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ブレイヴ・ワールド  作者: 四篠 春斗
氷の都篇
20/60

19 音速の破壊者 V

エルトラム中心街・総督府3階クエストカウンター前。壁に設置された巨大なモニターの周囲に集まる大勢のハンター達。


彼らの目的は、本日行われる『乱闘』の観戦だ。ここ最近、エルトラムを沸かせた2組のペアの対決だ。


舞う銃剣(ダンス・ベイオネット)』vs『音速の破壊者(ソニック・ブレイカー)


「なあ!どっち勝つと思う?」


「俺は『音速の破壊者(レオとユヅル)』を応援するぜ」


「やっぱり『舞う銃剣(ライトとサクラちゃん)』だろ!」


「いや!サクラちゃんかユヅル姉さんだな」


女目当て(アホ)はあっち行ってろ」


モニター前では、どちらが勝つかの予想論戦が繰り広げられている。中にはCr(クレジット)を賭けているもの達までいた。


「おーい!始まるぞ〜!!」


モニターの右上に、カウントダウンの数字が表示されている。どんどんその数字は小さくなり、0になる。


ゴオォォォォォォン…


開始の合図(ゴング)がスピーカーを通じて、この空間にこだます。その瞬間、ハンター達の混声が、この日暫定でいちばん大きくなった。



手前に「元」が付けられるようになった、かつてのエルトラム中心街。今は『乱闘』の舞台フィールドとして、ハンター達と触れ合いを続けている。


その元エルトラム中心街にある大穴(クレーター)。その中で剣を打ち合う2人の剣士。


「うおおおおおっ!!!」


ライトはレオの身体目掛けて太刀【氷刀(ひょうとう)(うたげ)】を振る。だが、レオの構えた盾によって、その刃は阻まれる。そして、迫り来るレオの片手剣【黒氷(こくひょう)・デウス】を、直ぐに引いた【(うたげ)】で受け止める。だが、衝撃を殺しきれずに後方へと押されていく。


速い…!!それがライトの素直な感想だった。レオの極めて高い瞬発力は、明らかにライトを凌駕していた。どれだけ(しご)かれれば、そこまで速く動けるのか、是非聞いてみたいと思ったほどだ。


だが、今のレオの速さは、『レオだけの速さ(・・・・・・・)』ではない。絶対他に何かがある。


ライトがレオの【黒氷(こくひょう)・デウス】を押し退け、再びレオに斬りかかろうとした時、レオの背後方向に立つ白い影から、十数本の矢が飛んでくる。しかも一斉発射ではなく、1本ずつだ。


「おっとっと」


ライトは射られ飛んできた矢をダンスのように綺麗に()わす。ヒラヒラと地を舞うライトは、【(うたげ)】の()を握り直し、210度回転しながら、刃を奮った。そして、またレオの盾に防御される……前に、ライトは身体を360度スライドしながら回転、舞うようにレオの背後を取り、一閃。レオのHPが4分の1減少、『舞う銃剣(ダンス・ベイオネット)』は先手を取ったのだ。


「な…なんなのよ、アイツは…!?」


高速で弓を装填するユヅルが洩らす。そして再び狙いを定める。


先ほどライトが避けた十数本の矢。あれは確実に1発は当たると確信していた。避ける場所・逃げ場を完全に絶てるように放った矢なのだから。


なのにライトは避けて見せた。『舞う銃剣(ダンス・ベイオネット)』の名に相応しい才を、ライトは持っている。


ユヅルがライトに感心していたその時、こちらも名の通りの速さで動いていた兄・レオに、1発の弾丸が当たるのを、ユヅルの眼は捕らえた。


「くっ……」


苦悶を浮かべるレオ。サクラの【マグニレボルズ・ライフル】から放たれた鉛弾は、脅威を見せるレオに命中。よろめいた隙を逃さないライトは、ここぞとばかりに【(うたげ)】の刃を振り上げる。その脚は、オレンジ色の小さな光を発光している。


なんだ…?ライトの【(うたげ)】を盾で受け止めたレオは、ある(スキル)を発動、途端に速くなったレオの剣技についていけなくなったライトは、得意の舞いで剣を避けている。だが、全て避けきれているわけではなく、何太刀かは受けているので、ライトのHPは減少を続けている。


僕達の勝ちだ…!!


ライトのHPゲージが敗北危険域に達したのを見たレオは、勝利を確信して口を(ほぐ)した。


しかし、ライトの身体はレオの斬撃ではなく、別の攻撃によってよろめき、レオの片手剣【デウス】から逃れた。その上、ヒールアイテムを使った素振りを見せていなかったはずのライトのHPが、いつの間にか70%以上にまで回復している。


「なっ……!!?」


レオは大穴(クレーター)の岸壁に立つサクラを見やり、驚嘆する。彼女のライフルの銃口から、小さな煙--硝煙が立ち昇っている。


まさか、あそこから撃ったとでも言うのか?軽く300mは離れている。それに、狙う対象であるライトは、レオの応酬から逃れるべく動き回っていた。そんな者に回復弾を正確に、しかも何発もなんて、デタラメにも程がある。


両者が気付く。この者達は、それぞれの二つ名を持つに適した人材であると。同時に、良き好敵手(ライバル)であると-----


そしてそれぞれの武器を強く握る。決着を着けよう、4人の戦慄な眼差しが、再び両者の敵(ライバル)に向けられる。


「はああああぁぁぁあっ!!!」


地を強く蹴ったレオが、音の如き速さでライトに片手剣【デウス】を奮う。ライトは仰け反りながら【(うたげ)】で剣を止め、キシキシ…と音を生む。その場で回転しながら衝撃を殺し、片手剣【デウス】の刃を受け流す。


今度はライトの手番、ライトはオレンジに光る脚で跳躍、【(うたげ)】を横に倒してレオに斬りかかる。当然、レオは盾で太刀を止め、もう片方の片手剣【デウス】でライトを斬るつもりだ。


片手剣使いと太刀使いの対決において、盾があるかないかで大きく変わってくる。片手剣使いは攻撃を盾で受け止める。最悪片手剣で止めることも可能だ。だが、太刀使いは攻撃するのも止めるのも、どちらも刀一本で(こな)さなければならない。この対決は、レオが優勢とは言えないが、レオは立ち回りやすいのに変わりはない。


迫る【(うたげ)】を盾で迎撃、直後にスタミナを使った突きで終わりにしようと、レオの剣を握る手に力が入る。


だが、レオの盾にライトの【(うたげ)】が阻まれることは無かった。ライトは太刀が盾に触れる寸前、身を(かが)めて一回転、レオの背後へと回り込む。


「ぐあっ……!」


背後から斬撃を浴びたレオは、追撃を許さないと、剣と盾を力強く構え、ライトに向き直る。


剣士たる者、背中に斬り傷を負うなど、己の恥だと思え。


現実世界(リアル)兄妹(レオとユヅル)の父が、レオに何度も言っていた言葉。背中に傷跡など、隙を見せた証、恥辱の紋章だと、父には耳にタコができるほど聴かされた。


だがたった今、レオは背中に傷を負った。いくらこの世界(ブレイヴ・ワールド)が痛覚なし、出血・傷跡なしの世界だとしても、この事実はレオの心の中に永久(とわ)に記憶されるだろう。


「決まった…!」


レオに一太刀喰らわせたライトが小さく笑う。『音速の破壊者(ソニック・ブレイカー)』自慢の速さを攻略し、遂に残り一撃で勝利(チェック・メイト)というところまで持ち込んだのだ。


ライトは全スタミナを消費、氷色の太刀【氷刀(ひょうとう)(うたげ)】が、聖なる霊気を帯び、これまで見たことがない程に(まばゆ)い白光を放つ。


「さぁ…決着を着けよう」


ライトがそう唱えると、レオの片手剣【黒氷(こくひょう)・デウス】も、黒い刃を更に漆黒に輝かせる。


残り時間63秒


タイマーは止まらずに時を刻み続ける。そして、残り時間60秒を示した時、この元エルトラム中心街に(ほこり)混じりの強風が吹く。


『はあああああぁぁぁああ!!!!!!』


2人の剣士が同時に元エルトラム中心街を蹴る。急激に距離を縮める2人は、直ぐに重なり、それぞれの決め技が、空気中を走る。



両者の決め技は、決まった。



ライトとレオのHPが減少、半分まで減ったところで減少は停止する。そして、決め技を決めた体制のまま、2人の身体にラグが起こり、そしてフィールドから消えた。


「あ……」


岸壁に立つサクラが、あららと苦笑い。そして構えていた【マグニレボルズ・ライフル】を降ろす。


しかしどうしたものか、【相手の剣士の脱落】を勝利条件とし、制限時間内で決着が着かなければ引き分け(ドロー)というルールにしたが、こんな形(・・・・)での引き分け(ドロー)は想定していなかった。


今度はサクラとユヅルの銃撃戦で決着を着けるという事もできるが、残り時間は30秒を切った。勝負は着かないだろう。


ふと対岸を見てみると、ユヅルも同意見なのか、弓【黒威(こくい)氷弓(ひょうきゅう)】を地面に置き、こちらに手を振りながら笑っている。


サクラも小さめに手を振り、微笑み返す。『乱闘』の残り時間は5秒を切る。そして------


カンカンカンカンカン!!


時間切れ(タイムアップ)


舞う銃剣(ダンス・ベイオネット)』vs『音速の破壊者(ソニック・ブレイカー)


RESULT(リザルト)---DRAW(ドロー)


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