。


「おいおい…大丈夫かよ、あいつ」


ハンター達のほとんどは、もうあの少年は戻ってこないのではないかという心配を、心の底からしていた。



「そんなに俺、弱そうに見えるのかな」


凍てつく寒さのフィールドを、ライトはブツブツ言いながら進んでいく。右手の水晶は、空中に『エルトラム・アイスバーグ』のマップを表示している。


「そんな簡単に人を、信じれなくなっちまったからな…」


この世界に来てしまってから、1ヶ月半ほど経つが、ライトはまだ一度もパーティーを組んだ事がない。中心街クエストには、キークエストを全てクリアで参加できるが、ライトは裏町クエストを全部クリアーしてから

中心街に来たため、Lvが大分上がっている。


それに、ライトの持つ苦い記憶が、無意識の内に人を避けているのだ。


「はぁ……」


過去の思い出したくない記憶を思い出してしまい、ライトは歩調を速める。その時、


ドスッ…ドスッ…


背後から、足音が聴こえてくる。他のハンターの足音にしては大きすぎる足音だ。


ライトは背負った太刀に手を掛け、足音のする方に振り向く。


「…なっ…なんだ…こいつ…」


そこにいたのは、巨人。身長10mほどの、青い肌をした斧を持つ巨人のモンスター。口からは白い吐息を漂わせ、足元にいる小人を見つめる巨人が、そこにはいた。


ライトは、後ずさりながら、『QUEST』ウィンドウを開き、クエスト情報を確認する。


クエスト名『雪原の番人』

クエストクリアー条件『ブルーム1体の討伐』


「こいつが…雪原の番人…?」


まずいな…あの時誘いに乗っとくべきだったか?


クエスト出発前に、パーティーの誘いを蹴った事を悔やむライトだが、覚悟を決めたように背中の黄金色の太刀に手を掛ける。


「行くぜ....あの青いバケモノ、ぶった斬りに!」


ライトは『金剛刀』を抜くと、青い巨人に突撃する。


青い巨人も、右手に握る斧を振りかざす。


それぞれの得物が、激しい火花と共に交わった。眼が眩む閃光が消える頃には、もう既に両者が次の攻撃のモーションに入っている。


ライトは跳び上がり、腹を斬るべく太刀を構える。そして振り抜いた。だが、その太刀は、巨人の斧に受け止められ、そのまま弾き返される。


「…くっ」


ライトは、弾き返された勢いのまま地面に叩きつけられ、苦痛の顔を浮かべる。


巨人は歩み寄って来る。青い身体に赤い双眸。恐怖を象徴する容姿の怪物は、斧を高く上げると、


グオオオオオオオオオオオオオ


青い巨人の咆哮が、この氷雪地帯に、甲高く響き渡った…。




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