20 音速の破壊者 VI
クエストカウンター前のモニターに群がっていたハンター達。注目の一戦だとかなんとかで盛り上がっていたが、引き分け(ドロー)となった途端に冷め、ゾロゾロとクエストカウンターを後にする。
ギャラリーが大騒ぎして観戦した『乱闘』。それはここ最近エルトラムで名を上げた2つのペアパーティーによる『決闘』だ。両者推す者が多く、賭博まで行われたこの『決闘』は、ギャラリーとしてはつまらない結果である『引き分け』で終わった。
「あ、あれ?」
最初の同時脱落者、ライトとレオがクエストカウンターに帰還。『決闘』前の大盛り上がりとは正反対、180度真逆の雰囲気の空間に戻ってきた2人は、敵同士だったことも忘れ、顔を見合わせて首を傾げる。
「俺らの『決闘』…そんなにつまんなかったのかな…?」
「さ、さあ…どうだろうね…?」
つまらなかったのだろうか。こちらとしては特技を十二分に発揮したつもりだったのだが。ギャラリーの期待に添えなかったということなのか、2人には解らなかった。
「お兄ちゃん!」
「ライトくん!!」
元エルトラム中心街に残されていた女性陣も戻ってきた。直ぐに自分の相棒の元へと駆け寄っていく。
「引き分けちゃったね」
残念そうな台詞だが、そう言うサクラは純粋な愛らしい笑顔を作っていた。
「ああ…。レオ、噂通りの『音速』だよ」
サクラはライトの腰に両手を回し、ひっしりとライトに抱きつく。
「でもね…ライトくん、かっこよかったよ」
「ん…?そうかな…?」
「うん…」
途中から、「なんだこの状況は」と思い始めていたライトは、次の瞬間、頬を真っ赤に染める事となる。無論、サクラも同じだ。
「ほほ〜〜〜う?」
「やはり君達はそういう関係か」
ニヤニヤしながら口を開く『音速の破壊者』こと、レオ&ユヅル兄妹。サクラがライトに抱きつくこの光景を、もの凄く楽しそうに眺めている。
「は!?!??」
「うへっ!???!」
変な声を出したのはサクラだ。リアル過ぎるオーバーリアクションに、恥ずかしがっていたライトも思わず吹き出す。
「そそそそそういうかかか関係って!どどどどーゆー関係のこと!?!?」
動揺し過ぎの狙撃手・サクラ。そんな彼女が面白くてたまらないのか、弓使いの妹・ユヅルが更に一言。
「だってさ?帰ってきていきなりイチャつくなんて〜もう正真しょ……」
「違あああああああう!!!」
ユヅルの言葉をブロック、客観的に見れば肯定を意味する大声の否定。ユヅルの言いかけた言葉に動揺しないライトを見るにこれは…と悟ったユヅルは腕を組んで不気味な笑みを浮かべる。
「ふ〜〜ん。そーゆーことね」
ユヅルはサクラに向けて親指を立て、「グッ‼」という動作を見せると、顔の笑みはそのままで口を閉じた。
「まあ…とりあえず、いい『決闘』だった。出来ればもう、剣を交えるのはイヤかな」
兄・レオが握手を求める。それに習って、ユヅルも同じポーズを取る。
「ハハハ、俺はまたやりたいと思うけどな」
差し出された手をガッチリと握るライト。隣では、サクラもユヅルと握手を交わしている。ここにまた、ひとつの友情が生まれた。
「そういえば、引き分けって形にはなったけど、一応どっちも勝利条件は満たしてるんだよね?その辺はどうするの?」
ユヅルのニヤニヤ顏を他所に、サクラが残る男性陣に問いかける。
「いや、『決闘』申し込んできたのは君達だろう、予め決めてなかったのかい?」
「あ…その…今回のパターンは想定してなくて…」
「いや、別に両者勝利の引き分けでいいんじゃないか?お互いに要望を飲み合う」
ライトがサラッと回答する。それに異議を唱える者はいない。
「じゃあ、まずはライト達の要望を聞こうか」
レオがライトに発言を促す。ライトは、腕組みをしてハァーとため息を吐くと、情けなさそうに言った。
「それがですねぇ、俺らがもうすぐ挑むクエスト、エルトラム中心街ラストなんだけどさ、流石に2人じゃ無理だって言われてな。頼りになりそうなパーティー探してたんだよ」
「それで私達に目を付けた、と?」
「ああ。幸か不幸か、あんたらが接触する口実まで用意してくれるから、こっちは助かったぜ。雑草たちと『乱闘』する羽目になったけどな」
「というわけで、私達の要求は、【エルトラム中心街ラストクエスト攻略の協力】ってことになるかな」
ライトの続けようとした言葉を、サクラが代弁する。レオとユヅルは、しばらくお互いを見つめ合っていたが、ようやくライトとサクラの方に向き直る。
「奇遇ね。私達の要求も、あんた達の要求と全く同じよ」
ユヅルが言う。途中何度もサクラをチラ見してニヤついていた事に、サクラは気づかないはずがない。
「なら話は早い。中心街ラストクエスト攻略のため、しばらく協力しないか?」
特に問題ない提案だ。双方に組む事のデメリットはほぼない。あるのはメリットだけだ。人数が増える。それだけで、クエストの攻略はうんと楽になる。それに、レオとユヅルという絶妙兄妹ペアが味方となれば、勝利の可能性は高くなる。これは、レオとユヅルも考えているだろう。
「よし、わかった。しばらく共闘しようか」
「よろしくね。ライト、サクラ」
兄妹から承諾が降りた。今度はライトとサクラが、手を差し出し、握手を求める。そして、その手をレオとユヅルが、ライトとサクラと目を合わせながら握る。
『舞う』と『音速』
戦法は違えど、同じ遠近のペア。『約束によって生まれた信頼』と『兄妹だからこその絆』、これらが今、1つになり、屈強なパーティーが完成する。
『舞う銃剣』と『音速の破壊者』。この2組の結託は、直ぐにエルトラム中に広まり、この2つのペアは、再び注目の的となった。