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ブレイヴ・ワールド  作者: 四篠 春斗
氷の都篇
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31 覚悟の証明 IV

世界は、【結果】というものだけに囚われている。


学校のテストで高得点を叩き出した生徒は、進学の時に推薦が貰えたり、世界的な発見をした科学者にはノーベル賞が与えられたり、実力のあるプレーヤーを試合に出したり、などなど……。


これは当たり前の事なのだ。


素質のある者は、【良い結果】を残した者達は、その功績を讃えられながら、栄光の階段を駆け上がっていく。


では、その逆の者達はどうなのだろうか。


素質があっても失敗してしまった者、失敗を恐れて逃げ出した者、【良い結果】に恵まれない人間も、少なくはない。


失敗を恐れて逃げ出した者、これはもう話にならない。リスクを恐れて行動できない腰抜け(チキン)など、誰も必要とはしないし、認める事もない。


では、素質があるのに失敗した者はどうだろうか。


ただ無防備に挑んだから失敗したのか。


力及ばずして負けたのか。


自分の力に過信していたのだろうか。


自分の素質を生かし、成功のために努力して、自分の時間を費やしてまで鍛錬に、勉学に励んだ。それでも失敗したのだ。負けてしまったのだ。


なぜ負けた?


なぜ失敗した?


ただ単に努力が足りないから?


努力をしている間も、他の皆は努力している。差は中々埋まらない。


では、何が足りない?


彼らは、その答えを、今もずっと、求めている……。



そしてここに、努力に裏切られ、結果に報われない大きなパーティーがひとつ………



「いいな、いつも通りやるぞ」


エルトラム裏町のとある大広間。


小さな円卓を囲み、数人の少年少女が椅子に腰をかけている。その周囲には数十人のハンター達。


「って言っても、重要なのはシーフちゃんだけどね」


濃い抹茶色のとんがり帽子を被った、金髪の前髪を覗かせる少年は、能天気にそう言った。


「ああ、そうだな。シーフがうまくやってくれなければ、何も始まらん」


おそらくリーダーであろう赤髪の少年が、とんがり帽子の言った事を肯定し、そのまま続ける。


「シーフからはまだ連絡は来ていない。ということは、まだ標的(ターゲット)は帰還していないという事になるが」


「まさか死んだりしてないわよね?」


「はっ、それはそれでザマァみろだぜ」


剣銃(ソードガン)使いの少女と、大きな斧を担いだ丸坊主の少年も口を開いた。


「いいか、これはヤツらの評価を下げるための大事な作戦だ。シーフが失敗する事はない。あいつの『隠密』スキルはLv.MAX、ヤツらはシーフに気づく事すらできんよ。まあ…不安があるとすれば、あいつの演技力だが…今回はひ弱な女の子を演じろと言ったのだが…大丈夫だろう。俺達の仕事はその後だ。皆、しっかりと動けよ」


皆にそう命じた赤髪のリーダーは、椅子の背もたれにふんぞりかえると、木目調の天井を見上げてボソッと呟いた。その瞳は、殺伐とした気に満ちている。


「なにが『音速の破壊者(ソニック・ブレイカー)』だ……調子に乗りやがって」


「リーダー」


「ふざけやがって……」


「リーダー?リーダー」


何かに取り憑かれたかのようにブツブツと低い声を出すリーダーは、途中から、自分を呼ぶ音がしていた事に気づかなかった。


「ウェルゴリーダー!」


「うおっ!!!??!」


「なに驚いてんの?ずっと呼んでたのに」


「ああ、すまない…カーリ」


カーリと呼ばれたとんがり帽子の少年は、リーダーウェルゴが元に戻ったのを確認して、告げる。


「今さっきシーフちゃんから連絡があったよ。標的(ターゲット)との接触に成功したって」


それを聞いたウェルゴは立ち上がった。一同の視線が、ウェルゴに集中する。


なぜリーダーの俺に連絡しないんだ、とも一瞬思ったが、それは後でいい。


ウェルゴは、ハンター数十人の前に立ち、冷静に号した。


「皆、作戦開始だ」



「それで…シーフさん?あなたは、どうして私の部屋の前に?」


白が基調のシンプルな内装の居間。少し高めの天井から降り注ぐ白光が、部屋中の白に反射してさらに眩くなる。


その部屋に置かれたシングルベッドに座る少女に、ユヅルは問いかけた。


「…すみません……ご迷惑をおかけして」


弱々しく、シーフという名の少女は言葉を紡いだ。


ユヅルは「ううん、大丈夫」と答えながら、密かに不信感を抱いていた。かれこれ「なぜ私の部屋の前にいたのか」という質問を3回ほどしたのだが、その度にシーフは謝罪して誤魔化そうとする。答えてくれたのは名前くらいだ。


知られたくない事情でもあるのだろうか、それともただ恥ずかしくて言えないとか……?


ユヅルは後者であってほしいと願い、こう問うてみた。


「もしかして…迷子?」


「へっ?!??」


シーフの返事に、ユヅルは確信を持ってしまった。どうやらシーフは迷子の子猫さんのようだ。


見た目からして、もう迷子にはならなそうな年齢だとは思うが、もし、自分のように現実世界(リアル)から来た子で、それも昨日今日でやって来たばかりなら、慣れない街で迷子になってしまうのもわからなくはない。


顔を赤らめて、「違います!」と否定を続けるシーフだったが、ようやく自分が、まだ初心者のパーティーとはぐれてしまった迷子だと認めた。


「じゃあ…お昼食べたら、総督府に行ってみようか。あなたの仲間も、きっと探してくれてるわよ?」


「……はい」


シーフは俯いたまま、か細い声で返事をして頷いた。



午後1時。


お昼のスパゲッティを食べたユヅルは、シーフの仲間を探しに総督府へと向かっていた。


サクッ、サクッ、と、道を覆う雪に2人は足跡を残して歩く。


今日は比較的穏やかな気候だ。雪は軽く舞ってくる程度だし、風も強くない。現実世界(リアル)なら、雪合戦をしたり雪だるまを作ったり、雪遊びにもってこいの天気だ。


2人はそのまま歩き続け、中心街の入り口まで来た時、シーフが口を開いた。


「あの…ユヅル、さん…」


「な、なに?」


「1つ…聞いてもいいですか?」


長らく沈黙のまま歩き続けていたため、ユヅルは少し驚いた感じで反応してしまったが、すぐに立て直す。


「うん、いいよ。どうしたの?」


「その…素質があるのに…うまくいかない人って…何が足りないと思いますか?」


すっごいマジなトーンでのシーフの質問に、ユヅルは戸惑ってしまう。


と同時に、シーフが求めるような答えを出す事ができるのかという焦りも生まれた。


「う〜〜んと……」


自分に素質がある、なんて思った事のないユヅルは、本当に今、悩んでいた。だが、いくら考えても良い答えは見つかりそうにない。


仕方なく、ユヅルは理想論を話す事にした。


「『うまくいかない』っていうのは、スポーツでいうと試合で良いプレーができなかった、とか?」


「はい…あと、自分よりも下だろうなっていう人が選ばれたり、とか…」


「あ、その考え方やめた方がいいわよ、うん」


ユヅルはキッパリと言った。その時、シーフの眉間がピクリと動いたが、ユヅルは気づかなかった。


「そうやって見下して油断するから負けるんだよ。私はそう思うんだけど」


「では…『うまくいかない』の方は…」


「それはね…スポーツを使って言うと、そのスポーツが上手いとか下手とか以前に、精神(メンタル)をなんとかしなきゃいけないと思うよ」


それを聞いたシーフは、ガックリと肩を落とし、


「それ…みんな言いますよね…」


「ですよね…」


何故かユヅルまで改まってしまう。


ユヅルは、なんとかシーフの質問に答えようと、立った今思い浮かんだ事を言ってみる。


「覚悟……かな」


「…え?」


「軽い気持ちでやるんじゃなくて、覚悟を決めてやればいいと思うわよ」


「覚悟……ッ」


シーフは、歯を食いしばるようにしていたが、それにもユヅルは気づかなかった。


「ごめんね、なんか偉そうな事言っちゃって」


「………ホント、偉そうに…」


「え?」


「何ですか?何も言ってませんが…」


「え?あ、そう…」


ユヅルとシーフは、会話を交わしているうちに総督府に到着した。


すぐにエントランスホールで、シーフの仲間を探す。だが、結構な人が集まっているため、発見しずらい。と言っても、ユヅルはどの人がシーフの仲間なのか、わかるはずないのだが。


2人は、エスカレーターを使って3階まで昇った。そこには、上級者向けクエストの受注カウンターがある。その前の開放スペースには、多くのベテランハンターが集まっていた。


ここにならいるかな、と思ったユヅルだったが、シーフはまだ初心者で、中心街クエストを受注できる条件を満たしていない事を思い出し、エントランスホールに引き返そうとする。


だが、その時。


「助けて!!!殺される!!!この人に‼殺される!!!!!」


甲高い声の少女のSOSが、3階のクエストカウンターだけでなく、ふき抜けになっている総督府全体に響き渡る。


「なっ………!!?」


ユヅルは驚きのあまりに絶句した。


なぜなら、甲高い大声で助けを求めていた少女こそ、今隣でユヅルを指さしている、シーフだったのだから。





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