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ブレイヴ・ワールド  作者: 四篠 春斗
氷の都篇
49/60

48 氷山の帯 XII

「あ、やっと来た!!!」


イタリアンレストラン【イタリアン・エルトラム】の店内に入るなり、ライトとサクラに手を振るユヅル。イタリアンレストランははしゃぐような場所ではないというのに、無邪気なものだ。


手を振るユヅルの横には、いつも通り兄のレオが座ってこちらを見ている。


レオの隣には赤髪のウェルゴが、その向かいには蒼髪の笑っているシーフがいる。


「おっす」


「こんにちは、みんな」


予約したテーブルに着いたライトとサクラは、皆に向けて軽く挨拶をし、席につく。


その後、皆が食べたいものを注文して、ワインの()がれたグラスを持ち、乾杯の音頭を待つ。(この世界(ブレイヴ・ワールド)に未成年とかはない)。


先ほどの反省を踏まえ、ユヅルが控えめに音頭を取った。


「乾杯」


「かんぱーい」


一同は一斉にワインを飲むと、それぞれ感想を口にした。


「へぇー、ワインってこんな味なんだな」


「私も飲んだ事ないからびっくりだよ!」


「そうか、皆はこの前この世界(ブレイヴ・ワールド)に来たばかりだったな。飲んだことなかったか」


「美味しいですよね?私も最初はびっくりしましたよ」


現実世界(リアル)ではまだ未成年でワインを飲んだ事がなかったライトとサクラが、お酒の感想を語った。


既に飲んだことがあったシーフとウェルゴも、ライトとサクラの感想に同調する。


「ああ、大人達はこんな良いものを飲んでいたんだな。なんて贅沢な」


「あれ、お父さんとお母さん、ワイン飲まないわよね?」


「え、あ、あぁ、そうだよ。テレビとかで飲んでる所とか見るだろう?」


「お兄ちゃんテレビほとんど見ないじゃない」


「ほとんど、だろ?たまには…」


「あれれ?いつだか『テレビはニュースがみれればそれでいい』ってカッコつけて言ってなかったっけ?」


「そんなこと…い、言ったかな?」


これがキッカケとなり、ユヅルの暴露話が止まらなくなった。レオは、料理が運ばれてくるまでずっと顔を伏せていた。その様子を、皆はユヅルの話を聞きながら眺めていた。


ユヅルの暴露話も、料理が運ばれてくると同時に終わりを告げ、皆はイタリアンの味にひと言感想を口にしていた。


大いに盛り上がった祝宴でいちばん盛り上がったのは、ユヅルが軽々しく訊いた「サクラはライトが好きなの?」という質問に、サクラが「うん」と即答した時だろう。


だが、そう言われてもライトは皆と一緒に笑うだけで、サクラとイチャつこうとはせず、サクラも顔は紅くしながらも、ライトとラブラブしようとはしなかった。これでは、2人が付き合っているのか、それともまだパーティー仲間という関係に留まっているのか解らない。


ともあれ、エルトラム中心街・最終クエスト『氷山の帯』祝宴では、絶品料理に舌が唸り、様々な話題で会話が弾み、別れが近いという事も忘れながら、楽しいひと時となった。



『氷山の帯』クリアーから一週間後。時刻は12時頃だろうか。


氷都・エルトラムの入り口に、小さな人集(ひとだか)り、ができていた。


「もう行くのかい?そんなに急がなくてもよくないか?」


黒ずくめの少年・レオが、黄色のロングコートを羽織った少年・ライトと、ピンクのセミロングコートを着た少女・サクラに、別れが惜しいという顔をして訊ねた。


「ああ。早く次の街に慣れないとな」


ライトも少し寂しそうに答えた。


「次は、どの街に行くんですか?」


そう訊ねる蒼髪のシーフが、既に半泣きの目になっている。


「『ビュートビーナス』、"四季の丘,,っていう丘にある街だよ」


「へぇ〜、じゃあその街は日本みたいな街なんですね!」


「そうだね、季節はズレてるみたいだけど」


「わぁ〜それイイですね!もしかしたら、桜舞うクリスマスとか体験できそうですね!!」


少し落ち込んだ雰囲気を、シーフの元気さが明るくしてくれた。


「そうだね、お兄ちゃん、私達も次はその街にしましょ?」


レオの隣に立っているユヅルが、兄の腕をグイグイと引っ張る。


「別にいいけど、もうライト達とパーティーは組まないよ?また最終クエスト攻略とかにならない限りはね」


「チェー」


ユヅルが頬をプクゥーと膨らませて、レオを細目で睨む。そんなユヅルに、レオは苦笑いで対応する。


「そうだよ、皆も『ビュートビーナス』に来たらいいさ。パーティーは組まなくても、街であうくらいなら問題ないだろ?」


ひと足先に『ビュートビーナス』へと旅立つライトが、「ウェルカム!!!」と両手を広げた。


「ライト…君、変わったね」


ライトを見て笑顔を浮かべたレオが、ウンウンと頷きながら言った。


「そうか?」


「うん」


隣のサクラも同意する。いつも一緒のサクラに言われると、ライトも認めざるを得ない。別に、認めなくないワケでないのだが。


確かにライト自身、この世界(ブレイヴ・ワールド)に来てサクラと出会ってから、他人に対する心情の持ち様に変化が起きた気がする。


「全く信用しない」から、「信じてみよう」という心の持ち方に変わったのだ。


裏切られ、ライトを裏切ったはずの仲間に助けられ、常識はずれの兄妹愛で結ばれた兄妹と出会い、犯罪者と手を組んで、色々な事が起きたからこそ、ライトの心の構え方にも変化を(もたら)したのかもしれない。


「変われたとしたら、それは皆のお陰だよ。ありがとう」


皆はニッコリと笑っている。本当はもっと話をしていたいのだが、昼間はこの街の入り口を利用する人も多い。これ以上の長話は通行の妨げになるかもしれなかった。


「ライト、俺達も『ビュートビーナス』に行く。すぐ行くもりだが、『舞う銃剣(ダンス・ベイオネット)』は死にました、なんて笑い話の主人公にはなるなよ?」


ウェルゴの問いに、ライトとサクラは「愚問だ!!!」と返す。ライトとウェルゴは、目を合わせて笑い声を上げる。


「僕達も行こう。手を組むなら、また最終クエストだね」


「ああ。それまでに死ぬなよ?」


「それこそ愚問だよ」


2人は笑いながら、ガッチリと握手を交わした。


サクラも、ユヅルやシーフと握手を交わしている。少しだけの別れになるはずなのに、なぜか涙を流している。


「じゃ、そろそろ行こうか、サクラ」


「そうだね」


ライトとサクラは、エルトラム入り口の門の前に立つ。そして、レオ達の方に振り向き、大きく手を振った。


「待ってるからねー!!絶対来てねーー!!!!」


「はい!必ず!!」


「待ってなさいよ!!勝手に死ぬんじゃないわよ!!」


「解ってまぁーす!!」


先ほどまで涙が流れていたはずだが、今は愛らしい女の子達の笑顔で溢れている。


ライトも、レオとウェルゴと目を合わせた。


ライトは2人不敵の笑みを浮かべると、高々と宣言した。


「俺達は死なないから安心しろ。サクラは俺と一緒にいる限り、絶対に死なないし、俺も死なない。サクラを生かし続ける事こそ、俺のこの世界での存在理由だからな」


「ライト君……」


サクラは満面の笑みを顔に咲かせて、ライトを輝く双眸で見つめた。


「そっか…なら安心だね」


レオ達4人を代表して、ユヅルが安心して肩を(ほぐ)した。


「じゃあ、またな」


「またね♪」


ライトとサクラは、レオ達に短い間の別れの挨拶をすると、レオ達に背を向けた。


ライトとサクラは、お互いに手を握ると、同時に目的地をコールする。


転移(テレポート)!ビュートビーナス!!』


レオ、ユヅル、シーフ、ウェルゴが見守る中、ライトとサクラの身体は白く明るい光に包まれ、やがて虚空へと消えて行った。




(氷の都篇 完)


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