21 雑草たちの謀略 I
【『舞う銃剣』と『音速の破壊者』結託!!!
近日中にエルトラム最終クエスト攻略か】
ある日の電子新聞【エルトラムニュースペーパー】が3面あたりに載せた記事だ。微妙な扱いのニュースだが、ついこの間この2組の『乱闘』の話題でエルトラム中は持ち切りだったのだ。その問題の2ペアが結託などしたら、騒ぎになるのも当然だ。ちなみに1面に載ったトップニュースは、
【ELT36 センター マリリ!!!】
という、エルトラムのトップアイドルグループ【ELT36】のセンターが決まったというニュースだった。彼女達はエルトラムのみならず、他の街でも人気があるアイドルグループなんだそうだ。
「なんかニュースになっちゃったね」
「そこまで騒ぐことでもないだろうに」
「ホントよ。ちょっとしたことでバカ騒ぎして」
「この辺はちょっと雑草たちに似てるよな」
その問題の2組=4人のハンター達だ。どうやら彼らは、自分達がそこそこな有名人だという自覚が足りないようだ。街のハンター達が騒ぐ理由すら掴めていない。
昨日の『舞う銃剣』vs『音速の破壊者』の『決闘』。結果は引き分けだったものの、魅せた超人的な戦闘により、ハンター達は改めてこの2組のデタラメさを痛感したことだろう。と同時に、敵に回してはいけないと、心に深く刻んだはずだ。
半ば恐れられているこの2組だが、彼らの目的は単純にこの世界の攻略。誰かに危害を加える気など、毛頭ない。
「さて、これからどう動く?」
黒ずくめの片手剣使い・レオが誰かしらに回答を求める。4人は今、共通の目的を果たすべく、作戦会議の真っ最中なのだ。
「えーっと…クリアした事があるハンターの話に寄れば、最終クエストのボスは『ディオルガ』。蛇型のドラゴンモンスターで確認された最大全長は48.4mだってさ」
これから挑もうとしている、エルトラム中心街最終クエストは、『氷山の帯』と称され、氷塊だらけの特別フィールドが舞台。蛇型のドラゴンモンスター『ディオルガ』の庭であるこのフィールドに、『ディオルガ』の目が届かない死角などないという。かつて何百人ものハンターが離脱し、そして何十人ものハンターが命を落とした、エルトラム最難関クエストだ。
「デカイ上に素早さもあるんでしょ?面倒よね」
「あれ?元々の俊敏さプラススキル使用者の兄妹が、スピードで負けるの?」
サクラが挑発気味にニタッと笑みを見せる。すると兄妹の視線が突如鋭くなり、
『それはない』
と、断言した。
レオとユヅル『音速の破壊者』は、元々ずば抜けた反射神経や俊敏さを兼ね備えていた。それにプラスして、発動条件指定なしの『高速』スキルと『跳躍』スキルによって、一瞬で、『音速』の如き速度で相手の懐に飛び込める速度を手にした。
つまりそれが、相手がどんなに速かろうが絶対に負けないという自信を兄妹に齎すのだろう。
「君達こそ、『ディオルガ』の素速い動きにちゃんと立ち回れるのか?」
レオの問いを、ライトとサクラが「愚問だ」と突き返す。
「俺らは避けれるから。問題ない」
「それはそれで結構だけど、始めから終わりまでずっと速い動きに対応し続けなきゃならないのは、私はゴメンよ?」
ユヅルが重要な問題点を挙げる。「お前は遠距離だろ」と思う者もいるだろうが、今回のクエストはどちらかといえば近接戦闘が向いている。『ディオルガ』に死角がない以上、場所を固定して急所を狙うのは無理がある。それに相手が速いと来たもんだから、遠距離のユヅルやサクラも油断はできない。せめて、数秒でも動きを止める、もしくは速度を落とさせる何かが欲しい。
「落とし穴を使うのはどうだ?」
ライトが有効的な策を持ち出してきた。今回のように、一瞬でもモンスターの隙を生みたい時に用いられるのが、『落とし穴』だ。
即興穴掘り具と、『幻想の布』がセットになった罠、通称『落とし穴』だ。眼前の敵しか見えていないモンスターには、足下に仕掛ける『落とし穴』は効果的だ。展開に時間がかかるという難点があるが。
「戦略はそれでいいとしても、まだ僕達のLvが足りないんじゃないかな?指定されたLvはクリアーしてるみたいだけど」
「そうね。確か『氷山の帯』の受注可能条件って、キークエストクリアーとLv90以上だったよね。安全にクリアーするなら、せめて100くらいまでは上げておかないと」
兄妹の論にうんうんと頷くライトとサクラ。警戒し過ぎだと思う者も少なくないだろうが、安全ににクリアーを望むのなら、この考えは当たり前だと言える。
「ならしばらくはLv上げに力を入れる事にしよう。クエスト中にコミュニケーションを深めるって事もできるしな」
「ああ、そうしようか」
レオがライトの提案に同意し、女性陣2人が賛成の意を示してくれるのを待つ。だが、女性陣はライトの提案をどう捉えたのか解らないが、
「コミュ…コミュニケーションを…ふ、深めるって…」
「どどどーゆーー意味…?」
『………………』
何故か動揺している女性陣と、絶句する男性陣。コミュニケーションの日本語訳を間違えて覚えているのではないかと、こちらには意味が解らないが赤面するサクラとユヅルを見ながら、ライトは思う。
「Lv上げ中に、交流を深めていこうな!」
念のためというか、しなければならないと思い訂正し再度発言するライト。それを聞いたサクラとユヅルは、
「なんだ〜交流の事か〜」
「始めからそう言いなさいよー」
アハハと笑いながら、誤魔化している。
言ってたし……と内心思っていたライトとレオだったが、それは口に出さずに、
「じゃあ、今日はこれで解散にしようか。明日は午前10時に3階のカウンター前集合、いいかな?」
「ああ。OKだ」
「わかった」
「午前10時ね、了解」
全員が賛成と唱えたところで、本日の作戦会議は切り上げられた。
★
翌日の午前10時、集合の時間だ。集合場所である総督府3階クエストカウンターには、複数のハンター達がいる。その中に、黄色の太刀使いと黒ずくめの片手剣使い。仲良くベンチに腰を掛け、それぞれの相棒の到着を待つ。
「おい…10時なったぞ…」
「君は女性は準備に時間が掛かるから気にせずに待て、と教わらなかったのか?」
「いやいや…この世界の着替えなんて、ウィンドウの数クリックで終わるだろ…」
「何故着替えに限定したんだい?」
「え?着替えじゃないのか?」
たわいもないトーク。レオが女性について語って数分、その後は10代後半にもなって『しりとり』で暇を潰すことになった。
「また『る』かよ、くそー、『ルクセンブルク』」
「中々出てくるじゃないか。そうだな、『クリスタル』」
「あーーーッ!!」
更に数分経過。サクラとユヅルは一向に現れない。気づけばもう10時30分を回っている。これはさすがに遅すぎる。
「まさか…」
「…………」
ライトは先ほどレオが語った事を思い出す。「ユヅルやサクラは美人だ。だから見た目には気を使うんだ」という台詞を。
美人。それは男が求める女性の理想を大きく総称する単語であり、文字通り美しい女性に与えられる称号………。
同時に、男が『欲』を満たすために利用する対象………。
「いや、それはないな。うん」
ライトが前ぶれも無しにいきなり否定する。すると、レオもライトと同じ事を考えていたのか、
「ああ、2人は強い。彼女らに限ってそんなことは……」
何もない、ただ単に遅いだけだと信じる思考とは裏腹に、ライトとレオの身体は走りだし、クエストカウンターを飛び出して行った。