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ブレイヴ・ワールド  作者: 四篠 春斗
氷の都篇
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1 極寒の都 I

こんな巫山戯た世界なんて、どうでもいい。そう思ったことが、幾度となくあった。

もし、異世界が存在して、その世界に飛ぶことが出来たら、俺はそこで死ぬまで楽しく暮らしたいとも思っていた。


でも、諦めていた。理由は言うまでもなく、異世界など存在しないから。


そう。存在しない…はずだった。


「なんだよ…ここ」


雷斗(らいと)が今いるのは、目の前にある5つのわかれ道の分岐点。


『ブレイヴ・ワールドへようこそ!』


どこからか、声が聞こえる。


ぶれいぶわあるど?なんだよそれ。


雷斗は茫然と立ちつくす。


『この世界は、6つの街と多くのフィールドによって構成されたファンタジー世界。フィールド内には、百種類以上に及ぶモンスターが生息しているんだ』


ファンタジー世界?なんだ、俺は異世界に召喚されたとでも言うのか?


「ちょっと待ってくれ。その前に、なんで俺はこんなとこにいるんだよ?」


確か俺は、今までやってたゲームを全クリしたから、新しいゲームでも買おうとデパートに向かってて…デパートに…着い…た?


あれ?そこからの記憶がない。気がついたらこんなところにいた。


『君は【世界の境界線(ワールド・ボーダー)】を跨いでしまったんだよ』


「【世界の境界線(ワールド・ボーダー)】?」


聞いた事のない語句に、雷斗は首を傾げる。

『そう、現実世界とこちらの世界の境目さ。現実世界の中にランダムで出現するんだ』


見知らぬ主の声が、淡々と事実を述べていく。


『君は、現実世界に帰りたいのかい?』


雷斗は首を横に振った。そして、苦い思い出を脳裏に浮かばせてしまい、顔を顰める。普通なら帰りたいと、首を縦に振るべきなのだろうが。


雷斗は現実世界に絶望している。ただ面子だけコロコロ代わり、そのくせ起こす行動はこれまでと何も変わらない。

ルールや規則があるのに、結局勝ち残るのはそれに少しでも反した者。まぁ、必ずそうとは断言しないが。


こんな理不尽だらけの世界にいるのなら、いっそ異世界に行って暮らしたい、それが雷斗の儚い願いだった。


そして今、自分はその念願の異世界への入口に、立っているのかもしれない。


「帰るにはどうすればいい?」


雷斗は見えない相手に問いた。あまり帰りたくはないが、この世界の詳細がまだ不明な以上、『帰還』という選択肢を捨てる事ができないからだ。


『このゲームをクリアーするんだ』


見えない相手は答える。


「ゲーム?ここはゲームの世界…仮想空間なのか?」


『君の言う通り、ここは仮想空間。でも勘違いしないでほしいのは、今君が動かしているその身体、それは紛れもなく君の本体だという事』


「本体?」


『そう。従来のゲームは、プレイヤーがコントローラーを操作し、ゲーム世界で動くのはプレイヤーのアバターだっただろう?でもこの世界にいる君は、その両方をこなさなければいけないのさ』


「それって…つまり…」


そう。プレイヤーのコントロール、アバターのアクション、その双方をこなすということは…


「もう…異世界に来ちまったってことなんじゃないのか?」


雷斗が混乱気味に質問する。


『まあ、そう考えてもいいと思うよ。そろそろ状況を把握できたよね?じゃあ、チュートリアルを始めてもいいかな?』


雷斗はまた質問をしようとしたが、見えない相手は、現実世界に戻るには、このゲームをクリアしなければならないと言っていた。この世界に留まるにしても、ただボーッと何もしない生活はしたくない。どの道、このゲームをクリアーしなければならない。


「ああ。続けてくれ」


雷斗は承諾し、その場に胡座をかいた。


『では改めて、ブレイヴ・ワールドへようこそ!この世界は、大自然に棲むモンスターたちと闘いながら暮らす狩猟生活をしている世界なんだ』


ハンティング系のゲームか…。

嫌いじゃない、むしろ好きだ。


『君はハンターとなってフィールドに赴き、モンスターを狩猟しながら、装備や精神共に成長していくんだ』


見えない相手がそう言うと、雷斗の右手が碧く光った。雷斗は右手を見てみると、そこには透明な水晶がはめ込まれた革生地のリストバンドが着けられていた。


「なんだ?これ」


『水晶に触れてごらん?』


雷斗は言われるままに水晶に触れた。すると、水晶が青白く光り、その上にウィンドウが表示された。


『それはこの世界での生活には欠かせない必需品だよ。そのウィンドウからいろんな事ができるんだ』


ウィンドウには、『HOME』や『ITEMS』、『FRIENDS』などが表示されているが、ほとんどに暗みがかかっていて、今タッチできるのは『HOME』だけのようだ。


『じゃあ、HOMEをタッチしてみて』


雷斗はHOMEをタッチする。すると、マップと共に、いくつかの街の名前が表示された。目の前にある5つのわかれ道にも、ウィンドウと同じように街の名前が電光掲示される。


砂漠の街『メイリンス』


極寒の街『エルトラム』


高丘の街『ビュートビーナス』


絶海の街『フロリスタ』


渓谷の街『アウル』


『君の活動の拠点となる街を決めるよ。好きな街を選んでタッチしてね』


雷斗はしばらく悩んでいたが、「よし!」と笑うと、『エルトラム』をタッチした。


『極寒の街、エルトラムだね。凄く寒いけど良いところだよ。これで拠点は決まったね』


街の選択ウィンドウが閉じられ、再びメニューウィンドウが開かれた。すると、さきほどまでタッチできなかった『STATUS(ステータス)』がタッチできるようになっていた。


雷斗は、指示される前に『STATUS』をタッチする。すると、『プレイヤー名設定』のウィンドウが表示された。


『プレイヤー名を決めよう。アルファベットで好きな名前を入力してね』


雷斗は一瞬も考えずに『Right(ライト)』と入力し、OKを押す。


『Rightでいいのかな?』


見えない相手がそう言うと、プレイヤー名設定のウィンドウが消え、ライトの現在のステータスが表示される。


HP2000・STA500・所持Cr1500・Lv.1・HR1


『HPは君の命の値。これが0になったらゲームオーバー、君は死ぬ。STAはスタミナ、武器それぞれに必殺技があって、それを使う時に消費するんだ。あと、攻撃力を上げるのにも使えるんだ。5分で1回復するよ。Cr、これはクレジット、お金だね。この世界でもお金は必須だから、計画的に使ってね。Lvについては、エルトラムに着いてから説明があると思うよ』


「ちょっと待て。ゲームオーバーが死?マジの?」


サラッと聞かされた事実に、雷斗は驚きを隠せない。


『そりゃそうだよ。君の命はデジタル化されただけで、重みは何も変わらない。でも、強くなれば、命の数値は大きくする事ができる』


マジかよ…


ここはゲームの世界。ゲームオーバーになってもコンティニューできると思っていた。


仮想空間でも現実世界でも、命の重みは変わらない…か。


『他にもスキルとかあるんだけど、それは生活していくうちにわかるよね?』


すべてのウィンドウが閉じられ、目の前にある5つのわかれ道の1つ、『エルトラム』と表示された道が、黄色く照らされている。


『それではチュートリアルはここまで!あの道を進んでいけば、エルトラムに着くよ!そうしたら、君のハンターライフのスタートだ!』


ライトは『エルトラム』の道を歩き始める。だが、「あ」と言って立ち止まり、振り返る。


「1つ聞き忘れてた。このゲームのクリアー条件は?」


ライトは見えない相手に質問を投げかける。


見えない相手は答えない。だが、フフフッと、小さく笑っている声が聴こえる。


『この世界の遥か上空に君臨する王【オシリス】の討伐だよ』


ライトは笑った。この世界こそが『理想郷』、俺が望む世界ではないのかと。


命の重みは変わらない?なら、こっちの世界の方が現実世界よりも楽しいに決まってる。


『王』を討てって?望むところだ。この地から天に昇って、その王の首を狩ってきてやる。


ライトは、『エルトラム』に向けて歩いた。その姿を、ずっと姿を現さなかった声の主が、和かに見送る。


『武運を祈るよ…ライト君』






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