3 極寒の都 III
クエストをクリアーすると開通するエリア。見た目はただの洞窟。深い闇の奥からは、バサバサと羽ばたく蝙蝠が何羽も飛び出てきそうだ。
そんな秘境のような洞窟の中に、男と狼が1人と1頭ずつ。双方は対峙し、相手の様子を窺う。
男は太刀を両手でしっかりと握り、狼は鋭い牙で噛み砕く用意を完了させている。
「いけんのか…この弱っちい太刀で…」
男・ライトは初心者用の太刀を構え、狼の攻撃を迎撃する用意を整える。
「いや、やるしかねぇか」
ここで負ければ何もかもが終わりなのだ。さすがにこの初期装備の死体を皆の前に晒されたくはない。
ライトの現在のHPは5000、スタミナは600。この防具がどれだけ防いでくれるかがわからないため、できれば一撃も喰らわずに討伐したい。
ウオオオオオオオオオオオ!!!!!
狼・デディロンが雄叫びを上げて、口は大きく開けて飛び込んでくる。
ライトは、デディロンの上の牙を太刀の先端側で、下の牙は根元側で受け止める。牙と刃がギシギシと音を立て、両者はパワーでは互角に闘っている。
「スタミナ…使ってみるか」
ライトは今あるスタミナの50を消費。太刀の刃を緑に輝かせる。そして、また太刀に力を込める。すると、刃と触れていた牙にヒビが入り、砕け散った。
グオオオオオオオオオオオ!!!!
デディロンの悲鳴が洞窟に響き渡る。すると、これが逆鱗に触れたのかデディロン、ライトに向けて平手打ちのオンパレードをお見舞する。
「くっ…」
ライトはほとんどを太刀で受け止めていたが、受けきれない攻撃は喰らってしまい、HPが激減する。
「畜生…もうやべぇぞ…」
ライトの5000あったHPは1470にまで減少、次の攻撃を喰らえば、命はない。ゲームオーバーだ。
だが、ライトの装備は初期の装備。この防具の防御力など、全くと言っていいほど足しにはならない。そんな装備でデディロンの攻撃を耐えている。ということは、やはりこれは初心者向けクエスト、対初心者に丁度いい攻撃力しか出ないようになっているのだろう。
つまり、デディロンのHPも…
「これはいけるぞ…!!」
ライトは残りのスタミナを全て消費。太刀の刃を橙色に輝かせ、デディロンに斬りかかった。
「うおおおおおおおおおっっ!!!!」
デディロンに避ける暇すら与えない早斬り。デディロンは斬り口から大量の血を噴き出すと、その場にバタリと倒れ、HPゲージが0を示す。
それと共に、喜ばしいサウンドエフェクトと、『QUEST CLEAR』のウィンドウが水晶に表示された。
「はぁ…終わった…」
ライトは大の字に寝転がる。これからこんなしんどいハンターライフを送るのか…と、先を予想するだけでさらに疲労が増すライトだが、初めてのボス攻略は、ギリギリだったが、ライトの大勝利に終わった。
★
デディロンとの死闘から一夜、ライトは初心者用防具一式を全身に纏い、弱っちい太刀を背中に担いで、エルトラム裏町の武具屋にいた。
ライトの目の前のウィンドウには、たくさんの種類の防具があるが、ほとんどが素材や残金が足りなくて生産不可。
「ああ…なんも作れねぇ…どーしよ、マジ」
今後の狩猟生活に不安を大きく持ちながら、ライトは防具リストの次のページに進む。すると、見つけた。生産できる防具が。
「デディロン装備全身一式…昨日討伐したやつの装備か」
ライトは「これしかない」と、生産ボタンをタッチ、武具屋のおじさんは、
「ヘェ〜もうデディロンを倒したのか。大したもんだな」
と、ライトを褒めながら防具を作り始め、数分後に完成した。
「ほい、デディロン装備一式。さっそく着てみたらどうだ?」
ライトはおじさんの提案に乗り、作りたてホヤホヤのデディロン装備を身に纏う。
「ほう、似合うじゃないか。いい黄色だ」
おじさんも絶賛のライトの新装備は、黄色基調のパーカーと黒のジーンズ型の防具。見た目は脆そうで燃やすとすぐに灰になりそうだが、防御力はそこそこ高い。初心者には充分過ぎる装備だ。
「いいな、これ。気に入った」
ライトもお気に召したようで、気分良さげに防具リストを武器リストに切り替える。
「兄ちゃん、デディロンがお気に入りなら、武器もデディロンのにしたらどうだ?」
おじさんの2回目の提案に、ライトは武器リストの太刀のゾーンから、デディロンの太刀を探す。
「あった!!『金剛刀』…しかも作れる!!」
ライトは迷いなく生産ボタンを押す。おじさんが太刀を作っている間、ライトにある疑問が生まれた。
「あれ?俺昨日デディロン1頭倒しただけなのに、なんで防具も武器も揃えれるんだ?」
ライトのボソッとした独り言のような質問に、おじさんは工房から大声で答えた。
「武器や防具自体の生産は簡単なんだ。めんどくさいのは強化さ」
武具屋のおじさん情報によれば、武器や防具の生産にはあまり素材は必要ない。だが、強化していくごとに必要な素材の数などが変わっていくため、面倒ならしい。
「ほい『金剛刀』。良い出来だろう?」
ライトは、黄金色に輝く綺麗な太刀『金剛刀』を手に取り、
「お、これは良い重さだ。使いやすそうだな」
と、こちらも気に入ったようだ。
「満足したか?」
「ああ、ありがとなおじさん」
「おう、またのご利用お待ちしてるぜ」
ライトは武具屋から離れ、ちょっとした広場に出る。そこで立ち止まり、雲の上まで聳え立つ巨大な樹を見つめる。
「そこにいるんだろ?王様」
ライトは『金剛刀』を天に向かって振り上げる。雲間から指す日差しが、黄金の刃に反射し、ライトは目を細める。そして『金剛刀』を納刀すると、どこかを目指して歩き出す。
向かう場所は自宅だろう。だが、最終的な目的地は、あの雲の上だ。それを達するためには、あの樹の麓の街に行かなければならない。
ライトは高らかに宣言する。
「必ず行くからな…『ユグドラシル・シティ』」