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ブレイヴ・ワールド  作者: 四篠 春斗
氷の都篇
3/60

2 極寒の都 II

一面氷の銀世界。見事としかいいようのない綺麗な氷山。だが、吹き荒れる雪が、この場所の壮絶さを物語っている。


ここは氷土フィールド『エルトラム・アイスバーグ』。平均気温が氷点下10℃を上回る事のない、極寒の氷河地帯だ。この近くに、年中冬の街『エルトラム』がある。


そんな氷河地帯に、モンスターと闘いを繰り広げる太刀使いのハンターが1人。まだ初心者(ビギナー)だが、明らかに経験者の剣捌きを見せている。


シカ型モンスター数匹が、ハンターに斬られて倒れた。その後、綺麗な黄金色の光となり、消滅する。


「フゥ」


ライトは息を吐き、その場に腰を下ろす。その直後、何かイイことがあった時に流れるようなサウンドエフェクトと共に、『Lv.7→8』というウィンドウが、右手の水晶の上に表示される。


ライトはウィンドウを閉じると、空を見上げた。雪雲のせいで青空は見えない。


「やっと8か…。Lv上げ結構時間掛かるな」


ライトは、右手の水晶に触れ、メインメニューのウィンドウと開くと、『QUEST』をタッチする。


クエスト名は『ペペの群れを狩れ』、クエストクリアー条件は『ペペ35頭の討伐』。『ペペ』というのは、さきほど討伐したシカ型モンスターのことだ。討伐数は21頭、残り14頭討伐すれば、クエストクリアーとなる。



チュートリアルが終了し、エルトラムに到着したのは3時間ほど前。


町長が用意していてくれた自宅は、アパートの一室。狭くもなく広くもない、つまり普通の広さの部屋は、1人で暮らすには充分なものだった。


部屋に入りまず目に入ったのは、壁際に置かれた大きなBOX。触れてみると、BOXの上にウィンドウが表示された。


上から、アイテム確認、装備変更、BOX整理…などなど。ここでいろんな事ができるとライトは理解した。ライトは、まだインナーシャツと短パンという部屋着スタイルをどうにかするため、ウィンドウから装備変更をタッチした。

すると、初めからいくつか武器防具が入っていたようで、


「お、これは助かる」


BOXに入っていた装備はエルトラム裏町特製の初心者用防具全身一式。あと、これまた初心者用の片手剣、太刀、槍、剣銃(ソードガン)、弓、ライフル。


これはまた沢山用意してくださって、と、町長に感謝するライトは、沢山ある武器から太刀を選び、初心者用防具と共に装備した。


「とりあえずこれでクエスト行ってみるか。狩りはどんなもんか早いうちに感覚摑まねぇと」


自宅を出たライトは裏町のクエストカウンターに向かう。ライトは歩きながらエルトラムの裏町を見渡した。


レンガ造りの家屋が多く、雪でよく見えないが、道もレンガタイルで造られていた。商店街の賑わいはスゴい。こんなに寒いというのにたくさんの人で溢れかえっていた。


「はぁ〜すげぇなこの町」


ライトは感嘆の声を発する。そんな事をしているうちに、裏町のクエストカウンターに到着。ライトは、ここの看板娘的な女性に声をかけた。すると、


「エルトラム裏町クエストカウンターへようこそ。あなたのレベルで受注できるクエストはこちらでございます」


女性が言うと、ウィンドウが表示され、クエストが3つ示されている。


1つ目は採取クエスト、2つ目は討伐クエスト、3つ目はボスモンスターの討伐クエストだ。


「さすがにいきなりボスは無理だしな…採取したって狩りの手法は掴めないし…」


ライトは2つ目の討伐クエストを選択、受注した。


「では、気を付けて行ってらっしゃいませ」


女性が手を振る。すると、ライトの視界がどんどん悪くなり…暗転した。


目が覚めたらそこは極寒のフィールド。どうやら裏町からここまで転送されたようだ。


ライトはクエストを確認し、


「それじゃ、狩りしてきますか」


と号して、歩き出した。



「あとはどこにいる?ほとんど狩り尽くしたと思うんだけどな」


氷土のマップを開き、確認する。

Lv上げの基本は、雑魚モンスターの群れの討伐を繰り返すことだ。そこそこ強くなってくると、ボス級のモンスターでLv上げするのがベストだが、序盤は雑魚モンスター討伐クエストでLvを上げるのが適作だ。


「にしても、装備が弱いな…。まぁ、初期装備だから、しょうがないけど」


今のライトの装備は、対氷土モンスター向き、つまり氷属性耐性の強い装備だが、防御力そのものが低い軟弱装備だ。主武器(メインウエポン)にした太刀も、エルトラムにある自宅の武器庫に入っていた斬れ味・攻撃力共に最低の物だ。


「とりあえずLvの上げ方も解ったし、そろそろ終わらせて帰るか」


ライトは、またペペが出現していそうなエリアへ移動していった。



夜のエルトラム裏町。建物の中から漏れる灯りが、外の白い世界を暖かく照らす。


「はぁ〜疲れた」


大きなため息をついて自宅に向かうライト。途中、ベテランハンター3人組とすれ違う。


「お、兄ちゃん酷い顔してんね。その顔は死にかけたな?」


「ま、最初はそんなもんさ」


「おい、あんまからかってやるなって」


3人組は笑いながら去っていった。


「………」


別にからかわれたことに腹を立てているわけではない。これだけ沢山のハンターがいるのだ。ベテランがいるのは当然。だが、なんか腹が立つ。


「ただいま」


ライトは誰もいない自宅に戻ってきた。そして、ベッドに直行。


「こんな調子じゃ、王を倒すなんて何十年後の話になるんだか…」


ライトはベッドにうつ伏せになる。そして、目を瞑って睡眠体制に入る。


「今日1日でLv15まで上がったな。いいペースなのかわかんねぇけど」


ライトがエルトラムに着いたのは昨日。町長のカティンは、何の役にも立たなそうな新米ハンターを受け入れ、家を確保してくれた。


そこで、Lvは戦闘で上げていくものと聴き、今はひたすらモンスター討伐をするしかないな、と、ライトは思う。Lvは上がれば上がるほど、上がりにくくなるらしいので、1ヶ月で60くらいまで上がれば、良いペースと言えるのではないか。


ライトはウィンドウの『DATE』から、氷土のフィールドマップを開き、明日のクエスト攻略について考える。


「ん?」


ライトは、ふと違和感を覚えた。クエスト時はマップの左下にあったはずの小さなエリアが、今見ているマップには無い。そんな気がしたのだ。もちろん、マップを正確に覚えていたわけではないので、事実かどうかは解らない。


「気のせいか…」


明日、確認してみよう。そう決めて、ライトは眠りに落ちた。



翌朝、早速クエストを受注したライトは、氷土の問題のエリアへと向かう。すると、運が良いのか悪いのか、ペペの大群と遭遇した。


「おお…こんなに出てきてくれんのか」


ライトは背中から太刀を抜く。そして、両手でしっかりと柄を掴み、戦闘体制を整える。


「ふんっ」


押し寄せて来るペペの大群を、ライトは華麗に斬っていく。先ほどまでピンピンしていたペペ達は、その場に倒れこむと、黄色い光と化していき、消滅した。


「ふぅ…」


右手の水晶のウィンドウから、ハンティング報酬が表示される。


「うわ…生肉ばっか…使いきれんのかよこれ…」



「あれっ…おかしいな」


ライトはマップとフィールドを交互に見ながら洩らした。この先にあるはずのエリアが、完全に岩壁で塞がれているのだ。


マップ表示の不具合かなんかか?なんて考えていると、ペペが3頭、ライトの前に出現した。もう少し岩壁を退ける方法を考えたかったが、ペペ達が襲いかかってくるので、それは次回のお楽しみにする事にした。


3頭のペペはすぐに倒れ、消滅した。そして、クエストクリアーのBGMが流れる。


「はぁ…」


ライトが太刀を納刀しようとした時、ライトの手が止まった。なぜなら、さきほどまで行く手を阻んでいた岩壁が、クエストをクリアーした瞬間にガラガラと音を立てて移動を始めたからだ。そして、マップに表示されていた未踏のエリアへの入り口が開く。


ライトは、納刀しようとした太刀を手に握ったまま、ゆっくりと進んでいく。


中は薄暗く、周りは見えにくい。多数の蝙蝠がバサバサと飛び出して来そうな雰囲気のエリアを、ライトはゆーっくりと進んでいく。


ガルルルルル…


「………!」


中から声がする。そしてライトは歩みを止める。目の前に、薄暗くても解るほどの影が、ドン!と構えているからだ。


ウオォォォォォォォン…


中にいたのは狼。ライトの3倍はある大きな猛獣だ。


狼は、目を殺気に満ちた赤に輝かせ、ライトに襲いかかる。


ライトは、狼の攻撃を避わして、太刀を構えた。直後、右手の水晶が光り、クエストウィンドウが表示された。


「緊急クエスト?」


ウィンドウに表示されたのは、『遠吠えの主』というクエスト名の討伐クエストで、デディロンと呼ばれる狼を1頭討伐せよ、との事だった。


緊急クエストとは、通常クエストクリアー時に突然発生する特殊クエストだ。このクエストは受注するかしないかを決める事ができ、受注しなくても、もしくは、受注したがクエストリタイアを選んだ場合でも、通常クエストの報酬は受け取れるという。


「へへ…ここで逃げるわけにはいかないでしょ」


ライトは『受注』をタッチし、太刀を構える。最弱の太刀で、この狼を討ち取れるかわからない。だが、ここで逃げ出すのは、自分の武士道精神に反するものがある。


ライトは、太刀の刃部分を赤く輝かせ、狼を斬り裂く構えをとる。


ウオオオオオッ!


狼・デディロンが、ライトに掴みかかろうと飛んでくる。


ライトも、赤い太刀を思いきり振り抜く。



赤い刃と鋭い狼牙、このふたつが交わった時、橙の火花が、この極寒の氷河の上で散った。


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